事務所だより
一覧へ戻る
2012年8月 残暑お見舞い申し上げます
2012.08.20
残暑お見舞い申し上げます
2012年8月

弁護士 大 脇 美 保:家事事件についての新しい法律ができました
弁護士 小野寺 信 勝:ニューフェイスのごあいさつ
弁護士 久 米 弘 子:遺産分割のお話(2)
弁護士 塩 見 卓 也:ジヤトコ偽装請負事件が和解解決
弁護士 中 島    晃:御所南小学校からグランドが消えた日
弁護士 中 村 和 雄:Let's DANCE署名運動の拡がりについて
弁護士 諸 富    健:「秘密保全法」ってご存じですか?
弁護士 湯 @ 麻里子:福島原発事故〜原発ADR〜について
弁護士 吉 田 容 子:新たな在留管理制度が始まる
弁護士 分 部 り か:孤立死について・憲法と人権を考えるつどいへのお誘い
事務局一同


家事事件についての新しい法律ができました
弁護士 大 脇 美 保

 当事務所では、皆さんから、離婚や相続などの、いわゆる家事事件をお引き受けすることがよくありますが、この家事事件についての新しい法律ができました。名称は「家事事件手続法」といい、平成23年5月に成立し、来年、すなわち平成25年1月1日から実施される予定になっています。
 統計によれば、家庭裁判所の事件数は、子どもの面接等の「子の監護に関する事件」を中心に、増加する傾向にあります。
 現在の家事事件は、調停事件と審判事件に別れており、今回の法律は、その双方について規定しています。

 新しく加わった制度、変更点としては、以下のものがあります。
・当事者、利害関係人の参加制度の導入
・記録の閲覧謄写が原則として許可になります。
 この点については、例えば、未成年者の利益を害するおそれがある場合など例外があります。また、調停については、従来どおり、相当と認める時に許可となります。
・子の福祉への配慮として、一定の事件における15才以上の者については、その陳述聴取が必要となります。また、子に影響が及ぶ事件では、子の年齢および発達の度合いに応じてその意思を考慮しなければなりません。
・審判事件の一部について、合意による管轄が認められるようになりました。
・審判事件の一部について、原則として申立書の写しが相手方に送付されることになりました。
 また、事実の調査の通知、当事者の陳述の聴取、審問期日の立ち会いについても規定されました。審判をする日を定めなければならないことにもなりました。
・当事者が遠隔地に居住している時など、電話会議、テレビ会議システムが利用できるようになりました。離縁・離婚の事件をのぞいて、電話会議、テレビ会議システムによる調停成立も認められるにようになります。
・離婚・離縁の事件をのぞき、調停一般における書面による調停条項案の受諾を認めることになりました。

 おおざっぱに言うと、全般的に規定が細かく整備され、調停・審判事件が、裁判手続に近づくイメージであると考えられます。



ニューフェイスのごあいさつ
弁護士 小野寺 信 勝

1 はじめに
 2006年10月に熊本中央法律事務所に入所し、およそ5年半業務をしてまいりましたが、2012年4月1日付で京都弁護士会に登録を替え、市民共同法律事務所に所属させていただくことになりました。
 出身は札幌市です。2001年3月に立命館大学法学部を卒業し、京都で司法修習を行いました(59期)。こうして学生・司法修習生時代に過ごした街で再び弁護士業務ができることを大変嬉しく思います。
 熊本では、民事、刑事、家事事件を広く取り扱っていました。熊本は水俣病、ハンセン病、原爆症集団訴訟、川辺川ダム問題など集団・大型訴訟が盛んな地域です。私はこうした訴訟の中で、原爆症認定集団訴訟、熊本市に対する政務調査費返還請求訴訟、外国人研修生・技能実習生に対する人権侵害事件などの事件に関わらせていただきました。
 自己紹介の趣旨とは大幅にずれることは承知のうえで、ここでは私の弁護活動の根幹となっている外国人研修技能実習制度問題について触れさせていただきたいと思います。

2 外国人研修技能実習制度との出会い
 外国人研修技能実習制度問題に取り組み始めたのは、2007年8月に遡ります。熊本県天草市の縫製工場で働く10代、20代の中国人技能実習生4名が縫製会社から逃げ出し労働組合に保護を求めたことがきっかけでした。
 彼女たちは、中国の派遣会社に4万元(年収3年分以上)を支払い、外国人研修制度を利用して、2006年に、熊本県天草市の縫製会社に研修生として来日しました。外国人研修制度は、日本の優れた技術を海外の青壮年に学ばせる国際貢献を目的とする制度です。しかし、実態は「研修」とはあまりにもかけ離れており、日本に到着するや否やパスポートと印鑑を取り上げられ、休む間もなく就労させられ続けました。午前8時から午後10時、繁忙期には午前3時にまで働いていました。休日は月1・2回。研修手当は月6万円、残業代は時給300円。そのわずかなお金も会社が監理する口座に強制貯金させられていました。
 2007年12月、熊本地方裁判所に未払賃金や慰謝料等の支払を求めて提訴しました。当時、研修生は「労働者」ではなく、最低賃金法すら適用されていませんでした。しかし、研修生の実態を見れば「労働者」だということは明白であることから研修生に対しても最低賃金法が適用されるべきだと主張しました。

