事務所だより
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2018年1月 迎春
2018.01.01
迎春
2018年1月

弁護士 大 脇 美 保
弁護士 喜久山 大 貴
弁護士 久 米 弘 子
弁護士 塩 見 卓 也
弁護士 中 島    晃
弁護士 中 村 和 雄
弁護士 諸 富    健
弁護士 吉 田 容 子
弁護士 分 部 り か
事務局一同



養育費「算定表」って何ですか?
弁護士 大脇 美保


 養育費」で検索すると、すぐ「算定表」がでてきます。父母双方の収入から、養育費の金額がわかる一覧表です。最高裁判所のホームページにものっていますので、みなさんの中には、これは法律かなにかで決まっていて、これ以上請求できないと考えている方も多いのではないでしょうか。
 実は、この「算定表」は、2003年に裁判官の有志で構成された研究会が作り出したものです。この「算定表」ができるまでは、離婚調停や婚姻費用分担調停では、裁判所の方から養育費の金額の具体的なアドバイスはなく、審判となって裁判官がきめる段階になって初めて計算して金額を出していました。一部の裁判官たちが、このような状況はよくないと考えて、それまでの計算方式と過去の審判事例を参考にして「算定表」ができました。この表は、調停委員でもさっと金額がわかる点で非常に便利であるため、あっとゆう間に実務で広がったという経過です。
 ところが、この算定表できてからすでに14年も経過しており、当時の根拠となった統計の数値もかわっているのに、何の改訂も検討もなく、現在でもこれが当然のように使われているのです。
 さらに、この基準によれば、生活保護基準を下回ることもある等の問題点があり、日本弁護士会連合会(日弁連)が新しい一覧表を作成しています。裁判所は、なかなか従来の基準を変えようとしませんが、闘う姿勢で臨みたいと考えています。


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「真剣に東京五輪返上へ」
弁護士 喜久山 大貴


 2017年10月、ブラジルオリンピック委員会のヌズマン会長がリオ五輪招致に際し、IOC委員で国際陸連元会長ラミン・ディアク氏の息子に流れた賄賂に関与したとして逮捕されました。東京五輪の招致決定前後にも、招致委員会からラミン・ディアク氏の息子に対して賄賂が送られたとの疑惑が報道されており、ディアク親子の間で投票の取りまとめを示すメールが発見されたとして、現在フランス検察当局などにより現在捜査がなされています。
 東京五輪は安倍首相の「(原発事故汚染水は)アンダーコントロール」とする虚偽発言により招致が決まりました。2017年3月には自主避難者への住宅支援を打ち切りました。今でも放射能汚染を隠蔽するために「復興五輪」が宣伝されています。資材や人材、資金などが東京近郊の都市再開発に流れてしまい、むしろ復興を妨害していると被災地から批判されています。
 五輪開催を口実にした共謀罪の強行可決、2020年までの明文改憲、新国立競技場建設労働者の過労自殺、環境破壊、関連施設周辺の地域住民の追い出し、膨れ上がる費用負担の問題など、さまざまな社会問題、人権侵害の根源となっています。
京都を含め全国各地でも五輪開催に連動させて、ホテル建設などが進行しています。
改めて真剣に東京五輪返上へ向けて声を上げていくべきだと感じています。これほどの問題が噴出している状況で、東京開催こそ「過激」で「非現実的」ではないでしょうか。

 
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18歳で成人に!?−民法改正案
弁護士 久米 弘子


 選挙権は既に18歳以上に改正されています。
 今度は民法の成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正案の動きです。成立すれば、これまでの「おとな」と「こども」の境界が変わり、生活に大きな影響を与えることになります。
 その1つに離婚の場合の養育費の問題があります。現在は、「子どもが成年になるまで」親権者にならなかった親(父親がほとんど)が子どもの養育費を支払う、と取り決めていますが、この「成年」が「18歳」になると、まだ高校生で養育費が切れることになります。今でも、大学進学や在学中の学費が不安な母子家庭では大変ですね(ただし、今も話し合いによって、大学卒業予定の22歳まで支払う旨の合意はできます。又、成人後は子ども本人がまだ収入を得ていないことを理由に扶養請求をすることができます)。
 消費者被害も心配です。今は20歳未満であれば、親権者の同意なしにした契約は親権者が取り消すことができます。これが18歳未満になると、18歳・19歳の高校生や大学生がネットで勧誘されてローンやクレジットカードで安易に契約し、思いがけない多額の被害にあっても簡単には取り消せないことになります。
 その外にも、「成年」という文言が使用されている法律(現在155もある)では特別な措置のない限り、民法に連動して「成年」が18歳に引き下がります。さらに少年法が改正されて、18歳、19歳も刑事罰の対象になるのではないかと心配です。
 
