事務所だより
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2024年1月 迎春
2024.01.01
迎春
2024年1月

弁護士 今 西 恵 梨 : 道の駅めぐり
弁護士 大 脇 美 保 : 「D&I」って何ですか?
弁護士 喜久山 大 貴 : 『Winny』映画評
弁護士 久 米 弘 子 : 今年始まる朝ドラに期待する−初の女性弁護士登場−
弁護士 塩 見 卓 也 : 外国人技能実習生制度の今後
弁護士 中 島   晃 : 市民共同法律事務所創立40周年を迎えるにあたって―事務所の名称はどうやって決まったのか
弁護士 中 村 和 雄 : ノーモア・ミナマタ近畿訴訟・全員救済判決
弁護士 諸 富   健 : 自衛隊名簿提供問題についての裁判が始まります
弁護士 吉 田 容 子 : 離婚後共同親権制の導入は禍根を残す(3)
弁護士 分 部 り か : 成年後見制度利用申立と法テラスの利用について 
事務局一同



今年始まる朝ドラに期待する−初の女性弁護士登場−
 弁護士 久米 弘子

 今年の新しいNHK朝のドラマのモデルは、初の女性弁護士の1人、三渕嘉子さんです。
かつて、日本では、女性は弁護士にも裁判官にも検察官にもなれませんでした。1936(昭和11)年の弁護士法改正によって、「男子に限る」という規定は削除されました(京都弁護士会は当時、この改正案に反対し、「男が生命をかける弁護士の仕事に女など参加させられるか」と言ったとか。時代を感じますね)。ただ、弁護士法は改正されても、弁護士になるための資格試験の合格に必要な法律学を学べる教育制度が女性にはありませんでした。このため、三渕さんはお茶の水高女を卒業後、明治大学に新設された女性部法科に入学しました。ここで、久米愛さん、中田正子さんらと共に法律学を学び、1938(昭和13)年11月に、3人共、高等文官の司法科試験に合格しました。
 その後、研修を経て、3人はそれぞれ東京の弁護士事務所で弁護士試補として見習いをはじめ、1年半後の1940(昭和15)年12月に弁護士登録をしました。戦争への動きが激しくなる中、初の女性弁護士3名の登場は明るいニュースでした。
 終戦後、三渕さんは裁判官に転身することを考えました。それまで裁判官も検察官も「男子に限る」とされていましたが、終戦後男女平等となったのだから、裁判官にも女性が採用されないはずはない、と思ったのです。三渕さんは司法省に裁判官への採用願いを提出しましたが、正式に任用されたのは、新憲法が施行され、最高裁判所が発足したのちの1947(昭和22)年6月のことでした。三渕さんはその後、各地の家庭裁判所を転任し、1979(昭和54)年に65歳で横浜家裁所長(所長も女性初)を定年退職されました。その後は弁護士、家裁の調停委員や参与員、行政の委員、婦人法律家協会の会長を含む各種団体の役員などとして活躍され、1984(昭和59)年5月に69歳で亡くなりました。
 私は1965(昭和40)年、19期司法修習生(500名中女性は26人位)として、東京の研修所に入りましたが、当時、婦人法律家協会の先輩女性達が、女性修習生の歓迎会を開いて下さったことをよく覚えています。私と同姓(親族関係はありません)の久米愛さんは三渕さんと同年に女性で初の弁護士になられたお一人ですが、歓迎の席で法曹の中ではまだ数少ない女性であった私達を励まして下さいました。そのお気持ちに身の引き締まる思いでした。
 私が京都弁護士会に入会した当時、京都弁護士会の会員はまだ200名に足らず、女性会員は私を含めて4名でした。昨年3月末で京都弁護士会は会員852名、女性は194名(21.6%)に増えました。
 今年は日弁連初の女性会長が誕生する、と期待されています。きびしい時代に、先輩女性法曹がめざしていた男女が当たり前に働くことのできる社会が次第に実現していることを頼もしく思う一方、世界的なレベルでは残念ながらまだまだ日本は遅れている、と思うことの多いこの頃です。
(参考:佐賀千恵美著「女性法曹のあけぼの」)
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市民共同法律事務所創立40周年を迎えるにあたって―事務所の名称はどうやって決まったのか
 弁護士 中島  晃