3 当事者の力が国を動かす
 提訴後も原告3名は日本に留まり、全国各地で研修制度の問題点を訴えて回りました。彼女たちがこうした活動を続けられたのは、労働組合や支援者の物心ともの支援があったからです。 
 2010年1月29日、熊本地方裁判所。原告のリュウさんとグさんは、勝訴判決を聞き終えるなり、法廷から飛び出しました。そして、正門前で待つ支援者たちに向かって、「我?不是奴隶(私たちは奴隷じゃない)」と書かれた旗を高々と掲げました。これは、彼女たちが一番声を大にして叫びたい言葉だったと思います。そして、涙を流しながら抱き合って喜んでいました。
 判決後、グさんから「夢じゃないよね?」と尋ねられました。働いた人にはそれに見合った賃金が支払われる。こんな当たり前のことが夢ではないかと思うくらい、この制度が異常だということに改めて気づかされました。
 この判決を契機として、全国で同様の訴訟が数多く提起されました。また、2010年7月、従来の研修制度は廃止され、来日1年目から技能実習生として労働関係法規が適用されるようになりました。彼女たちの功績は大きく、声をあげられずにいた多くの技能実習生にとって一筋の光を与えるものとなったのではないかと思います。

4 研修生弁連設立
 事件は新聞・メディアにも取り上げられ、外国人研修技能実習制度問題が社会に少しだけ認知されるようになりました。しかし、超長時間労働、低賃金、旅券の取り上げ、暴力、セクハラ、差別、過労死など、今も課題は山積しています。
 2007年に、有志の弁護士と「外国人研修生問題弁護士連絡会」を設立し、共同代表として、これらの問題を解決すべく調査、提言活動を行ってきました。関西でも研修生問題は少なくありません。今後も引き続きこうした活動をしていきたいと考えています。

5 実習生の思い
 ここで、鹿児島県のある研修生からもらった漢詩を紹介させていただきたいと思います。詠み人知らずのこの詩が研修生の間で出回っているそうです。

人生短短几个秋(人生は短い、何度目の秋)
美好生活必所求(幸せな生活を求め)
告別故郷与親友(故郷、家族や親戚、友人と離れて)
為了梦想来日修(夢と希望のために日本に来た)
梦想現実天地別(夢と現実は天と地にように違った)
无奈他郷難回頭(異国の地で、帰国することもできない)
毎天工作累如牛(毎日、牛のように働かされた)
一年四季无假休(一年春夏秋冬、休みもなく)
受人欺負无理由(いわれない侮辱も受けた)
回憶往事已成旧(過ぎた日々は、もう古い思い出)
三年光陽似水流(三年間は水の流れのように過ぎ去った)
如果光陽能重来(もし、もう一度機会があっても)
再也不愿来日修(再び日本に来たくはない)
 
 今この瞬間も、このような気持ちを抱きながら働かされている研修生がいるかと思うとやり切れない気持ちです。

6 研修生問題のやりがい
 2012年4月、中国に帰国したリュウさんから結婚式の招待状が届きました。グさんからは日本の学校に留学することになったと連絡がありました。
 宛先は「お兄さん」、差出人は「妹」。
 研修生問題は根深く、自分の無力さをつきつけられることも多々あります。ですが、このような便りを受け取った瞬間、これまでの苦労は吹き飛び、まだまだ頑張らなければ、という力が湧いてきます。



