事務所だより
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2019年1月 迎春
2019.01.01
迎春
2019年1月

弁護士 大 脇 美 保
弁護士 喜久山 大 貴
弁護士 久 米 弘 子
弁護士 塩 見 卓 也
弁護士 中 島    晃
弁護士 中 村 和 雄
弁護士 諸 富    健
弁護士 吉 田 容 子
弁護士 分 部 り か
事務局一同



東京医大入試差別問題からみる男女共同参画
弁護士 大脇 美保


 昨年、東京医科大学が入試の点数を操作して、女子受験生らの合格者数を抑えていた問題が発覚しました。その後、文部科学省の調査で、この6年間で、男子受験生の入試の合格率が、女子受験生の合格率を上回っている大学が80%を超えることが明らかになりました。
 なぜこのような差別があるのでしょうか。ここで指摘されているのは、医師が働く環境です。すなわち、医師の労働環境がおおむね過酷であって、医療業界全体が、「一生フルタイムで働かせる男子がほしい」というわけです。しかし、これは、女性医師が働き続けられる環境や制度の整備を怠っていると言わざるをえません。
 弁護士業界はどうなのでしょうか。当事務所の女性弁護士の割合は常に50%程度ですが、弁護士全体では、約20%しかいません。また、医師国家試験の合格者の中で、女性の占める割合は、30%台前半で推移しているとのことですが、司法試験に合格者の中での女性は30%以下です。しかも、司法試験に合格して司法修習生になった後に、弁護士、検察官、裁判官を選択するのですが、女性についていえば、検察官や裁判官(いずれも国家公務員)の道を選択する人が近年増えています。これは、国家公務員の方が、育児休暇などもあり、弁護士よりもワークライフバランスがとりやすいことにあるといわれています。
弁護士業界でも、司法試験に男女差別はないものの、かかえている背景問題は医療業界と同様であり、男女共同参画の観点から今後解決されなければならない問題は多いです。

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日日是好日
弁護士 久米 弘子


 個性的な役柄で有名だった樹木希林さんが亡くなりました。訃報を伝えるテレビが映画「日日是好日」のお茶の先生の好演を取り上げていましたが、私は残念ながら観ていませんでした。思い立って、原作の森下典子著「日日是好日」を読んでみました。初版は16年も前、森下典子さんが20歳でお茶のおけいこを始めてからの24年間を副題の「『お茶』が教えてくれた15のしあわせ」にまとめたエッセーです。
 私は中学1年から高校3年までお茶を習っていました。エッセーにあるとおり、おけいこでは足のしびれで立てなくなりましたし、意味もわからないまま、ただ先生の真似をしてお茶を点てていました。今はもう、すっかり作法は忘れてしまっています。それでも、子どもの頃のなつかしさもあって、読み始めたのですが、いつになく何回も読み直しています。おいしいお茶を点てる作法だけではなく、季節や天候、人の状況や雰囲気に合うように、先生によって気配りされたお菓子やお花、香合、掛軸などに対する著者の感動がすうっと伝わってくるのです。
 「日日是好日」は先生の家に掲げられた額であり、掛軸でもよく見かけます。文字通り読めば、「毎日が良い日」という意味ですが、著者は雨の降りしきる日に息づまるような感動の中に座っていて思います。「雨の日は雨を聴く。雪の日は雪を見る。夏には暑さを、冬には身の切れるような寒さを味わう。…どんな日もその日を思う存分味わう。お茶とは、そういう「生き方」なのだ。そうやって生きれば、人間はたとえ、まわりが「苦境」と呼ぶような事態に遭遇したとしても、その状況を楽しんで生きていけるかもしれないんだ」と。