 市民共同法律事務所は、今年で創立40周年を迎える。1984年4月、現在の場所に新しく法律事務所を開設するにあたって、事務所の名称をどうするかについて私と久米弘子弁護士の2人が相談したのは勿論のことであるが、その相談に事務員になる予定の皆さんにも加わってもらって議論したという経過がある。
 そうした議論の中で、府民共同法律事務所という名前も提案されたが、「府民」というのはいかにもお役所的なにおいがするということでボツになった。また、市民共同の前に京都をつけてはどうかという案が出されたこともある。しかし、ここでいう市民とは、「市民社会」を構成する自由で平等な個人を指すものであり、京都という行政区域にこだわらず、こうした意味での市民が広く誰でもこの法律事務所を訪れることができるようにしようと考えて、あえて京都はつけないことにした。
 そうした事務所の名称をめぐる議論を経て、40年前に久米弁護士と私の2人の弁護士によって結成された市民共同法律事務所が、いまでは10人の弁護士と7人の事務局(パラリーガル)をかかえる規模の事務所にまでなったことは、まことに感慨深いものがあり、この機会に私たちの法律事務所を支えていただいた多くの市民の皆さんにあらためて深く感謝するものである。
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ノーモア・ミナマタ近畿訴訟・全員救済判決
 弁護士 中村 和雄

 2023年9月27日、大阪地裁は、水俣病の法に基づく救済を受けられなかったとして、チッソ、国、熊本県を被告として訴えていた近畿地方などに在住する128人の原告に対し、原告全員を水俣病と認定し、国と熊本県、チッソにあわせておよそ3億5,000万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。国と熊本県は1960年1月以降適切に規制すべきことを怠ったとして、その時期以降も汚染水に暴露し続けた122人について賠償責任を認めました。
 水俣病の公式発見は1956年5月1日です。それからすでに67年が経過しているのに未だに被害者救済がきちんと行われない状態が続いています。
 私が弁護士になった翌年の1986年、関西に在住する被害者を原告とする京都訴訟が始まり、私も弁護団に加えてもらいました。熊本、新潟、東京、各地で原告勝訴の判決が積み重なり、救済法が成立したのですが、まだまだ未救済者が多数存在しているのです。国の姿勢が問われています。公害の原点である水俣病被害者の救済が未だに実現していないことは、恥ずべきことです。生きているうちに救済を!国に対し、今度こそ、全面解決を実現することを求めます。
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成年後見制度利用申立と法テラスの利用について
 弁護士 分部 りか

 成年後見申立のご依頼が多いです。ところが弁護士費用の工面がいつも問題になります。保佐・補助の場合は、本人申立による本人の法テラス利用が可能です。しかし、後見相当の診断を受けた方に対しては、現在法テラスは利用を認めていません。なぜならば、後見相当の診断を受けた方が、法テラスと弁護士費用立替の契約を締結する能力がない(だから後見相当で後見申立が必要)と考えているからです。
 理論上は、後見相当の診断を受けた方が申立人となることは可能です。しかしながら、後見相当の診断を受けた方が、弁護士と委任契約を締結し、後見制度の申立てをすることを正確に理解するのはやはり困難です。
 そうなると後見相当の診断を受けた方の後見申立は@市町村長による申立、またはA四等親以内の親族による申立とならざるをえません。Aの場合、親族が書類を収集し、申立書を作成できれば弁護士は不要です。または、当該ご親族が法テラスを利用したり、弁護士と委任契約を締結して、弁護士に依頼することは可能です。但し、その弁護士費用の負担はその親族が行うことになります。申し立てる親族がいない場合、支援が進まず、私達弁護士も費用の持ち出しをすることもできず、困ることが多々あります。市長申立の手続が迅速になること、そして法テラスが後見相当の診断を受けた方の利用を認めてくれることが必要だと考えます。
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自衛隊名簿提供問題についての裁判が始まります
 弁護士 諸富  健