遺産分割のお話(2)
弁護士 久 米 弘 子

 今回は遺産分割の時に考慮する事項についてお話します。
1、特別受益(民法903条)
(1)被相続人から、遺贈を受け、又はその生前に、婚姻、養子縁組のため、あるいは生計の資本として贈与を受けた相続人(特別受益者)がある場合、生前に受けた分を相続財産に組み入れて分割することになります。
 たとえば、被相続人の死亡時の財産が3000万円、相続人が長男・長女・二女の3人の場合、生前に贈与を受けた者がなければ1000万円ずつになります。しかし、長男が生前に自宅の購入資金として1500万円をもらっていたら、相続財産としては4500万円で、1人1500万円ずつになります。長男は既に1500万円もらっていますので、差引き0、長女と二男が3000万円を1500万円ずつ取得します。
 もし、長男が3000万円を生前にもらっていた場合、相続財産は6000万円ですから、2000万円ずつのところ、長男は既に1000万円多くもらっています。この場合、長男はこれ以上相続するものはありませんが、超過した1000万円を返還する必要はありません。長女と二男とが3000万円を1500万円ずつ取得することになります。
(2)生前の特別受益は被相続人の死亡時を基準として評価します。金銭で贈与を受けた場合、貨幣価値が変動していれば、相続開始時に換算します。不動産で贈与を受けて、のちにその価格が上がっていれば、これも相続開始時の価格で計算します。何10年も前の結婚の費用や学資などが問題になることがありますが、きょうだいの中で、特別に多額の支出をしてもらった場合なら考慮してもよいでしょう。「生計の資本として」の贈与には、住居やその購入資金、事業運営の資金、借金の返済資金などがあります。
2、寄与分(民法904条の2)
 相続人の中で、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与(貢献)をした者があるときは、その者に対して、その貢献を評価して、貢献分の財産を得ることを認めるのが寄与分制度です。
 被相続人と共に家業に従事して資産を増やしてきたとか、生活費を援助してきたとか、介護を要する被相続人について療養看護をしてきたということで寄与分の申立をされることが多いでしょう。ただし、寄与分は、かなりきびしく判断されており、単に、他の相続人は被相続人の面倒をみなかった、自分だけ面倒をみたのに、平等に分けるのは不公平だ、というだけでは足りず、貢献の内容を金銭に評価できるかどうかが問題になります。即ち、親子の扶養義務の範囲をこえて、特別の援助や療養看護をしたかどうか、それを金銭に換算できるか(たとえば、ヘルパーに頼んでいればいくら位かかったか、など)、が問題になります。実際に寄与分の額として認められているのはあまり多くありません。
 寄与分は調停で合意できない時は審判で決定されます。
 寄与分が認められる場合、総遺産の何%又は金額でいくら、というように決めます。総遺産からまず寄与分をとりわけて、残りを相続人の法定相続分で分け、寄与分のある相続人にその分を加えます。たとえば、総遺産が3000万円で相続人が子ども3人のとき、長男に10%又は300万円の寄与分が認められるなら、分割対象の遺産は2700万円なので長男は900万円+300万円=1200万円、他の2人は各900万円になります。


