残暑お見舞い申し上げます
2015年8月
弁護士 大 脇 美 保
弁護士 久 米 弘 子
弁護士 塩 見 卓 也
弁護士 中 島 晃
弁護士 中 村 和 雄
弁護士 諸 富 健
弁護士 吉 田 容 子
弁護士 分 部 り か
事務局一同
2015年夏から発足する
「京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター」とは
弁護士 大 脇 美 保
1.「ワンストップ相談支援センター」とは何か、なぜ必要か
性被害者の方は、心身に大きなダメージを受けているにもかかわらず、その多くは、
被害に遭ったことを誰にも相談できずにいます。
なんとか誰かに相談し、あるいは支援を受けようという気持になっても、
必要な支援にたどりつくまでには、自ら調べていくつもの支援機関等に足を運び、
そのたびに自分の身に起こったことを説明し、その過程で、相手の心ない言動に
傷つけられることも少なくありません。
また、必要な支援機関にたどりつく前に、気持ちが萎えてしまい、結局、
何の支援もうけられないといったことも少なくありません。
このため「ワンストップ相談支援センター」が必要となります。
ワンストップ相談支援センターは、性被害者の方に、被害直後からの総合的な支援
(産婦人科医療、相談・カウンセリング等の心理的支援、捜査関連の支援、法的支援等)を
可能な限り1か所で提供することにより、被害者の方の心身の負担を軽減し、
その健康の回復を図るとともに、警察への届出の促進・被害の潜在化防止を
目的とするものです。
2.性被害とは何か
みなさんは「性被害」というと、どんなイメージを持たれるでしょうか。
「若い女性が夜道を歩いていて、知らない人から被害を受け、すぐに警察に駆け込む」
というイメージではないでしょうか。
しかし、実態は大きく異なります。
内閣府の「男女間における暴力に関する調査報告書」(2015年4月)によれば、
「まったく知らない人」が加害者である場合は11.1%しかありません。
面識がある人からの被害が74.4%です。また、未成年の被害も多く「小学生以下」11.1%、
「中学生」2.6%、「中学卒業から19歳まで」23.1%となっており、「40歳以上」も3.4%と
なっています。
さらに継続的な被害も多く、この調査報告書によれば「異性から無理やりに性交された
経験がある」と答えた女性は6.5%であり、「2回以上あり」が2.8%でした。
このように、面識のある加害者からの繰り返しての被害の場合、警察などに助けを
求める事がより困難になります。
「性被害」とは、広く「(被害者の)意に反する性的言動」を意味し、「セクハラ」と
呼ばれる言動も含まれ、刑事事件にならないものも当然含まれます。
また、最近は「リベンジ・ポルノ」なども大きな問題になっており、身体的接触も必ずしも
必要ではありません。
今回の京都府のワンストップ相談支援センターでは、さらに男性の被害、同性からの
被害なども受けつけることになっており、これまで救済されてこなかった被害にも
目を向けていく予定です。
戦後70年「戦争は二度とアカン」
弁護士 久 米 弘 子
今年は、戦後70年ということで、マスコミには数多くの戦争体験者のお話が
報道されています。
今、国会で安保関連法案(戦争法案)が審議中ということもあるのでしょう。
兵隊として戦った人、沖縄戦の住民、空襲の被害者、原爆の被爆者、中国残留孤児、
中国や朝鮮からの引揚者、シベリア抑留者など、どの体験者も戦争がいかに悲惨か、
人の命がいかに軽く扱われ、いかに無残に奪い、奪われたかを生々しく訴えています。
そしてもう1つ共通するのは、辛うじて生き延びた人々が、その体験を永い間身内にも
ほとんど話すことができなかったこと、余命が短いとさとった今日、重い口を開いて、
ようやく語りはじめた、ということです。
「戦争の実態を知らん者がまたしても戦争への道を歩み出そうとしている。
戦争は二度としてはならん。戦争で亡くなった人々のためにも、戦争への道を
許してはならん」と。
私は終戦の時に3歳になったばかりでした。
直接、戦災にあったわけではありませんが、終戦までの約1年間、母の実家に
