事務所だより
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2014年1月 寒中お見舞い申し上げます。
2014.01.20
寒中お見舞い申し上げます
2014年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 自分が死んだ後のことですが
弁護士 久 米 弘 子 : 事務所創立30周年を迎えます。
弁護士 塩 見 卓 也 : 70才をむかえて
弁護士 中 村 和 雄 : アベノミクスによる労働規制緩和の危険
弁護士 諸 富    健 : 憲法をめぐる危険な情勢
弁護士 吉 田 容 子 : 竹富町教科書問題
弁護士 分 部 り か  : 小学校・中学校で弁護士の仕事について話をしてきました。
事務局一同


自分が死んだ後のことですが
弁護士 大 脇 美 保


みなさんは、自分のお葬式、お墓についてどのように考えていますか。
私自身は、基本的に「自分が死んだ後のことはどうでもいい」と考えているのですが
最近、遺骨、埋葬に関連する相続人間の紛争の事件を担当して、
いろいろと文献を読んで考えました。

例えば、自分の死後○○寺に葬って欲しいという考えになった場合、
どうすれば実現するのでしょうか。
「遺言」を思い浮かべる方が多いと思いますが、民法上、遺言により効力を
発生する事項は限定されており、その中に納骨場所等の指定は含まれていません。
このため、遺言で納骨場所を指定しても、遺言を書いた人の考えを
伝えることはできても、法律的には相続人を拘束できません。
言い換えれば、相続人が希望通りにすることを期待するしかなく、
生前に採りうる方法としては、自分の意思を実現してくれそうな人を
「祭祀承継者」として指定するしかありません。

「祭祀承継者」とは、なじみのない言葉ですが、相続人とは異なる概念です。
民法897条では、「系譜、祭祀及び墳墓の所有権は、
・・・(民法の相続分に従って共同相続するのではなく)・・・
慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべきものが継承する。
ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主催すべき者があるときは、
その者が承継する。」と定められており、祭祀承継者は、一人である
というのが通説です。

戦後にできた現行民法は、家制度や家督相続制度は採らないことを前提に
作成されているにもかかわらず、これによると、結局家制度を認めたことに
なってしまっており、中途半端な規定であるといわざるを得ません。
慣習でも決められない場合は、家庭裁判所が祭祀承継者を定めることになっています。

「死んだ後のことはどうでもいい」とはいっても、自分が死亡した後に、家族や相続人が、納骨などについて紛争状態に陥ることも、迷惑をかけてしまうことも本意ではありません。
やはり法律家としては、はっきり文書で意思表示をし、将来の紛争を
予防しておくべきかと考えます。

具体的には、私自身は、夫婦別姓でやっていますし「○○家之墓」に入る気持ちはなく、
自分の墓を高いお金を出して購入する気持ちもないので、これまで漠然と考えていた
「散骨」についても調べてみました。
従前は、死体等損壊遺棄罪(刑法190条)に該当するという議論もあったようです。
しかし、現在では、法務省の見解は、「刑法190条の遺骨遺棄罪は、
社会的習俗としての宗教的感情を保護するのが目的なので、葬送のための祭祀で
節度をもって行われる限り問題ない」というものです。
しかし最近では、散骨が普及するに従って、条例で規制している自治体もあるようで、
具体的な方法、場所の検討が必要なようです。

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事務所創立30周年を迎えます
弁護士 久 米 弘 子

今年は、私たちの市民共同法律事務所が創立30周年を迎えます。
30年の長きにわたって、市民共同法律事務所を続けることができたのは、
所員一同の誇りであり、皆様のご支援・ご協力に心から御礼申し上げます。

1984年4月1日、久米・中島の両弁護士が、2名の事務員とともに
今のヒロセビル7階でささやかな出発を致しました。
「市民共同」の事務所名は、そのとき、所員4名で相談して、市民生活の広い分野で
市民の皆さんと共同して活動する法律事務所でありたいという思いと、
そのために所員が共同して民主的に事務所を運営していこうという考えから、
名付けたものです。