ジヤトコ偽装請負事件が和解解決
弁護士 塩 見 卓 也

 2009年10月の提訴以来、2年半にわたる裁判闘争となっておりました、ジヤトコの偽装請負事件が和解解決しました。以下、経過を報告します。
 この事件は、右京区にあるジヤトコ京都工場にて就労していた人達が、2008年秋のリーマンショック後に、大量解雇されたことに端を発します。11名の原告の方々は、いずれも2008年12月末をもって雇止めされてしまいました。しかし、いずれの方々も、形式上の所属先は、実際に使用していたジヤトコではなく、「請負」会社や派遣会社の所属とされていました。原告の方々の多くが、製造業派遣が禁止された時期から「請負」名目で違法就労させられていました。いわゆる「偽装請負」です。また、「労働者派遣」に切り替えられてからも、偽装請負にて就労させられていた期間を通算すれば、労働者派遣法にて許容される派遣可能期間を超える就労をさせていたという点で、違法就労であることに変わりありませんでした。
 この状況に、全日本造船機械労働組合三菱重工支部のベテラン組合員の方々が支援に立ち上がり、ジヤトコや派遣元事業者に対する団交、京都労働局への是正申告などに奮闘されました。京都労働局は、ジヤトコに対し、違法状態の是正とともに、違法状態で働かされていた人達の直接雇用を行うよう指導がなされました。
 しかし、ジヤトコは原告らを直接雇用しようとはしませんでした。そこで始まったのが、今回の訴訟でした。私達は、当事務所の中村和雄弁護士を中心に、原告11名と同数、実働11名の弁護団を組みました。
 本件提訴当時は、まだ松下PDP事件最高裁判決(最判平成21年12月18日)がでる前であり、製造業派遣が禁止されていた時期からの偽装請負事案において、偽装請負労働者に対する受入事業者の雇用責任が認められた同事件控訴審判決(大阪高判平成20年4月25日)が生きていた時期でした。この事件に限らず、全国では偽装請負事案にて受入事業者が雇用責任を果たすことを求める訴訟が数多く起きていました。
 そんな中でも、本件事案には他の事件とは異なる特徴がありました。もともと「ジヤトコ」という会社は企業再編の中で生まれた新しい会社であり、ジヤトコの京都工場は、もともとは三菱重工や三菱自工が操業主の工場でした。工場の操業主は、三菱重工からダイヤモンドマチック社、ジヤトコと変遷していったのでした。
 原告らの多くは、三菱重工が操業主だったころから京都工場に勤務していました。他方、原告らが形式上所属していたとされる偽装請負会社や派遣会社も、違法行為につき行政処分を受けたり企業再編を繰り返したりで、ころころと変わってゆきました。つまり、原告らは、同じ京都工場で長年同じ仕事をやっていたにもかかわらず、勤務先工場の操業主や、自分が所属しているとされる会社はころころと変わっていくという、非常に不自然な契約関係の下で働いていたことになるのです。
 このような違法であり異常である就労を、就労実態に即して見れば、就労者に対する雇用責任は、京都工場の操業主であり、実際に原告らを使用してきたジヤトコがとるべきであるということができると思います。だからこそ、京都労働局も直接雇用を行うよう是正指導を行ったのです。
 しかし、本件提訴後に出された松下PDP事件最高裁判決は、そのような考え方に基づき、受入事業者が雇用責任を果たすべきとする法的主張をほとんど封じてしまうような判断を行いました。本件も、訴訟手続によってたたかうものである以上、不当判断であったとしても最高裁判決を無視するわけにはいきません。本件は、法的構成において非常に苦しいたたかいとなりました。
 私は、3か月に1回のペースで開かれる、全国で提訴されている偽装請負・違法派遣事件の事案についての研究会に欠かさず参加し、偽装請負事案についていかにして勝利するかについて検討を行いました。そんな中、全国では、松下PDP事件最高裁判決以降、受入事業者の雇用責任を認めさせる判決は現れないものの、違法就労させた事業者の損害賠償責任を認める判決は数件現れるようになりました。パナソニックエコシステムズ事件(名古屋地判平成23年4月28日、名古屋高判平成24年2月10日)、三菱電機事件判決(名古屋地判平成23年11月2日)、積水ハウス事件判決(大阪地判平成23年1月26日)、アドバンテック事件(奈良地判平成23年9月29日)などです。
 本件につきましても、松下PDP控訴審判決のように受入事業者であるジヤトコに雇用責任をとらせることは難しいとしても、損害賠償責任を認めさせることは可能なのではないかと考えました。そこで、私は、損害賠償責任を認めた判決が複数あること、それらを踏まえた和解解決事案もあることから、本件においても和解解決が有り得ること、原告側はそれに向けた訴訟指揮を行われることを望むことを、裁判官に伝えました。
 そんな中、2011年12月19日と2012年1月26日に、原告本人らやジヤトコの労務担当者などの証人尋問が行われました。尋問では、原告らによって、この首切りによりいかにその後の生活が大変になったのかが、滔々と語られました。そして、尋問終了後に、和解協議が開かれたのでした。
 3月1日、裁判所から和解案の提示がなされました。和解案には、「人証調べを終えた現時点において、黙示の労働契約が成立していたとの原告の主張は、本件の事実関係の下では認めがたいが、他方、被告は、京都労働局から労働者派遣法に違反しているとの指摘を受け、労働者の雇用の安定を図るための措置について検討を要請されていたところであり、解決金として原告らに対し一定額の支払をすることが望ましいといえる」と、和解解決すべき理由が述べられました。苦しいたたかいの中で、裁判所もこちらの言い分を認めてくれたものといえます。
 結果、本年3月23日、裁判所の和解案に沿った解決金支払いによる和解解決が実現しました。違法就労させた事業者に対する損害賠償責任を認めたいくつかの判決と比較して、高水準といえるものでした。
 本当は、このように労働者を違法就労させた場合には、使用した事業者が全面的な雇用責任を負うべきです。しかし、現在の法制度や裁判実務では、そのような考え方が認められなくなっています。その点は、法改正を求めるなど、今後運動によって解決すべき課題といえます。
 そんな中でも、本件が、全面勝利とはいえないにしても、同種事案において苦しいたたかいが続く現状においては、一応の水準による和解解決を得られたということは意味があったと思います。この解決を、違法就労による労働者の使い捨てを許さない今後のたたかいにつなげていきたいと思います。