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2つのK社事件
弁護士 塩見 卓也


 輸出入の通関業務などを行っている、K社(仮名)という会社があります。2015年からこの会社を相手に、不当配転命令の事案と、不当解雇の事案の、2件の労働事件の訴訟が続いていました。時間はかかりましたが、2件とも、2018年中に解決することができました。
 私がこれらの事件を受任したのは、2014年10月に、解雇事件の原告であったAさんから相談を受けたのがきっかけでした。このときAさんは、それまで問題なく仕事ができていた部署が廃止となり、それに伴い、事前の研修も何もないままいきなり、「船荷証券」という専門的な有価証券を作成する部署への異動を命じられていました。仕事のやり方が全く分からない、しかも非常に多忙な部署へ急に異動させられ、上司からも圧力をかけられ、Aさんはたちまち死を意識するほどの精神状態に追い込まれ、うつ病の診断を受けました。すると会社は、Aさんに対し退職を勧奨し始めたのでした。
 Aさんはこの会社での勤務を続けることを希望していたので、私は、労働組合に加入し、団体交渉を通じて職場環境の改善を求めていくのが最善であるとアドバイスし、いくつか労働組合の相談窓口を紹介しました。Aさんは、その中の一つ、京都総評の労働相談センターに相談し、京都総評傘下の労働組合のJMITUに加入しました。会社は、組合との団交の結果、Aさんへの退職勧奨や休職命令などは撤回しましたが、その後Aさんにまともに仕事を与えず、露骨に組合を軽視する態度を続けました。
 そんな中、K社の元役員で、定年後再雇用の立場でK社の「法令監査室長」として勤務していたBさんは、社内で不正送金が行われた疑いのある事実を察知し、その調査を行っていました。その流れの中で、同僚に送った社内電子メールが「会社を誹謗中傷している」との理由で、Bさんが法令監査室長から解任されてしまうという出来事がありました。Bさんは、既にAさんが加入していたJMITUに加入し、法令監査室長の立場に戻すことを求めて団体交渉を行いましたが、会社はそれを認めなかったため、その後私が代理人となって、不当配転命令についての損害賠償請求訴訟を起こすことになりました。すると今度は、そのBさんが会社を訴える訴状が会社に届いた直後、会社はAさんを解雇してしまいました。こうして、Aさんの不当解雇事件も、並行して訴訟を行うことになりました。
 Bさんの訴訟では、証人尋問を行う段階で、Bさんが問題にしていた送金について、会社も問題があったことを認めるに至りました。そして、2018年2月28日、Bさんの請求の大部分を認める勝利判決を得ることができました。判決は確定し、Bさんは、判決からしばらくして65歳になり、この会社を退職することになりました。
 Aさんの事件は、2018年5月に証人尋問が行われました。尋問後、勝利を確信したところで、裁判所から和解の勧試がありました。それからしばらくの和解交渉を経て、Aさんの解雇が無効であることを前提に、大勝利といってよい内容で和解が成立し、K社の2件の訴訟は終了しました。
 最初のAさんの相談から、これらの事件が解決するまで、4年かかりました。Aさんも、Bさんも、本当によく頑張ったと思います。最初、Aさんは「死を意識するほど」傷ついた状態でした。そんなAさんが、組合の支援を受け、Bさんという仲間を得て、闘い続ける間に、どんどん強くなっていくのを見ることができました。職場で傷つけられたAさんが、闘ってゆく中で、人間としての尊厳を取り戻せたのだと思います。
そのような過程を近くで見ながらともに闘うこと、これが労働弁護士の仕事の醍醐味だと思っています。
                     
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南山城村のメガソーラー計画とハッチョウトンボ
弁護士 中島  晃


 昨年7月初め、京都府の南山城村に調査のために訪れた。いま、南山城村では、メガソーラー(大規模太陽光発電所)の建設計画が進んでいる。このメガソーラーは、外国資本の日本の子会社が南山城村と隣接する三重県伊賀市にまたがる山林80ヘクタールに建設するもので、大規模な山林伐採等が計画されている。
ところで、今回の調査で、日本で一番小さいトンボといわれるハッチョウトンボが、建設予定地に生息していることを確認できた。ハッチョウトンボは京都府の天然記念物にも登録されており、それが実際に飛びかう様子を見て、その生息地が破壊されることがあってはならないという思いを強くした。
 そこで、8月2日、弁護士38人の連名で、京都府にハッチョウトンボの保存と環境保全のための措置をとるよう申し入れを行った。いま、全国各地でメガソーラーによる大規模開発が進められ、これによる自然破壊や災害が引き起こされ、さまざまな問題を引きおこしている。このため、メガソーラーによる環境破壊が大きな社会問題となっている。
ソーラー発電の固定価格買取制度は、制度設計の杜撰さから再エネ開発の理念からかけはなれ、金もうけのための投資事業と化している。
 いま、こうした状況に歯止めをかけるため必要な規制を加えることが急務となっている。
 最後に、南山城村のハッチョウトンボを見てよんだ一首をかかげる。
 父母のたまこもれるや 山城の里にとびかう ハッチョウトンボ


