事務所だより
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2013年8月 残暑お見舞い申し上げます
2013.08.20
残暑お見舞い申し上げます
2013年8月

弁護士 大 脇 美 保 : 「被害者参加制度」をご存じですか?
弁護士 久 米 弘 子 : 映画「約束」をみて
弁護士 塩 見 卓 也 : 「裁量労働制」や「管理職」なら残業代が出ない?
弁護士 中 島    晃 : 「富士山」の世界遺産登録にあたって
弁護士 中 村 和 雄 : 生活保護切り下げ問題
弁護士 諸 富    健 : 「明日の自由を守る若手弁護士の会」について
弁護士 吉 田 容 子 : 参議院法務委員会への参考人出席
弁護士 分 部 り か  : 高齢者・障がい者虐待の防止について
事務局一同


「被害者参加制度」をご存じですか?
弁護士 大 脇 美 保

1 最近、テレビの刑事裁判報道の法廷の映像で、検察官席の後ろや横に、
 数多くの弁護士が座っているのをご覧になったことがあると思います。
 最近の京都の事件では、亀岡の、無免許運転によって多数の児童等が
 犠牲になった事件がありました。
 昔の刑事裁判ではこのような光景はありませんでした。
 2008年12月1日から、犯罪被害者等が刑事裁判に参加して、公判期日に出席したり、
 一定の範囲で被告人や証人に対し質問をしたり、裁判所に求刑について意見を
 述べたりすることができる「被害者参加制度」が施行されているのです。
 それまでは蚊帳の外に置かれていた被害者が刑事裁判に参加できるように
 なったわけです。

2 すべての犯罪について参加が認められるわけではなく、対象犯罪は、
 故意の犯罪により人を死傷させた罪、強制わいせつ及び強姦、業務上過失致傷等、
 逮捕・監禁・誘拐などの一定の重大事件です。
 また、参加の申し出ができるのは、被害者、被害者の法定代理人(未成年の被害者の
 両親等)、被害者が死亡した場合や心身に重大な故障がある場合における配偶者、
 祖父母、父母、子などの 直系親族、兄弟姉妹、又、これらの方から
 委任を受けた弁護士です。

3 参加するかしないかは被害者等の自由であり、義務ではありません。
 弁護士費用については、資力(現金、預金等の流動資産の合計額)から
 犯罪行為を原因として3ヶ月以内に支出することと認められる費用を控除した額が、
 基準額(150万円))に満たない被害者参加人は、法テラスを経由して、
 裁判所に対して、国選被害者参加弁護士の選定を要求することができ、
 被害者の方々に経済的に負担をかけない制度が整備されつつあります。

4 どのような犯罪であっても、被害に遭われた方の状況は本当に大変です。
 たとえ、事件が刑事で起訴されなくても、そのことにかわりはありません。
 被害者やそのご家族やご親族の方に寄り添って、刑事上、民事上で可能な手段を
 考えていくことも、弁護士の新しい仕事の分野となってきています。
 加害者が起訴されていなくても、また、民事上の損害賠償の請求においても、
 収入等によっては法テラスが利用できる場合はあります。法律相談自体も、
 相談される方の収入等によっては無料でお聞きできる場合がありますので、
 まずは、お問い合わせ、ご相談ください。

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映画「約束」をみて
弁護士 久 米 弘 子

私は映画が好きです。いつも映画評をみては観に行きたいと思っています。
ただ、なかなか映画館まで行く時間がないので、正月休みや夏休みの外は、
近くの会場で自主上映の映画やテレビで録画しておいた昔の映画を観ています。
昔の名画といわれるものも好きですが、評判の若い俳優さんが出ている
最近の映画も観ます。和洋は問いません。

だんだん気楽に楽しめるものが良くなってきたな、と思うところがありましたが、
最近観た「約束」という映画は、とても深刻なものでした。
「約束」には、「名張毒ぶどう酒事件死刑囚の生涯」という副題がついています。

名張毒ぶどう酒事件は、1961(昭和36)年三重県名張市の小さな村の懇親会で
ぶどう酒を飲んだ村の女性5人が死亡し、同席していた当時35歳の奥西勝さんが
犯人として逮捕された事件です。
奥西さんは、一度は犯行を自白しますが、その後一貫して
「警察に自白を強要された」と無実を訴え続けました。一審の判決は無罪。
控訴審でまさかの逆転死刑判決、1972(昭和47)年の最高裁判決で死刑が確定しました。
今、奥西さんは86歳、拘置所の独房で毎日死刑執行の恐怖に耐えながら
再審請求を続けています。