母と姉兄の家族4人で縁故疎開していました。
家に残った父は、四条の大丸近くの自宅から宇治田原の母の実家までリヤカー付の
自転車で荷物を運び、家族に会いに来ていたそうです。
私は父が来てくれた時に、はしゃぎすぎて、机の角に目の上を打ちつけてケガをし、
今もその傷跡が残っています。
昨年、父の17回忌の時に、母の実家のひとまわりも年上の従姉が、「お父さんは
よっぽど家族に会いたかったんやろうね。あんな遠いところを自転車で」と
しみじみ思い出話をしてくれました。
父も母も、生前、ほんの時折でしたが、「戦争は二度とアカン」と言っていました。
本当に苦労して子どもを育てた世代だったと思います。
私は、弁護士として、中国残留孤児の国家賠償請求訴訟や原爆症認定訴訟の弁護団に
加わる中で、目の前の依頼者から、あまりにも沢山の人の死を聞き、それが実際に
おこった出来事であることに大きなショックを受けました。
私など、それまで亡くなった人を身近に見たこともなかったのに。
そして、自分が物心ついてからのこの70年間が平和であったことをつくづく
有難いと思い、再びこれを壊さないことこそ、なくなった人々と後の世代に対する
私たちの責任だと痛感したものです。
安保関連法案については、今、全国で反対の運動が拡がっています。
京都弁護士会の歴代会長も連名で「安保関連法案は解釈改憲であり、立憲主義に
反する。憲法9条の改正問題についてどのような立場をとるかにかかわらず、
法律家として、これを是認することはできない。安倍内閣がこのような憲法軽視の
姿勢を即刻改めることを強く要望する」との声明を出しました。
私も元会長の1人として賛同しています。
この原稿を出してから法案は衆院で強行採決され参院での審議に移りました。
反対運動は大きく拡がっています。
あきらめずに、「二度と戦争はアカン」と言い続けましょう。
安倍政権の労働法制改悪
弁護士 塩 見 卓 也
安倍政権の労働法制改悪については、本年の新年号事務所ニュースでも書いたばかり
ですが、この政権がしつこく労働法制改悪をごり押ししようとし続ける以上、
この話を書かざるを得ないので、この夏季号でも続きを書きます。
今から6年半前、2008年の年末は、「リーマン・ショック」を原因とした派遣労働者や
有期雇用労働者の大量首切りに対応するために行われた「年越し派遣村」がありました。
これらの事態は、派遣労働者をはじめとする非正規雇用労働者がいかに不安定な
就労を強いられているかを社会に対し明らかにしました。その反省もあり、
2012年には民主党を中心とする連立政権下で、内容は不十分とはいえ、
改正労働者派遣法をはじめとする非正規雇用労働者の保護強化の方向性を示す
法改正が実現しました。
それに対し、安倍政権は、「労働ビッグバン」を掲げ大幅な労働規制緩和を目論んだ
第1次政権時と同様に、再び労働法制の大幅規制緩和方針を示しています。
安倍政権は、政権発足以来、「産業競争力会議」や「規制改革会議」などの、
労働者側委員が入っておらず、逆に大手派遣会社パソナグループ会長の竹中平蔵などが
委員に入っている、財界側の意向のみ反映される諮問機関を通じ政策を作り、
閣議決定し、自らの政策としています。労働者側の意見を事実上無視して、
2012年法改正の成果を無にするような労働者派遣法の改悪法案や、いわゆる
「残業代ゼロ法案」を現在の国会に提出し、さらには解雇の金銭解決制度などの
成立を目論んでいます。
安倍政権の労働者派遣法改悪案は、2014年の通常国会と臨時国会に、2度提出され、
2度とも廃案となりました。
しかし、安倍政権が続くかぎり、これらの改悪法案は繰り返し提出され続けます。
この原稿を書いている時点で、労働者派遣法案は衆議院の採決を通過しています。
厚労省の富田望職業安定局課長は「この労働者派遣法案を通さなければ派遣事業者が
損失を被り派遣先は人材を確保できなくなる」などと、異常に労働者派遣事業者に
肩入れした放言をしています。
また、安倍政権は、第1次政権のときに「残業代ゼロ法案」「過労死促進法案」と
呼ばれ国民の大反発を喰らい、法案ができていてもそれを国会に提出することすら