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韓国の最低賃金
弁護士 中村 和雄


 7月29日から8月4日まで、日弁連調査団の一員として、韓国の最低賃金制度を調査してきました。韓国では全国一律の最低賃金制度となっていますが、2000年の最低賃金額は時給1,600ウォン(160円)でした。その後毎年大きく引き上げられ、今年1月1日からの最低賃金額は時給7,530ウォン(753円)となっています。今年の引き上げ率は16.4%、わが国の引き上げ率の5倍以上です。そして、さらに、来年1月1日からの引き上げ額が8月4日に確定しました。引き上げ率は10.9%、最低賃金額は8,350ウォン(835円)となります。東京の最低賃金には及びませんが、日本の多くの地域の最低賃金額をすでに上回っています。
 韓国では、先の大統領選挙時に5人の候補者がいずれも最低賃金を1万ウォンにすることを公約としました。低所得者の底上げによって韓国経済を豊にするという政策が国内で共有されています。文大統領は、2020年に1万ウォンにするとしていました。少しテンポが遅れそうですが、わが国とは比べものにならない速度で引き上げが行われています。こうした大幅な引き上げを可能にしているのは、国民の強い支持があることはもちろんですが、中小零細企業に対する援助策がしっかりとなされていることにもよります。なぜ、韓国ではこうした大幅な引き上げが実現できるのに、日本では大幅な引き上げができないのか、どうすれば良いのかについて、皆さんと考えていきたいと思います。
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改憲阻止は今が正念場!
弁護士 諸富  健


 自民党は、2018年3月、自衛隊・自衛の措置を明記する憲法9条改正を含む4項目の改憲案を発表しました。安倍首相は、2020年を新しい憲法が施行される年にしたいと述べており、早期の改憲実現に執念を燃やしています。
2019年夏は参院選がありますが、6年前の参院選では31の「1人区」のうち29選挙区で勝利するなど自民党が圧勝しました。ところが、3年前の参院選では32の「1人区」のうち11選挙区で野党統一候補が勝利しました。今度の参院選でも野党共闘が実現すれば、6年前のように自民党が圧勝する可能性は低く、改憲勢力が3分の2を割り込む可能性があります。そうすると、憲法改正の国民投票を実施するどころか、その前段階の改憲発議自体ができなくなるおそれがあります。ですので、改憲派は、なんとしても参院選前に国民投票までこぎつけたいのです。
 改憲発議から国民投票日まで最短で60日です。改憲派としては、どんなに遅くとも5月中旬までには改憲発議をする必要があります。スケジュールは非常にタイトですが、千載一遇のチャンスを逃したくない改憲派が強引に進める可能性は十分あります。改憲阻止は、まさに今が正念場です。ここを踏ん張れば、安倍改憲の野望を打ち砕く展望が開けます。
 3,000万署名の取り組みや学習会の開催、メディアへの意見・要望やSNSの活用など、多種多様な手段で安倍改憲の危険性を周りに広げていきましょう!
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成年後見人業務をとおして考えること(その2)
弁護士 分部 りか


 成年後見制度について、時折目にするのが、第三者の成年後見人・保佐人・補助人(以下後見人ら)が就任すると、財産が自由にならないという意見。
入ってくるお金(収入)は、限度があります。後見人らが必要な方は、すでに年金受給をされており、定期収入が増えるわけではないことがほとんどです。したがって収入の範囲でできる支出をしなければなりません。それは私たちも同じです。後見人らが就任したから、財産が自由にならなくなったということでは必ずしもなさそうです。後見人らは、ご本人の収入・財産をご本人の現在・今後の生活のために、どう使っていったらよいのかという視点で考えており、財産が自由にならないと、ご本人が本当に感じているのか、検討する余地はありそうです。ご本人が、明確にこうしたいという意思が現在もあって、それを実現させる経済的ゆとりがあるにもかかわらず、後見人らが認めない場合には家庭裁判所や弁護士に相談していただく必要があります。
成年後見人は、被後見人ご本人の意思を最大限尊重する義務があります。なので、ご本人のご意思をまずはきちんと確認したうえで、その意思にできるだけ沿った財産管理・身上看護を行います。その意思を適切に後見人らに表現してもらうためには、ご本人との間に信頼関係が必要と考えます。後見制度の利用の要件を満たしていない現段階でも、将来の財産管理等を専門家に託す方法はあります。どうぞ一度ご相談ください。

 
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