 自衛隊が高卒予定者や大卒予定者という募集対象者(18歳や22歳になる者)に対して募集案内を郵送していることをご存じですか。従前、自衛隊は、自治体が保有する住民基本台帳を閲覧して、募集対象者の情報(氏名、住所、生年月日、性別)を書き写していたのですが、近年、募集対象者の情報を紙媒体や宛名シールによって提供する自治体が増えてきました。
 しかし、このような情報提供に法的根拠はありません。政府は自衛隊法や同施行令が法的根拠になるとして住民基本台帳法上も特段問題ないとの見解を示していますが、自衛隊法や同施行令は募集事務の具体的内容を定めておらず、自治体の提供義務も定めていません。住民基本台帳法上の「提供」要件も満たしておらず、違法と言わざるを得ません。
 自衛隊に個人情報を提供することは、憲法13条で保障されるプライバシー権を侵害するものです。また、この背景に、安保法制や安保3文書により「戦争できる国」づくりが進む中で自衛隊の定員不足が常態化していることがあることに鑑みると、戦争放棄、戦力不保持を定めた憲法9条の観点からも重大な問題を孕んでいると言えます。
 自衛隊から募集案内が送られた奈良の高校生が裁判の原告になることを決意し、自衛隊問題に取り組んできた全国各地の精鋭弁護士が10名以上参加して弁護団を結成することになりました。近々提訴いたしますので、今後の裁判や運動の動向にご注目ください。
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道の駅めぐり
 弁護士 今西 恵梨

 前回の事務所ニュースでは自己紹介をさせていただきました。ですので、実質これが初めての事務所ニュースとなります。とりあえず自己紹介の延長的なことを書こうと思います。
 みなさんは道の駅をご存じでしょうか?道の駅とは、安全で快適に道路を利用するための道路交通環境の提供、地域のにぎわい創出を目的とした施設です。道の駅には、それぞれの道の駅にスタンプが設置されています。道の駅のスタンプラリーなるものがあり(専用のスタンプラリー台帳がある。近畿の台帳は京都、大阪、兵庫、奈良、滋賀、和歌山、福井)、私はここ2〜3年、スタンプラリーをしながら道の駅をめぐることにはまっています。
 京都には、道の駅は18駅存在します。京都の道の駅は、北部に集中しています。福知山にいた頃に京都は全てめぐりました。道の駅では、郷土の野菜から食べ物、お酒まで置いてあるので、とても心が躍ります。中には、地域のことを記載した展示品・パネル等もあり、その地域のことを知るきっかけにもなります。温泉がある道の駅もあるのでドライブで疲れた身体にはしみるのではないでしょうか。どの道の駅も地域の色があるので魅力ですが、私が今まで行った道の駅の中で印象的だったのは、特に福井県の道の駅が新幹線の開通もあり新しくリニューアルしているところが多いのが印象でした。
 機会があれば、ドライブがてら道の駅を巡られてみてはどうでしょうか?
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「D&I」って何ですか?
 弁護士 大脇 美保

 最近、新聞などで「D&I」という言葉がでてきます。
 Dは「ダイバーシティ」すなわち「多様性」です。性別だけではなく、性自認、性的指向、国籍、人種、民族、出自、障がいの有無、疾病の有無、年齢、家族関係などの属性や差異を、尊重することを意味します。
 Iは、「インクルージョン」すなわち「包摂性」です。様々な属性をもっている人々が、その能力、個性を最大限に生かして活躍できるよう、様々な属性や差異に配慮して受けいれることを意味します。
 「D&I」は職場だけではなく、弁護士会を含む団体、学校など、あらゆる場面で問題になりますが、何をどうすすめていけばいいのでしょうか?
 まず、このような理念で進めていくことを広報し、人々に理解してもらうことは当然必要です。そして、何より必要なのは、現在、これらの属性による差別、ハラスメントで苦しんでいる人々への対応と、差別的取り扱いやハラスメントを根絶させることではないでしょうか。
 日本の職場では、まだまだ、「家事育児などを家族にまかせて元気でガンガン働く人」が有能であるとされていることは間違いありません。長い道のりとなりますが、考え方を変えていくことが必要であると痛感します。
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『Winny』映画評
 弁護士 喜久山大貴

