残暑お見舞い申し上げます
2009年8月
弁護士 大 脇 美 保 :
映画「休暇」を見て弁護士 久 米 弘 子 :
日本母親大会分科会で裁判員モギ裁判をしました弁護士 塩 見 卓 也 :
労働審判事件が急増弁護士 武 田 真 由
弁護士 中 島 晃 :
何故、いま京都に水族館?−問われる門川市長の姿勢弁護士 中 村 和 雄 :
「市民ウオッチャー・京都」の活動紹介弁護士 諸 富 健
弁護士 吉 田 容 子 :
国連女性差別撤廃委員会傍聴記事務局一同
映画「休暇」を見て
弁護士 大 脇 美 保
先日、京都弁護士会の「死刑制度調査検討プロジェクトチーム」で、映画「休暇」を視聴しました。この映画は、ある刑務所の刑務官が、新婚旅行のための休暇を得るために、死刑執行を担当することを志願するという内容で、死刑が執行される状況がリアルに描写されています。
みなさんは、「死刑」について、どのようなことをご存じでしょうか。日本では、殺人などの犯罪の法定刑に死刑が含まれています。また、最近の統計では、第一審(地方裁判所)で死刑判決を受けた人の数や、死刑が確定した人の数は、いずれも急激に増加しています。死刑判決の増加により、死刑の確定人員数も急激に伸びており、2007年2月には、戦後初めて収監中の死刑確定者が100名を超えました。
このような背景には、凶悪犯罪の増加、治安が悪いことが言われていますが、2006年版犯罪白書は「殺人の認知件数は、長期減少傾向を経て横ばい傾向にある。検挙率は安定して高い水準を維持している」と分析しています。
国際的には、死刑制度を廃止している国が多くなっています。1990年、死刑存置国は96カ国・死刑廃止国は80カ国でしたが、2008年現在、死刑存置国は、59カ国・死刑廃止国は138カ国となっています。
死刑の方法は、日本では「絞首刑」とされていますが、その具体的な方法や刑場の様子は公開されていません。最近ようやく一部の国会議員にだけ刑場の見学が認められ、様子が少しずつわかるようになってきました。しかし、今でも死刑に関する情報の多くは、秘密にされたままです。日本の死刑制度については、国連拷問禁止委員会などから、たびたび問題点が指摘され、執行停止が勧告されています。
私は、これまで、弁護士という職業にありながら、死刑の実態については、あまり知ろうとしてきませんでした。本年度から、京都弁護士会の「死刑制度調査検討プロジェクトチーム」に参加して、いろいろ勉強していきたいと考えています。
この5月から裁判員制度裁判が実施され、市民の皆さんも、死刑を含む量刑に直接に関与する可能性が出てきました。この10月24日(土)には、京都弁護士会でも、上記の映画「休暇」を上映して、皆さんに「死刑」などの刑罰について考えていただく企画を考えていますので、是非ご参加ください(なお、日程は予定なので、変更の可能性があります。直前に京都弁護士会のホームページなどでご確認ください)。
日本母親大会分科会で裁判員モギ裁判をしました
弁護士 久 米 弘 子
今年は京都で開催されました
今年7月25日、26日の両日、京都で第55回日本母親大会が開かれました。母親運動はビキニの水爆実験(1954年3月1日)で日本のカツオ漁船第五福竜丸の乗組員が放射線に被曝したことが大問題となり、被爆国日本の女性が世界の女性を動かして、核廃絶と世界の平和を求めて行動したのが始まりです。日本母親大会は「いのちを生み出す母親は、いのちを育て、いのちを守ることをのぞみます」を合い言葉に、毎年各都道府県をめぐって開催されてきました。今年は、京都、全国から1万人近い女性たちが集まりました。
1日目の7月25日、開会時刻の12時は大雨でしたが、びしょぬれになりながらも会場(府立体育館)周辺は女性であふれました。
相国寺管長で九条京都の会の呼びかけ人のお一人である有馬頼底師の「いのちの輝き、それは平和であればこそ」と題する講演は、楽しい中に平和への思いのこもったものでした。会場一杯の女性たちはよく笑い、よく拍手しました。有馬師もきっと楽しく気持ちよくお話しされたことと思いました。全国の女性のパワーは、いつもながらにすごいものと感動しました。
裁判員モギ裁判で裁判長役をしました
2日目、分科会は、10時からというのに、この日も9時ごろから立命館大学(衣笠)の会場は女性たちであふれました。
私は自由法曹団京都支部が担当した特別分科会「観て、聞いて、学ぶ裁判員制度」のモギ裁判で裁判長役をつとめました。
立命館大学には、京都地方裁判所にあった陪審法廷が、裁判所の改築時に移設されています。日本でも戦前短期間ですが、陪審員による裁判が実施されていたのです。この法廷は戦後は普通の裁判のために使用され、私も弁護士としてこの法廷での裁判を担当したことがありました。
