事務所だより
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2009年1月 寒中お見舞い申し上げます
2009.01.01
寒中お見舞い申し上げます
2009年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 5月21日から裁判員裁判が開始されます
弁護士 久 米 弘 子 : 新 年 雑 感
弁護士 塩 見 卓 也 : 「内定取消」されたり「内定辞退」を迫られたりしたら
弁護士 武 田 真 由
弁護士 中 島    晃 : ニューヨーク・マンハッタンを訪れて
弁護士 中 村 和 雄 : 派遣切り・雇い止め・首切り」に負けないために
弁護士 諸 富    健
弁護士 吉 田 容 子 : 人間の安全保障と人身取引
事務局一同


5月21日から裁判員裁判が開始されます
弁護士 大 脇 美 保

 本年5月21日から裁判員制度による刑事裁判が始まります。もっとも、5月21日以降に起訴された事件が対象になるので、一番早い裁判員裁判の第1回公判期日は、夏以降となることが予定されています。
 昨年11月下旬からは、1年目(2009年5月21日から12月31日まで)の裁判員候補者名簿に記載された裁判員候補者に対し、名簿に記載されたという通知が送付されました。全国で約30万人の方に通知がされたということです。裁判員候補者名簿に記載されれば、具体的事件の裁判員候補者として裁判所に呼び出される場合があり得るので、心づもりをしてもらうなどの趣旨からなされるものです。
 裁判員候補者名簿は、1年に1度作成されます。毎年、各市町村の選挙管理委員会は、各地方裁判所から通知された員数の裁判員候補者予定者を、選挙人名簿からくじで選定して、裁判員候補者予定者名簿を作成して地方裁判所に送付します。地方裁判所は、裁判員候補者予定者名簿から、裁判員候補者名簿を作成します。この段階では、裁判所にいく必要はありません。
 この段階の通知には「調査票」が同封されており、法律で定められた裁判員になることができない理由などを記載できるようになっています。この調査によって、裁判所の判断で、裁判員候補者名簿から抹消されることもあります。
 次に、ある特定の裁判員対象事件の第1回公判期日が決められる際、同時に、その事件に必要な裁判員候補者の員数も決定されます。第1回公判期日前に裁判員を選定する手続きを行う期日が開かれますが、裁判所は、その選定手続期日に呼び出すべき裁判員候補者を、裁判員候補者名簿からくじで選定します。一つの刑事事件で、50名から100名が選定されるといわれています。そして、選定された裁判員候補者に対して、裁判員等選定手続き期日に裁判所にきていただくよう通知されます。これが「呼出状」であり、これを受け取った裁判員候補者は、指定された期日に裁判所に行かなければなりません。原則6週間前には通知されることになっています。
裁判員候補者になったということを「公(おおやけ)」にすることは禁じられていますが、家族や職場の上司に話して相談することは、具体的な出頭を検討するためにも、当然認められると考えられます。また、弁護士に法律相談することは、相談を受けた弁護士は守秘義務を負っているので、「公」にすることにはなりません。ご心配な方はご相談ください。
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新 年 雑 感    
弁護士 久 米 弘 子