その後は、新しく弁護士が加わったり、独立して退所したり、
事務員はすっかり顔ぶれが変わって、現在弁護士8名、事務員8名です。
所員の増加とともに事務所も同じビルの2階に移転しました。
当初は広々としていましたが、今は少々手狭な感じになっています。

私たちは、所員のそれぞれの個性と関心とを大切にしながら、
民事・家事・刑事などの一般市民事件はもちろん、平和・環境・公害・薬害・
労働・人権・男女平等・DV・消費者問題・脱原発・被害者支援など、
その時々の多様な法律問題や紛争の処理にかかわってまいりました。
また、憲法改悪阻止をはじめとする法律の改正や制定・司法制度や自治体の
民主化に関する課題や運動にも積極的に取り組んでまいりました。


現在、弁護士人口の増加に伴って、弁護士を取り巻く環境にも
大きな変化が起こっています。弁護士と法律事務所のあり方についても、
いろいろ議論がされるようになってきました。

私たちはこのような議論を真摯に受けとめながら、
弁護士法1条に定められた「国民の基本的人権と、社会正義を守る」という
弁護士の使命を大切に、所員の一人ひとりが自分の専門分野のエキスパートとして
皆様のお役に立てるよう、努力していきたいと思っています。

皆様とともに、これからも共同してよりよい市民共同法律事務所を
つくっていきたいと思いますので、今後とも、どうぞよろしくお願い致します。


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ドイツの脱原発政策
弁護士 塩 見 卓 也

自由法曹団という、当事務所の弁護士の全員が所属している弁護士の団体があります。

1921年に神戸での労働争議がきっかけとなって結成された団体で、広辞苑でも
「大衆運動と結びつき、労働者・農民・勤労市民の権利の擁護伸張を旗じるしとする」と
紹介されています。

その自由法曹団の京都支部が、50周年を迎えたのを記念し、昨年8月、
約15名の調査団にて、脱原発政策調査のためのドイツ調査旅行が行われ、
うちの事務所からは私の他、中村弁護士、諸富弁護士も参加しました。

ドイツが脱原発政策を採るようになるまでには長い歴史があります。
まず、1970年代に発足当初から脱原発を訴えていた緑の党が強くなってゆく中、
1986年にチェルノブイリ事故が発生しました。それをきっかけに、
同年秋には社会民主党(SPD)も脱原発を強く訴えるようになり、
緑の党と脱原発政策についてある程度一致をみるようになりました。
そして、1998年にSPDと緑の党による連立政権が誕生し、連立協定に脱原発政策が
定められ、政権の方針とされたのでした。
もっとも、脱原発には、ドイツ国内の四大電力会社との利害調整が必要となりました。

調整が必要な理由は、それまでドイツの原発の稼働期間は無期限だったので、それを
取り上げてしまうと、政府は法的に損失補償しなければならない状況だったからです。
連立政権は、立法で強制的に稼働期間を制限するという手法は採らず、
国と電力会社との間で協定を締結し、その協定に従った内容で脱原発法
(改正原子力法)を制定し、約34年の稼働期間終了とともに完全な脱原発を
遂げるというものでした。

その後、2009年10月28日に成立した第2次メルケル政権では、SPDは与党を去り、
キリスト教民主同盟(CDU)を中心とする保守連立政権となりました。
メルケル政権は、2010年に原発の発電上限を増やし、稼働年数を約12年延長するよう
脱原発法を改正したのですが、福島事故を受け、2011年6月30日に
再び元の脱原発法と同じく2022年までに原発を全て停止させるよう法改正しました。

他方、ドイツでは、SPD・緑の党連立政権が作った『再生可能エネルギー法』が
エネルギーシフトを後押ししています。
エネルギー構成は、2000年時点で太陽光などの再生可能エネルギーが
6.4%だったのが、2012年には25%になっています。
再生可能エネルギーの発電コストも下がり続け、10年後には従来の発電と
同じコストになると見込まれています。
ドイツは、ゆくゆくは再生可能エネルギーを80%とし、残りを安定供給が可能な
ガス火力発電で補完するという将来像を描いています。

