事務所だより
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2007年1月 寒中お見舞い申し上げます
2007.01.01
寒中お見舞い申し上げます
2007年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 教育(基本法)はどうなるのか
弁護士 久 米 弘 子 : 弁護士生活40年
弁護士 塩 見 卓 也
弁護士 武 田 真 由
弁護士 中 島  晃 : 薬害イレッサ訴訟−感銘をあたえた京都大学福島教授の証言−
弁護士 中 村 和 雄 : 「偽装請負」に思う
弁護士 吉 田 容 子 : 渉外離婚は日本でできる?
事務局一同


教育(基本法)はどうなるのか
弁護士 大 脇 美 保

 最近、新聞等で、この国会で「改正」案が審議された「教育基本法」についての記事を目にされることが多い思います。会期末に強行採決されてしまいましたが、この問題について、私が思うところを書いてみたいと思います。
 「改正」前の教育基本法の第1条には、教育の目的として、「教育は、人格の完成を目ざし、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人 の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない」と書いてあります。弁護士である私 たちでさえ普段あまり接することのない条文ですが、なかなかの名文であり、今年度の京都弁護士会の「憲法と人権を考える集い」で講演にきていただいた大江 健三郎先生は、「教育基本法が改正されてしまっても、現在の条文をポケットにいれておきたいくらいだ」と語っておられました。
 今回の「改正」は、この教育の目的に、「国を愛する態度」を入れ込み、また、「教育振興基本計画」など、教育に関する国のコントロールを強める方向の改正です。現安倍内閣は、この教育基本法「改正」を、今国会の最優先課題としていたのです。
 教育の現場では、東京都における日の丸・君が代の強制等、国からの介入が非常に強まっています。このような「改正」の方向は、国の教育へのコントロール をより一層強めることになることは明らかです。また、いじめや自殺などの事件が毎日のように報道されていますが、今回の「改正」を行っても、これらの事態 がなんら改善される見込みはありません。このため、日本弁護士連合会や京都弁護士会などの単位弁護士会の多数からは、今回の教育基本法「改正」に反対する 声明が上がっていました。
 私の子ども2人も、大阪市内で公立の小中学校に通っています。学校には、在日の方もたくさんおられ、民族学級や民族クラブもあります。小学校では韓国・ 朝鮮の歌や遊びを教えてもらい、高学年になれば、在日の方が本名を名乗ることの意味を教えられることもあります。例えばこのような中で、東京都のように、 日の丸・君が代を強制し「国を愛する態度」を教育の目的として、評価の対象にするということが考えられるでしょうか。そもそも、「国」とはどこの国をさす のでしょうか。子どもたちは、多様な文化に接して、歴史を学び、その中で、他人の考えや価値観から学んでそれを尊重しつつ自分の考えを確立していくべきな のではないでしょうか。「国」と自分との関係も、その中で自分で考えていくべきであり、「国」からそれを強制されるのは、もはや国家による思想統制でしか ありません。
 私は、今回の教育基本法「改正」には絶対反対です。強行採決をされたからといって、この問題が終わりになるわけではなく、「教育」のあり方については ずっと考え続けていかねばならないと思います。教員の過労死もあとを断たない中、必要なのは、とりあえず、少人数学級を実現して、教員を増員して、きめ細 かく子ども達に対応できる体制を作ることであると考えます。子どもの数が少なくなり、若年層の失業者も少なくない中、これは絶対に可能なはずです。
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弁護士生活40年
弁護士 久 米 弘 子

 私は、今年で弁護士生活40年になります。幸いにも健康に恵まれ、多勢の方々のご協力を得て、仕事を続けることができました。

 「どうして弁護士になろうと思ったのですか」
 とよく聞かれます。
 私は、高校生ぐらいまではどちらかというと無口で人付き合いが苦手な方でした。とても本が好きで、日本や世界の名作から、講談本や貸本の漫画まで、手当 り次第の乱読家でしたから、小説や詩を書く人になれたら、と夢想したことがあります。(これは、その才能のないことがわかって早々にあきらめました。)
 そのあと、学校の先生になりたいと思ったことがあります。中学・高校と、私の生き方に影響を与えた先生方がおられたからでした。(こちらは、弁護士になってから、2つの大学で数年間非常勤講師をしましたので、幾分かは実現したといえるでしょう。)
 いずれにしても弁護士になろうとは考えていませんでした。