名張毒ぶどう酒事件がおこった時、私は大学1回生でした。
マスコミの報道はとてもセンセーショナルなもので、
奥西さんは、極悪非道な殺人犯に間違いないという雰囲気でした。
私も弁護士になって奥西さんの再審請求を知るまで、正直なところ、
あまり関心はありませんでした。
しかし、奥西さんのえん罪を訴えて支援する人々が大勢おり、日本弁護士連合会も
再審を支援していること、弁護団には親しい弁護士が加わって大変な
努力をしていることを知って、再審の行方に関心を持つようになっていきました。

「約束」は、まだ結論の出ていない再審事件をとり上げ、奥西さんの無実を
社会に広く訴えている映画です。奥西さん役には仲代達矢さん、息子の無実を信じて
面会に通い手紙を書き続けた母タツノさん役に樹木希林さん、
ナレーションは寺島しのぶさんという面々。事件のはじまりから、死刑判決、
独房での奥西さんの生活、そして名古屋高裁で一旦再審請求が認められながら、
検察の異議申立てで取り消されたなどの事実を、一部実写も含めて紹介しており、
その映像には迫力と説得力がありました。

警察のシナリオにそって、次々と変遷する村人たちの証言、弁護団が探し回って、
検察の主張する毒物と混入された毒物とは別のものとわかったこと、
歯でぶどう酒のビンの王冠を開けて毒物を混入したとなっているのに、
弁護団が同じ形のビンと王冠を作って実験したところ不可能であったことなど、
弁護団の無実を証明するための大変な努力がよくわかります。

再審無罪を信じて、きっと拘置所の外で再会しようと約束した母タツノさんは、
その日を待たずに他界します。事件から51年、奥西さんは、
昨年一時危篤状態になりました。今も体調は大変悪いそうです。
一日も早い再審無罪を願わずにいられません。

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「裁量労働制」や「管理職」なら残業代が出ない?
弁護士 塩 見 卓 也

わが国では、「サービス残業」という言葉が象徴するとおり、
長時間働いても残業代を支払ってもらえない労働現場が現実に沢山存在します。
労働基準法上の法定労働時間である1日8時間、1週40時間以上働いているのに、
残業代を支払わないことは違法で、長時間働いたのであれば、
雇い主に対し残業代の支払いを当然に請求できます。

そんな中で、「うちの職場は『裁量労働制』だから」
「自分は『課長』で『管理職』だから」と、長時間働いても残業代が出ないことについて
仕方ないとあきらめている方も沢山います。
しかし、形式上は「裁量労働制」や「管理職」とされていても、
雇い主は残業代を支払わなければならない場合があります。

まず、「裁量労働制」とは、一定の業務について、実際に労働した時間数ではなく、
労使協定などで定めた時間数だけ労働したものとみなす制度をいいます。
「裁量労働制」には、労働者が定められた時間に縛られず、自分の計画に従って
自由に労働しうる形態として評価する考え方もありますが、労働の量や期限は
使用者によって決定されるので、命じられた労働が過大である場合、
労働者は長時間労働を強いられ、しかも時間に見合った賃金は請求し得ないという事態が
生じてしまうという問題があります。
なので、労働基準法は、「裁量労働制」の対象を業務内容に裁量性がある業務のみに
限定した上で、その制度を職場に導入するためには雇用主と労働者代表との間で
労使協定や労使委員会決議を定め、それを労基署に届けなければならないことを
定めています。

職場で「裁量労働制だから残業代は出ない」と言われていても、
実際には労使協定が締結されていなかったり、裁量労働制の対象外業務を
行わせていたりすれば、裁量労働制の適用は認められず、
雇い主は残業代を支払わなければなりません。
裁判例でも、当事務所の中村和雄弁護士が代理人を務めた
ドワンゴ事件(京都地判平18.5.29)は、管轄の労基署に労使協定の届出がない事案で
残業代支払いを命じていますし、
私が代理人を務めたエーディーディー事件(京都地判平23.10.31、大阪高判平24.7.27)は、
裁量労働制の対象外業務を行わせていた事案で残業代支払いを命じています。

