残暑お見舞い申し上げます
2008年8月
弁護士 大 脇 美 保 :
取調べの可視化の実現を!署名にご協力ください!弁護士 久 米 弘 子 :
原爆症認定訴訟・10連勝!弁護士 塩 見 卓 也 :
NTT偽装請負事件を京都地裁に提訴弁護士 武 田 真 由 :
五菱会(ごりょうかい)ヤミ金の被害について、
被害回復給付金の申請手続きが始まります弁護士 中 島 晃 :
いまこそ、都市政策の転換を弁護士 中 村 和 雄 :
みなさんの大きなご支援に支えられて闘った京都市長選挙弁護士 諸 富 健
弁護士 吉 田 容 子 :
マイノリティーが安心してくらせる社会事務局一同
取調べの可視化の実現を!署名にご協力ください!
弁護士 大 脇 美 保
よくテレビのドラマで、刑事が犯人を警察の一室であれこれ質問している場面をやっていますね。これを「取調べ」と言います。警察や検察で行われる取調べの結果は、「調書」という文書になり、刑事裁判で証拠として提出されます。この取調べは、弁護士などの立ち会いが認められず密室で行われることもあり、取り調べを行う警察官や検察官による暴行、脅迫、利益誘導(「自白すれば保釈されて外に出られる」などと虚偽の事実をのべて自白に誘導すること)などが問題になっています。取調べで一旦自白してしまうと、この自白した調書が裁判で提出され、裁判で否認をしても認められないことが非常に多いのです。
ドラマでもよく刑事が怒鳴っているシーンがありますが、これはドラマの中だけのことではありません。私自身も、取調べでたばこの火を押しつけられた被疑者の方の弁護を担当したことがあります。また最近も、公職選挙法違反の事案で、警察官が、任意の取調べの最中に、被疑者の家族の名前を書いた紙を強制的に被疑者に踏ませるなどの言動があったことが、判決の中で認定され、全員が無罪となった事件がありました。
このような、取調べ中の暴行や脅迫、利益誘導をなくし、えん罪をふせぐにはどうしたらよいでしょうか。それには、取調べの全部の課程を録画して、その内容を誰でも検証できるようにするしかありません。これを、取調べの「可視化」と言います。また、捜査側に都合のよい部分だけを録画して証拠に出すことを許せば、かえってその取調べが適正かどうかの判断が困難になるおそれがあるので、取調べのすべてを録画する必要があります。
これまでの裁判では、録画がされていなかったので、刑事裁判でその取調べをした警察官を何人も呼んで証言をさせるなどして、非常に長い時間がかかっていました。
来年2009年5月21日から「裁判員制度」が始まります。裁判員に選ばれた市民の方を長期間拘束しておくことはできず、裁判員制度が始まるまでに取調べの可視化を実現しなければなりません。アメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア等の欧米等だけではなく、香港、台湾、韓国等のアジア地域でも取調べは可視化されているのです。
この6月、参議院法務委員会は、取調べの可視化(取調べの全課程の録画)を主な内容とする刑事訴訟法改正案を可決しました。さらに参議院本会議で可決され、衆議院においても速やかに審議・可決されるよう、同封した署名を集めていますので、みなさんもどうかご協力お願いいたします。
原爆症認定訴訟・10連勝!
