事務所だより
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2023年8月 暑中お見舞い申し上げます
2023.08.01
暑中お見舞い申し上げます 2023年8月


弁護士 今 西 恵 梨 : 入所のごあいさつ
弁護士 大 脇 美 保 : 結婚の自由をすべての人に
弁護士 喜久山 大 貴 : 冤罪被害からの救済制度(再審法)の改正が急務
弁護士 久 米 弘 子 : 世界の男女格差で日本は過去最低の125位!
弁護士 塩 見 卓 也 : 公益通報目的で内部記録を持ち出したこと等を理由に受けた懲戒処分取消確定後の国家賠償が認められました
弁護士 中 島   晃 : 「送り火」の景観が危ない
弁護士 中 村 和 雄 : 岸田政権の「三位一体の労働市場改革」
弁護士 諸 富   健 : 改悪入管法施行阻止の闘いへ
弁護士 吉 田 容 子 : 離婚後共同親権制の導入は禍根を残す(2)
弁護士 分 部 り か : 双方向の対話すること〜弁護士と生成系AIが異なる点〜 
事務局一同



離婚後共同親権制の導入は禍根を残す(2)
弁護士 吉田 容子

 前回は離婚後共同親権制度が導入された場合の弊害を説明した。今回はもう少し具体的に法務省が考えている制度内容と問題点を述べる。
 まず、いわゆる「合意型共同親権」においても、DV・虐待事案や高葛藤事案が紛れ込む危険性は非常に大きい。法務省は、特にDV・虐待事案では親権の共同行使が困難でむしろ弊害があることを否定しないが、双方が同意した場合だけ共同親権とすればある程度弊害を防げるはずだとする。しかし、DV・虐待事案や高葛藤事案の多くはもともと当事者間に力の格差があり、「対等平等な合意」を想定するのは間違いである。今後、「離婚はしない、どうしても離婚してほしければ共同親権にしろ」と言われ、離婚したい一心で共同親権に「同意」し、子の進学や医療等にかこつけて生活に介入される事案の多発が予想される。ようやく離婚できても、支配と介入が延々と続くのである。
 それどころか、法務省は、父母の一方が反対しても裁判所が共同親権を命じることができる「非合意型強制共同親権」の導入も企んでいる。合意がなくても共同親権とすることが子の利益になる場合があるとの理由だが、具体的にどのような場合が該当するのか、一切明らかにしない。合意がある場合でさえ、実際には様々なトラブルの多発が確実に予想されるのに、合意がない場合に共同決定を強制すれば、トラブルだらけで何も決まらないし、決まるとしたら強者の圧に弱者が屈することを意味する。それが子の利益になることはありえない。
 こんな制度は間違っている。
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岸田政権の「三位一体の労働市場改革」
弁護士 中村 和雄

 6月16日、「経済財政運営と改革の基本方針2023加速する新しい資本主義〜未来への投資の拡大と構造的賃上げの実現〜」(骨太方針2023)が閣議決定されました。そこには、「三位一体の労働市場改革」として、@リ・スキリングによる能力向上支援、A個々の企業の実態に応じた職務給の導入、B成長分野への労働移動の円滑化が強調されて記載されています。
 わが国の労働者の賃金額はいまや世界的にみてきわめて低い状態になっています。平均賃金額や最低賃金額は、お隣の韓国にも大きく引き離されています。こうした現状の改革が必要です。上記の「三位一体改革」は、一見こうした現状の改革策としてデンマークなど北欧の政策を真似ていて有効に見えるのですが、残念ながらその実態は異なり、ますますわが国の雇用の劣化と非正規化が進みそうです。わが国の「三位一体改革」は、自己責任が強調され、能力のない者については労働条件の低下は当然であり、自由競争による労働市場での勝ち残りを推進しています。私が訪問したデンマークでは、「みんなで支え合う」ことを制度化し、落ちこぼれた者を労働市場に復帰させる支援制度を強力に推進していました。この違いをしっかり認識して運動していきましょう。
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結婚の自由をすべての人に
弁護士 大脇 美保