また、労働基準法では、「管理監督者」にあたる労働者には残業代は支払わなくても
よいことになっていますが、「管理職」と呼ばれる役職は「管理監督者」と
イコールではありません。

単に役職の肩書きだけが「管理職」であったとしても、「経営者と一体的立場」と
いえるほどの権限がなかったり、その勤務形態に労働時間の裁量性が
認められなかったり、その地位に見合った十分な待遇を受けていなかったりすれば、
「管理監督者」にはあたらず、「管理職」であったとしても、
残業代支払いを雇い主に求めることができます。

労働相談を聞いていると、「裁量労働制」だから、「管理職」だからと、青天井の
長時間労働を行わせながら、残業代を支払わない悪質な事業者が散見されます。
思い当たる方は、是非一度ご相談下さい。

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「富士山」の世界遺産登録にあたって
弁護士 中 島   晃

今年6月、カンボジアで開かれたユネスコの世界遺産委員会で、
「富士山」の世界遺産登録が決まった。また、ユネスコの諮問機関・イコモスが、
登録除外を勧告していた三保松原も、逆転で構成資産に含まれることになった。

「富士山」の世界遺産登録は、マスコミが大々的に報道したのを始め、
地元の山梨、静岡両県でも祝賀のためのイベントが開催されている。
今回の「富士山」の遺産登録自体は、歓迎すべきことであるが、同時に
世界遺産登録をめぐる問題点もうきぼりになった。

「富士山」は自然遺産ではなく、文化遺産として登録されたが、それは、
「富士山」の自然破壊が進行していることにもよるが、それだけではない。
富士山には、米軍と自衛隊の基地があり、「キャンプ富士」には米海兵隊が常駐している。
このことが富士山の遺産登録に影を落とし、自然遺産ではなく、
文化遺産として登録された背景になったのではないか。

ところで、「富士山」の登録名称は、
「富士山−信仰の対象と芸術の源泉」ということになった。
しかし、江戸時代には、富士山は信仰の山であったが、現在では必ずしもそうではない。
すでに世界遺産となっている熊野古道(「紀伊山地の霊場と参詣道」)などと比較すると、富士山の信仰の対象としての性格はかなり稀薄になっている。
そこで、登録名称として「信仰の対象」のほかに、
「芸術の源泉」がつけ加えられたと思われる。

今回、日本から世界遺産の登録申請していたのは、
「富士山」ともう一件「武家の古都・鎌倉」があった。
しかし、「武家の古都・鎌倉」は、イコモスの事前審査の段階で、
不登録とされたために、登録の申請を取り下げている。
その一方で、富士山の遺産登録が認められたのは、「Mt.Fuji」の世界的な
知名度の高さによるのではないかと考えられる。

しかし、文化遺産として、富士山と鎌倉を比較した場合、異論があるかもしれないが、
文化財としての価値は、むしろ鎌倉が上ではないだろうか。
少なくとも、富士山よりも鎌倉が低く評価されることはないと思われる。
しかし、ユネスコでは、富士山の登録は認められたが、鎌倉は認められなかった。
このことは、世界遺産登録が知名度や、三保松原が構成資産に入ったように、
外交的な根回しといった要素に左右されることを示している。

そうすると、「富士山」の世界遺産登録を、手放しで喜んでばかりいるわけにはいかない。
とりわけ、「富士山」の登録にあたって、入山規制など環境保全のための
対策の強化が条件とされている。
このことは、世界遺産登録を観光の起爆剤と見る、昨今の風潮に警鐘を鳴らすものである。

いま必要なことは、登録の有無にかかわりなく、人類にとって、
「顕著な普遍的価値」を持つ遺産を保存し、これを将来の世代に伝えていくために、
私たち現在世代が真剣な努力を払うことではないだろうか。
今後、日本が世界遺産登録に取り組むにあたっても、このことが何よりも
重視される必要があると思われる。

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生活保護切り下げ問題
弁護士 中 村 和 雄

政府は今年度予算について、生活保護制度関連予算を見直すとして450億円を
削減しました。
8月1日から生活保護基準が切り下げられます。
さらに、政府は、生活保護法改正案を臨時国会に提出しました。
参議院が、安倍首相の問責決議を可決したことから法案は廃案となりましたが、
秋の国会には再び法案が出されます。

