事務所だより
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2010年1月 寒中お見舞い申し上げます
2010.01.01
寒中お見舞い申し上げます
2010年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 「子ども手当」ってどうなんですか?
弁護士 久 米 弘 子 : 原爆症認定訴訟弁護団でドイツへ行ってきました
弁護士 塩 見 卓 也 : 日韓非正規労働フォーラムに参加
弁護士 武 田 真 由
弁護士 中 島    晃 : 薬害イレッサ訴訟いよいよ結審へ
                 −多発する薬害事件と生命の尊厳

弁護士 中 村 和 雄 : え こんな市議会があるの?
弁護士 諸 富    健 : ニューフェイスのごあいさつ
弁護士 吉 田 容 子 : 民法(家族法)改正の早期実現を
事務局一同


「子ども手当」ってどうなんですか?
弁護士 大 脇 美 保

 鳩山政権になってはや数ヶ月が経過し、ニュースでは、公約にかかげた政策の実践についての報道がされています。私にも中高生の子どもがいますので、その中で、「子ども手当」について考えてみたいと思います。
 「子ども手当」とは、15歳の4月1日の前日までの子どもの保護者に毎月2万6000円が支給されるという制度です。但し、初年度のみ、月1万3000円とされています。現在の類似の制度に「児童手当」がありますが、こちらは、「所得制限」すなわち、所得が高い世帯には支給されてないということになっています。
 この「子ども手当」は、既に2006年3月には法案が国会に提出され、その後2回国会に提出されていますが、昨年8月に民主党が第一党になったため、実現の見込みが一気に高まりました。現在は、高校無償化法案などとともに議論が行われています。
 現在ある児童手当と同様の所得制限を設けるかどうかについて主として議論がされていますが、実は、財源確保のため、所得税の扶養控除などを変更することも併せて議論されており、子ども手当が実現しても、税金の控除がなくなったり減少したりするために、結局は家計の支出増になるのではないか、とも言われています。
 テレビの報道などをみていると、定額給付金の時と同様、皆が賛成しているわけではなく、かえって、もっと直接に子どものためになることにお金をかけるべきではないかという意見も多くきかれ、私もどちらかというとこの意見に賛成です。具体的には、
・保育施設の充実
 (依然、待機児童の問題は解消されていません。)
・小中学校の老朽化を解消する
・小中学生の給食費等の諸費用をすべて無料にする
・小中学生の医療費を無料にする
・高校、大学などの費用を無料化する
などです。このような方向が、私が仕事で依頼者のみなさんからお聞きする要望と合致しているように思います。
 また、定額給付金のときにも問題となり、現行の児童手当についても大きな問題があるのですが、離婚・別居などの際に、誰に給付するか、その手続きをどうするか、等も解決していかなければならない大きな問題です。金額も大きく、定額給付金と異なって継続的な給付のため、かなり大きな課題となると考えられます。
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原爆症認定訴訟弁護団でドイツへ行ってきました
弁護士 久 米 弘 子

原爆症認定全国集団訴訟の勝利と基金法の制定
 全国の集団訴訟で国は21連敗しています。そして昨年8月6日広島で、当時の麻生首相と被爆者団体の代表との間で、全国の集団訴訟を早期解決するための合意が交わされ、政権交代後に集団訴訟の原告を救済するための基金を設ける法律が成立しました。ただ、手放しで喜べない問題があります。今回の基金法は、集団訴訟の原告(全国で306人)に対してのみ適用されるもので、その後に訴提起した処分取消訴訟や義務付け訴訟(申請しているが、まだ認定されていないので認定せよという訴訟)の原告、そして8000人に及ぶ認定待ちの申請者、まだ認定の申請すらできてない被爆者は対象外なのです。近畿弁護団では高齢化のすすむ被爆者が1日も早く認定されるよう、年末にも16名の義務付け訴訟を提起しました。原爆症の認定を求める訴訟はまだまだ続きます。今後もご支援をお願いします。