 弁護士になる最初のきっかけは大学の法学部に進んだことでしょうか。当時、4年制大学に進学する女性はまだ少く、私は両親から、大学へ行かせるかわり に、卒業したら必ず自立せよ、と厳しく言い渡されました。父は公務員でしたが、自立するには資格をとった方がよい、それには法学部がよいだろうという意見 でした。「女の子は早く嫁に行け」と言う時代に、女の子の進学先としてはまだ珍しかった法学部をすすめた父も、それに賛成した母も少しかわった親だったの かもしれません。
 法学部に入学してみると、むずかしい法律の話が案外論理的でおもしろいと思うようになりました。しかし、自立の方向は、というと、当時の好況の中で、男 子学生の就職はこれまでになく好調なのに、求人票の記載は、どれも「男子に限る」「女子は除く」です。そう書いてなかった企業を受験した先輩女子学生は、 「法学部に女子がいたの?」といわれたとか。(今は、男女雇用機会均等法によってこのような募集は禁止されています。実情はまだまだですが。)
 それだけに、私も何とかして男女平等の資格を得たいと勉強しましたので、司法試験に合格できた時には本当にうれしく、「これでようやく生きる道が開けた」と思いました。

 司法修習生になって、弁護・検察・裁判の実務を経験しました。そして、次第に、人間とその悩みに直接関わる弁護士の仕事に魅力を感じるようになったのです。(人の性格は変わるものですね。)
 1967年4月に大阪弁護士会に登録しました。今から思うと、弁護士としての力量どころか、社会経験すらろくにない未熟な弁護士でした。しかし、同じ事務所の2人のベテラン先輩弁護士に助けられ、そのすぐれた識見と仕事ぶりを学ぶことができたのは幸せでした。
 その後、京都弁護士会に登録がえして35年。市民共同法律事務所を中島弁護士と開設して23年になります。
 これまでに、ずい分たくさんの方々と知り合い、さまざまなケースに関わってきました。自分の子育てや親の介護経験もこの仕事に生かすことができたと思っています。40年を経ても、人間とその悩みに直接関わるこの仕事には、なお、日々新しい経験があります。
 塩見・武田両弁護士の若くてフレッシュな仕事ぶりに刺激されながら、私もまだ当分は元気でこの仕事を続けていきたいと思っています。
 どうぞよろしくお願いします。
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薬害イレッサ訴訟−感銘をあたえた京都大学福島教授の証言−
弁護士 中 島   晃

 昨年(2006年)11月13日、大阪地裁で、薬害イレッサ訴訟の証人尋問が行われた。この日、原告側証人として出廷したのは、京都大学医学部付属病院の福島雅典教授であった。
 医療現場で、多くのがん患者の治療にあたってきた福島教授は、本来であれば防ぐことができた、肺ガン治療薬イレッサの副作用によって、多数の患者が生命を落としたことに対して、イレッサによる薬害を阻止できなかった悔しさと、怒りを込めて証言をされた。
 福島教授は、証言のなかで、一貫して「イレッサが承認されたこと事態信じられないないことだ」と延べ、仮に承認するにしても、
@イレッサの副作用として、間質性肺炎などの急性肺障害について、「警告」する必要があった。
Aイレッサの使用範囲をしぼり込んでおくべきであった。
Bイレッサの副作用を防止し、適正使用をはかるため、市販後「全例調査」を義務づける必要があった。
と述べて、この3つがきちんとなされていれば、600人を超える副作用による死者を出すという深刻な被害を生むことはなかったと証言した。
 最後に、福島教授は、イレッサ薬害について「これまでの我が国で薬害を引き起こしてきた要因が全て含まれており、イレッサは最大の薬害である。」と述べて、証言をしめくくった。
 福島教授の証言は、薬害イレッサによって、多くの患者の生命が奪われたことに対する怒りと悔しさがひしひしと伝わるものであり、法廷を埋めた原告や弁護団をはじめ、多くの傍聴者に感銘をあたえるのであった。