 本年5月30日、名古屋地方裁判所で、戸籍上同性である方々が法律上の結婚ができない点について、憲法24条2項(家族生活における個人の尊厳と両性の平等)、14条1項(法の下の平等)に違反するという判決が下されました。また、6月8日には、福岡地方裁判所でも、この点について憲法24条2項に違反する状態にあるという判決が出されました。
 このほかに、2021年3月17日には札幌地方裁判所で、憲法14条1項に違反すると認めるのが相当、2022年に11月30日には、東京地方裁判所では24条2項に違反するという判決がだされました。今後、これらの裁判は、違憲とはみとめられなかった大阪地裁判決(当事者の方々が不利益を受けていることは指摘されています)を含んで高等裁判所で審理が行われることになります。違憲判決をうけて、国は対応を迫られることになります。
 京都弁護士会でも、6月24日に、大阪訴訟の原告であり京都市パートナーシップ制度第1号の当事者の方、また大阪訴訟の代理人弁護士をおよびして企画をもちました。この中で、「皆が自分のこととして取り組んでいけば、いつか変わる」という発言がありました。私自身も、これからも取り組んでいきたいと思います。
 京都弁護士会のユーチューブチャンネルにも、LGBTQに関する動画をたくさんアップしていますのでご覧ください。
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冤罪被害からの救済制度(再審法)の改正が急務
弁護士 喜久山大貴

 日弁連や各地の弁護士会、地方議会等が、国に対し再審法改正を求める決議を続々と上げています。
 再審法とは、誤判により有罪とされた冤罪被害を救済するため、裁判のやり直しについて定めた刑事訴訟法の規定です。再審法はわずか19条しかなく、手続きの多くが裁判所の裁量に委ねられていることや、証拠開示制度が明文化されていないこと、再審開始決定が出ても検察官の不服申立てで審理が長期化してしまうこと等の法制度上の不備が指摘されています。
 日野町事件で大阪高裁は2023年2月27日、検察官の即時抗告を棄却し、再審開始の判断を維持しました(現在、最高裁第二小法廷に係属)。日野町事件の阪原弘さんは無期懲役の確定判決を受け、服役中に亡くなりました。
 袴田事件で東京高裁は同年3月13日、再審開始を認める決定を下し、検察官が特別抗告を断念して再審開始が確定しました。捜査側の証拠捏造まで疑われた事件です。袴田巌さんは2014年に釈放されましたが、45年以上も死刑囚として収監され、今でも拘禁反応に苦しんでいます。
 クリント・イーストウッド監督主演の映画「トゥルー・クライム」には、薬物投与による死刑執行中に事件の真相が明らかとなり緊急停止ボタンが押されるシーンがあります。私が日々接する刑事事件の中でも、冤罪は決して過去の問題ではないと実感します。冤罪は国による深刻な人権侵害であり、一刻も早く実効的な救済制度を整備しなければなりません。
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公益通報目的で内部記録を持ち出したこと等を理由に受けた懲戒処分取消確定後の国家賠償が認められました
弁護士 塩見 卓也

 京都市の児童福祉施設で、施設長が児童虐待を行ったという事実につき、児童の母親から児童相談所に対し相談があったにもかかわらず、約4か月にわたり調査を行わず放置し、事実の隠蔽が疑われる状況にあったことについて、児童相談所の職員であった原告が京都市の外部公益通報窓口の弁護士に通報したところ、逆に担当外の児童記録データ無断閲覧や記録の持ち帰りなどを理由に、3日間の勤務停止の懲戒処分を受けたという事案で、原告が懲戒処分取消を求めた訴訟で、提訴から3年を経た2019年8月8日、懲戒処分を取り消す一審判決を勝ち取り、2020年6月19日、原判決を維持する控訴審判決を勝ち取り、2021年1月28日、京都市の上告受理申立の不受理決定が出て、懲戒処分取消が確定していました。この事件では、並行して国家賠償請求訴訟も提訴していました。その判決が、2023年4月27日に出ました。
 この事件に関しては、施設長の児童虐待行為が刑事事件となったことや、外部公益通報窓口となった弁護士が原告の名前を京都市当局に漏らしたこと、母親からの通報が放置されたことについて京都党の村山祥栄議員が京都市会で議会質問を行ったこと、村山議員の質問がきっかけになって懲戒処分ありきの犯人捜しが始まり、その後原告が懲戒されたことなどが、繰り返し新聞各紙で報道されました。懲戒処分後には、自民党京都市議団が京都新聞に全面広告で出した、『市会報告vol.13』に、「一部で主張されているような児童相談所の対応の遅れや隠ぺいはありません。」「職員の不適切な行為については厳正な処分が行われましたが、これは公益通報とは関係ありません。」と記載されていました。本件の懲戒処分が政治案件化していたことを、十分に疑わせるものといえます。
 国家賠償請求事件は、和解協議を経て、京都市が原告に対し解決金120万円を支払う内容にて和解する方向となり、その和解案につき、京都市会の承認が得られれば和解解決となる予定でした。2021年11月17日京都新聞朝刊でも、「京都市養護施設の相談記録持ちだし 内部告発職員と市和解」との表題で大きく報道されました。しかし、京都市会は、和解を承認する議決において、原告の行為により「市に対する市民の信頼が失墜した」と、原告の名誉を毀損する付帯決議をつけてきました。これで原告は和解を拒否し、判決を目指して闘いを続けることになりました。
 判決は、懲戒処分取消訴訟での弁護士費用の満額を経済損害として認めた上で、違法な懲戒処分と直後の不当な配置転換についての慰謝料も含め、元本で和解案解決金額の倍近い、約223万円の損害賠償請求を認めました。公務員の懲戒処分取消訴訟は、原告側に経済的にも労力的にも負担が多く、その負担から泣き寝入りせざるを得ないことも多いので、取消訴訟に要した弁護士費用の満額を経済損害として賠償が認められたことの社会的意義は大きいと思います。
 その後判決は確定し、京都市から遅延損害金も含め約307万円が支払われました。原告にとっては7年以上にもわたる長い闘いでしたが、懲戒処分が取り消されただけでなく、経済的にも救済されることになって、非常によかったと思います。
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双方向の対話すること
〜弁護士と生成系AIが異なる点〜
弁護士 分部 りか