今回の改正案は、真に生活保護が必要な人たちの申請を抑制する危険が大きいものです。これまで、多くの自治体で申請者に申請書さえ渡さないなどの「水際作戦」が横行し、
違法であることが裁判所でも確認されています。
ところが、今回の改正案では、これまで口頭でもできた申請手続きを
すべて所定の様式を備えた申請書によって行わなければならないとし、
さらに必要書類の添付がなければ申請を認めないとしています。
窓口において申請書を渡さなければ申請ができないことになりますし、
必要書類が添付されていないから申請は認めないとされる危険もあります。
もちろん、すべての窓口がそんな対応をするとは思えませんが、
自治体のなかにはそうしたことをしそうなところもあります。

また、今回の改正案では、要保護者の扶養義務者について、
官公署や日本年金機構等に対して、資産状況などの資料提出を求めたり、
銀行、雇主その他の関係人に報告を求めることができるとしており、
プライバシー権害の危険もあります。
さらに過去の受給者の扶養義務者についてまで調査できるとしています。

今回の改正案が通ると、真に生活が困窮し生活保護が必要な方たちを萎縮させてしまい、生活保護申請を抑制させる結果になってしまいます。
そもそも、今回の生活保護切り下げについては、自民党などの周到な作戦がありました。週刊誌などを使って受給者のバッシングを宣伝し、吉本お笑いタレントを
ターゲットにした不正受給キャンペーンを大々的に展開しました。
不正受給者が巷に溢れているようなマスコミ論調でした。
しかし、政府も認めているように生活保護の不正受給者は全体の2%にも
達していません。
明らかに生活保護申請を萎縮させるための、そして生活保護支給を減額するための
悪質な世論誘導です。
いま必要な政策は、生活保護受給者が自立できるように丁寧な生活指導をしたり、
職を確保する援助を行政が責任をもって行うことです。
そして、大企業による労働者の安易な切り捨てを辞めさせることです。
そうすれば、生活保護費は抑制できるのです。

憲法で保障された「健康で文化的な最低限度の生活をする権利」(憲法25条)を
すべての市民が享受できるように、国会できちんとした議論がなされることを望みます。

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「明日の自由を守る若手弁護士の会」について
弁護士 諸 富   健

1 立ち上げの経緯
 昨年の衆院選では、憲法について特段争点とならないまま、自民党が圧勝しました。
 しかし、自民党は昨年4月に改憲草案を発表し、衆院選でも公約に掲げていたのです。
 改憲草案について知られないまま参院選を迎えて自民党が勝つことになれば、
 本当に憲法が変えられてしまう、それはとても恐ろしいことだと
 全国の若手弁護士が考え、今年1月、改憲草案の危険性を知らせる一点を目的として、
 「明日の自由を守る若手弁護士の会」(略称:あすわか)を立ち上げました。
 現在、全国に約250名の会員がいます。

2 活動内容
 「あすわか」は、これまで憲法に関心を持っていなかった人にも
 憲法のことを知ってもらいたいという思いで、様々な活動に取り組んでいます。
 ブログやフェイスブック、ツイッターで瞬時に情報を発信することはもちろんのこと、
 かわいらしいイラストのパンフレットや紙芝居を作成して、
 憲法の問題をわかりやすく解説することを心がけています。
 また、各地で学習会の講師を務めたり街頭宣伝をしたりするだけでなく、
 クラブやライブハウスで憲法について語り合う集会など、
 若者が気軽に参加できるようなイベントも実施しています。
 さらに、超党派の国会議員が立ち上げた「立憲フォーラム」と共同で
 集会を主催したり、憲法研究者との共同声明を公表したりして、
 広範な人とつながりを持ちながら、社会に対してアピールを続けています。

3 これから
 参院選の結果がどうなっているかわかりませんが、
 憲法改正が重要な政治課題になるおそれは十分あります。
 今後の憲法問題の動きについて、是非注目して下さい。
 学習会の御要望があれば、少人数でも駆けつけますので、是非声を掛けて下さい。