 
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保険会社の賠償提示額は低い?〜交通事故被害への対処
弁護士 塩見 卓也


 この十年ほど、私は事務所ニュースでほとんど労働事件・労働問題のことしか書いてこなかったので、たまには交通事故のことを書きます。
交通事故被害に遭った場合、加害者側がちゃんと任意保険に入っていれば、その後の入通院や仕事を休んだことによる損害について、保険会社が支払をしてくれます。それはそれでよいことなのですが、問題は、保険会社は治療費や休業損害のような分かりやすい費用はそれなりにちゃんと支払ってくれても、慰謝料や逸失利益(障害を負ってしまったことによる将来分の損害)を少なく見積もる傾向があるという点です。
 私は昨年、ある交通事故事案の被害者代理人として訴訟を行っていた案件で、最終的に保険会社に8,500万円以上支払わせる勝利判決をもらいました。この事案で、訴訟前に保険会社が提示した金額は、約1,500万円でした。その差は実に7,000万円です。この事件では、労災事件や原爆症訴訟で培った私の経験を活かし、医者の先生の協力も得ながら、特に後遺障害の重さについて緻密な主張を行い、全面勝利の判決をもらうことができました。
 ここまでの事案でなくとも、保険会社が慰謝料や逸失利益を低く見積ったことに対し、弁護士が代理に就いて交渉すると、その金額が相当増えるということはよくあります。不運にも交通事故被害に遭って、そのときの保険会社からの提示内容が正しいのかよく分からないというようなことがありましたら、お気軽にご相談下さい。

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リトアニアの杉原千畝記念館を訪れて
    −自国ファーストの対極にあるもの−
弁護士 中島  晃


 昨年9月半ば、バルト三国の一つ、リトアニアのカウナスを訪れ、杉原千畝記念館を見学してきた。
杉原千畝は、第二次世界大戦の最中、リトアニアに領事代理として赴任し、ポーランドなどから逃れてきた大量のユダヤ人に日本に渡るビザを発給した、気骨の外交官として知られている。
 第二次大戦が始まり、ナチスドイツがポーランドに侵攻するなかで、ナチスの迫害をうけたユダヤ人たちは、ポーランドからバルト三国に逃れ、そこからソ連(当時)に入国して、シベリア鉄道でシベリアを横断して、ウラジオストックから日本海を渡って、日本の敦賀港に入港しようとした。
 そのためには、日本へのビザが必要であったことから、カウナスにあった日本領事館に大量のユダヤ人難民がビザの発給を求めて押しかけた。
杉原は、日本の外務省にビザ発給について問い合わせをしたところ、外務省の回答はビザ発給に厳しい条件をつけていた。外務省のつけた条件では、殆どのユダヤ人にビザを発給することは不可能であった。
 そこで、杉原は非常の決断をし、ユダヤ人を救うために、大量のビザ発給に踏み切る。彼の発給したビザは「命のビザ」と呼ばれ、約6,000人のユダヤ人の命を救ったといわれている。
 当時、日本はドイツやイタリアと三国同盟を結び、ナチスドイツのユダヤ人迫害政策にも協力する立場をとっていた。そうした中で、杉原がユダヤ人に大量のビザを出したことは、本国の方針に反するものであり、彼は外務省は勿論のこと、軍部からもにらまれることになった。
 にもかかわらず、ユダヤ人を救うために大量のビザ発給に踏み切った杉原の決断を支えたものは何んであったろうか。杉原がロシア正教の信者であり、その人道主義が背景にあったと考えられる。
 しかし、それだけではないと思われる。それは、自国の利益や目先の利害にとらわれず、他国の人々の苦難にも理解を示し、それに援助の手をさしのべることが、国際的な協調と平和を実現し、日本に対する信頼を高め、長期的には自国の利益につながるという外交官としての信念にもとづく行動であったと考えられる。
それは、日本国憲法の「われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」との前文にある精神を先取りするものといえよう。杉原は、戦後間もなく、外務省から解雇されている。その一方で、イスラエル政府は、1985年、日本人で唯一人、「諸国民の中の正義の人」として表彰している。
 いま、自国ファースト(自国第一主義)が声高に叫ばれている。こうした中で、あらためて杉原の事績に学び、自国ファーストをきびしくいましめる憲法の前文に立ち返ることが求められていると思われる。