また、またドイツでは、既に廃炉作業に取りかかっている原発も複数あります。
これらの原発立地地域では、今後何十年とかかる廃炉作業が必要となるので、
地域の雇用が失われるわけではなく、地域経済の衰退を招いているわけでは
ありませんでした。

ドイツは、このように非常に先進的な脱原発政策を採っているのですが、
脱原発の観点からまだ日本の方が進んでいる点が1点だけあります。
それは、大飯原発が定期検査に入っている今の時点で、日本には稼働している
原発がない、という点です。
ドイツでは、2022年まではまだ原発が動くことになっています。

しかし、日本は、原発を動かさなくても、電気が足りることは既に実証済みなのです。
現在京都地裁では、1900人以上を原告として、大飯原発の稼働差止を求める訴訟が
行われており、うちの事務所からも、私を含め4名の弁護士が弁護団に加わっています。「電力が足りているか」という観点からは、日本はドイツよりも
原発を止めてもよいだけのインフラが整っているのですから、
今後一切の原発の再稼働を認めず、他方でドイツの政策を見習って
再生可能エネルギーへシフトしていくことが必要になるといえます。


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70才をむかえて
弁護士 中 島   晃


昨年、満70才をむかえた。
中国の詩人杜甫の「曲江詩」に「人生七十古来稀」とあることから、
70才のことは古稀とよばれている。
もっとも、杜甫の時代とは異なり、現代では70才は必ずしも古来稀ではなくなっている。

昨年秋、岩手県で開かれた自由法曹団全国総会で、古稀団員の表彰をうけた。
自分では、まだまだ若いつもりでいるが、同期の弁護士で、
大きな病気をしている者も結構おり、70才というのは、人生の大きな節目であることを
実感した次第である。
そうした中で、曲がりなりにも健康で70才を迎えることができたのは
幸いなことだと考えている。
70才になったことから、京都市の敬老乗車証をもらうことになった。
早速活用させてもらっている。

ところで、最近、神戸市立博物館で開催されている「プーシキン美術館展」に行った。
神戸市では、高齢の市民に敬老福祉券を発行しており、
この敬老福祉券をもっている市民には、入場料を半額に減額している。
しかし、残念ながら、この措置は神戸市民だけを対象にしており、京都市民である私は
70才でも入場料は減額されない。
数年前に、東京都美術館で開催されていた「フェルメール展」を
見に行ったことがあるが、東京都では都民以外であっても、高齢者には
入場料を減額しており、私も高齢者として減額の恩恵を受けることができた。

海外の著名な画家や美術館の展覧会が日本で開催されることがある。
ところで、こうした海外の著名な美術展などの開催地は、日本国内では、
東京をはじめ、いくつかの大都市に限られている。
しかし、開催地以外の都市に住む者もその展覧会に入場する場合が多いと思われる。
このように、国内の開催地が限定されている海外の特別な展覧会の入場料が、
その都市に居住するか否で、差別されるというのは必ずしも合理的とは
いえないのでないだろうか。

その点で、東京都美術館が都民以外の者にも、差別することなく、
高齢者に対する入場料の減額を認めているのは、より進んだ高齢者に対する措置として
評価することができる。

さて、京都市ではどうであろうか。
京都市美術館で昨年開かれたゴッホ展では、高齢者に対する入場料の減額措置を
認めていない。
この点で、京都市の高齢者に対する福祉措置は、東京都や神戸市よりも
明らかに劣っている。

さて、海外に目を転ずると、アメリカの首都ワシントンにあるナショナルギャラリーや、
イギリスの大英博物館は、外国人も含めて入場料は無料である。
そこには、美術品をはじめ世界の宝を広く公開し、誰もがそれを鑑賞できる機会を
保障しようとする考え方があるように思われる。
そこで問われているのは、芸術や文化は一体誰のものなのか、
それにアクセスする権利をどこまで広く認めるかである。
老後を心豊かに生きるために、芸術や文化に対するアクセスの権利の重要性を
あらためて考えさせられているところである。


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弁護士 中 村 和 アベノミクスによる労働規制緩和の危険雄