弁護団でドイツへ行ってきました
 近畿弁護団では、集団訴訟が一段落したことと、これからも力を合わせてがんばろう、という思いを込めて、昨年11月半にドイツへ行ってきました。
 ドイツは寒いと聞いていたので、防寒の用意をして行ったのですが、予想に反して例年よりもずっと暖かく、雪も氷もありませんでした(1ヶ月後には猛烈な寒波がおそってきたとのニュースでしたが。)
旅行で心に残ったこと
・ライプチヒの行政最高裁判所のダイゼロート裁判官と最高裁判所の大法廷で懇談できたこと。(ドイツは日本とちがって、分野別の最高裁判所があります)。日本の最高裁判所は、国民が自由に見学するどころか、建物の写真撮影すら警備員にとめられますが、ドイツの裁判所は市民に開放され、コンサートや展覧会の会場にも使用されています。私たちは土曜日の夕方にもかかわらず、ダイゼロート裁判官本人にカギを開けてもらって裁判所内を見学できた上に、大法廷で裁判官席に座って裁判官を囲んで自由に写真撮影してきたのです。彼が、イラク戦争は国際法違反だ、という判決(京都のイラク訴訟でも証拠に出しました)を書いた裁判官だと知って、私はとても感激しました。ドイツには裁判官の労働組合があり組織率は80%というのもおどろきでした。
・ドレスデンでは、第二次世界大戦でイギリス軍の空爆によって壊滅状態になった旧市街がもとの姿に復興され世界遺産になっています。聖母教会は永年瓦礫のままでしたが市民の願いと世界中からの寄付で見事に復興されていました。一番上の鐘は、かつて爆撃したイギリスから寄贈されたとのことです。パレスでは焼けて黒くなった壁や像がそのまま組み込まれ、その周辺では、今も瓦礫を片付けたり、復興作業中の建物もありました。戦争の悲惨さを忘れない思いが伝わってきました。
・ベルリンでは、東西ドイツ統一のシンボルであるブランデンブルグ門やこわされた壁の跡などを見学しました。壁の崩壊から20年、西ドイツが東ドイツを呑み込む形で統一したために、東西の格差と矛盾がまだ大きいとのことでした。
 ここでは、ドイツの反核法律家協会のメンバーと懇談しました。私たち弁護団は日本での集団訴訟の経過と成果を報告し、自己紹介の中で弁護団に参加した各人の思いを語りました。ドイツの法律家からは日本の政権交代による変化はあるか、などといった質問もあり、それぞれの国で、核をなくす運動を続け、世界に訴えて行こうという互いの気持が通じました。又、ドイツのノーベル賞受賞者である高名な学者が多勢連名で核をなくすためのよびかけをしているリーフレットをいただいて感動しました。
・ドイツはこの時期からクリスマスモード一色でした。お店の飾りつけの美しかったこと。各地の広場で開かれているクリスマスマーケットのにぎやかで楽しい雰囲気。観光地では中世の雰囲気を残している美しい石造の街並も素敵でした。今回は食事がどこもおいしく、弁護団若手のたくましい食欲とお酒の飲みっぷり、パワーあふれる行動力にも改めてびっくりでした。
・ハプニング。外ならぬ私自身のことです。ドレスデンで、私はホテルへの帰りの電車を乗り間違えて、夕食の待ち合わせに間に合わず、皆さんに大心配をかけることになりました。無事に帰り着いたものの、今もドレスデン行方不明事件として話題にされています。
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日韓非正規労働フォーラムに参加
弁護士 塩 見 卓 也

 09年12月4日から5日に、韓国ソウルの中央大学にて、「日韓非正規労働フォーラム」という研究会が開催されました。私は、中村和雄弁護士とともに、このフォーラムに参加してきました。