裁判員裁判の法廷はこの陪審法廷の構造とはずい分ちがいますが、今回はこの法廷を借りて、新しい裁判員制度での強盗致傷事件のモギ裁判をすることになったのです。
地味な企画であり、他に魅力ある分科会が沢山ある中で、一体どれだけの人がきてくれるのか、裁判員役の募集に応じてくれる人がいるのだろうか、と一同心配しながら待ちました。ところが、続々と参加者が集まり、80の傍聴席はすぐに満員、パイプイスも出して約100人になりました。心配した裁判員役6人の募集にもすぐに勢いよく手が上がり、スムーズな開始となりました。モギ裁判は、裁判官、弁護人、検察官役はもちろん、被告人役も被害者役も証人の警察官役も全て弁護士です。私たち弁護士の方は一応シナリオがあり、練習もしていますが、裁判員役は全くのぶっつけ本番です。でも裁判員役の6人はなかなか的を射たするどい質問をして、証言席の証人や被告人をたじたじとさせました。評議は本来なら別室でするところ、モギ裁判のために同じ法廷でしましたが、結論(無罪)とその理由もとてもよくわかる的確な内容でした。
私は、「素人の裁判員に人を裁くことができるか」という心配や批判は、杞憂だと確信しました。午後からの説明にもありましたが、現在の職業裁判官による裁判が、本当に国民の人権を守っているか、えん罪を生み出していないか、というと、残念ながらそうではありません。今回の裁判員制度には、まだ改善すべきいくつかの問題点があることも事実ですし、法曹関係者の努力ももちろん必要ですが、今の刑事裁判の実情を改め、国民のための司法に変えていくためには、国民が積極的に刑事裁判にかかわって、通常人の一般常識を正当に反映させていくことが大切だと思いました。
その後、現実の裁判員裁判第1号が行われ、さらに関心が高まっています。
皆さんの中にも、裁判員の通知が来て悩んでおられる方があるかもわかりませんね。自分の常識に自信をもって、ぜひ積極的に参加して下さい。きっとよい裁判ができると思います。
労働審判事件が急増
弁護士 塩 見 卓 也
労働審判という手続はご存知でしょうか。勤め先から正当な理由なく解雇されたとか、長時間働いているのに残業代が全然支払われないとか、労働契約に関わる民事紛争はこの数年非常に増えているといわれます。しかし、そのような紛争の度に「訴訟」という手続を採ろうとしても、個別の労働者にとっては時間や費用がかかったりすることから、二の足を踏む人も多くいました。そこで、時間も費用も少なく、訴訟よりも簡易な手続で労働事件の解決をはかるために3年ほど前に作られた制度が、労働審判なのです。訴訟の場合、提訴から解決までに1年以上の期間がかかることも珍しくはありませんが、労働審判の場合、概ね申立から3か月以内に解決まで辿り着きます。
当事務所の弁護士は、中村弁護士や私をはじめとして、労働者側の立場で労働事件を手がけることが非常に多いのですが、最近、京都地裁の労働事件集中部である第6民事部の裁判官から、裁判等の期日の日程調整をする際に、「労働審判事件が急激に増えていて、なかなか日が入らない」ということをよく聞くようになりました。実際この数か月、京都地裁に係属する労働審判事件はものすごい勢いで増えているようです。この傾向は京都だけのものではなく、東京や名古屋では、裁判所がパンク寸前の状態だそうです。
このような現象が起きた原因は、ひとつは、新設された労働審判という制度が定着し、不当解雇等が行われても泣き寝入りしない人が増えたという点にあると思います。この点は、労働審判という制度が作られたことのねらいが実現したという点で、歓迎すべきことでもあるといえます。
しかし、もう一つの原因としては、このしばらくの不況、大量解雇によって、労働事件の数自体が非常に増えた点にあることは間違いないと思います。時期的にも、大量解雇問題が報道されるようになってから、労働審判申立のための準備期間程度が経過したあたりの時期から、申立件数は急増しています。この点は、社会問題として、使用者側にもっとしっかりと雇用を守る態度を取ってもらわないと解決しない問題です。
本来は、使用者側の態度を改めてもらうことこそが問題解決のための根本といえますが、いずれにしても、不当解雇されてしまった人にとっては、その前にその解雇を撤回してもらうなり、相当な補償をしてもらうなりしなければ、生活が立ち行かなくなってしまいます。そのためにも、労働審判という制度の利用は非常に有益といえます。私達は、労働審判の申立件数の急増で手続がおろそかにならないよう弁護士会を通じて担当裁判官の増員を求めたり、自分が代理人として申し立てた労働審判事件にも強力に取り組むなどして、この制度がますます良い制度として定着していくよう頑張っていきたいと考えております。雇用に関し疑問を感じたら、お気軽にご相談下さい。
何故、いま京都に水族館?−問われる門川市長の姿勢
弁護士 中 島 晃