秘密保護法制定の強行など暴走する安倍内閣ですが、このままでは労働分野でも
働き方がメチャクチャになってしまいそうです。
現在、労働法制は大きな岐路にたっています。

特に、非正規労働者の割合が増大し、直近の政府統計によれば、
働く人のうち37%が非正規労働者となり、その割合は拡大の一途をたどっています。
不安定な低賃金の働き方がこの20年余り拡大し、所得格差が広がり、
若者の従業状況も深刻な状況にあります。

労働の基盤が不安定で脆弱なものとなる中で、貧困が広がり、
生活保護を受給する人は、すでに200万人を超えています。
賃金格差の広がりや所得再分配機能の低下など、貧困問題の解決はいまや、
もっとも重要な課題のひとつとなっています。
非正規労働者をこれ以上増やすべきではなく、安定した良好な雇用を
増やすような政策への転換が必要です。
特に、労働者派遣法の抜本改正や有期労働契約規制は非正規労働問題解決の
重要な課題です。

ところが、こうした中で、昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略」や
「規制改革実施計画」では、労働法制の規制緩和が具体的に検討されています。
そこでは、グローバル企業にとって日本を「世界で一番活動しやすい国」にするために、
労働コストをいかに軽減するかが議論され、働く者の権利はまったく無視されています。

特に労働者派遣については、これまで当然の原則とされていた
「派遣労働は臨時的一時的な業務に限定し、恒常的な業務については
正規労働者に担わせるべきである」とする「常用代替防止の原則」を放棄し、
派遣労働の全面解禁を打ち出そうとしています。
有期労働契約についても、5年を超えて無期雇用に転換するという
労働契約法の改正につき、元に戻そうとの動きです。

ようやく規制強化へと舵をきったにもかかわらず、安倍政権になって
労働規制の緩和の逆流現象が起きています。
労働法制は、かつてないほどの大きな危機を迎えています。
このままでは近い将来、わが国の労働現場は低賃金で劣悪な労働条件の
非正規雇用労働者だらけになってしまいます。

労働法制の規制緩和は、現在働いている人だけの問題ではなく、
これから労働市場に出ていく若者、失業者、生活困窮者、母子家庭など
市民全体に大きな影響を与える、まさに、国民全体の問題であり、
貧困問題とも深いつながりがあります。
これからのこの社会のあり方をどうしていくのか、若者が安心して暮らせるためにも、
みんなでしっかり議論する必要がありますね。



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憲法をめぐる危険な情勢
弁護士 諸 富   健

1 明文改憲にこだわる安倍首相
 2012年12月の衆院選の結果、再び政権を担当することになった安倍首相は、
 「戦後レジーム」の脱却を謳い、戦後体制の中核を担ってきた日本国憲法の
 全面的な変革を狙っています。

 手始めに打ち出したのは、憲法96条の改正手続要件を緩和することでした。
 しかし、この明文改憲は、人権を保障するために権力者の手を縛るという立憲主義を
 否定するという重大な問題を孕んでいるため、9条改憲派を含めて
 広範な反対の声が挙がりました。
 その結果、96条先行改憲論は影を潜めることになりました。

 しかし、安倍首相は、決して明文改憲を諦めてはいません。
 2013年7月の参院選でも、自民党は改憲草案を公約に掲げていましたし、
 選挙後のある演説会で、安倍首相は「憲法改正が私の歴史的使命」と述べています。
 今後の動向に注視していかなければなりません。

2 実質改憲を目論む危険な策動
 条文を変えることなく憲法を骨抜きにしようとする動きが急速に高まっています。
 一つは特定秘密保護法、もう一つは集団的自衛権です。

<特定秘密保護法>

  民主党政権時代に秘密保全法制の在り方についての報告書が発表されていましたが、
  2013年9月に突如、特定秘密保護法案の概要が発表されました。
  わずか2週間のパブコメ募集期間に約9万件の意見が寄せられ、
  その約8割が反対でした。
  ところが、10月25日には国会へ提出され、わずか1か月の審議で、
  衆参で強行採決されてしまいました。