 08年末から09年始にかけて世間を賑わせた、「年越し派遣村」が目に見える形で明らかにした労働の世界における格差社会というものは、日本だけの現象ではありません。この10年で富める者がますます富み、他方貧しい者がどんどん増えていっているという現象は、ドイツをはじめとするヨーロッパ諸国にも見られると、ドイツに行った際に交流した現地の人からも聞かされました。韓国もその例外ではなく、韓国では実に全労働者の半分以上が非正規労働者になってしまっているのだそうです。
 非正規雇用の問題点は、端的には、@その地位が非常に不安定であり、簡単にクビにされやすい点、A正規雇用の者に比べて差別的な扱いを受け、賃金が低廉であるなど、低い労働条件を強いられる点にあります。韓国の非正規労働者に関する法制度と、日本のそれとの比較研究では、中村弁護士や私も親しく付き合わせていただいている龍谷大学の脇田滋教授が有名です。今回の日韓非正規労働フォーラムは、脇田教授をはじめとする、日韓の労働法制、労働政策、労働運動に詳しい研究者の呼びかけで、日韓双方の研究者、法曹実務家、労働組合の活動家が集まり、社会学、社会政策学、労働法学、社会保障法学、労働運動論、女性学の観点から設けられた6つのセッションで、日韓双方からの発表と意見交換が行われました。韓国まで行ったのに、観光をする時間など全くなかったのですが、それでも非常に有意義で楽しい時間を過ごしました。
 韓国では、97年のアジア経済危機以降、急速に雇用の非正規化が進んだそうです。韓国は、大学進学率が7割以上と、日本よりも進学率が高く、しかも日本の大学生と異なり大学に入ってからもよく勉強するので、実は平均的教育水準は世界一なのではないかと言われています。にもかかわらず、現在の韓国の大卒者は、その半分以上が正規雇用の仕事に就くことができないそうです。韓国は日本と同様、高等教育にかかる費用が高く、奨学金や学費免除の制度も充実していません。高い教育費を負担し、高水準の教育を受けても、その後の生活の保障の見通しは全く立たないのです。東北大学の野村正實教授は、「ある意味世界で一番酷い搾取の構造」と言っていました。
 08年来の日本の非正規雇用切りの状況には相当の酷さがありますが、お隣の韓国においても、日本に負けず劣らずの酷い状況が存在します。しかし、韓国は、日本よりも早い段階でこのような酷い状況に直面したため、いくつか非正規雇用労働者を保護するための先進的取り組みも行われています。私が以前から知っていたところでは、韓国の労働者派遣法には、違反の場合の派遣先による直接雇用みなし規定が作られていたり、有期契約の労働者についても、年数上限規制を超えて使う場合に期間の定めのない契約に転換されるなどの制度が整備されています。
 今回の訪問で一番感銘を受けたのは、フォーラム前日の3日に行われたプレ企画で、韓国の労働組合のナショナル・センターである、民主労総の本部を訪問した際の話でした。民主労総では、非正規労働者と正規労働者の分断状況をなくし、より非正規労働者を救済できる体制を作るために、既存の企業別労働組合を全て解散させ、産業別労働組合に改組しています。すごいと思ったのは、その産業別労働組合に集まる組合費のうち、30%以上は必ず非正規労働者のために使うと決めているということと、韓国の非正規労働市場に入ってくる外国人労働者については、その母国の組合活動家を韓国に呼び、その者の専従組合員としての給料を保障した上で、国内の外国人労働者の組織化にあたらせているということでした。日本の労働組合も、是非見習うべきことだと思います。
 このフォーラムは今回が初めての試みでしたが、今後2年に1回のペースで継続していこうということになりました。次回以降も是非参加したいと思っています。
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薬害イレッサ訴訟いよいよ結審へ
 −多発する薬害事件と生命の尊厳
弁護士 中 島 晃

はじめに−無視された誓約
 脳外科手術の際に移植された硬膜が汚染されていたために、クロイツフェルト・ヤコブ病に感染した被害者が日本国内ですでに100名を超える深刻な薬害問題が発生したことは、記憶に新しいところです。