1、いま、京都市下京区の梅小路公園に水族館をつくるという計画が急浮上してきている。この計画は、昨年7月、市民に初めて公表されたものだが、梅小路公園の北側空地に国内最大級の内陸型水族館をつくり、年間200万人の入場者を見込んでいるという。しかし、京都市が昨年9月に実施した市民意見の公募の結果によれば、約7割の市民が水族館建設に反対していることが明らかになっている。にもかかわらず、京都市はこうした市民の声を無視して、水族館建設に向けて、着々と準備を進めている。
しかも驚いたことには、この水族館の建設主体は、「かんぽの宿」の問題で悪名をはせた、オリックスの子会社オリックス不動産である。京都市の公園のなかに動物園や博物館などの学習、教育施設をつくることは、公園の管理者である京都市が行うのが原則であるが、最近の一連の規制緩和、民間開放の流れのなかで、株式会社などの営利企業が水族館などの施設をつくることができるようになった。こうした公園施設の民間開放の動きに目を付けて、オリックス不動産が京都市に水族館計画を持ちこみ、門川市長がこれに手を貸すことになったというのが、今回の計画の背景である。
2、梅小路公園は、平安建都1200年事業の一環として、緑地の少ない下京区に新しく公園をつくり、市民の憩いの場として整備することを目的に設置されたものである。この公園の主要なコンセプトは「いのちの森」とされており、また地震等の災害発生時における広域避難場所にも指定されている。「いのちの森」であり、広域避難場所として、市民にとってかけがえのない緑地である梅小路公園を、商業的色彩の強い水族館という大規模集客施設として営利企業に提供することには、根本的な疑問がある。
京都市は、水族館をつくるのはオリックス不動産であって、市に財政的負担が生ずることはないといっているが、年間200万人もの集客をあて込んでいることからいえば、駐車場の新設拡充など、交通アクセス整備のための予算が必要になると思われる。その一方で、オリックス不動産には、市有地の使用料を通常の半分程度にするなどの利益供与を行われるという。
3、さらに問題なのは、今回の水族館計画では、イルカショーなどを目玉にして集客をはかろうとしていることである。
イルカなどの海洋ほ乳類は、繁殖力が弱く、現在行われている捕獲方法では乱獲による絶滅のおそれが指摘されており、また水族館でのイルカの寿命は自然界の3分の1であるといわれている。こうしたことから、イギリスでは、イルカの水族館展示は中止されており、生物多様性の保護の面からいっても、イルカショーを目玉とした水族館計画には大きな疑問がある。
日本も加盟している生物多様性条約の第10回締約国会議(COP10)が2010年名古屋市で開催される。こうしたなかで、生物多様性保護に逆行する今回の水族館計画は、世界的な環境先進都市をめざす京都市にとって、およそ相入れないものであり、この計画を強行することは国際的にも大きな批判をあびることになろう。
世界的な歴史都市であり、地球温暖化防止をめざす京都議定書誕生の地であるこの京都に、水族館をつくることは、京都のまちづくりにはおよそふさわしくないものといわざるとえない。したがって、京都市は、やみくもに水族館計画を強行するのではなく、今回の計画を一旦白紙にもどしたうえで、市民的な議論をつくすことがいま何よりも求められていることといえよう。
「市民ウオッチャー・京都」の活動紹介
弁護士 中 村 和 雄
私は、現在「市民ウオッチャー・京都」という団体の事務局長をしています。そこで、今回はこの団体の紹介をさせて頂きます。
「市民ウオッチャー・京都」とは
「市民ウオッチャー京都」は、いわゆるオンブズマン活動の団体です。正式名称は「情報公開と行政監視に取り組む京都・市民の会」というとても長いものです。今年で創立12年です。行政の情報公開請求と、公開された情報に基づいて不正・不公正を追及していく活動をしています。主な対象は京都府、京都市ですが、府内のほかの自治体の事件も扱っています。情報公開請求という形で、情報・資料を手に入れて仲間で分担・分析し、問題ありということになれば、住民監査という手続きを取ります。地方自治法に基づいて、住民であれば誰でもが出来る手続きです。その住民監査の結果に納得できなければ裁判を提起するということになります。
これまで、市民ウオッチャー・京都が手掛けてきた裁判事件は、用地測量協会事件や同和温泉旅行事件、京都府議会海外視察旅行事件、丹後リゾート開発事件など多数にのぼります。私たちの裁判の成果による不当な支出の停止や不当支出の返還によって自治体が得た利益は11億円以上になっています。
同和奨学金返済事件について
京都市長選挙でも大きな話題になった「同和奨学金事件」について報告します。