  この法律は、日本国憲法の三大原則(基本的人権の尊重、国民主権、平和主義)を
  蹂躙する危険なものであり、国内外で批判・懸念の声が急速に高まっていました。
  しかし、政府・与党は、なぜ今この法案が必要なのかについて合理的な説明を
  一切することなく、拙速に成立させたのです。
  
  今後は、この法案の施行を阻止し廃止に持ち込むべく、
  運動に取り組む必要があります。

<集団的自衛権>

  集団的自衛権とは、他国が攻撃されたときにその国と一緒になって
  阻止する権利です。
  これまでの政府解釈では、集団的自衛権は保持しているが
  行使できないとされてきました。
  なぜなら、戦力を保持しないと定めた憲法9条2項のもとでは、
  日本は自国を防衛するための必要最小限度の実力を持つことしかできず、
  集団的自衛権を行使して海外に出ることは必要最小限度の実力の範囲を
  超えるからです。

  ところが、安倍首相は、集団的自衛権の行使容認に執念を燃やしています。
  そのために、安保法制懇を再開させ、また内閣法制局長官を
  集団的自衛権行使容認派に交代させました。
  そして、集団的自衛権を法的に根拠づける国家安全保障基本法案の成立を
  目論んでいます。

  万一、集団的自衛権が認められるようなことになれば、
  憲法9条は骨抜きになり、日本は海外で戦争ができる国に変質してしまいます。
  麻生副総理のナチス発言にあるように「いつの間にか憲法が変わってしまった」
  ということのないよう、反対の声を挙げ続けていきましょう!

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竹富町教科書問題
弁護士 吉 田 容 子

日本国内の公立の小学校・中学校で使用する教科書を採択する権限は、
「地方教育行政法」により、当該学校を設置する市町村等の教育委員会にある。
他方、「義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律」では、
採択にあたって「市若しくは群の区域又はこれらの区域をあわせた区域」を
採択地区として設定し、地区内の市町村が共同して種目ごとに同一の教科書を
採択することとされている。

2011年8月、沖縄県八重山地区(竹富町、石垣市、与那国町)の
教科書採択地区協議会は、2012年度から使用する中学校の公民教科書として、
保守色の強い育鵬社版の採択を答申した。
これを受けて、石垣市と与那国町の教育委員会は同社版の教科書の採択を決めたが、
竹富町の教育委員会は、教科書調査員がマイナス点を多く挙げた同社版が
協議会委員の無記名投票で選定されたことなどを問題視し、
独自の協議で東京書籍版を採択した。
その後、同年9月に3市町の教育委員全員が協議し、あらためて内容等を確認のうえ、
育鵬社版を不採択とし、東京書籍版の採択を決めた。

ところが、文科省はこの協議結果を認めず、育鵬社版を採択するよう求めた。
竹富町がこれを拒否したところ、文科省は同町を無償措置の対象から外し、
竹富町は有志から東京書籍版教科書の現物給付を受けて使用している。

2013年10月になって、文科省は竹富町教育委員会の対応が教科書無償措置法に
違反しているとして、地方自治法に基づく「是正要求」をするよう
沖縄県県教育委員会に指示した。
同年11月下旬、沖縄県教委は竹富町教委への「指導」をしないことを決めたが、
文科省はなおも「法律違反だ」として再度沖縄県教委に「是正要求」をするよう
指示する姿勢である。
「是正要求」とは、国が地方自治体に対して行う最も強い措置で、
仮に「是正要求」がなされれば、教育行政に関して初めてであり、
地方自治体にはこれに従う義務が生じる。

報道によれば、竹富町教育委員会がこれに従わない場合、文科省は、
違法状態にあるとの司法判断を得るため、違法確認訴訟を起こすことも
検討しているという。

しかし、地方教育行政法は、教科書の採択権は当該学校を設置する
市町村等の教育委員会にあると定めている。
地区内の教科書一本化を定める教科書無償措置法は、あくまで国の財政措置の
要件を定める法にすぎない。
二つの法律は採択地区協議会と市町村教育委員会の判断が異なる事態を
想定しておらず、教科書に関する執行権を持つ市町村教育委員会の判断よりも、
無償措置の対象についての諮問機関にすぎない採択地区協議会の答申を
優先すべきとする法的根拠はない。
「是正要求」という法的な強制手段をとってまで育鵬社版教科書を
押し付けようとする国の姿勢は、教育に対する国家権力によるむき出しの
政治介入であり、到底、許されない。