弁護士 久 米 弘 子
5月30日 大阪高裁全員勝訴! 近畿原爆症認定訴訟の第一次原告9人について、5月30日、大阪高裁で控訴審判決がありました。9人全員について、国の控訴を棄却し、原爆症と認定しました。 当事務所の塩見弁護士が「全員勝訴しました!」「ばんざい!」と叫びながら「認定基準の再度見直しを命じる」と書かれた垂れ幕を掲げている写真が新聞に大きく掲載され、テレビでも何度も放映されました。ご覧いただいた方もあるでしょうが、写真の少ない当事務所のニュースでも画期的な一枚ということで掲載させていただきます。(裏話:この垂れ幕は当事務所の近藤さんが達筆をふるってくれたものです。「塩見先生の顔が見える丈にしてあるので、絶対顔を出して掲げて下さい」との注文に応えた塩見弁護士でした。)
新認定基準の実施とその問題点 大阪高裁判決までに、国(厚労省)は全国の原爆症認定訴訟判決で8連敗しています。
これまで厚労省は被爆の距離と病名によって原爆症か否かを機械的に判断してきました。このために直接被爆でも爆心地からおよそ1.5kmより遠かったり、その後に救護や肉親探しのために市内に入った入市被爆者などはほとんど認定されませんでした。被爆者健康手帳をもっている被爆者のうち原爆症と認定されているのは1%未満だったのです。
昨年8月、当時の安倍首相は、この実情に合わない認定基準を見直すと約束しました。そして今年4月から施行されたのが、新認定基準です。
新認定基準では直接被爆者と入市被爆者については認定の条件を拡げ、ガンなど特定5疾病については積極的に認定するとの方針を出しました。この結果、現時点で近畿訴訟の原告についても、第一次9人中4人、第二次11人中6人、第三次11人中6人が判決をまたずに認定されました。しかし、ガンなど特定5疾病を除くその他の疾病については相変わらず「総合判断」ということでなかなか救済されず裁判所の判断が必要だったのです。
大阪高裁の判決は、この特定5疾病に含まれない疾病についても「被曝以外の他要因が主たる原因と認められない場合には、原爆症と認めるべきである」との積極的な判断を示しました。
私が担当してきた京都の小高美代子さんは「甲状腺機能低下症(橋本病)」でした。小高さんは爆心地から1.9kmで直接被爆しました。小高さんは、「当時20歳で記憶のたしかな私だからこそ真実を伝えなければならない」との思いで、被爆の惨状を語り続けてきました。被爆後ずっと続く体調不良にもかかわらず、いつも明るい小高さんは、みんなの人気者でした。その気丈な小高さんでさえ、新基準の積極認定でガンの原告が認定される中、未認定の原告として高裁判決を迎えることに大変な不安を抱いていました。周囲のはげましで判決日には必ず出席すると言っていたのが、急に体調不良となって出席できなくなりました。それだけに私が「全員勝訴」の電話を入れた時には、本当に喜んで下さいました。「こんな思いをしなくてもよいように、国は全員を原爆症と認定してほしい。」との心からの願いも添えて。
国は控訴できずに原爆症認定は確定し、間もなく原告らに認定書が届きました。
7月18日大阪高裁(第二次)勝訴!
「厚生労働省は10連敗。もうええかげんにせい!!」 第二次訴訟の原告は11人でしたが、内6人が新基準で認定されていました。国は、認定された6人について、訴えの利益がないとして却下を求め、原告らは、国から明確な謝罪も説明もないのに一方的すぎる、と反発していました。とりわけ認定された原告のうち3名、未認定原告の内3名が既に亡くなっており、判決に出席できた原告本人は5名だけでした。遺族原告の大坪郁子さんは、「なぜもっと早く、夫が生きている間に認定してくれなかったのか」「被爆者に残された時間はあまりない」と訴えていました。
大阪地裁の判決は認定されていた6人については訴えを却下しましたが、直爆と入市の原告4名を原爆症と認定しました。塩見弁護士は再び「厚生労働省は10連敗、もうええかげんにせい!!」の垂れ幕を掲げました。
残念ながら長崎から離れた大村海軍病院で看護師として運ばれてきた死傷者の救護に当たった森美子さんは認定されませんでした。森さんは全国の原告の内ただ1人の救護(3号)被爆者でした。判決は森さんの疾病については原爆症と認定しませんでしたが、救護被爆者にも原爆症と認定する新たな道を開きました。森さんと弁護団はこの点を強調し、控訴してたたかう決意を表明しました。