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議院法務委員会への参考人出席
弁護士 吉 田 容 子

1 6月上旬に参議院法務委員会に参考人として出席した。
 「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」(いわゆるハーグ条約)の締結に向けた
 国内実施法案の審議にあたり、DV被害者の支援にあたる弁護士として
 意見を述べるためである(本条約の締結によりDV被害者とその子の保護が
 後退する懸念は、一部の議員を除けば、共通の認識)。
 当日は、参考人4人が各15分の意見陳述を行い、その後各議員からの質問に答えた。

2 私は、予め資料を用意し(医師等による研究報告書、内閣府の調査結果、
 法務省の統計資料、医学専門雑誌などの資料など)、概ね以下の意見を述べた。

(1)暴力には様々な形態がある(心理的な追い込み、行動の制限、性的支配など)。 
  「家族」という閉ざされた関係の中で様々な暴力を受け続ける被害者は、退却し、
  加害者に譲り、従う割合が増えていく。DVの目的は相手方を屈服させ
  支配することであり、一つ一つの暴力・暴言等をバラバラに分断して捉えるのは
  間違いで、全体を見る必要がある。
  「子どもを利用した暴力」も深刻で(加害者が自分の言いたいことを
  子供に言わせて被害者を攻撃する、離婚・別居の際に子どもとの面会の機会を
  利用して被害者に嫌がらせをする、子どもを取り上げると脅す、
  子どもの前で被害者を非難・中傷する、子どもを連れ去るなど)、
  これは離婚後も継続する可能性が強い。

(2)女性の3人に1人は身体的暴行・心理的攻撃(脅迫)・性的行為強要の
  いずれかを受けており、20人に1人は「命の危険」を感じたことがある。
  2010年には1年で125人の女性が夫からの暴力により命を奪われている
  (同年だけでなく毎年ほぼ同数又はそれ以上の女性が夫により命を奪われている)。

(3)頻発するDVにより、被害女性は、身体的外傷、ストレスによる内科的影響のほか、
  うつ状態、PTSD、複雑性PTSDなど長期にわたる深刻な被害を被る。
  DVの影響は子どもにも及ぶ。直接子どもに向けられた虐待
  (子どもの成績や生活態度などが気にらないと暴力・暴言を吐くなど)は多く、
  また、DVに子どもを曝すことも虐待である。
  「家庭」という最も守られ安らげるはずの場所で、家族にむけた暴力が
  繰り返されるという状況は、子どもの基本的な安全感や信頼感を奪う。
  DVを目撃し、恐怖の体験をした子どもは、物が壊れる音を聞いたり
  人の叫び声を聞くだけで、動けなくなることがある。
  心から安心することが出来ないため、人とうまく関われないなど対人行動に
  問題が生じる、落ち着きがなくなって学習に集中できなくなる、
  自分を価値のある者と思えず自傷行為を繰り返す、暴力で問題を解決する親の姿を
  見ることで暴力のある家庭を再生産する(暴力の連鎖)など、様々な影響がある。
  さらに、DVの目撃は子どもの脳の発達を阻害する。
  最新の脳の画像撮影技術を用いた研究結果により、DVを日常的に目撃した子供は、
  対象群に比べ、目で見たものを認識する脳の視覚野の一部の発達が阻害されることが
  わかった(右脳の視覚野にある一部は、DV目撃経験のある男女が平均で6.1%小さく、
  約6.5%薄くなっていた、左脳の視覚野にある一部も約6%小さかった)。
  DVをみた嫌な記憶を何度も思い出すことで脳の神経伝達物質に異変が起き、
  脳の容積や神経活動が変化して様々な精神症状を引き起こすと考えられている。

(4)「外国人として生活する立場の弱さ」も重要な視点である。
  本条約の対象は国境を超えた子の移動であるが、多くの国で、
  外国人女性やその子はDVや虐待の被害にあいやすい。
  人種・民族の違い、言語能力の違い(居住国の言葉が自由に話せない・読み書き
  できない)、文化・習慣の違い、居住国の支援制度を知らない、
  親族・友人が少なく相談ができない、在留資格の取得・更新に夫の協力が必要で
  DV被害にあっても離婚しにくいなどに起因するもので、
  深刻な被害を受けても支援にたどりつけないことが多い。
  従って、当該居住国での外国人女性の保護の充実が必要であるし、
  日本の在外公館による邦人保護の強化も不可欠である。
  また、DVから逃れるために帰国した母子が、外国でおきたDV被害について
  その証拠(医師の診断書や警察への相談記録、周囲の人のDVの目撃情報など)を
  収集することは一般に困難である。
  子の利益を守るため、裁判所や中央当局(ハーグ事案を扱う政府機関)は
  できるだけ多くの資料を収集すべきであるし、そのための仕組みを作る必要がある。