できなかった「ホワイトカラー・エグゼンプション」法案も、「時間ではなく
成果で評価される制度」であるとのまやかしを述べながら、法案提出しています。
この法案については、塩崎厚労大臣がオフレコ発言で「小さく産んで大きく育てる」
などと本音を述べたことが報道されています。
そして、これらの法案の通過を今国会で何とか阻止できたとしても、安倍政権が
続く限りは、来年の通常国会には「解雇の金銭解決」制度の法案も含め、3つの法案を
阻止する闘いが必要となります。
全ての働き手が、安定した雇用と人間らしい生活のできる労働条件の下で、
長時間労働などで健康・生命を害することなどなく働けるよう、皆さんも安倍政権の
労働法制改悪政策に反対の声を上げて下さい。
世界遺産と下鴨神社問題
弁護士 中 島 晃
1,今年7月5日、「明治日本の産業革命遺産」が難産の末に、ようやくユネスコの
世界遺産に登録された。
日本国内で、世界遺産に登録された文化財としては、これが19番目になる。
世界遺産条約は、1972年、ユネスコの第17回総会で採択された条約であり、
正式名称は「世界の文化遺産と自然遺産の保護に関する条約」であって、
文化遺産と自然遺産、さらにこの両者の複合遺産を保護し、これを次世代に
伝えていくことを目的とした国際条約である。
締約国は、現在190の国と地域で、世界で最多の加盟国数となっている国際
保護条約であり、日本は1992年に、先進国では最も遅い125番目の締約国となった。
世界遺産とは、人類にとって「顕著な普遍的価値」を有するものであって、
「完全性」と「真正性」を備えたものとされており、「締約国は、自国の有する
全ての能力を用いて」、世界遺産を保存して「将来の世代へ伝えることを確保する」
ために、「最善を尽くすものとする」(条約第4条)と定められている。
2,ところで、日本では近年、世界遺産登録が発表されると、観光客が殺到するといった、
世界遺産フィーバーともいうべき現象が出現している。
これは、世界遺産を人類にとってかけがえのない歴史的文化的遺産として後世に
伝えていくことには、必ずしもそぐわないものがある。
こうしたなかで、最近、世界遺産に登録されている下鴨神社の境内、糺の森の一部に、
分譲マンションを建設する計画が発表された。神社側は、開発業者から借地料を
受け取り、式年遷宮の費用にあてるとしている。
しかし、この計画が下鴨神社をとりまく糺の森など、かけがえのない歴史的
文化的環境を損なうおそれがあることから、「世界遺産・下鴨神社と糺の森問題を
考える市民の会」や周辺住民による「糺の森未来の会」が結成され、下鴨神社や
京都市に説明会の開催などを求める申入れや署名活動が取り組まれ、活発な
運動が展開されている。
3,いまここで問われているのは、世界遺産を観光資源としてとらえて、営利活動の場に
利用しようという風潮をこのまま野放しにしていいのか、ということではないだろうか。
おそらく、下鴨神社の分譲マンションは、国内外の富裕層をターゲットにして
破格の値段で取引されると思われる。そうすると、糺の森のもっている神社の森としての
精神的な特性や文化的な意味が失われてしまうことになるのは目に見えている。
こうしたことから、この問題は世界遺産の登録抹消につながる危険すらはらんでいる。
その意味で、下鴨神社のマンション問題は、世界遺産を観光の起爆剤ととらえ、
安易な営利活動に走る商業主義的傾向と対峙して、市民の精神生活のよりどころとして
世界遺産の歴史的文化的価値を重視し、その歴史的環境を守り抜くという、現代に
おける文化財保存のあり方を根本から問う問題であるということができる。
是非多くの人々が、下鴨神社のマンション問題に注目し、世界遺産を台無しに
してしまうような今回の計画にストップをかけるため、力を貸していただくよう
よびかけるものである。
ワークライフバランス(オランダ調査報告)
弁護士 中 村 和 雄
〈ワークライフバランス〉
長時間労働を抑制し、ワークライフバランスをどう実現していくかが課題となっています。
働き過ぎのために過労死したり過労鬱になったりする事例が後を絶ちません。
生活するために長時間残業を余儀なくされている実態の改善が必要です。