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最低賃金・全国一律1,500円の実現を
弁護士 中村 和雄


 安倍政権は、働き方改革推進一括法案を本年春に国会に提出します。「働き方改革」はじつは「働かせ改革」を意味するもので、企業にとって日本が世界で最も働かせやすい国にしようとするもので、そのために労働法規制を緩和しようとするものです。
わが国の格差と貧困の広がりを解消するためには、法律案に反対するとともに、大切なことがあります。それは、市民生活の底上げを図ることです。そのためには最低賃金の大幅な引き上げが必要です。わが国における最低賃金額は、2017年全国加重平均848円(京都は856円)であり、週40時間働いた(月間173.8時間)としても月額賃金は14万7,382円です。配偶者の収入が充分であるか、収入が充分にある親と同居するなどの状況でなければ、到底人間らしく暮らすことはできません。
 全労連が2016年に発表した「最低生活費試算調査」によれば、全国平均の最低生計費月額は税込み22万8,476円でした。これを平均月間総実労働時間144.5時間で割ると1,581円となります。つまり、最低賃金の要求額として1,500円は極めて正当な金額なのです。
 もっとも、最低賃金大幅引き上げに伴う使用者の負担について、支援策が必要であることは当然です。一定規模以下の企業についての社会保険料の使用者負担率の軽減・免除や税制上の特別措置などを考慮する必要があります。中小企業振興条例の制定などによって、中小企業への積極的支援を図るべきです。

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憲法9条改悪を阻止しましょう!
弁護士 諸富  健


 2017年5月3日、安倍首相は、「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と述べた上で、9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込むという考えを示しました。それを受けて自民党内で議論が始まり、改憲案のたたき台も作成されました。この事務所ニュースがお手元に届くころには具体案が提示されているかもしれません。衆院選の結果、改憲勢力が3分の2以上を占めましたので、早ければ2018年の通常国会で9条改憲案が発議されるかもしれません。
 自民党は、自衛隊を憲法に書き込んでも政府解釈は1ミリたりとも動かないと説明します。しかし、そんなことはありえません。今の憲法は施行されてから70年、一言一句変えられていませんが、それでも憲法9条の下で自衛隊が設置され、その権限が拡大されていきました。PKO協力法、周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法など、自衛隊の活動範囲は海外にまで広がりました。そして、極めつけは2015年9月に成立した安保法制で、これにより限定的とは言え集団的自衛権まで認められるようになりました。憲法学者や元内閣法制局長官など多くの法律家が指摘するように、明らかに憲法違反です。このように9条についての解釈は、政府の都合に合わせて変えられてきたのです。
 こうして世界有数の軍隊に成長した自衛隊が憲法に明文化されれば、その影響は計り知れません。
まず、憲法違反の任務を帯びた自衛隊が憲法に明記されれば、安保法制は合憲と解されるおそれがあります。もちろん、それにとどまりません。改憲を出発点にして、さらに拡大解釈が積み重ねられて自衛隊の権限が拡大していき、限定のない集団的自衛権が認められるようになるおそれも大いにあります。そうなれば日本は今まで以上にアメリカに付き従い、世界中で戦争ができる国になるでしょう。
 自衛隊が憲法上正当化されることになれば、当然私たちの日常生活にも多大な影響を及ぼすことになります。安倍政権が成立してから5年連続で防衛予算が増大していますが(2018年度も過去最大の予算要求がなされています)、最新鋭の戦闘機や空母の購入などのためにこれまで以上に防衛予算を増やすことが不可欠となり、その分社会保障費や教育費など生活関連予算を削らざるを得なくなります。人員も必要になりますから、軍事的徴用も増えるでしょうし、現在は違憲と解釈されている徴兵制まで導入されるかもしれません。今は認められていない自衛隊基地の土地収用が実施できるよう法改正が行われることも考えられます。
 このように日本の社会構造を大きく転換する憲法9条改悪は何としても阻止しなければなりません。もし改憲案が発議されると最短で60日で国民投票が実施されることになりますから、今すぐに行動に移す必要があります。是非、「安倍9条改憲NO!3000万人署名」にご協力ください。また、9条改悪の危険性を多くの人に知らせるために、学習会(憲法カフェ)を積極的に開催して下さい。少人数でも講師を派遣しますので、お気軽にお声がけください。