3 議員の多くはDVへの理解を示したが、「125人死亡」との指摘には
 驚いていた(これは基本情報であり、当然この位のことは知っていると
 思っていた私が甘かった。必要なところに確実に知らせる必要を感じた)。
 証拠収集の重要性・困難性についての理解もあったが、残念ながら附帯決議に
 盛り込むことはできなかった。
 親権制度についての質問もあったが、これは親の子に対する「責任・義務」であり、
 親の「権利」であることを前提とした主張はそれ自体不合理であると回答しておいた。
 4月におこなわれた衆議院法務委員会での参考人意見陳述・質疑は、
 国内実施法の検討はそっちのけで、「DV冤罪」と「共同親権」という言葉が
 飛び交っていた。
 しかし参議院では落ち着いた雰囲気で本来の検討ができ、「良識の府」は
 まだ生きていると感じた一日であった。

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高齢者・障がい者虐待の防止について
弁護士 分 部 り か

私は、高齢者・障害者の支援に関心があり、弁護士会では、
高齢者障害者支援センター運営委員会に所属しています。

昨年秋、障害者虐待防止法が施行されました。
配偶者間暴力、児童虐待、高齢者虐待に続いて、施行された
虐待・暴力に関する法律となります。
もちろん、それぞれにまだまだ不十分な点があることは否定できませんが、それぞれの
暴力・虐待に対する行政の責務が法律に規定されたことは、成果であるといえましょう。

高齢者・障害者の虐待について、法律では、@身体的虐待、A性的虐待、B心理的虐待、
C放棄・放任、D経済的虐待を規定しています。
法律が想定している虐待者としては、現在のところ、養護者、施設従事者、
使用者(障害者虐待の場合のみ)です。
養護者とは、現に高齢者、障害者を養護する者で、施設従事者ではない者を指します。
多くの場合、養護者は、現在その高齢者、障害者を養護している家族となります。

高齢者の場合、 平成18年に高齢者虐待法が施行されてからの統計が
取られていますが、平成23年度の統計によると、
養護者からの高齢者虐待と認定された数は、全国で16599件です。
平成18年から23年まで12000件から16000件代で推移しています。
平成23年度の数字を単純に計算すると、一日あたり、約43件の虐待が
認定されているということになります。

家族の抱える問題は、その家族によって様々ですが、
養護者からの虐待の発生の背景として、家庭内の人間関係、生活環境、
セルフネグレクト、経済的困窮、介護負担の急激な増加、社会的孤立等が
あげられると思います。
虐待に対応するためには、まず第一に、ご本人の身体生命の安全の確保ですが、
虐待の背景にある問題の解決をしなければ、本来の虐待の解決には
至らない場合が多いのです。

これらの背景は、養護者と当事者の方だけでは解決できない場合のほうが
多いと思います。
また、虐待の当事者がご自身で相談に出向くことは少ないでしょう。
したがいまして、周囲の方がちょっとでもおかしいと思われたら、
相談機関に連絡をしてください。
では、どこに連絡をすればよいのでしょうか。
ちょっとでも気になることがあれば、お住まいの地域の
地域包括センター(高齢者虐待の場合)、福祉事務所の支援課、
または障害者虐待防止センター(いずれも障害者虐待)が相談に対応します。
また、私たち弁護士にも虐待の早期発見努力義務が課せられていますので、
弁護士でもかまいません。
実際に、虐待と認定された場合、当事者の方の安全を確保するのは、
市町村の役目になりますが、私たち弁護士も虐待の背景にある問題解決の
一助を担っています。
たとえば、経済的虐待であれば、成年後見制度の利用援助をすることがあります。
(成年後見制度も利用しやすいように、地方自治体が申立費用や後見人報酬の
支給支援をしています。
たとえば京都市成年後見制度利用支援事業(申立費用・報酬支給)について

気になることがあれば、遠慮なく私たち弁護士や、地域の相談機関に
ぜひご相談ください。

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