御所南小学校からグランドが消えた日
弁護士 中 島   晃

1、京都地裁の南側に、竹屋町通をはさんで御所南小学校がある。裁判所に行く道すがら、いつも御所南小学校の前を通る。数年前までは、校舎の南側にあるグランドで、子供たちが元気に走り回る姿が見えた。ところが、いつの間にか学校のグランドにプレハブ校舎が建ち、それが次々に増えていって、今では、グランドがプレハブ校舎によってすっかり占拠されてしまっている。
 このため、御所南小学校にはグランドがなくなり、学校から約300メートルほど南側にある富小路公園を半分に仕切って、御所南小学校の専用グランドに使用している。少子化の時代なのに、まるで、かつてのベビーブームの再来のように、いま御所南小学校は超過密状態になっている。どうしてこんなことになったのだろうか。
2、御所南小学校は、1995(平成7)年、それまであった梅屋、富有、竹間、龍池、春日の5つの小学校を統合して設立された(但し、統合時は4校)。
 同校は1999(平成11)年に、文科省の研究開発学校に指定され、また2002(平成14)年には、文科省の「新しいタイプの学校運営」(コミュニティスクール)の指定を受けるなど、先進的な教育活動に取り組んでいるとして、注目を集めるようになった。
 こうしたことから開校時664人だった児童数が、2003(平成15)年を境にして、700人を超えるようになった。この傾向に拍車をかけたのが、03年10月に放映されたNHKスペシャル・21世紀日本の課題シリーズ「学校は変わるか 第1回学力向上へ 常識を打ち破れ」のなかで、御所南小学校が取り上げられたことである。
 以後、同校は、「学力日本一」の学校というイメージが形づくられることになった。京都市内で、御所南小学校の通学区域に転入してくる児童が増加するようになり、折から、京都の都心部での大型マンションの建設ラッシュとも重なって、児童数が急増することになった。ついに2009(平成21)年には、同校の児童数は1000名を突破し、その後も毎年増え続けている。
3、このことから明らかなように、特定の小学校に先生を特別に多く配置して、子どもたちに特別な指導体制をとる(これを、さきほどのNHKスペシャルでは「宿題先生」が手厚く指導と報道した)という小学校の差別化、選別化を図り、そのことを教育委員会が積極的に宣伝してきたこと、このことが御所南小学校に児童が集中するという事態を生んだ大きな要因となっている。
 またこれと同時に見逃すことができないことは、こうした学校の差別化・選別化は、その学校の通学区域を主要なターゲットとする不動産市場が形成され、その地域内でのマンションや住宅などの取引が活発化し、不動産価格の高騰を引き起こしたことである。
 御所南地区でのマンションは、他の地域よりも高く売れるというのは、今では不動産業者間の常識といわれている。このことは、価格の高いマンション等を購入できる富裕層でなければ、御所南地区に居住することができないことを意味しているのではないだろうか。そうすると、保護者の経済的格差が子どもの学力の格差を生むという貧困の構造の裏返しが、御所南地区に出現することになると言っても過言ではない。
 このように見てくると、学校の差別化・選別化は、一時的には「学力日本一」と評価されることがあったとしても、やがては、児童数の急増による超過密状態を作り出し、その一方で不動産価格の高騰という思わぬ弊害をも生み、経済的格差が学力の格差に反映するという社会のゆがみをあらわにすることになりはしないだろうか。
 そうすると、御所南小学校をめぐる現在の状況は、私たちに日本の社会のひずみの一つの断面を示しているということができる。


Let's DANCE署名運動の拡がりについて
弁護士 中 村 和 雄

 5月29日にスタートした「Let's DANCE署名」が、各地で大きな盛り上がりを見せています。呼びかけ人のひとりである坂本龍一さんが主催して千葉の幕張メッセで開催されたコンサート「NO NUKES2012」では、2日間で1500名の皆さんが署名してくれました。この署名運動は8月中に10万筆を集めることを目標としています。7月10日現在、自筆署名1万8000、WEB署名1万2000となっています。各地のコンサート会場などでボランティアの若者の皆さんがたくさん協力してくれています。署名ブースには若者たちが押し寄せてくれます。なぜ、こんなに若者たちが動き出しているのでしょうか。クラブに出入りしている若者たちにとって、クラブは自分たちの「憩いの家」なのです。クラブが潰されれば居場所がなくなってしまう、そんな気持ちが強いのです。大阪、東京、京都など、次々とクラブの営業店が風営法違反だとして摘発され、営業できなくなっているのです。
 風営法の規制対象から「ダンス」をはずそう。今回の署名運動の内容です。今年から中学校の体育の必修科目の1つになった「ダンス」。なのに、風営法では、営業としてダンスをさせることは許可を貰わないとできないとされています。許可を得るには66平方メートル以上のスペースが必要ですし、許可を得ても営業は遅くとも深夜1時まで。室内の配置を変えるのもすべて事前の許可が必要。警察官はいつでも出入り可能。これは、もうどう考えても時代遅れの規制です。クラブだけの問題ではありません。街でよく見かけるダンス教室も、国が認めた2つの団体の有資格者が教えるのでなければ、許可を得ずに有償でレッスンしていることは風営法違反なのです。犯罪なのです。営業停止になったり、逮捕される危険があるのです。野球場やサッカースタジアムを経営するのに風営法の許可は必要ありません。サッカーや野球が風営法の規制対象ではないからです。卓球も柔道も剣道も規制なしです。どうして「ダンス」だけは規制が許されるのでしょうか。
 ところで読者の皆さんは、「クラブ」を知っていますか。60代以上の皆さんは、三条京阪にあった「ベラミ」という高級ナイトクラブを連想されるでしょうか。山口組の田岡組長が襲撃された場所です。50代の皆さんは、ディスコを連想されるでしょうか。ディスコクラブと現在のクラブの違いは演奏家の違いだそうです。今はDJと言われる方たちが演奏をするのです。今のクラブにお立ち台はありません。
 日々夜遅くまで非正規雇用でクタクタになるまで働いた若者が、クラブに集い「踊る」ことによって明日への英気を養う。音楽、映像、照明、デザイン、様々な若者文化が形成される場でもあります。クラブシーンは若者の自己実現、自己表現の場であり、多くの若者文化を発信する重要な場所です。健全な若者文化をまもり発展させていくために、時代遅れの法律を変えて不当な規制をやめさせていきましょう。皆さんの応援をお願いします。


