事務所だより
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2011年1月 寒中お見舞い申し上げます
2011.01.20
寒中お見舞い申し上げます
2011年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 
弁護士 久 米 弘 子 : 遺言のお話
弁護士 塩 見 卓 也 : 大学における非正規労働の実態
弁護士 中 島    晃 : 時効になった話
弁護士 中 村 和 雄 : デンマーク労働事情調査のご報告
弁護士 諸 富    健 : 原爆症認定をめぐる新たな闘い
弁護士 吉 田 容 子 : 子の養育と固定的性別役割分業
事務局一同


遺言のお話
弁護士 久 米 弘 子

 相続のトラブルは、親族間の感情的な対立とお金の問題がからみ合って解決が長引くケースが多いものです。トラブルをなくすには日頃から親族が仲良くしているのが一番なのですが、なかなかそうはいかないので弁護士への相談となるわけですね。
 今回は、遺言について基礎的なお話を書いてみました。

(1)遺言書には、公証人役場で公証人に作成してもらう公正証書遺言と、遺言者本人が自筆で全文を書く自筆証書遺言があります。
 公正証書遺言は、公証人が遺言者本人から遺言内容を聞き取って書面にして、本人と証人2人の前で内容を確認して署名捺印させたものです。遺言書の原本は公証人役場が保管し、正本が遺言者に交付されます。遺言者が亡くなったあと、相続人は、この遺言書正本又は謄本にもとづいて相続登記や預貯金等の相続手続をすることができます。
 自筆証書遺言は、遺言者本人が、全文を自分で書くこと(代筆では無効)、作成日を年月日まで正確に記載すること、自分の名前を自署して捺印すること、などが必要です。
 又、自筆証書遺言の場合、遺言者が亡くなったあと、遺言書を保管していたり、発見した人が、住所地の家庭裁判所に検認の申立をすることが必要です。検認期日に裁判官が申立人に遺言書の保管又は発見の状況を確認し、遺言書を開封して出席した相続人に示した上で、検認した旨の証明をつけて返してくれます。この検認証明付の遺言書でなければ、相続登記や預貯金等の相続手続をすることはできません。なお、検認は、遺言書の存在を確認するだけで、その有効・無効を確認する手続きではありません。

(2)遺言書の作成をめぐるトラブルの例として次のようなものがあります。
遺言者は認知症で遺言書を作成する能力がなかったはずだ。
 この場合、自筆証書遺言では誰かが自筆をまねて書いた(偽筆)や、自分ではペンや筆を持って書けないのに誰かが手を持って書かせた、という言い分が出てきます。
 公正証書遺言では公証人が遺言者に身分証明を出させて本人であることの確認をしますし、遺言内容を遺言者に口頭で説明させますので、遺言能力に疑問があると思えば診断書を出させたり、作成を断ることもあります。このため無効と言われることは少ないのですが、それでも裁判で無効とされたケースもあります。
自筆遺言証書で注意してほしいのは、日付を年月日まできちんと記載することです。「○年○月」までは記載したのに「○日」を入れなかったり「吉日」としたために遺言書どおりの相続手続ができなかったケースがあります。
又、遺言書が複数あって、その内容が矛盾しているときには、新しい日付の方だけが有効になります。実際にあったケースでも、「不動産は長男に」と書いてある自筆遺言書をもっていた長男が検認を申し立てたところ、次男からそれよりも新しい日付の遺言書の検認申立がされ、そこには「不動産は次男に」と記載されていたために、次男が相続することになったことがありました。

(3)遺言書の内容によっては、遺言者の死亡後に、かえって深刻なトラブルがおこることもあります。その典型が、相続人にとってあまりに不公平すぎる遺言内容の場合です。
 たとえば、相続人として妻と子2人がいる場合、法定相続分としては妻が1/2、子がそれぞれ1/4です。妻と子は、この法定相続分の1/2、即ち妻は1/4、子は1/8について、遺言でも奪われない権利(遺留分)を持っています。そして、遺言でこの遺留分を侵害された時にはそれを取りもどすことができると定められているのです。「全財産を長男に」という遺言の場合、妻と次男の遺留分が侵害されていますので、妻と次男が不服であれば、長男に遺留分を返してくれと請求することができます。ただし、遺留分侵害を知った時から1年以内に請求することが必要です。
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大学における非正規労働の実態
弁護士 塩 見 卓 也