平日の同窓会 ―「All day Sunday」―
 昨年は、中学校と高校の同窓会が相次ぎました。
 これまでの同窓会は、だいたい土日が当たり前だったのに、今回は平日の昼間です。私は何とか仕事をやりくりして出かけましたが、結構な盛況でした。
「どうして平日なの?」と聞くと、「オールディ・サンディ(All day Sunday)」という答えが返ってきました。同級生の多くは既に定年退職を迎え、平日も土日も関係なしだというのです。それに、子ども達は独立し、親の介護もおおよそ過ぎたという世代なので、かえって集まりやすくなっているというわけです。
 幸いにも、私は健康で、まだ弁護士として現役で働いていますが、これからは早めに予定を知らせてもらって平日でもなるべく出席するようにしようと思った次第でした。
私が中学・高校のころ
 私は京都生まれの京都育ちです。
 中学校は歩いて30分もかかる市立嘉楽中学校、高校は自宅の斜め向かいにある市立紫野高校でした。中学の校区は西陣織の地元であり、同級生の多くは家族で賃機業をしていました。遊びに行くと、寒い土間に織機が2〜3台置いてあり、両親とお姉さんたちが一日中織っていました。通りのどこからも、機音がしていたものです。
 日本全体が戦後復興の最中で貧しく、物がない時代でした。級友の中には父親が戦死した人もたくさんいました。学用品を満足にそろえられない級友もいました。家計のために働いたり、弟妹の面倒を見るために中学校にもこられず、知らない間に夜間中学(当時嘉楽中学にもありました)に移籍し、そこでも長期欠席になっている級友もありました。中学の級友のうち、とりわけ女子は半数が中卒で就職し、高校へ進学してもほとんどが高卒で就職しました。私が女の子としては当時まだ少なかった4年制大学にまで進めたのは、両親が質素な生活をして、子ども達に教育をつけようとしてくれたおかげです。女の子でも自立して生活できるように、というのが両親の考えでした。今も感謝しています。
1年の過ぎるのが早くなりました。
 それにしても、年々、1年の過ぎるのが早くなりました。
 子どもの頃は、あれほど長く感じたのに、あっという間に新しい年になってしまいます。
 誰から聞いたのか「人は、自分がした仕事の量で時間をはかっている」のだそうです。つまり、限られた時間の中で、たくさんのことをして充実していると、その時間は長く感じるけれども、わずかしか成果がないとすぐに過ぎてしまったように思うとか。
 子どもは、したいことが一杯あり、新しくできるようになった喜びも多いのでしょう。そして、年とともにだんだ能率が悪くなり、新しい発見や楽しみが少なくなると、大したことをしていないのに時間だけが過ぎていくと感じるのでしょう。
今年は楽しいこともしようと
 今年は厳しい世相の中、年初から課題と仕事が一杯です。ありがたいことに、私のことを必要として下さる方がおられますので、私はまだまだAll day Sundayにはなれませんね。
 ただ、考えてみると、健康がとりえで、これまでずっと走り続けてきましたので、今年は少し、充電する意味で仕事の外に楽しいことや好きなこともしようと思っています。何をするのか、どれだけ出来るのか、まだ考え中です。もし、お誘いいただけることがあればお声をかけて下さい。
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「内定取消」されたり「内定辞退」を迫られたりしたら
弁護士 塩 見 卓 也

 アメリカのサブプライム・ショック後、世界で景気が悪化しています。その影響で、日本でも有期雇用の労働者や派遣労働者が一斉・大量に仕事を奪われていることが沢山報道されています(こちらの問題は中村弁護士が詳しく書いていると思います。)。この景気悪化の影響は、これら非正規雇用の労働者のみならず、最近は就職活動をして新卒採用の内定をもらった学生にまで及んでいます。2008年12月6日の京都新聞の朝刊には、京都の学生にも、内定をもらった後に企業から内定を取り消されたり、内定を辞退するように迫られたりしている人がいることが報道されていました。
 この問題については、「内定」の段階では、まだ学生は実際に内定をもらった企業に勤務していないので、企業を拘束するような契約はまだ成立しておらず、企業から内定を取り消されるのも仕方がないと考えられがちです。しかし、法的には「内定」の段階で学生と企業の間には労働契約は成立しており、企業は勝手に自分の都合で内定を取り消すことはできないのです。
 「契約」は、一般には、一方当事者からの契約の「申込」とそれに対する他方当事者の「承諾」で、当事者双方の意思が合致することにより成立します。「内定」の場合、企業の採用募集が「申込の誘引」、それに対する学生の応募が「申込」、企業が内定を学生に通知することが「承諾」にあたるとされます。したがって、学生が内定の通知を受けた段階で労働契約は成立しているのです。これは最高裁判例でも確認されていることです。
 一般に、労働契約に基づき働いている人の場合、企業から解雇の通告を受けても、その解雇に客観的に合理的理由がなければ、解雇は無効とされます。内定を受けた学生の場合も、労働契約は成立しているのだから、内定取消に客観的に合理的理由がなければ、内定取消は無効となります。有効な取消理由の典型として考えられるのは、その学生が学校を卒業できなかったとか、履歴書に経歴詐称があったとかいうような場合です。逆に言えば、内定を受けた学生の場合、まだ職場で働いてもいないのだから、企業に損害を与える失敗をしたとか無断欠勤を繰り返したとかいうような、通常の解雇理由とされるような出来事があるはずもないので、余程のことがない限り、内定取消を正当化するような合理的理由はないはずなのです。
 最近の内定取消では、不景気が理由にされます。しかし、不景気を理由とする解雇(整理解雇)の場合には、企業が整理解雇を回避するような努力をしたのか、解雇しなければならないほど財務状態が悪いのかなどの検討を要し、解雇が可能な場合は非常に限定されているのです。このことは内定取消にもいえるのであり、最近行われている不景気を理由とする内定取消についても、その大半は無効であると考えられます。
 もし「内定取消」を通告されたり、「内定辞退」を迫られたりしても、自分からは「分かりました」とは言わないようにしてください。企業の勝手を承諾しなければ、まだ労働者としての権利は残っているのです。そして、労働者としての権利があれば、弁護士に相談したり、労働組合を通じて交渉したりすることで、その権利を守ることも可能なのです。あきらめないで、ご相談ください。
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ニューヨーク・マンハッタンを訪れて
弁護士 中 島 晃