 「イレッサ」は、肺ガンに効果があると期待されて、2002年7月、世界にさきがけて、日本で承認・販売されてきた抗がん剤であるが、これまで、イレッサの副作用が原因とみられる死者がすでに600人を超えている。
 その一方で、’04年12月イレッサには延命効果がないとの臨床試験結果が発表された。これをうけて、アストラゼネカ(本社、イギリス)は、’05年1 月4日、欧州連合(EU)での、イレッサの承認申請を取り下げた。また、米国のFDA(食品医薬品庁)も、’05年6月、イレッサの新規使用を禁止する措 置をとった。
 ところが、厚労省は、’05年3月、イレッサについて「検討会」を開催したが、使用制限などの規制は必要ないとして、イレッサの使用継続が認められた。
 しかし、販売開始から約3年の間に、イレッサの副作用で600人以上もの死者がでていることは、きわめて深刻である。

 イレッサの副作用による死亡例が相次ぐなかで、2004年7月15日、大阪地裁に薬害イレッサ訴訟が提起され、同年11月、東京地裁にも訴訟が提起され た。この訴訟は、イレッサの輸入承認をした国(厚労省)とこれを販売したアストラゼネカの日本法人を相手どった、被害の救済を求める損害賠償請求訴訟(国 家賠償訴訟)である。
 これまで、日本ではサリドマイド、スモン、HIV、ヤコブなどの深刻な薬害が次々とひきおこされ、その都度、国や製薬企業が、2度と薬害を繰り返さない と誓ってきた。にもかかわらず、いまなお薬害イレッサによる被害の発生が続いているなど、わが国における薬害発生の構造は、きわめて根深いものがある。
 国民の生命と安全をなによりも重視し、薬害の再発防止、「薬害根絶」を実現するうえで、薬害イレッサ訴訟で国と企業の責任を明確にすることが重要である。多くの市民がこの訴訟に関心をもたれ、ご支援いただくことを心から願うものである。

[薬害イレッサ訴訟の今後の日程]
 1月31日(水)午後1時15分
 3月6日(火)午後1時15分
いずれも大阪地裁202号法廷
なお、現在署名活動にも取り組んでいますので、これにもご協力下さい。
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「偽装請負」に思う
弁護士 中 村 和 雄

 請負契約を装って労働者を工場に派遣する「偽装請負」という文字が新聞や週刊誌を賑わしています。「偽装請負」に対する労働基準監督署の摘発が各地で大 々的におこなわれ出したためです。今回の摘発は勇気ある青年労働者の内部告発が発端でした。監督署がそれに応えて動いたことは大いに評価できます。私が担 当したした事件では、滋賀県の工場の「請負会社」の社員として1年中1日の休みもなく月平均400時間の労働を強制され、働き始めてから2年後にうつ病と なってしまった労働者がいます。「偽装請負」労働者たちは、同じ工場で働く工場の社員たちと比較してあまりにも劣悪な労働条件で労働を強いられてきていま す。監督署が取り締まりを強化することで、こうした状態が改善することは好ましいことです。
 でも、なぜこうした明らかに違法な労働実態が今まで放置されてきたのでしょうか。私達も何度も監督署に告発を繰り返してきました。しかし、これまでは監 督署の反応が極めて鈍かったという印象です。一昨年に労働者派遣法が改訂され、派遣労働が可能な対象業務範囲が拡大されました。それまでは工場内で派遣労 働者を使用することが違法でした。そのために多くの企業が「請負」という形をとって請負会社の労働者を工場内で直接指揮して使用していました。まさに「偽 装請負」であり、明らかに違法です。そうしたなかで、労働者派遣法が改定され工場内での派遣労働が解禁されたのです。今回の一連の「偽装請負」摘発は派遣 法改訂を契機としたものと言えます。請負という形式にしなくても「派遣」で可能になったのだから、違法な「請負」はもう止めなさいと言うことではないので しょうか。そうだとすると、労働行政のあり方としては大いに疑問を感じます。
 「偽装請負」を派遣に切り替えれば問題は解決するのでしょうか。確かに派遣期間が1年以上となる場合には派遣先に直接雇用の努力義務が課されるため、派 遣の方が請負よりは少しはましかもしれません。しかし工場内における労働実態において「請負」と「派遣」とでそれほど大きな違いがあるのでしょうか。派遣 会社の多くは請負会社もあわせて抱えており、巧妙に使い分けてきたのです。私が取り扱った事件では、10人の派遣社員が工場内の1つの部署を担当させら れ、5人ずつ2班に分けて12時間交代勤務を毎日繰りかえされていました。派遣も請負と同様、劣悪な労働実態としては大差はないのです。派遣労働者やパー ト労働者などの非正規雇用労働者の労働条件の向上をどう図るか、非正規雇用の濫用に対する規制をどうしていくかが今求められています。わが国の非正規雇用 労働者数は毎年増加し、昨年は1663万人となり正規雇用労働者数3340万人の半数に達しました。とりわけ若者の中に非正規雇用労働者が急増していま す。格差社会の拡大がここでも顕著に顕れています。こうした中でワーキングプアと言われる事態も生じているのです。安倍首相は「再チャレンジ」をしきりに 唱えていますが、再チャレンジしようにもはじめからスタートラインに大きな隔たりのある非正規雇用と正規雇用とでは公平な競争は不可能です。非正規雇用の 労働条件を正規雇用の労働条件と均等にしていくこと、同じ仕事をするのであれば、正規もパートも派遣も皆平等に処遇すること。このことこそ、今わが国の労 働環境整備にあたってもっとも重視していくべきことだと思います。
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渉外離婚は日本でできる?
弁護士 吉 田 容 子