 この悲惨な薬害ヤコブ病は、2002年3月、確認書で、和解による被害の早期救済が確認され、また薬害の再発防止・根絶に向けて、国と企業が最大限の努力をすることが誓約されていました。
 ところが、この確認書調印から3月余後に、世界に先駆けて日本で承認された、肺がん治療薬イレッサによる副作用死が相次ぎました。イレッサは、イギリスに本社を置く世界的な大企業アストラゼネカによって開発された医薬品ですが、イレッサの投与を受けて、間質性肺炎などの副作用によって死亡した被害者は、現在まで約800人になっています。これは、前代未聞のことであり、薬害の再発防止・根絶の誓約が無視されたというほかありません。
 このため、国(厚労省)とアストラゼネカを相手どって、2004年7月、大阪地裁に薬害イレッサ訴訟(損害賠償請求)が提起され、同年11月には、東京地裁でも訴訟が提起されました。
訴訟の概要
 イレッサは、アストラゼネカ社が開発した肺がん治療薬で、これまでの抗がん剤と異なり、入院の必要のない飲み薬という手軽さも手伝い、「副作用の少ない画期的な夢の新薬」として大々的に宣伝されました。
 しかし、販売開始直後から、間質性肺炎等の急性肺障害の副作用症例が多数報告され、2002年10月15日には、緊急安全情報が発出され、添付文書に警告が表示されました。その後もアストラゼネカ社は、2003年4月まで、合計4回も添付文書を改訂し、急性肺障害に対する警告を増やし、入院処方とする等に改めました。
 イレッサにより急性肺障害が発症することは、臨床試験や承認前の個人輸入による使用により判明していました。しかし、アストラゼネカは、臨床試験によるこうした副作用報告や肺障害が悪化したという動物実験の結果を厚労省に正確に伝えていませんでした。
 また厚労省も、臨床試験で重篤な肺障害の症例が報告されていたにもかかわらず、「症例の集積を待って検討する」として、十分な検討を行わないままイレッサの承認をしました。したがって、イレッサに関する国の承認審査が不十分であったことは明らかです。
 このように、イレッサにより致死的な急性肺障害等の副作用が発生することは、承認以前から十分予見可能なことでした。したがって、アストラゼネカと国はともに、イレッサの承認、販売開始にあたっては、最低限、間質性肺炎等の急性肺障害の危険性につき、厳重な警告を行い、入院処方に限定するなど、急性肺障害の発症を抑止するためのあらゆる方策を取るべき注意義務がありました。
 にもかかわらず、これを怠ったために、イレッサの副作用により多くの被害者の生命が奪われたことは、きわめて深刻であり、この点でアストラゼネカと国の責任はまことに重大です。
結びにかえて−薬害の根絶にむけて 
 わが国では、これまでいくつもの深刻な薬害事件が多発してきました。これに対して、その都度、被害者が世論の支持のもとに被害の救済を勝ち取るとともに、薬害の再発防止に向けて、国と企業に最大限の努力をすることを誓約させてきました。
 にもかかわらず、薬害イレッサが多発し、最近ではタミフルの副作用でも多くの死者が出るなど、薬害防止の誓約が反古にされてきたのです。
 こうしたなかで、薬害イレッサ訴訟で、国と企業の責任を追及することは、薬害の再発防止・根絶を実現するうえで大きな意義があります。特に、薬害イレッサ訴訟は、これまでの薬害訴訟とは異なり、現に医薬品としての使用が継続されているなかで提起されたものであり、市場から排除されていない医薬品に関して、国と企業の責任を問うという、これまで経験したことのない新しい課題に挑戦するものです。また同時にこの訴訟はがん患者の生命の重さを問うものでもあり、人間の生命の尊厳を守り抜くためのたたかいでもあります。
 薬害イレッサ訴訟は、提訴から6年を経て、いよいよ今年5月にも結審を迎えることになります。皆様のご支援を心からお願いするものです。
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え こんな市議会があるの?