 私は今年度の9月から、京都産業大学の法科大学院で、非常勤講師として週1回労働法演習の授業を持っています。1回の授業時間は90分で、負担が単純にその90分だけであれば、そんなに悪い仕事ではないのですが、授業準備や採点なんかで授業時間以外にも時間をとられますし、京産大は京都市の中心部から遠く、通うのにも時間がかかります。
 そして、実際やってみてびっくりしたのですが、このように負担が大きい割に、非常勤講師の報酬は本当にびっくりするぐらい安いです。私は、弁護士という本業もあるので、非常勤講師としての収入はあまり気にせず、授業を持つことも自分の勉強のためだと思いやっておりますが、これのみで生計を立てようという人は、本当に大変だと思います。
 この十数年来、若者に仕事がないこと、あったとしても自立した生活ができるレベルの収入を得られないものが多いことが社会問題となっております。非常勤講師をやっている若者も、その例外ではありません。いわゆる、「高学歴ワーキングプア」という問題の一端を示す現象です。
 わが国では、旧文部省の旗振りで90年代から始まった大学院重点化計画によって大学院の定員が増えたものの、大学・研究所での正規職の就職口が増えていないうえ、企業などの博士号取得者採用数も減少の一途をたどっていることから、将来の展望が見えないまま年を重ねた大学院過程修了者が毎年大量に溢れる事態が生じております。「ポストドクター問題」といわれる問題です。現在の大学には、大学院を修了しても定職に就けず、生活のために沢山の非常勤講師の仕事を掛け持ちしながらぎりぎりの生活を送り、他方非常勤の仕事に時間をとられて自分の研究をする時間が作れず、よい研究ができないため逆に大学でのポストを得ることからも遠ざかってしまうというジレンマを抱えている若者が少なからず存在します。しかも、そのような苦労を重ねてやっと就くことができた研究者としてのポストも、最近は任期付きのものが多く、任期の満了とともに簡単にその職を失ってしまう者もいます。現在、京都のある大学では、そのことが訴訟にもなっています。
 大学での非正規職の問題は、このような大学院修了者が研究者としてのポストに就けないという問題に尽きるものではありません。他に深刻な問題として、大学の非正規事務職の問題があります。
 大学の非正規事務職については、半年や1年の有期雇用とされ、その契約更新の上限を通算3年から5年とする取り決めがなされている大学がほとんどです。3年や5年の更新上限がきてしまうと、その人がどんなにその職場で必要とされている人であったとしても、雇止めされ、職を失ってしまうのです。そして、その代わりに全くその仕事に慣れていない新人が採用されたりするのです。
 大学がなぜこのような不合理なことを行うのかといえば、今の裁判例では、一般に有期雇用で働いている人の雇用期間が満了したとしても、その人の就労状況や事前の説明等の事情で、以後も契約が更新されて働き続けることの合理的期待があるといえるような場合には、その期待を裏切ってまで雇止めを行うには合理的な理由が必要とされ、そのような合理的理由のない雇止めは無効とされるからです。多くの大学は、有期雇用の非正規職員については、更新上限が決まっているのだから、それ以上働くことへの合理的期待はないだろうということにして、職場から追い出してしまうのです。つまり、仕事に慣れた人によりしっかりと働いてもらうことよりも、首切りを簡単にできる状況を確保することを優先しているのです。このようないびつな実態が、「大学」という職場で働こうとする若者を経済的に自立できない状況に追いやる温床となっております。
 昨年より有期労働契約を規制するための法律を制定することに向けた議論が厚生労働省の労政審で始まり、2011年度中には一応の結論を出すといわれております。大学に限らず、使い捨ての雇用を蔓延させず、適切な労状況が確保されるような法制度が整備されるよう、声を上げていかなければならないと思います。
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時効になった話
弁護士 中 島   晃