最低賃金の引き上げや均等待遇実現の法整備などが必要です。
しかし、それだけでは十分とは言えないように思います。
〈オランダ調査〉
4月12日から19日まで、日弁連の調査団の一員としてオランダに行ってきました。
アムステルダム、ユトレヒト、ハーグの政府機関や研究所、NPO、大学、労働組合、
法律事務所、使用者団体、保育所、障害児施設などを訪問し、関係者から
聞き取り調査をしました。
今回の調査の目的は、オランダではどのように家事・育児を分担しているのか、
ワークライフバランスを保つために社会的にどのような制度が実現しているのか、
などでした。
ワッセナー合意、オランダモデルなど日本でもオランダの制度が紹介されていますが、
現地に行ってあらためて日本との制度の違いを大きく感じました。
〈オランダモデル〉
この国では、2000年に成立した「労働時間関係調整法」に基づき、自らの就労時間を
労働者が自己決定できる制度が確立しています。8時間労働の正社員が、6時間の
パートに転換したり、週5日勤務の正社員が週4日勤務、あるいは週3日勤務に
変更することが、労働者の権利として認められているのです。
そしてその逆に就労時間を延ばすことも認められています。
家庭生活の必要性にもとづいて、男も女も労働時間を変更できるのです。
そして、「同一価値労働同一賃金」の原則により、パートであっても時間あたりの賃金は
正社員と同じことが保障されます。
夫と妻が共同して、2人で1.5人分働く、これがオランダモデルです。
〈性別役割分担〉
「家事・育児・介護などについては女性が担うべきだ」と考える「性別役割分担」意識が
わが国では今でも根強く存在しています。そのために、男性正社員は何時までも会社に
残って残業するのが当たり前だとされ、女性は家事育児のためにパートで働くのが
当たり前だとされてきました。
出産はまだ男性にはできませんが、家事・育児・介護は男性もできます。
ヨーロッパではわが国と比べると格段に男性の家事・育児・介護への参加率が
高いのです。
先日、ある国内調査が発表されました。男性の家事参加時間が低い県ほど
長時間労働と
なっているのです。
家族的責任分担の推進こそ長時間労働抑制の良薬なのですね。
憲法違反の戦争法案
〜 廃案に追い込むためにあらゆるアクションを!
弁護士 諸 富 健
今国会で審議されている安全保障関連法案と言われるものは、明確に憲法に違反する
戦争法案です。
憲法審査会で参考人として発言した著名な3名の憲法研究者をはじめ、200名を超える
憲法研究者がこの法案を憲法違反だと明言しています。もちろん、日本弁護士連合会を
はじめ全国の弁護士会もこの法案が憲法違反だと捉え、廃案を求めて様々な活動に
取り組んでいます。
ところが、政府・与党は過去最長の95日間(9月27日まで)の会期延長という暴挙に出て、
法案成立に執念を燃やしています。このような企みを絶対に許すわけにはいきません。
今回の戦争法案は、昨年7月1日の閣議決定を具体化するものです。
この閣議決定では、@憲法第9条の下で許容される自衛の措置、A国際社会の平和と
安定への一層の貢献、B武力攻撃に至らない侵害の対処、の3つの柱立てをしていました。
今回の法案はこれに対応し、さらにはそれをも超える形で、@集団的自衛権の行使容認、
A危険な地域での兵たん活動や武器使用、B米軍等の軍艦や戦闘機の防護など、
これまで一定の制約があった自衛隊の活動が地理的にも内容的にも一気に拡大する
ことになります。
憲法9条は言うまでもなく戦争放棄を定めた条文ですが、この規定から集団的自衛権
禁止、武力行使の一体化禁止という2つのルールが導かれます。
今回の法案は、これら2つのルールとも破るものですから、明らかに平和主義に
違反します。
また、憲法は国民の権利・自由を確保するために国家権力を制限するものですが
(これを(近代)立憲主義と言います。)、閣議決定や今回の法案は憲法9条から導かれる
2つのルールという縛りを国家権力自ら解く行為ですから、明らかに立憲主義に
違反します。
さらに、このような憲法に矛盾する法案を成立させたいのであれば、憲法の条文