弁護士 中 村 和 雄

 11月27日、大阪高裁は、神戸市に対し、神戸市長らに55億円の損害賠償を請求することを求めた判決です。市の外郭団体へ派遣した職員の人件費を神戸市が支出したのは違法であるとして、住民団体が市に対し市長らに損害を賠償することを求めた住民訴訟の判決です。かつて、私たちが所属する市民ウオッチャー・京都が手掛けた京都市同和経営指導員補助金返還住民訴訟事件(京都市が同和経営指導員を京都府商工会議所に派遣したかたちにし派遣職員の給与を肩代わり支出していた事件)と同じ性質の事件です。
 しかし、高裁判決に至までに信じられない事実がありました。住民団体が神戸地裁に住民訴訟を提起し、神戸地裁は、今回の大阪高裁と同様、住民の請求を認めて神戸市に対し神戸市長らへの返還請求をせよと認めたのでした。神戸市が判決を不服として控訴したため、大阪高裁で審理が続けられ、昨年1月21日弁論が終結し,判決言渡期日が3月18日と指定されました。ここで、地裁判決と同様の判決が出されることを危惧した神戸市当局は、ここで信じられない行動に出ました。2月20日、神戸市は神戸市議会に、本件権利を放棄する条例案を提出しました。そして、神戸市議会は何ら審議もしないまま、改正条例を可決しました。
 こうした経過を辿って、本大阪高裁判決が言い渡されたのでした。神戸市は、神戸市議会の決議によって、すでに賠償請求権は消滅したとして、高裁判決は勝利できると考えていたのでしょう。しかし、大阪高裁判決は神戸市の意に反するものでした。判決は裁判官の神戸市と神戸市議会に対する怒りが現れたものになっています。「本件権利を放棄する議会の決議は、地方公共団体の執行機関(市長)が行った違法な財務会計上の行為を放置し、損害の回復を含め、その是正の機会を放棄するに等しく、また、本件住民訴訟を無に帰せしめるものであって、地方自治法に定める住民訴訟の制度を根底から否定するものといわざるを得ない」
 神戸市議会は、本来行政のチェックを果たすべき議会が、裁判所によって違法であることが明確にされた支出について、行政と一体となってその違法性を隠蔽しようとしたのです。議会の自殺行為です。現在、議会や監査委員が行政をチェックするという本来の職責を十分に果たせているとは言えません。そればかりか、今回のようにとんでもない議会さえ出現しています。京都の議会が神戸市議会のようなどうしようもない議会にならないように、みんなでしっかりと監視していきましょう。
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ニューフェイスのごあいさつ
弁護士 諸 富  健

 2009年9月に市民共同法律事務所に入所しました諸富健と申します。この事務所ニュースでは初登場となりますので,自己紹介をさせていただきます。
 私の出身は奈良で,現在も奈良から通勤しております。妻と二人暮らしをしており,結婚して早10年目を迎えております。童顔なため若く見られることが結構ありますが,塩見弁護士と同い年の1973年生まれです。大学4年間と法科大学院1年間京都に通学しており,こうして再び京都に戻れたことを大変嬉しく思っています。
 そもそも,この事務所を知るきっかけとなったのは,司法修習生になる前に弁護士の元で実務について勉強するプレ研修に申し込んだことでした。その際,労働事件と行政事件に興味がありますと伝えると,紹介されたのが塩見弁護士でした。わずか4日間の短い研修でしたが,京都法務局事件,イレッサ薬害訴訟,NHK放送命令事件,住民訴訟の弁護士報酬事件など,興味深い事件に接することができました。以降,労働に関する学習会や講演会に参加する中で,何度も中村弁護士や塩見弁護士と顔を合わせ,弁護士になっても一緒に労働事件に取り組みたいと強く思うようになりました。そのような経緯で,このたび晴れて市民共同法律事務所の一員となったのです。
 入所すると,早速ジヤトコ偽装請負事件や中国人労働者不当解雇事件,一澤帆布従業員不当賃金減額・解雇事件などマスコミを賑わすような大型の労働事件に参加させていただくことになりました。それ以外にも次々と解雇の相談が舞い込んできて,一人の人間の人生を大きく変えてしまう事があまりにあっさりとやられてしまう事実に愕然とします。これらの方々の救済に全力を尽くしたいと思います。