この判決に対して、国は控訴しました。私たちも森さんの認定と全員の国家賠償を求めて控訴しました。勝負はまだこれからです。
第三次訴訟の原告も控えています。新認定基準の不備を更に改めさせ、一日も早く被爆者が救済される制度に向けて、皆様のご支援をお願いします。
NTT偽装請負事件を京都地裁に提訴
弁護士 塩 見 卓 也
「偽装請負」という違法な働かせ方をご存知でしょうか。事業主が人を雇って自分の事業のために働いてもらう場合、事業主には、雇用保険料や社会保険料を支払う責任や、労災が起きたときの責任、賃金を毎月遅れることなく全額払う責任などの、使用者としての様々な法的責任が課せられます。「偽装請負」とは、事業主が労働者を自分のために働かせながら、これらの使用者としての法的責任は負わないという「いいとこ取り」をすることを目的に、本来は自分のところで直接雇用するべき労働者を、形式上は自分のところでは雇っていない「請負」で働いている人ということにして、その労働者を働かせることをいいます。
このような働かせ方は、当然違法行為です。しかし、わが国では、このような違法な働かせ方が昔から横行してきました。かつては、労働局などの役所ですら「この程度のことはどこでもやっている」という感覚で、重大な問題と考えていなかったようです。
しかし、近年若者の雇用問題が深刻化し、「ワーキングプア」という言葉が一般的に言われるようになって、「偽装請負」という働かせ方の違法性が強く問題視されるようになってきました。特に、2006年7月に松下プラズマディスプレイの偽装請負が朝日新聞に大きく報道され、大阪労働局による是正指導が行われて以降、キャノンや東芝家電、日立製作所、日亜化工等の名だたる大企業が次々と偽装請負で是正指導を受けています。私が手がけた事件では、京都法務局という役所までが、「偽装出向」(「偽装請負」と同じような目的で、本来直接雇うべき労働者を「出向」という形式で働かせること。)を受け入れていたことで労働局の是正指導を受けています。
そして今度は、天下の大企業NTT、しかも、「NTT東日本」「NTT西日本」というような地域会社でなく、NTTグループのトップ企業である持株会社NTTが、京都府精華町にあるNTTの研究施設において、翻訳ソフト開発業務に20代の若者を偽装請負にて働かせていたことが明らかになりました。
この若者は、形式上はNTTの3次請負とされている会社に所属していることにされていました。しかし、その3次請負会社からも、その上の2次請負会社からも、普段従事している仕事については全く指揮命令を受けていませんでした。毎月の出勤表だけは1次請負会社であり、NTTの子会社であるNTT・ATに提出していました。その他の業務上の指揮は、全てNTTの従業員が行っていました。そして、形式上「請負代金」としてNTTからNTT・ATに支払われていたこの若者の労働に対する対価のうち、実に6割以上の金額が、NTT・ATをはじめとする中間介在者にピンハネされていたのでした。
この若者の行っていた業務は翻訳ソフト開発業務なので、高度の英語力が要求されました。NTTの従業員は、この若者の採用面接にも立ち会っており、英字新聞を読ませるなどして、その場で若者の英語力を試したりしていました。NTTは、本来このような高い能力を持っている者を自らの業務に従事させたかったのであれば、この若者を最初から直接雇用するべきだったのです。
しかし、NTTは、違法状態の指摘を受けたことに対し、この若者を直接雇用するという解決方法をとるのではなく、形式上の請負契約を打ち切り、この若者を職場から排除するという方法をとってきました。会社に違法な働き方をさせられてきた労働者が、その違法状態を是正するために職を失ってしまい、会社はその労働者に対し何の責任も持たないというのは、どう考えてもおかしなことです。
そこで、本年5月、この若者は、NTTに対する直接雇用の地位確認と、NTT及びNTT・ATに対する損害賠償を求めて、京都地裁に訴えを提起することになりました。
この手の事案では、今年の4月、先に述べた松下プラズマディスプレイ事件につき、大阪高裁で松下の直接雇用責任を正面から認める画期的判決が出ております。私達も、この判決に続くよい結果が得られるよう頑張っていくつもりなので、今後の行方に注目をよろしくお願いいたします。
五菱会(ごりょうかい)ヤミ金の被害について、被害回復給付金の申請手続きが始まります