そのものを改正するために国民投票によって国民の意見を聴くことが必要不可欠ですが
今回の法案は憲法改正手続きを経ることなく憲法9条の内容を骨抜きにする点で、
国民主権の考え方にも真っ向から反します。
このように政治家の皆さんが憲法のルールを自ら破ろうとしている以上、私たち国民
1人1人が声を上げなければなりません。
法案阻止のためにできることはたくさんあります。
気軽にできることで言えば、新聞やテレビで情報を知ること、学習会や集会に参加
すること、署名に応じることなどがあります。次の1歩を踏み出せる人であれば、
リーフやチラシを電車やバスの中で読むこと、ブログやフェイスブック、ツイッターで
ニュースをシェアしたり学んだ内容について投稿したりすること、家族や友達と話しを
することなどがあります。
それでも物足りない人は、国会議員に要請FAXを送ること、新聞に投書すること、
自ら学習会を企画することなどがあります。
戦争法案を廃案に追い込むために、それぞれの条件を生かしながら、できることから
アクションを起こしていきましょう!
追記:自公両党は衆議院で強行採択しました。このような国民無視の暴挙は絶対に
許されません。政治の暴走をくいとめるために、最大限の力を総結集しましょう!
母子家庭の貧困
弁護士 吉 田 容 子
厚労省の調査によれば、「母とその未婚の20歳未満の子のみの世帯」は、2013年に
全国で約82万世帯であり、その年間平均総所得は約243万円、世帯人員1人当たり
所得金額は約92万円でした。
同じ時期に、全世帯(約573万世帯)の年間平均総所得は約537万円、世帯人員1人当たり
所得金額は約203万円でしたので、母子世帯は1人当たりでみても約45%の所得しか
なかったのです。母子世帯の多くは貧困に苦しんでいます。
その原因は、第一に、母の就労収入の低さにあります。
母子世帯の母はその80%以上が就労しており、その就労率は他の世帯の母に比べて
非常に高いのですが、その雇用形態はパートタイマー、派遣、アルバイトなどが多く、
不安定で低賃金の仕事が大半です。
2つ、3つと仕事を掛け持ちして頑張っている母が多いにもかかわらず、就労収入は低く、2010年には、平均年収が181万円で、約3割の母は年収100万円未満、6割以上の母が
年収200万円に達しませんでした。この厳しい経済状況は現在でも変わりません。
母子世帯の母は、子育てと生計維持という重い負担を1人で抱え、子育てと仕事の
両立にも非常に努力しています。
しかし、その就労収入は低く、これが母子家庭の貧困をもたらす根本的な原因です。
第二に、養育費の取り決め率・金額・履行率が非常に低いという問題があります。
厚労省の調査によれば、離婚の際に養育費を取り決める割合は4割未満、その金額は
子ども1人で約3万5000円、2人で約5万円、3人で約5万5000円と低く、しかも、実際に
支払いが続いている割合は2割にも達しません。
家庭裁判所の手続きで離婚する場合には、養育費の取り決め率は高くなりますが、
月額4万円以下が大半で、実際の履行率はまったくわかりません。
家庭裁判所が根拠とする「算定表」についても、その算定方式に疑問があり低額に
すぎるという強い批判があります。
離れて暮らす親は、自分と同じ経済レベルの生活を子どもに保障する義務があり、
それが養育費なのですが、実際には
この義務が履行されないことが余りに多く、母子家庭の貧困の大きな原因と
なっています。
厚労省は2009年に初めて、日本の相対的貧困率が約16%、これらの世帯で暮らす
18歳未満の「子どもの相対的貧困率」が約14%であることを公表しました。
特に1人親世帯(母子世帯のほか父子世帯も含む)では子どもの相対的貧困率が
約54%にもなり、大人2人以上の世帯における子どもの相対的貧困率約10%に比べて、
際立っています。
2012年には相対的貧困率はさらに悪化し、6人に1人が相対的な貧困層に属し、
1人親世帯で暮らす子どもの半分以上が相対的貧困層に属しているという結果でした。
母子家庭がさらに厳しい状況にあることは言うまでもありません。
母子世帯が増加する中で、働く母親の労働条件を改善すること、養育費の金額及び