「秘密保全法」ってご存じですか?
弁護士 諸 富   健

1 原発情報が隠される!?
 昨年発生した福島第1原発事故では、正確な情報が国民に知らされず、国民は見えない恐怖に脅えることになりました。とりわけ、放射能汚染を予測するSPEEDIの情報公開が遅れたため、住民が放射線量の高い地域に避難するはめになったことは記憶に新しいところです。原発の情報を一刻も早く正確に知りたいというのが国民大多数の気持ちだと思いますが、近い将来、原発情報が国民に一切知らされない日が来るかもしれません。
2 「秘密保全法」制定を目指す動き
 2011年8月8日、「秘密保全のための法制の在り方について」という報告書が発表されました。これは、政府が保有する情報が漏れるのを防止するために、5人の学者からなる有識者会議がまとめたものです。きっかけは、2010年に尖閣諸島沖で発生した中国漁船の衝突事件を撮影したビデオが流出したことだとされています。政府は、近々、「秘密保全法」案を国会に提出しようとしています。
3 どんな内容?
 政府が持っている情報のうち、特に隠す必要があるものを「特別秘密」と定めます。その内訳は、@国の安全、A外交、B公共の安全及び秩序の維持の3つの分野です。何が「特別秘密」となるのかを定めるのは、国や地方自治体などの行政機関ですが、「特別秘密」を作成し取得するのは、行政機関のみならず民間企業や大学も含まれます。そして、「特別秘密」を取り扱う人がわざと、あるいはうっかりと外部に漏らすと処罰されます。また、「特別秘密」を漏らすようそそのかしたりあおったりしても処罰されます。さらに、「特別秘密」を持っている人から不正に取得する行為(「特定取得行為」)も処罰されます。
 また、「特別秘密」を取り扱う人自体を管理するために、「適性評価制度」が導入されます。これは、「特別秘密」を取り扱うことが想定される人に対し、外部に漏らすリスクがないかどうかを事前に調査して、「特別秘密」を取り扱う適性があるかどうかを判断するというものです。
4 何が問題?
 第一に、知る権利が侵害されます。情報を得ることは物事を判断する上での前提となるものです。ですから、国の情報を知ることは民主主義の根幹となります。ところが、「特別秘密」は広範囲にわたり、冒頭に述べた原発情報すら「特別秘密」として国民に知らされないおそれがあります。しかも、「特別秘密」を指定するのは行政機関ですから、国民にとっては、何が「特別秘密」なのか分からない状態となります。民主主義の根幹を脅かすものだと言っても過言ではありません。
 第二に、プライバシーが侵害されます。「適性評価制度」では、「特別秘密」を取り扱う人について、氏名・生年月日といった基本的な事項のみならず、信用状態や精神問題にかかる通院歴といった情報まで調査されます。また、配偶者など身近な人まで調査の対象になります。このようなプライバシー侵害に対する配慮が極めて不十分です。
 第三に、取材の自由が侵害されます。何が「特別秘密」にあたるのか、極めて広範であいまいです。また、「特定取得行為」という概念もあいまいで、重い刑罰も予定されています。取材に対する萎縮効果が非常に大きいと言わなければなりません。
5 危険な中身を周りに知らせて下さい
 国が持っている情報が完全に隠され、それが「特別秘密」であるかどうかも分からないというのは本当に恐ろしいことです。SPEEDIの情報が「特別秘密」とされれば、国民は何も知らないまま放射線に被曝することもあり得るのです。こんな危険な中身を持つ「秘密保全法」は、国会に提出することすら許してはなりません。是非、周りの多くの人にこの危ない法案の中身について知らせて下さい。学習会を開きたいということであれば、どんな少人数でも駆けつけますので、お気軽に声をかけて下さい。