弁護士 武 田 真 由
第1 被害回復給付金の申請手続きが始まりました 山口組系旧五菱会(ごりょうかい)の梶山進らが統括していたヤミ金グループのヤミ金から借り入れを行い、法律違反の高利での返済を行ってきた被害者について、犯罪被害財産として確保されている資金の中から、被害回復給付金が支給されることになりました。
第2 五菱会系ヤミ金の被害者であるかどうかについて 1 東京の業者やヤミ金との取引はあったが、それが「五菱会系」の「ヤミ金」なのかどうか、今回の被害回復給付金の対象なのかどうかよくわからない、という方もいらっしゃると思います。その場合には、検察庁がHPで公表している、五菱会系の貸金業者名と住所、または、返済の際に利用していた振込口座を元に、確認する方法があります。
業者名につき
http://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/tokyo/oshirase/goryoukai/1.pdf
振込口座につき
http://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/tokyo/oshirase/goryoukai/2.pdf
一般論としては、業者の所在地・振込先とも、東京であることが多いようです。担当官庁である検察庁からの情報提供によれば、五菱会系のヤミ金業者の主な犯行態様は、
・ ダイレクトメール又は電話により融資の勧誘を行う
・ 数万円程度の金額を1週間から10日間程度の期間貸し付け、それに対し3割から 10割程度の利息を受け取る。
・ 貸付けは、被害者の預貯金口座への振込みにより行う(利息は天引き)
・ 元利金の支払いは、指定した預貯金口座への振込みにより行わせる
というものです。
また、今回の支給対象となった五菱会の貸付行為は、昭和63年ころから平成15年8月ころまでの間とされており、これも一つのヒントになると思われます。
2 捜査の過程で特定されている被害者の方に対しては、検察庁から、今回の給付制度につき通知される場合もあります。ただし、この場合にも自動的に給付金を受け取れるわけではありません。資料を揃えて、別途、申請手続きを行うことが必要です。
第3 被害回復給付金を受け取るためには被害回復給付金を受け取るためには、業者名や被害の時期、振り込んだ金額などについて一応の説明をして申請手続きを行うことが必要になります。支払時期や支払金額が全く不明であるという場合でも、弁護士が行う調査によって、できる限りの特定を行っていくことが考えられます。自分はダメだとあきらめないで、まずは弁護士にご相談いただくことが大切です。
なお、相続人の方が申請手続きを行うことも可能です。
第4 いくらの給付金を受け取ることができるのか理論上は、ヤミ金に返済した額全額が給付の対象となりますが、検察庁が給付金の資金として確保している金額の総額を、今回の申請手続きで申請される総額(被害者がヤミ金に返済した総額)が上回る場合には、割合的な給付になると思われます。
また、本当は被害者ではないのに申請手続きを行うことは詐欺罪に該当すると考えられ、この点で、不当申請が防止されています。
第5 心当たりの方に対象となっている業者名や振込口座を確認したいといったご相談や、検察庁から通知が来ている、など、弁護士とのご相談をご希望の方は、京都弁護士会で弁護士をご紹介し、初回無料でご相談を受け付けています(075−231−2378)。直接当職宛にご連絡いただいても結構です。
この申請手続きには期限が設けられており、平成21年1月26日を超えると、原則として、給付金を受け取ることができません。様々な調査手続に相当程度の時間がかかることを考えると、できるだけ早く、弁護士にご相談いただくことが大切です。
いまこそ、都市政策の転換を
弁護士 中 島 晃
1、昨年12月5日、朝日新聞の「私の視点」欄に、「超高層マンション高さ規制強める都市政策を」を投稿した。大阪で、高さ200メートルをこえる超高層マンションが、高層階で一戸当たり5億8千万円で売りに出され、購入の申し込みが相次いでいるという。この報道を見て、このまま見過ごしにできないと考えたからだ。
最近、100メートルを超えるタワーマンションが東京、大阪、名古屋などの大都市で次々と建てられている。タワーマンションなら高額でも売れるという神話さえ生まれているという。