 「生成系AI」ChatGPTがその代表格ですね。離婚についての法律相談をChatGPTに聞いてみました。驚くことに、とても自然な文章で回答が得られました。しかしながら、その回答は常日頃離婚事件に取り組んでいる弁護士の目からは不十分、離婚事件の各争点によっては不正確なものでした。ChatGPTは、専門家に相談することをお勧めしますと締めくくるのですが、その後実際に専門家に相談する方は少ないでしょう。
 弁護士もChatGPTも、与えられた(聞かされた)ご状況の範囲でしか、回答できません。したがいまして、弁護士も知らされていない事実があれば、違う回答になることがあります。ChatGPTと弁護士が大きく異なるのは、「双方向の」対話だと思います(もっともChatGPTは対話型AIと分類されています)。すなわち、弁護士は、相談者に、質問を行い、相談者の状況をさらに明確にして、立体化します。状況は一人一人異なり、同じことはあり得ません。立体は、点が一つ異なれば全く異なったものになります、私たちの世界は3次元です。チャットGPTは受け身であって、与えられた2次元(平面)の問いかけだけを頼りに、ネット上の情報だけを寄せ集めて回答するだけであり、質問を返すことはありません。双方向の対話により、相談者の個別事情を理解し、理解の内容が正しいかを確認、修正しながら、理解する、そのような事案の個別理解が、紛争の解決に結びつくと信じて、依頼者との直接の双方向の対話を大切に日々業務に取り組んでいます。
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「送り火」の景観が危ない
弁護士 中島  晃

 最近になってわかったことだが、京都の夏の風物詩である五山「送り火」の一つ「鳥居形松明」が点火される京都市右京区嵯峨鳥居本の曼荼羅山のふもとで、宅地開発が計画され、送り火の眺望が損なわれるという「鳥居形」の景観問題が浮上してきた。
 これに対して、地元の鳥居本町自治会などが京都市眺望景観創生条例にもとづき、鳥居形松明の眺望景観を保全するため、地元住民らが送り火を見るために訪れる「まんだら橋」を視点場に加えた建築制限を行うことを求める市民提案を行った。この条例には市民からの提案制度が設けられており、京都市が市民の提案にどう答えるかが注目されている。
五山の送り火を町なかから眺めることのできる景観こそ、京都を代表する歴史的景観にほかならない。京都の都心部に中高層建築が建ち並んだとはいえ、いまでも町なかで送り火を眺めることのできる場所が少なくない。
 送り火は、応仁の乱の際に一時中断したといわれており、また第二次大戦中の1943(昭和18)年には灯火管制によって中止された後、戦後1946(昭和21)年になってようやく再開された。このように送り火を眺めることのできる京都の歴史的景観の保全は、人々が平和のうちに生きることと分かちがたく結びついている。
 そうしたことからいっても、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が続いている今、平和のうちに生きたいという人々の切実な願いと結びついた「送り火」の景観を守ることはまことに重要だと考える。
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世界の男女格差で日本は過去最低の125位!
弁護士 久米 弘子