福島原発事故〜原発ADR〜について
弁護士 湯 @ 麻里子

 東日本大震災による被災者支援京都弁護団という弁護団に入って活動をしています。
 京都府下には東日本大震災の被害を受けて避難してきた方が1000人近くおられます。京都の弁護団は、原発事故による避難者の方に限らず、東日本大震災の被災者全体に対する支援をしていますが、今回は、原発ADRを中心に説明させていただいます。
 原発事故に関する損害賠償の請求方法は3つです。即ち、@東電に対する直接請求(請求書を出して直接交渉します)、A原発ADR、B訴訟(普通の裁判と同じです)があります。
 原発ADRについて
(1)原発ADRとは
 ADRは裁判に代替する紛争解決手段のことです。ものすごく単純化していうと、話し合いによる解決手段のことです。
 原発ADRは、原子力損害賠償法に基づいて設置された公的な紛争解決機関(原子力損害賠償紛争解決センターが行うADRです。
(2)ADRの申立費用は無料です。但し、どういう内容をどのような整理をして申し立てるか等、申立には専門的な知識が必要となりますので、弁護士に依頼されることをおすすめします。被災者支援という観点から全国で弁護団が結成されており、多くの弁護団は比較的低額な弁護士費用(京都だと1万円)で受任しています。また、相談は無料で受け付けています。
(3)京都の弁護団も7月2日に集団申立てをしました。今回、どのような内容の申立をしたかというと、避難や避難生活にかかった費用、仕事を失った事による休業損害、慰謝料、戻れなくなった家土地の損害賠償請求です。
 ADRの申立をされている方は、皆、「お金が欲しい」のではなく、本当は元の生活に戻して欲しいのだとおっしゃっています。しかし、その願いは容易には適いません。そもそも、除染といっても、その方法は発展途上である上に、除染によって取り除いた放射性物質の処理方法も処理場所も決まっていません。海産物農畜産物への放射性物質の移行状況も解明されていません(これらは全国に波及する問題です)。家の周りの放射線量の数値を計っただけでは何も決められない筈です。
 しかし、国は、なぜか福島(及びその周辺地域)だけは年間20mSvという放射線量を許容するかのような対応をとる等、「自分の孫や子どもに対しても同じことを言えますか?」とききたくなる対応をしています。国に対してきちんと物を言いたいというのが原発ADR申立の大きな動機になっています。
 大飯原発の再稼働問題は大きなニュースとなっていますが、それでも関西と福島では原発問題に対する温度差を感じます。しかし、今後、原発事故が起こらないという保証は全くありません。また、大事件(大事故)が起きた際に、国や企業がどういう対応をするのかを知っておくことは、自分達が生きていく上で必要なことです。是非、福島原発事故による被害の内容や現状を知って頂きたいと思います。人生観が変わるのではないかと思います。


新たな在留管理制度が始まる
弁護士 吉 田 容 子

 2012年7月9日、新しい在留管理制度が始まりました。これは「外国人の適正な在留の確保に資するため、法務大臣が、我が国に在留資格をもって中長期間在留する外国人を対象として、その在留状況を継続的に把握する制度」です(法務省入国管理局のウェブサイトより)。国は「適法に在留する外国人の方々に対する利便性を向上する措置」も可能になるとしていますが、要するに「管理の強化」であり、様々な問題が指摘されています。以下に新制度の概要を述べます。
(1)この制度は、入管法上の在留資格をもって日本に中長期在留する外国人を対象とします。例えば、「日本人の配偶者等」「定住者」「技術」「人文知識・国際業務」「技能実習」「留学」「永住」などの在留資格を持つ人です。これらの人については、すべての情報を入管が一元的に管理し、住所地や勤務先などの継続的な情報把握を行うことになります。
 この制度の対象者には、氏名等の基本的身分事項や在留資格、在留期間が記載され、顔写真が貼付された「在留カード」が交付されます。
 また、在留資格によっては在留期間が最長5年に延長されました。しかし、同時に従来より短期の在留期間が設けられたり、「日本人の配偶者等」から「永住」への変更が難しくなるなど、この点でも入管が管理しやすい制度になりました。
(2)「短期滞在」の在留資格を持つ人や、在留資格がない人(非正規滞在者、超過滞在者など)は、新制度の対象外です(特別永住者については別の制度が作られました)。
 これら新制度の対象外の人達であっても、これまでは外国人登録が認められ、義務教育や予防接収、入院助産、健康診断などの基本的住民サービスを受けることができました。しかし、新制度の下では、在留カードが交付されず、住民登録もできないことになりました(新制度の下では、外国人住民も日本人住民と同様に住民票に記載されることになりました)。そのため、自治体はこれらの人たちの所在を把握できず、そのため就学通知などを送ることもできず、これらの人たちは教育や医療から閉め出されることになります。
(3)さらに、新制度の導入に伴い、「在留資格の取消し」制度が設けられました。気になるのは、「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」の在留資格で在留する人が正当な理由なく配偶者としての活動を6か月以上行わないで在留」した場合や「正当な理由なく住居地の届出をしなかったり、虚偽の届出をした」場合(中長期在留者となった日から90日以内に住所地を届け出る必要があり、転居の場合も同様)が、在留資格の取消事由となったことです。入管は、DVや虐待から避難している場合や離婚調停・訴訟係属中、本国の親族の傷病看護のため帰国中などの場合は、取消しをしないとしていますが、外国人配偶者にとっては大きな不安材料です。
 現在、日本には約208万人の外国人がおり(2011年)、多くの人たちが日本社会に定着し、日本人と同様、住民として生活しています。「管理」ではなく「共生」に向けた法整備こそが必要ではないでしょうか。