 映画『Winny』を観た。サイバー犯罪の取締りに力を入れている京都府警が、P2P技術を応用したファイル共有ソフトWinnyの開発者である金子勇氏を逮捕したところから物語は始まる。Winnyは、多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであることから、違法行為を犯しても摘発されにくい。金子氏は、不特定多数の者に著作権(公衆送信権)侵害行為を容易にし、犯罪を誘発、助長した幇助犯として扱われた。
 のちに最高裁で幇助犯の故意はないとして無罪が確定した事件だが、金子氏は違法行為を蔓延させる目的があった等とする自白調書を作ってしまう。逮捕勾留により身体的に拘束され、大学の特任助手の仕事も失い、裁判中は開発行為も制限される等、日本の刑事司法の問題性をリアルに描いている(そもそも実話だが)。
 映画では、Winnyは開発者としての金子氏の好奇心や純真無垢さから生み出されたもので、違法行為を蔓延させる目的などなかったこと、価値中立的な技術革新を処罰すれば未来の開発者に萎縮効果を与えてしまうこと等が強調された。
 たしかに技術開発をむやみに刑罰で禁圧すべきでない。公権力と対峙する弁護人はその結論を導くために力を尽くす。しかし、多くの権利侵害を生み出した道義的責任や、他の開発者らからの批判は当時から存在していたのだから、映画化の際にはそのあたりの葛藤も見てみたかった。
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離婚後共同親権制の導入は禍根を残す(3)
 弁護士 吉田 容子

 離婚後共同親権制導入の危険が迫っている。法務省は法制審議会家族法制部会に「たたき台」を提示し、急ピッチで準備を進めており、さらに危険な内容が明らかになっている。
 まず、子連れ別居が非常に制約される怖れがある。共同親権は共同行使が原則であり、「たたき台」はその例外を「子の利益のため急迫の事情があるとき」等に限定している。   法務省はこの例外事由を使えば「DVや虐待からの避難をするために急迫の事情があるとき」に対処できるとするが、DVや虐待の際中に避難することは実際には不可能であるのに、「急迫」の意味を明らかにしない。そもそも子連れ別居と子の利益の関係について、現在の実務は、@子を連れて出た場合と子を残して自分だけ出た場合とでどちらが子の健全な生育に資するか、A協議の実現可能性があったか、の2点を基準に判断しており、この判断基準に特段の問題は指摘されていない。ところが「たたき台」は、この@Aの考慮を他方親の同意の有無に置き換える危険がある。子の利益ではなく他方親の利益を重視するものとしたら本末転倒である。この危険は別居後の子連れ転居の場合も同様である。
 また、「たたき台」は、共同親権とした場合でも一方を監護者と定める必要はない、仮に定めても他方親は監護者の「行為を妨げない限度で」「監護及び教育に関する日常の行為」を行うことができるとする。子の養育の責任者を決めないということであり、子に関わる事項の決定ができず、子自身が困るだけでなく、子の学校、医療などでも大混乱が生じるが、責任は誰もとらない(混乱によるつけは専ら子と同居親がとらされる)。例えば、新学年初めの子のバス遠足への参加について、父母が異なる意見を学校に伝えたら、学校は対応に困り、子の参加を断る事態が生じうる。
 これらが子の利益になるはずがない。こんな制度提案は間違っている。
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外国人技能実習生制度の今後
 弁護士 塩見 卓也

 2023年9月28日、ベトナム人技能実習生を原告とする事件で、大阪地裁で、実習先事業者と監理団体に技能実習生の在留資格更新手続等を適正に行う義務があることを前提に、その説明義務違反を理由として損害賠償請求を認める判決を得ました。
 外国人技能実習制度には、様々な問題がありますが、最大の問題は、技能実習生に転職の自由がないことです。なので、実習先がパワハラを行ったり、長時間労働を強要したり、最低賃金を下回る賃金しか支払わなかったりするような酷い会社であっても、転職が許されていないため、その酷い会社で働き続けるか、失踪するかぐらいしか選択肢がない状態にされてしまいます。この十数年間、そのような酷い状況は社会問題化され、ようやく政府も技能実習制度の廃止を決めています(その代替となる制度にも依然問題は多いのですが)。
 私が代理人を務めた大阪地裁の事件は、技能実習生には全く何の落ち度もなく、もっぱら実習先の落ち度によって在留期限までに在留資格の更新ができなくなり、またその場合でも、「短期滞在資格」を申請すれば技能実習生を帰国させなくても在留資格更新の手続をとることができたにもかかわらず、実習先と監理団体が、本国で借金が残っている原告にベトナムへの帰国を求めたため、原告は失踪せざるを得なくなったというものでした。今回の判決が、今後日本で働く外国人が不当に扱われないための先例になればと思います。
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