 いまから、20年以上前のことであるが、12月に入って、突然、相談にのってほしいと言って、事務所にやって来た男性がいた。年令は30歳台後半で、初めて相談に来た人であった。
 この男性−仮りにKさんとよぶ−の相談内容というのは、Kさんはいまから10年前まで京都にいたことがあるが、そのときに強盗事件をひきおこして、相手に怪我をさせてしまった(もっとも、強盗そのものは未遂に終わったとのことであった)。そこで、京都から逃げ出したが、事件から10年以上が経ち、時効になったと思われるので、この際、警察に出頭したいと考えて戻ってきた。ついては、警察に出頭するにあたって、弁護士に同行してもらいたいというものであった。
 Kさんが起こした事件のことは、翌日の新聞にのり、相手が全治1ヶ月の怪我をしたことがわかり、警察が強盗致傷として捜査にのりだしていると書かれていたが、犯人が誰かまではわかっていなかったようだ。
 強盗致傷の刑は、無期又は7年以上の懲役であり、無期にあたる犯罪の時効は10年とされている(もっとも現在は、時効は15年に延長されている)。
 Kさんは、いつまでも逃げ隠れして暮らしていくわけにもいかないので、この際、警察に出頭して、時効が完成しているのなら、そのことをはっきりさせたい。時効になっていることが警察で確認できたら、自分が生れ育った故郷に帰って、親兄弟にも会いたいし、きちんとした社会生活を送りたいということであった。
 私は、この説明を聞いて、まずこの男性のいっていることが本当かどうか確認するため、彼のいう強盗事件が当時の新聞にのっているかどうか調べることにした。地元の新聞社に問い合わせて、当時の新聞にこの事件のことがのっているかどうかを問い合わせた結果、確かに当時の新聞に、Kさんのいう強盗事件の記事がのっていることが判明した。
 そこで、私はあらかじめ警察に連絡したうえで、Kさんと一緒に警察署に出頭した。警察では、Kさんから詳しく事情を聞かせてもらう必要があるので、場合によっては一晩警察に泊ってもらうかもしれないといっていた。Kさんは警察で、3、4時間にわたって事情聴取をうけたが、結局、時効が完成していることから、その日のうちに警察から帰されることになった。
 これで、Kさんは、犯罪者としてこれ以上逃げ回る必要もなくなり、長い間かかえてきた心の闇からようやく抜け出すことができることになった。少しばかり晴れやかな表情をうかべて、Kさんは生れ故郷の関東方面に向かって帰っていった。
 犯罪の時効については、いまさまざまな議論があり、最近では、殺人罪について時効期間を廃止し、それ以外の犯罪についても時効を延長するなど、犯罪をひきおこした個人の責任をあくまでも追及しようという風潮が強まっている。犯罪は、罪を犯した個人に責任があることはいうまでもない。しかし同時に、犯罪は社会のひずみやゆがみのなかで必然的に生れてくるものであり、社会にもまた責任がある。
 犯罪に時効を認めず、あくまで罪を犯した個人の責任をきびしく追及しようという考え方の背景には、犯罪を生みだしている社会のゆがみやひずみに目を向けず、犯罪を全て個人の責任であるとする、悪しき自己責任主義があると思われる。しかし、こうした過度の個人責任や自己責任を強調する考え方は、貧困や格差拡大を放置する為政者の責任を免罪するものであって、決して望ましいことではないのではないだろうか。
 自己責任の原則をもとにした「非寛容」の精神が社会全体を覆うことに、大きな危惧を覚えるのは私だけではないであろう。
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デンマーク労働事情調査のご報告
弁護士 中 村 和 雄