 また,イレッサ薬害訴訟,全国過労死弁護団,原爆症近畿弁護団など,他の事務所の弁護士も多く参加する弁護団にも参加させていただいております。様々なタイプの弁護士のやり方を見聞することは大いに勉強になりますし,国の政策にも関わる大きな問題に取り組むことは非常にやりがいもあります。
 もちろん,交通事故や債務整理など一般的な民事事件についても取り扱わせていただいております。どのような事件であっても,当事者の方々にとってはそれぞれ,ひょっとすると一生に一度となるかもしれない大きな問題で,相談に来られるどの方も非常に深刻な悩みを抱えておられます。そのような思いをしっかりと受け止め,最終的な解決へ向けて粘り強く取り組むことを常に心がけていきたいと思います。
 事務所の名前通り,先輩弁護士や事務局と力を合わせて,市民の皆さんと共同してあらゆる活動に取り組んで参る所存です。今後ともどうぞよろしくお願いします。
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民法(家族法)改正の早期実現を
弁護士 吉 田 容 子

 民法(家族法部分)の改正の可否が話題になっています。
 法務大臣の諮問機関である法制審議会は、1996年、夫婦別氏選択制や婚外子の相続分差別撤廃を盛り込んだ民法改正案を決定、答申しました。しかし、自民党内の反対意見などにより、現在にいたるも法改正は実現していません。しかし、政権が代わり、千葉法務大臣は、早ければ今年の通常国会での法案成立を目指しているということです。
 日本は法律婚カップルの割合が非常に高い国ですが、夫または妻の氏を「夫婦の氏」と定めなければ婚姻届を受理しないという現行法のもと、多くの人は「夫婦が同氏は当たり前」と思い込んでいるのではないでしょうか。しかし、夫婦が同氏であることは「当たり前」ではまったくありませんし、夫婦が同氏でなければならないという実質的根拠も実はどこにもありません。それどころか、出生時に取得した氏(姓、名字)はその人の成長とともにアイデンティティの一部となり、その保持や変更の有無はその人だけが決定しうるものであって、その決定権は憲法13条(個人の尊厳の尊重)に基づく人格権の一部を構成するものというべきです。換言すれば、よほど特別の理由がない限り、法がその変更を強制することは許されず、一律に一方配偶者に氏の変更を強制する現行法は、憲法違反の疑いすらあるということになります。また、現行法のもとで実際には96%以上のカップルが夫の氏を「選択」しており、婚姻によって氏を変更するのは女性であるという風潮は、「氏」を基準に編纂する戸籍制度とあわせ、戦後の民法改正により廃止されたはずの「家制度」的色彩を非常に色濃く残すものとなっています。別氏選択制の反対派は「家族が崩壊する」と主張しますが、これは実は「家制度」が崩壊するという意味なのです。
  また、婚外子の相続分が婚内子の半分であるという現行法は、明らかにおかしなものです。両親が法律婚をしているか否かは子自身の意思や努力によってはいかんともし難い事情であるにも関わらず、その事情のみを理由に子を差別するものだからです。この差別規定が、憲法13条(個人の尊厳の尊重)、14条(法の下の平等)に違反することは明らかです。また、この差別規定の存在が、婚外子に対する社会的差別を助長する結果となっていることも見逃せません。
 最近の世論調査(毎日新聞が12月19、20日に実施)では、選択的夫婦別姓制度について、賛成が50%、反対が42%と、同社の調査としては初めて賛成が反対を上回りました。1993年の前回調査では賛成はわずか26%で、16年でほぼ倍増しています。男女とも20代から50代の各年代で賛成が反対を上回り、反対が賛成を上回ったのは60歳以上だけでした。これは、政府が行った2001年の論調査結果と同じ傾向を示しています。婚外子の相続分差別廃止も含め、一日も早い法改正実現を期待します。
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