2、高層マンションは、高層階からの眺望を売り物にしている。しかし、高層マンションの眺望景観は、それよりも低い建物の眺望をさえぎることによって、はじめて得られる。いいかえれば、高層マンションの眺望景観は、高層階を購入できる資金と財力を持つ者が独占的に享受できる一方で、そうした財力のない者は、逆に眺望を奪われるという立場におかれることになる。こうした関係は、格差社会を象徴する出来事ではないだろうか。
3、ドイツやイタリアなどのヨーロッパの歴史都市の多くは、美しい景観が都市の大きな魅力となっている。これらの都市では、高層建築は教会や公共性の高い建物など、市民に受け入れられるものに限られており、建物の高さを抑制する都市政策がとられている。京都でもようやく、昨年新景観政策が実施に移され、市内のほぼ全域で高さ規制が強化されることになった。
世界の都市政策には、大別すると2つのモデルが存在すると考えられる。一つは、アメリカのニューヨークに代表される高層建築が林立する都市であり、もう一つは、ヨーロッパの歴史都市に見られる中低層の建築が連続する町並みの都市である。
4、高層建築を自由に認めることは、経済的強者が都市空間を我がもの顔で支配することを意味する。しかし、本来、公共財である都市空間を経済的強者が支配するという都市政策は、きわめていびつなものである。都市の景観は、本来、市民みんなのものであり、そこでは、平等の原則が貫かれる必要がある。経済的強者が景観を独占することは、平等と公平を基本とする健全な社会のあり方とは相入れないものである。
5、また、そもそも超高層マンションの高層階は、地震時のエレベーターの停止や水道・ガスなどのライフラインの途絶を考えると、居住空間として不適格である。その一方で、荒廃するマンションが増えだし、分譲マンションのスラム化が深刻になってきているといわれている(2008年7月15日朝日新聞)。
こうしたなかで、今年7月19日、京都で、高層マンションによる景観と住環境の破壊をストップさせようと、全国各地で運動に取り組んでいる住民、建築家、弁護士、研究者などが集まって、「景観と住環境を考える全国ネットワーク」が結成された。これまで、高層マンションの建築を野放しにしてきた、日本の都市政策は、そろそろ転換を図るべきときを迎えているのではないだろうか。そのためにも、今回結成された全国ネットワークが大きな役割をはたすことが期待される。
みなさんの大きなご支援に支えられて闘った京都市長選挙
弁護士 中 村 和 雄
はじめに 猛暑が続いておりますが、お元気でしょうか。極寒の2月17日投票の京都市長選挙。多くの皆さんの大きなご支援に応えることができず、極めて残念です。ただ、今回の選挙結果は、市民の声と運動が政治を大きく動かす力を持っていることを示したものだと評価しています。
選挙で何を訴えたか マニフェストは3回にわたって修正していきました。私の考える市長選の最重要課題は同和行政の完全終結と同和行政と結びついた職員不祥事問題の根絶にありました。
同和行政の終結と並んで重要な争点としたのは、「格差拡大と貧困」の是正です。もはや地方自治は国の機関に牛耳られ、地方独自の政策など打ち出せないといっても過言ではありません。だからこそ、逆に地方から政治を変えていくことが求められているのです。市長選挙の最重点政策として、国民健康保険料の引き下げと公契約条例の制定を掲げました。両者とも国の規制緩和による格差拡大政策に対する反撃です。前者については、市民運動として幅広い請願署名運動が取り組まれ短期間に17万人の署名が集められました。後者については条例案を制定し、若者向けの独自リーフレットも作成しました。労働問題を市政の課題として掲げたことはたぶん全国的にも初めてではないでしょうか。市段階でもやれることはたくさんあるのです。たとえば、市が契約する公共事業では現場で現実に事業に携わる民間労働者の労働条件についての規制が可能です。これが公契約条例です。公共事業での規制が広がれば一般の民間での労働条件の向上に繋がるのです。地域の最低賃金を引き上げることと同じ意味を持つのです。若者の私への支持が広がったのはこの政策への共感によるところが大きいと確信しています。他にも区民協議会の設置など新たな政策も提案しました。