 国際結婚が増えています。日本で婚姻手続きをとる限り、婚姻届を提出するだけですから(添付書類は必要)、比較的、簡単。でも、残念ながら、信頼関係が 破綻し離婚するとなると、これが結構、面倒。当事務所にもよく相談があるので、これだけは知っておいた方がよいということを書いてみます。
1.準拠法
 まず、どこの国の法律が適用されるか(準拠法)を確認する必要があります。
 従来は「法例」という法律によって定められていましたが、2007年1月1日からは「法の適用に関する通則法」に変わりました(「法例」の改正、但し親 族関係については夫婦財産性と後見を除いて実質的に変更なし)。通則法によれば、離婚の準拠法は、@夫婦の本国法が同一であるときはその共通本国法、A共 通本国法がないときはその共通常居所地法、Bそのいずれの法もないときは密接関連法、C但し夫婦の一方が日本に常居所を有する日本人であるときは日本法、 です(27条)。例えば、韓国籍同士の夫婦の離婚ならば韓国民法が適用されるし、日本に住むフィリピン人と日本人の夫婦の離婚なら日本法が、適用されま す。
 協議離婚が可能か、裁判離婚等によるべきか、についても通則法27条によって判断されます。例えば、前記Cにより日本法が準拠法となる場合は、日本の協 議離婚届を区役所等に提出すれば受理されます。但し、外国人配偶者の本国法が協議離婚を認めていない場合などは、日本の協議離婚が本国で承認されない可能 性があり、念のため、裁判所における離婚(審判、判決など)の方式をとった方がよいと思います。
2.国際裁判管轄
 裁判所を利用して離婚する場合には、どこの国の裁判所が管轄を有しているか(日本の裁判所で離婚手続きをとることができるか)も確認する必要がありま す。日本の民事訴訟法には国際裁判管轄を定める規定がありませんが、実務上、原則として被告の住所地国、例外的に原告が遺棄された場合、被告が行方不明で ある場合その他これに準ずる場合に原告の住所地国に管轄あり、とされています。夫婦の双方とも日本にいるケースはもちろん、米国で米国人夫と同居していた 日本人妻が夫に追い出されやむなく日本に戻ってきたというケース、日本で同居していた外国人夫が日本から出国したまま行方不明というケース等でも、妻は日 本の裁判所で離婚手続きをとることができます。但し、訴状等を外国に送達しなければならないときは、相当の時間がかかることを覚悟して下さい(国によって 異なるが概ね3か月〜1年以上)。
3.在留資格
 「日本人の配偶者等」の在留資格を有する外国人が日本人と離婚した場合、在留資格の変更が必要です。離婚手続き中に在留期限がくる場合も、放置せず、必ず入管に相談して下さい。
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