私は実際に両者の公民教科書を読んでみた。
育鵬社版の作成は、侵略戦争を美化する「日本教育再生機構」が主導し、
自衛隊を肯定する記述が多い、兵役など国防の義務を定めた各国の憲法条項を
表にして紹介している。

国民主権についての項目名は「国民主権と天皇」であり、
天皇に関する記述や写真が多くを占める。

「基本的人権の尊重」については「公共の福祉による制限」と「国民の義務」に
比重を置き、権利や自由の追求により社会秩序の混乱や社会全体の利益を
損なうことがないようにすべきと強調するなど、特異な内容が目立つ。

東京書籍版は、人権に配慮したバランスある内容で、生徒が自ら考えることを
重視しており、明らかに優れている。

竹富町教委の採択は、内容的にも手続的にも何ら問題がない。
文科省の強権的な姿勢を許すことなく、今後も注目していきたい。

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小学校・中学校で弁護士の仕事について話をしてきました。
弁護士 分 部 り か

小学校と中学校で、人権とはどういうものなのか、弁護士の仕事とは
どういうものなのかという話をしてきました。

驚くことに小学生でも「ベンゴシ」という単語を耳にしたことがない生徒さんは
いませんでした。
そして、弁護士の仕事とはどういうものなのかと知っているかと問うと、
「警察に捕まった人を弁護する人」、「裁判をする人」という回答が、
中学ではもちろん小学校でもありました。
弁護士を主人公とするテレビドラマが放映されている影響でしょうか。
 
欧米では、裁判官が、義務教育のカリキュラムの一環で、
他の科目と同じように継続して法律についての授業がなされ、そこでは、
法律というものの性質、司法システム等が語られるのだそうです。

私自身振り返ると、法律や司法システムについてはじめて勉強したのは、
たしか中学生のときだったかと思います。
そこでは、単語として、三権分立とか、憲法の平和主義を覚えるような学習で、
法律が自分たちの生活にどうかかわっているかを考えさせるような授業は
なかったと記憶しています。
やはり司法修習という法律家になるための研修を受けて初めて、
法律というものの果たす役割の内容およびその限界がわかったような気がします。

弁護士になってみて、よく思うのが、多くの方が、法律や司法の制度というものが
どういう性質のものなのかということをご存じなく(ある意味至極当然のことですが)、
弁護士が、先生という呼称をつけられていることからなのか、
人とのトラブルに関することであれば、弁護士が法律を使って
すべて解決してくれると思っておられる方がたくさんいるということでした。
(残念ながら、人とのトラブルを法律で解決できない側面もあるので、
すべてを解決するに至らないときがままあります。)
このことは、私たちの学校教育で、法律や司法の制度が
どういうものであるかについて学ぶ機会を与えられなかったことが
原因ではないかと私は思っています。

私が、人権と弁護士の仕事の話をした小学校では3年生が対象でしたが、
みな一生懸命私の話を聞いて、理解しようとしてくれました。
質問タイムが終わってももっと質問したかったと言ってくれました。
いままで弁護士という存在はテレビの画面の中での存在だったかもしれませんが、
身近に弁護士がいるんだということを知ってもらういい機会になったのではないか
と思っています。

京都弁護士会には、法教育委員会という委員会があり、その委員会が、
中学校や高校に弁護士を派遣して、法律に関する出前講義を行っています。
平成26年3月までは、無料で中学・高校に出前授業を行っています。

また自由法曹団京都支部でも、学習会に弁護士を講師として派遣しています。
法律は私たちの生活にはなくてはならないものなのに、
その本質や役割を理解する機会がこれまで与えられてこなかったと思います。

学校や地域で、法律や憲法の学習会をしてみようとお考えになったら、
私たちにぜひ声をおかけください。



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