その履行確保が、緊急の課題です。
※ 相対的貧困率とは、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で
割って調整した所得)の中央値の半分(貧困線)に満たない世帯員の割合を
示すもの。低所得者の割合を示す指標であり、特に所得格差に注目した指標として
世界的に注目されている。
認知症とともに生きる
弁護士 分 部 り か
私は、認知症にり患している高齢者の方の成年後見人をしています。
成年後見人とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」
(民法7条)方について、家庭裁判所が審判により決定した法定代理人です。
成年後見人は、判断能力が不十分な方について、ご本人に代わって、その方の
財産管理や身の上の監護についての法律行為(契約締結等)を行います。
私は、1人暮らしの、アルツハイマー型認知症にり患している方の成年後見人に
就任しました。
ヘルパーとデイサービスの組み合わせで、しばらくは在宅で過ごしておられました。
家事は全面的にヘルパーにお願いしていましたが、長年この方に寄り添ってこられた
ケアマネと、地域住民の方々の支えで、在宅で何とか過ごしておられました。
ところが、認知症の症状が進み、食べたことを忘れ、1分前のことを覚えている
ことが出来なくなりました。今思えば、このような状態は、おそらくご本人に
とてつもない不安な状況だったのだと思います。
私の事務所や、ケアマネの事業所に5分おきに電話をしてきたり、ご近所には、
早朝や、深夜にまだなにも食べていないとドアをどんどん叩いたりしたそうです。
このとき、私は、この方の顔が不安に満ち溢れ、まぶたがぴくぴくしていて、
落ち着かれていない様子にとてもショックを受けました。
ケアマネとヘルパーさんと相談をし、食事だけはきちんととれるように、
ご自身でも食べられる食材を冷蔵庫に常備してもらったり、デイサービスの日を
増やしたりしました。
ケアマネは、地域の自治会の方たちと、介護サービス関係者、そして成年後見人の
私を呼び、この方のケース会議を開催しました。
ケース会議では、早朝・深夜に出歩いているこの方の安全を確保することは、
在宅ではもはや難しく、グループホームの入所を検討するという結論になりました。
日本ではいくつかの種類の入所施設がありますが、比較的安価なところは、
入所待ちも多く、有料ホームでは、貯蓄がなければ到底日々の費用が賄えない場合も
多く、決して選択肢は多くありません。
この方が入所することになったのは、開所したばかりのグループホームでした。
私はこの方がこのグループホームを気に入ってくれるのかとても不安でした。
当初の1か月は自分の持ち物を手放すことができず、どこになにがあるかをいつも
気にしておられました。しかしながら、だんだんとホームに慣れ親しむごとに、
この方の笑顔が増え、肌はつやつやになり、ふっくらされてきました。
ホームには、行事にこの方が楽しく参加されている様子の写真が飾ってあり、
私はこの方が、グループホームという場で、心安らかに生活されていることを
とてもうれしく思いました。
私は認知症にり患している方に接するのは実は初めてでした。
認知症の理解も、研修や、本での机上の知識にすぎませんでした。
電話が5分毎にかかり、何度も説明しても理解してもらえず、途方に暮れたのが
正直なところです。
それでも、かかわり続けていたケアマネ、ヘルパー、地域の自治会の方がおられてこそ、
この方は、次のグループホームでの生活に移ることができたのだと思います。
お1人暮らしでも、認知症にり患しても、このように地域の支えと、介護の専門家と
法律家のかかわりで、安定した生活を支援できるということを私はこの方を通して
実感しました。
認知症に対する適切な理解があれば、身近な方が認知症にり患しても、介護や法律の
専門家の力を借りつつ、その方を尊重しつつ、共に生きる事が出来ると思います。
(認知症に対する理解を深めるサポーター講座は、5人以上集まれば、講師を京都市
長寿すこやかセンターが無料で派遣してくれます。)