 昨年(08年)8月、歌手の横井久美子さんのアメリカツアーに便乗して、ニューヨークに行ってきました。何故、ニューヨークに行ってきたかというと、景観・まちづくりを考えるうえで、超高層ビルが林立するニューヨークのマンハッタンを、実際に自分の目で見てこようと考えたからです。
 おのぼりさんよろしく、マンハッタンの巨大摩天楼の象徴でもあるエンパイア・ステート・ビルにのぼり、ニューヨークで最も美しいといわれるクライスラービルをながめ、「9.11」の世界貿易センタービル跡のグランド・ゼロを見てきました。
 マンハッタンは、旅行者にとっては非常にわかりやすい街で、斜めによこ切る唯一の大通りであるブロードウェイ以外は、東西に走るストリートと南北に走るアベニューが交差する格子状街路によって区切られています。摩天楼があることを除けば、京都の碁盤目状の街に似ているともいえます。スタティン島に渡るフェリーの上からマンハッタンをながめると、まるで海の上に無数エンピツが立っているように超高層ビルが建ち並んでいます。
 勿論、アメリカの大都市が全て、ニューヨークのマンハッタンに代表される超高層ビルが林立するまちづくりをすすめてきたわけではありません。アメリカの首都ワシントンは、首都の都市計画に関与したトーマス・ジェファーソン(第3代大統領)が、資本主義の傍若無人な開発を恐れたことから、ユートピア的復古趣味≠ノいろどられているといわれています。一方、ニューヨークの都市計画は、これとは対照的に、経済発展中心主義に導かれ、都市空間を水平方向だけではなく、垂直方向にも向けて、無限に開発していくことによって、ついに巨大な摩天楼をつくり出すことになったのです。
 世界的な規模で、まちづくりや都市景観を考えるとき、大きく分けると、二つのモデルがあるということができます。一つは、ヨーロッパの歴史都市に見られる、中低層の町並みが連続した美しい景観が確保され、都市の歴史が人々の暮らしのなかに息づいているまちです。もう一つは、ニューヨークのマンハッタンに代表される、経済発展を都市計画のなかにそのまま反映させて、超高層ビルが林立する巨大都市です。この2つのまちづくりのモデルのうち、どちらを選択するのかが問われています。
 現在、中東のドバイなど著しい経済成長をとげている中東やアジアの都市でも、マンハッタンをしのぐ超々高層ビルの建設がすすめられています。
 しかし、アメリカ発の金融危機は、世界同時不況のひきがねになり、日本でも深刻な経済危機を招いています。クライスラーをはじめアメリカの三大自動車メーカーは、現在倒産の瀬戸際にあります。経済発展だけを追い求めるルールなき資本主義は、ついにサブプライムローンを証券化して売りまくるという恥ずべき詐欺同然の犯罪を野放しにしてきたのです。
 このように見てくると、経済発展を都市計画の中心にすえ、超高層ビルが林立するまちづくりをすすめることは、決して望ましいことではなく、旧約聖書の「バベルの塔」にみられるように、やがて、崩壊する運命にあると思われます。いま世界は経済発展中心主義のまちづくりから、維持(持続)可能なまちづくりへと歴史的な転換が求められているのです。その意味で、建物の高さ規制を強化し、歴史的な町並みと景観の保全・再生をめざした京都の新景観政策は、維持(持続)可能なまちづくりというこれからの世界のまちづくりのあるべき方向を指し示しているものと考えます。それは温暖化防止のうえでも重要なことです。
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派遣切り・雇い止め・首切り」に負けないために
弁護士 中 村 和 雄