孤立死について・憲法と人権を考えるつどいへのお誘い
弁護士 分 部 り か

 京都弁護士会は、毎年、「憲法と人権を考えるつどい」というイベントを行っています。42回を迎える今年は、孤立死がテーマです。(これまでのイベントの内容はこちらでhttp://www.kyotoben.or.jp/kenjin.cfm参照できます。)
 実は、4、5年前ほど、私の実家の隣にあった古い木造アパートの一室で、賃借人が腐乱した状態で発見されました。
 大家さんの話によると、顔をみないなと思っていたらにおいがしてきて、その匂いがきつくなったので、合いかぎを使ってドアを開けたら、賃借人を遺体で発見したそうです。その賃借人は、生活保護受給者で、親族はいましたが、連絡を取ったら「もう関係のないことだから」と言って引き取りを断ったそうです。最終的には、ケースワーカーがその後の処理をしたとのことでした。腐乱してしみだした体液が木造の家にしみついて、もはや次の人に貸せる状態にはならなかったそうです。アパートのその一室はいまだに人には貸し出されていません。
 その後、私はNHKが「無縁社会」というタイトルで番組を放映し、その番組は大きな反響を呼んだことを知りました。NHK取材班はこの無縁社会の番組についての本(「無縁社会・無縁死 三万二千人の衝撃」NKK「無縁社会プロジェクト」取材班 編著)を出版しています。タイトルの「三万二千人」という数字は、1年間に、少なくとも税金で火葬、埋葬された遺体の数です。死亡して、親族が遺体を引き取るのを拒否した場合、遺体が発見された所在地の自治体が火葬し、埋葬することになります。このように遺体の引き取り手がなく、自治体が火葬・埋葬するケースが、一年間に少なくとも三万二千人もいるということなのです。
 今年1月、札幌市白石区で、42歳の姉と障害をもつ40歳の妹が、遺体となって発見されました。姉は病死、妹は凍死でした。このお姉さんは福祉事務所に相談に訪れていたといいます。この白石区では、1987年に3人の子どもをもつお母さんが餓死するという事件が起きています。
 私の実家の隣のアパートで亡くなった方は、生活保護を受けており、死因は病死ということでしたので、孤立して亡くなったことは確かですが、援助があれば死を防げたとは言えないケースです。しかし、この白石区のケースは、死を防ぐことができたケースです。しかも、姉妹のケースも、母子のケースも、両者とも福祉事務所に助けを求めていたケースです。
 白石区で起きたケースのような死を防ぐには何ができるのでしょうか。
 私はこの問いに対して、まだ明確な答えを持ち合わせていませんが、このとき福祉事務所が援助をしていれば、死そのものは防ぐことができたのではないでしょうか。もちろんこの問題は、一福祉事務所の一ケースワーカーの判断だけの問題ではないと私は考えています。今年の憲法と人権の集いは、このような孤立死をどう考えていけばよいのかということを皆さんで考えていく機会であると考えます。
 また、援助があれば死ななくて済んだのに、という状況には至らないにしても、現在の無縁社会では、孤立して死を迎える可能性はどのような人にもありうることではないでしょうか。そのような死を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか。集いの中でみなさんと一緒に考えていきたいと思っています。ぜひ、お誘いあわせのうえご参加ください。(憲法と人権を考えるつどいは、11月18日(日)13時半からシルクホールで行われます。)