 昨年9月に日弁連デンマーク労働制度調査団の名ばかり団長として、1週間ほどデンマークを訪問しました。調査結果につきましては、まもなく日弁連のホームページから詳しい報告書が閲覧できるようになりますので、そちらをご覧ください。
 今回は、デンマークの解雇制度についてお伝えします。
■解雇はけっして自由ではない
 デンマークにおいては、解雇を直接規制する法律上の規程は存在しません。そのために、わが国において「デンマークでは解雇が自由である」との誤った情報が伝えられています。しかし、デンマークにおいては、規制が法律によるのではなく、産業別労使団体の締結した労働協約に委ねられているのです。法律に規定がないことが法的な規制がないことを意味するものではないのです。デンマークにおける労働協約の適用率はわが国とはまったく異なっており、大多数の労働者が労働協約の適用下にあるのです。日本でいう日本経団連と連合(全労連)の基本協約には、解雇には合理的な理由を要することがきちんと定められているのです。したがって、デンマークにおける解雇規制は、わが国の規制と基本的には同じであるといえます。
 OECD(2008年)の雇用保護に関する統計資料によれば、デンマークは、むしろ日本よりも解雇規制が強い国に位置づけられています。巷では、日本は解雇規制が厳しすぎるから企業は派遣やパートを雇わざるをえないんだといわれますが、国際的に見るとけっしてそうではないといえます。
■公的社会保障制度の充実
 もっとも、デンマークにおいては企業経営上の必要性を理由とする解雇(整理解雇)については、基本的に合理性を認める運用がなされています。この点は、厳格に判断するわが国とは大きな違いがあります。整理解雇についていえば、デンマークは極めて規制の揺るやかな国といえます。
 雇用保険制度や職業訓練システムが充実し、教育、医療、福祉の公的負担が確立しているデンマークにおいては、失業することは、わが国のように膨大なリスクを伴うものではないのです。失業保険の給付期間は2年間です。最近まで4年間でした。教育費は大学まで無償です。デンマークにおける労働者の生涯平均転職回数は1人あたり6回だそうです。しかし、私たちが聴取した訪問先の方々はそれを大きな苦痛とは考えていませんでした。逆に新たなステップのための機会と位置づけているのです。わが国の失業状態とデンマークの失業状態とはまったく異なるのです。このような制度や社会環境の違いを無視して、デンマークの雇用の柔軟性だけを取り出してわが国にも導入すべきだとの議論を展開することは大きな誤りであることを痛感した次第です。
 わが国の労働や社会保障制度のめざす方向性を考えるにあたって、デンマークはとても勉強になる国でした。今回の調査をしっかりと活かしていきたいと思います。
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原爆症認定をめぐる新たな闘い
弁護士 諸 富   健

 私は、1昨年秋に弁護士登録してしばらくしてから、原爆症認定集団訴訟・近畿弁護団に加入しました。当時、原爆症の認定審査がなかなか進まないいわゆる滞留問題が発生しており、その数は約8,000件となっていました。近畿弁護団は、滞留状況を解消し、認定行政を根本的に改めるために、2009年4月に原爆症認定促進訴訟(義務付け訴訟)を提起していたのですが、同年12月に第二次義務付け訴訟を提起する予定となっていました。そこで、その原告予定者の一人を
久米弁護士とともに担当させて頂くことになりました。
 この方は、直接被爆者として被爆者手帳を取得したのですが、認定申請時には入市の事実を記載していました。そのためか、国は認定申請から1年3か月も経過してから追加の資料を求めた上、改めて被爆者手帳申請書の提出を求めてきたのです。そのこと自体不当だと考え、国や県に対してその根拠を求める内容証明を送りましたが、それと同時に、入市の事実を証明するため、ご本人やご親戚に陳述書の作成をご協力頂くなどご尽力頂きました。その甲斐あって、その方は無事原爆症と認定されました。2008年3月17日に国が定めた新しい審査の方針によれば当然原爆症と認定されるべき方ではあるのですが、やはり実際に認定の知らせを聞くと大変嬉しく思いました。この方にも大変喜んで頂き、弁護団の一員であることの醍醐味を感じることができました。
 しかし、全体的にはこのような喜んでいられる状況では決してありません。集団訴訟で26もの敗訴判決を突きつけられた国は、2009年8月6日に確認書を取り交わし、「今後、訴訟の場で争う必要のないよう」にすると謳ったのですが、それ以降、認定申請を大量に却下する方針を打ち出してきたのです。同年11月までは却下件数より認定件数が上回っていたのですが、12月には認定件数が187件であるのに対し却下件数が351件と2倍近くにふくれあがり、2010年11月には却下件数が認定件数の3倍以上まで開きが出ました。国は、もう集団訴訟は提起されないという安心感から、大量却下という手段で滞留状況を解消しようとしてきたのです。期待を裏切られた被爆者に残された途は、訴訟を提起することしかありません。そこで、2010年8月4日、8名の被爆者が新たに訴訟(取消訴訟・義務付け訴訟)を提起しました。
 原爆症認定をめぐる新たな闘いがスタートしましたが、被爆者の平均年齢は76,7歳となり、残された時間はそれほど多いわけではありません。2010年12月9日の第1回弁論で意見陳述した被爆者の方は、「せめて命あるときに、喜びや悲しみ、感謝の気持ち、ありがたみが認識できるうちに、周囲の人々に、その気持ちを表すことができるうちに認定して頂きたいと思います。」と述べられました。私たち近畿弁護団は、この方の思いに応えるべく、全力を挙げて国の認定行政を改めさせる闘いに取り組んでいく所存です。
 まだまだ、原爆症認定をめぐる闘いは終わっていません。近畿弁護団は、取消訴訟や義務付け訴訟、手帳訴訟、さらには岡山訴訟控訴審など数多くの裁判を抱えていますし、広島や長崎でも新たな闘いが始まっています。是非、原爆症訴訟にご注目下さい。
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子の養育と固定的性別役割分業
弁護士 吉 田 容 子