日々の選挙活動 候補者の活動は各団体まわりや著名人訪問、小集会や街頭での訴えです。街頭での訴えは苦手でした。弁護士の習性から理由を述べずに結論だけ訴えることに抵抗があったのです。しかし、1日に何度も何度も同じことを繰り返すうちに、何が聴衆に響くのかが少しずつ分かってきました。テレビと新聞社の討論会は大変おもしろかったです。特にテレビ討論は生放送であったのでやり甲斐がありました。まさに反対尋問の応用でした。
告示日以降の2週間は肉体勝負でした。朝から夕方までは車に乗って街頭で7分間スピーチを30回繰り返す。夜は演説会場を駆け回り15分スピーチを3回繰り返す。1日1日がとても長く感じられました。しかし、この2週間の間にまちの反応も大きく変化するのです。まさに選挙は「生きもの」であることを感じました。
選挙を終えて 多くの皆さんと心1つに猛進した9ヶ月間の選挙活動はとても充実した楽しい日々でした。裁判での弁護士活動とはかなり異なる世界であり、理論的説得だけではとうてい勝者になれないのですが、的確な方針と実行のエネルギーが結集すれば大きな動きが形成されます。
この間、市民生活がぎりぎりまで追いつめられている現状に各地で直面しました。市内において格差拡大と貧困の問題が深刻な事態に至っている事を痛感します。日々の市政をしっかりと監視していくとともに、皆さんとともに、京都市政を市民の手に取り戻すために、ねばり強く活動していこうと思います。
マイノリティーが安心してくらせる社会
弁護士 吉 田 容 子
現在、多くの人々が様々な理由から自国を離れ他国で暮らしています。国境を越えて移動する人々の数は1960年からの40年間で2倍以上に増加し、2005年には約1億9100万人に達しました(国際移住機関IOMの報告)。その中には、企業の駐在員や研究者、留学生などのほか、国際結婚をした人、難民、避難民、労働者やその家族など、様々な背景と理由を持った人々がいます。国際移民の約半数は女性であり、同じく約半数は労働者です。受入れ国の法律や国際的合意により入国・滞在・就労を認められた人々のほか、これらを認められていない人々も3000〜4000万人いると言われています(同報告)。また、脆弱な立場を利用されて人身売買の被害にあう人々も多く、世界で年間70万人〜400万人もの人々がその被害にあっています(国際労働機関ILOの報告)。
日本もこの流れから無縁ではありえません。2006年現在、日本に外国人登録している人は約215万人であり、他に超過滞在等の外国人が約15万人いると言われています(法務省入国管理局の統計)。また、2006年に日本で婚姻届出をしたカップルのうち約6.6%は一方又は双方が外国籍であり、新生児の3.3%は両親の一方又は双方が外国籍です(厚生労働省の統計)。つまり、15組に一組は国際結婚であり、生まれた子供の30人に一人は国際結婚から生まれた子供ということになります。皆さんの周囲にも、外国籍のカップルや子供達が多数いるのではないでしょうか。
ところが、日本語修得や就職、生活習慣、文化などについて困難に直面する外国籍女性は多く、在留資格の取得や更新が日本人配偶者の意思に大きく依存するためもあってDVも多発しています。外国籍の子供達も、教育や就職など様々な場面で困難に直面しています。また、日本は、商業的性的搾取を目的とする女性と子供の人身売買の主要な受入国の一つとして有名です。技術移転を目的とする「研修生」制度を濫用し外国籍の人を低賃金・劣悪な労働条件で酷使するケースも続発しています。
しかし、このような外国籍の人(とりわけ女性や子供)に対する保護や支援は、在留資格、言語、社会保障その他の社会制度の不備などが障害となって、十分ではありません。
これらの被害や支援の困難さの一因は、人権、平等、ジェンダー、多文化共生、国際理解などが、抽象的な概念として語られることはあっても、日々の生活の中で根付いたものとなっていないことにあると思います。高齢化社会を担う人材として、フィリピンとインドネシアから看護師や介護士が来日し、働いています。今後、国際的な人の移動はますます増加し、私達の身近で、同じ地域住民として外国籍の人達が暮らす機械が増えていきます。政府や各政党は、既に、入管政策にとどまらず移民政策の視点で検討をすすめています。ただ、そこには人権の視点が欠落しかねない危うさもあり、私達自身がよく考えていく必要があります。マイノリティーが安心してくらせる社会こそが、私達すべてが安心して暮らせる社会なのだと思います。