 昼過ぎ突然「全員解雇」。この極めてショッキングなタイトルが昨年暮れの朝日新聞朝刊の一面に載りました。従業員1000人以上の企業でもついにこんなことが起きたのでした。そして、全国各地でリストラの嵐が始まっています。昨年末、労働事件を企業側で担当する著名な弁護士さんが「大変なことになっている。次々と大企業がリストラ競争に入っている。この年末は中村さんたち労働側の弁護士は忙しいことになる。」と言っていました。
 確かにアメリカ発の金融不安で企業が業績を落とし将来に不安を持つのはわかります。しかし、日本を代表する大企業はこの十数年間空前の大儲けをしてきたのです。内部留保も莫大になっています。大企業の締め付けに苦しんできた中小企業とはわけが違います。先ほどの弁護士さんは「昔の経営者は社員のことを考えてぎりぎりまで辛抱した。今の経営者は目先の利益だけでさっさと動く。」と嘆いていました。労働者を安上がりの労働力として徹底的に絞り上げ大儲けをしておきながら、将来の不安が見えてくるとスッパリ切り捨ててしまう。こんな身勝手な大企業を放置することはできません。企業の社会的な責任を追求していきましょう。わが国には解雇は「合理的な理由があり社会的に相当な場合」にだけ許されるという法律があるのです。違法な解雇、雇い止めを許してはなりません。労働審判制度などを上手に使いながら大企業の横暴を許さないたたかいをすすめていきましょう。
 ところで、身分が不安定な非正規雇用労働者の中でも、もっとも不安定な立場にいるのが派遣労働者です。トヨタ、いすゞ、ホンダ、シャープ、サンヨー、ソニー…日本を代表する大企業が連日大量の派遣契約社員の打ち切りを発表しています。つい最近まで莫大な利益をあげてきた大企業がその生産を支えてきた派遣社員を根こそぎ職場から追い出しているのです。赤字に転落するならまだしも、利益額が減少すると言うことだけでいとも簡単に職を奪ってしまう理不尽な横暴を許しているのが今の派遣法です。
 国会で派遣法の改正が審議されています。しかし、政府案では派遣労働者の悲惨な働かされ方は改善されません。日弁連は派遣法の抜本改正を求めて決議をあげ会長声明や意見書も発表しています。昨年11月20日には衆議院会館で日弁連主催の「派遣法の抜本改正を求める院内集会」を開きました。すべての野党と公明党から議員のみなさんがたくさん参加され、自民党議員の秘書の方も参加しました。派遣労働者の方の生の切実な訴えなどに続いて、私から日弁連の政府案の問題点と改正すべき内容について報告しました。
 派遣法改正についての国会審議はいよいよこれから山場を迎えます。国会議員のみなさんや労働組合のみなさんをはじめ多くのみなさんに、「カニコー」(小林多喜二の小説「蟹工船」の若者たちの呼び方)を生み出す派遣労働の実態を伝えていきましょう。そして、非正規雇用労働者の雇用と権利がきちんと保障される抜本的な改正を実現するために奮闘していきたいと思います。ワーキングプアをなくし、人間が人間らしく働き暮らせる社会を一緒につくっていきましょう。
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人間の安全保障と人身取引
弁護士 吉 田 容 子

 池袋から東武東上線急行で約1時間、埼玉県の嵐山(らんざん=京都の嵐山にちなんで名付けられた地名とのこと)に独立行政法人国立女性教育会館National Women's Education Center=NWEC(ヌエック)があります。大小の研修室や国際会議場(同時通訳可能)、300人以上が泊まれる宿泊棟、図書・資料等を揃えた情報センター、温水プールや体育館なども備えた大きな施設で、国内外の女性関連施設・機関との連携、学習・研修・交流、研究などの拠点となっています。
 12月下旬、ここで「人間の安全保障と人身取引」というテーマのフォーラムが開かれました。国連地域間犯罪司法研究所やタイ政府、国際移住機関の担当者、フィリピンや国内の研究者、タイとフィリピンのNGO、国内NGOメンバー等が参加し、実情や対策の現状等について情報交換・意見交換を行いました。私も分科会進行役として参加。よく知らなかったことや、一応知っているつもりでも改めて整理されたものを聞きより理解が深まったこともあり、とても有意義な内容でした。日本を含む国際社会の人身取引対策が進む一方、取り締まり等を逃れるために加害者側が様々な「工夫」を重ねていること、だからこそグレーゾーンを含めた広範な対策を多方面で協力して行う必要があるとの指摘もあり、まったく同感でした。日本国内のことで言えば、2005年をピークに発見される人身取引被害者数が減っていますが、これが必ずしも本当の意味での被害者減少を意味しないとの認識はほぼ一致しています。監視カメラや鍵、脅迫等の手段を用いて監禁状態に置くケースだけでなく、外出や携帯電話の使用を認め僅かな給与も支払うなど被害者自身に選択と思わせつつ搾取するケースが増えていること、特に業者仲介の国際結婚は経済格差を背景に搾取的構造を持ち、その一部に人身取引が含まれうること、研修生や技能実習生を含む労働搾取も多数存すること、来日が始まった介護士・看護師も搾取労働に転化しうること等も報告されました。
 最高裁の違憲判決を受け、先頃、国籍法が改正されましたが、認知による国籍取得を悪用するケースが既に発生しています。悪い人達は次々に悪いことを考えます。昨今の世界的な経済状況の悪化は、送り出し圧力を強化し、搾取をより深刻なものとしています。最後はやはり需要の抑制。日本社会の人権意識が問われています。
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