 近時、「貧困」が大きな問題としてとりあげられていますが、女性にとってはずっと前からこれは大きな問題でした。その主要な原因のひとつが固定的性別役割分業です。学業修了後に就職するけれども、婚姻・出産などを契機に退職し、数年(以上)後に再就職するという、いわゆるM字型就労(労働力率をグラフで示すと30代で凹んでいることからこのように呼びます)が、女性ではまだ主流となっています。再就職といっても、相応の給与が支給され期間の定めもないなど安定した労働条件の職場からはほぼ完全に排除され、パートタイマーや派遣などの不安定就労に集中し、昨今の経済情勢下ではそれでも就職できれば良い方だとされています。
 このことは、婚姻中の夫と妻との力関係にも大きく影響します。婚姻中、多くの夫達は稼得能力を維持・向上させることができますが、多くの妻達は稼得能力の著しい減退・喪失に直面します。だからこそ「誰に食わせてもらっている!」「文句があるなら俺と同じだけ稼いでこい!」等の言葉が効果的な支配手段(DV)となっているのです。
 そして、一旦生じたこの格差は、再就職後あるいは離婚後にいくら努力しても、残念ながら多くの場合、完全には埋めることができません(個人の意識・努力を超えた格差)。離婚時の財産分与はこの格差に無関心であって無視されますし、老後の年金にも跳ね返ります。つまり、著しい格差が生涯続くことになります。
 これを「女性の意識の問題」に矮小するのは、意識的な誤導です。@国ないし経済界からみた経済的合理性(景気の調整弁となる安い労働力の確保、労働力の再生産機能、高齢者の介護要員、子どもの監護要員、社会保障費の節約等々)、Aジェンダーバイアス(男はエライ=女性に比べ高賃金は当然&生活には金が必要→金を稼ぐ男はエライ)、B教育やメディアによる固定的性別役割分業の刷り込みなど、様々な要因がその背景にあるのです。
 さて、ここからが本題ですが、「固定的性別役割分業」は子どもにとってもマイナスです。
 まず、子ども達が固定的役割分業を学習し再生産していく可能性がかなりあり、それは子ども達にとって不幸なことです。
 次に、離婚後の子ども達の監護を巡る状況にも悪影響を及ぼします。即ち、多くの女性は離婚を考え始めると自分の稼得能力の減退・喪失に愕然とします(生活費をまかなえる賃金の仕事につけない)。稼得能力が乏しく、養育費も極めて低額かつ不履行が非常に多いという現実の中で、平均すると女性は離婚すると貧しくなると言われています。そうなれば、子ども達にも生活レベルの低下を我慢させねばなりません。それでも女性達は、とにかく働いて生活費を稼がねばなりません。他方、稼得能力を維持・向上させてきた男性は、養育費の負担も低額ですみ、平均すると離婚すれば豊かになると言われています。格差がますます歴然としてきます。このような中で、男性から女性に対する子どもとの面接交渉の要求が、婚姻中に受けた「コントロール」の再現となる場合があります。婚姻中の関係と離婚後の関係は連動しています。離婚した途端に、それ以前の非対等な関係が清算され、対等円満な関係になるということは、通常、ありえません。特に弱者にとっては、全く清算未了です(というより清算は不可能です)。
 固定役割分業の打破は、単なる精神論ではなく稼得能力を獲得することであり、かつ子どもの監護養育にとって基本的な条件というべきです。皆様にもこのような視点で一度考えてみていただければと思います。
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