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刑法の性犯罪規定が改正されました
弁護士 吉田 容子


 2017年6月に刑法の性犯罪規定が改正され、同年7月に施行されました。1907年の刑法制定以来110年にして初めての本格的改正です。主な改正内容は以下の3点です。
@?刑法177条を「強制性交等罪」としたこと。従来は、暴行又は脅迫を手段として「女子」を「姦淫」(膣性交)する行為を「強姦」として重く処罰してきましたが、改正後は、行為者と被害者いずれも性別を問わず、暴行又は脅迫を手段として「性交等」(膣性交、肛門性交、口腔性交)をする行為を重く処罰することになりました。また、法定刑下限を3年から5年に引き上げました。
A?刑法179条に「監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪」を新設したこと。「18歳未満の者に対し、その者を現に監護することによる影響力があることに乗じて」わいせつな行為又は性交等をした者を処罰する規定で、手段として「暴行」「脅迫」「抗拒不能」のいずれも存在しない児童への性的虐待に対応するものです。加害者は法律上の「監護者」である必要はなく、事実上、監督し保護する関係にあれば足ります(実親、養親、実親の同居相手、里親、養護施設の職員などが該当し得る)。ただし、親子関係と同視し得る程度に、居住場所、生活費用、人格形成等の生活全般にわたって、依存/被依存または保護/被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められることが必要とされ、同居の有無、居住場所の関係、指導状況、身の回りの世話など生活状況、生活費の支出などの経済状況、諸手続きを行う状況などによって判断されます。
B被害者の告訴を起訴要件とする規定を削除したこと。
 このように大きな改正ではありますが、性的自由の侵害行為のうち一部だけを犯罪化しているという構造は変わっておらず、積み残しの課題がたくさんあります。

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成年後見人業務をとおして考えること(その1)
弁護士 分部 りか


 現在、成年後見人として被後見人ご本人さんの高齢者用の入所施設を探しているのですが、なかなか受け入れ先を見つけることができません。
まず、資力がとぼしいと、「有料老人ホーム」を選択肢から外さざるをえません。なぜなら、月額料金が20万円を優に超えるからです。
次に、本人さんが個室を希望すると、年金ではまかなうことができず、入所を進めることができません。個室は高額だからです。
 さらに、男性用の部屋の数は少なく(女性は平均余命が長いので、入所者が多く、部屋数が多い)なかなか空室を見つけることができません。
そして、費用が高額ではない特別養護老人ホームは、要介護度が高くないと入所できず、数年待ちのことが多いです。
 入所施設が足りないのは誰の目からも明らかです。入所施設のいくつかは、人手が足りず今は入所者を募集していないとのことでした。
 介護職はその給与のわりに、重労働なので、人が集まらないとよく聞きます。私の被後見人さんたちが入所している施設の職員さんたちはみな一生懸命介護をしてくださっています。頭が下がる思いです。もっと介護に携わる人たちの労働条件の改善が必要です。介護は私たち一人一人の問題ではありますが、そこは介護保険という制度の問題すなわち政治の問題でもあります。私たちはもっと介護保険制度について関心を持ち、声を上げていく必要があると考えます。

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