同和奨学金自体は全国的な制度です。ただし、国が制度を給付制から貸与制に切り替えた後も、京都市は実質的に給付制度を維持するということで自立促進援助金という新たな制度を作って、どんなに収入の高い人であっても、京都市が返済分を全額肩代わりする制度を最近まで維持していました。運動団体の圧力によるものでした。
同和地域に居住している、もしくは、かつて居住していたというだけで、どんなに高収入であろうと全額すべて肩代わりするのはどう考えてもおかしい。私たちは住民監査請求をし、裁判を続けてきました。
大阪高裁で2006年3月31日に判決が出され、京都市の自立促進援助金制度は違法であると断罪しました。その後最高裁判所も高裁判決を支持しました。それらを契機として、やっとこのほど自立促進援助金制度の廃止が市議会で決まったのです。
みんなで力をあわせてやっていけば、無駄遣いも止めることができるし、住民にとって真に公正、公平な施策が実現していけると考えています。
市民ウオッチャー・京都の活動をさらに発展させていくために、多くの皆さんが会員になって頂き会を支えて頂くことを願っています。会費は年間一口3000円です。ご連絡頂ければ会員参加案内のリーフレットをお送りさせて頂きます。透明で公正な行政実現のためにともに頑張りましょう。
国連女性差別撤廃委員会傍聴記
弁護士 吉 田 容 子
女性に対するあらゆる差別を禁止した「女性差別撤廃条約」の国内実施状況を審査する国連の女性差別撤廃委員会が、2009年7月23日、ニューヨークの国連本部で日本の現状についての審査を6年ぶりに行いました。
この条約は1979年に国連総会で採択され、日本は1985年に批准しました。締約国は、条約の実施状況について4年ごとに報告書を委員会に提出し、委員会はこれを審査して改善すべき点を勧告し、締約国は改善義務を負います。日本は前回2003年に審査を受け、多数の勧告を受けました。今回、政府は2007年に第6次報告書を提出しましたが、NGOの立場からは正しく現状を伝えたものとは評価できず、JNNC(日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク)や日弁連などがカウンターレポートを提出しました。私は日弁連両性の平等に関する委員会委員として日弁連レポートの作成に参加し、さらに委員への説明や審議の傍聴を行うため日弁連から派遣されました(計3名が派遣)。日弁連を含めNGOからは過去最大の45団体84名が参加し、審査を見守りました。
その様子は既に各社が報道しているので、印象に残った点のみ記します。
審査は約5時間という短いものでした。政府は、南野千恵子参議院議員を代表に、内閣府、外務省、厚生労働省、法務省など各省庁から若手の17名が参加。最初に南野議員が日本の現状と政府施策を報告しましたが、日本の現状が「国際的に見て遅れていることは残念ながら否めません」との発言には少々驚きました。とは言いつつ、政府の取り組みは進展しているという姿勢は一貫していました。
次に条文の順序で委員からの質疑が行われました。委員からは、差別の定義が欠けている、間接差別の定義が不十分、差別的な民法規定の改正未了、裁判官や公務員のジェンダートレーニングの必要性、女性に対する暴力、「慰安婦」問題の真摯な解決、女性蔑視的ポルノゲームの氾濫、人身取引や研修生問題、マイノリティ女性や移住女性への支援策、選択議定書批准の必要性、公人の差別発言などなど、多岐に亘る質問や意見が続きました。政府は「具体的対策を欠いているのではないか」「民意を理由に対策を遅らせるのは誤り」「日本は条約に拘束力があると理解しているのか。ただの宣言とみなさしているのか」等々、厳しい指摘が続きました。
日本政府は総括的には内閣府男女共同参画局長が、各論は各省担当者が回答しましたが、議長から「質問には直裁かつ具体的に回答してほしい」という注意が複数回あったにもかかわらず、客観的に見ても、多くの回答は的をはずれ(はずし?)、中身のないものでした。我が政府ながら恥ずかしいと感じたほどです。
特筆すべきことは、JNNC参加のNGOの相当な実力です。予め詳細なカウンターレポートを提出しただけでなく、直接委員への説明やビラまきなどを行い、また、23日の審査に先立ち、20日(短時間)と22日(90分)に委員へのプレゼンと質問・回答の機会を持ち、とにかくあらゆる機会を捉えて日本の現状の問題点、改善すべき点をアピールしていました。如何に各委員が専門家といえども日本の現状を正確に知るのは困難であり、如何に正しい情報を提供できるかがポイントです。審査時の委員の質問の中には明らかにNGOの説明を受けたであろうものが多数含まれており、相応の成果があったと思います。NGOの記録作成の早さにも驚きました。
8月中には委員会の勧告が出る予定です。報道にご注目ください。