 世界経済フォーラム(WEF)が今年6月21日に発表した世界の男女格差(ジェンダー・ギャップ)指数の報告で、世界146ヶ国中日本は125位と過去最低となりました。
日本は、教育(47位)や健康(59位)の分野では、比較的上位にありますが、国会議員や閣僚・行政府の長など政治の分野では138位、労働参加率や同一労働の賃金格差、推定勤労所得の比率、管理職の比率など経済の分野では123位です。これは先進7ヶ国(G7)の中でも最下位です。
 1990年代前半までは、先進国の多くが、日本と似たような状況でした。それ以後、先進国では目に見える形で男女平等化が進められてきたのに、日本では、大きくおくれをとっているのです。
 私は1975年国連の国際婦人年に、「女性差別の解消は人権の問題である」と宣言され、日本にも平等をめざす行動計画が策定されることになったので、「娘(当時小学生になったばかり)の時代には、女性差別はなくなっているだろう」と大いに期待しました。
残念ながら娘は当時の私の年齢をこえましたが、現実はまだまだ厳しい状況です。
 とりわけ政治や経済の分野で、性別をこえて平等に活躍できるように優先枠をもうけようと提案されているクオーター制もなかなか普及しません。当事務所の大脇美保弁護士は、今年度、日本弁護士連合会(日弁連)の副会長に就任していますが、日弁連は、いちはやくクオーター制度を採用した法律家の団体です。
 私は、性による差別の解消が昔よりは進んでいることを一定評価しつつ、今後、世界的にも評価されるようスピードアップしてほしいと強く願っています。
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改悪入管法施行阻止の闘いへ
弁護士 諸富  健

 6月9日、「出入国管理及び難民認定法」(入管法)の「改正」案が成立しました。今回の法案は、3回目以降の難民申請者の送還を可能にするという国際法違反の内容を含むなど、2年前に廃案となった法案とほぼ変わらない「改悪」案でした。そもそも、2年前の廃案の大きな要因となった名古屋入管でのウィシュマ・サンダマリさん死亡事件の真相はいまだ解明されていませんし、法案審議において、立法根拠の一つとされた「難民をほとんど見つけることができない」との発言をした難民審査参与員に十分な審査が不可能な大量の件数を担当させていたなど、立法事実が根底から覆される重大な問題点が次々に明らかになりました。日本国籍を持たない方々の命や人権を脅かす改悪案を強行採決したことは、暴挙というほかありません。
 改悪入管法の廃案を求めて、多くの若者が声をあげました。日弁連、近弁連、京都弁護士会も反対の声明をあげましたし、有志の弁護士が近畿一円で街頭宣伝やデモを行いました。入管の酷い実態を知って、多くの市民がこれはおかしいと立ち上がったことは、一つの希望です。
 近弁連では、12月1日に入管問題をテーマにしたシンポジウムを開催します。このシンポジウムにご注目いただくとともに、1年以内に予定されている入管法施行を阻止し、全ての人が個人として尊重される真の入管法改正へ向けて、ともに声をあげていただくようお願いいたします。
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入所のごあいさつ
弁護士 今西 恵梨

 始めましてご挨拶させていただきます。
このたび、ご縁があり、市民共同法律事務所に入所することになりました今西恵梨と申します。
 出身は京都の山城地域(お茶の京都)です。
今まで3年間は、日本司法支援センター(通称 法テラス)の常勤弁護士として業務をしておりました。兵庫県神戸市で1年執務をし、令和2年1月からは京都府福知山市にある法テラス福知山法律事務所に約2年半所属しておりました。法テラス福知山では、弁護士は私一人だけでしたので、他の弁護士がいる中で執務を行うのはとても刺激になり楽しみです。
 ふと振り返ると、一旦京都府を出てはいますが京都府の南から北へ移動し(法テラスは全国転勤ですので北は北海道から南は沖縄まで異動があります。ですので、福知山に赴任したのも何か縁を感じます)、京都市へ着地しましたので、京都府にご縁があるなぁと最近ひしひしと感じております。
 最近気を付けていることは運動することです。やはり、意識しないと運動をしないので、気にかけてはいます。ブームは去ったかもしれませんが、任天堂のswitchのリングフィットはすごく運動になります。腹筋や他の筋肉が固くなることに少し喜びを覚えました。
 京都市内は初心者であり、弁護士4年目とまだまだ若輩者ではございますが、研鑽を重ね精進していく所存です。皆様方のご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
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