暑中お見舞い申し上げます
2016年8月
弁護士 大 脇 美 保
弁護士 久 米 弘 子
弁護士 塩 見 卓 也
弁護士 中 島 晃
弁護士 中 村 和 雄
弁護士 諸 富 健
弁護士 吉 田 容 子
弁護士 分 部 り か
事務局一同
民法の「成年年齢」はどうなるの?
弁護士 大 脇 美 保
1.本年7月から、選挙年齢が18歳に引き下げれましたが、その他の分野では、依然、
・民法上は、「成年年齢」は20歳
・?刑事上では、少年法で、「少年」は20歳未満
となっています。今回は、民法上の成年年齢の動向についてお話します。
2.民法は、明治以来、成年年齢を20歳と定めてきました。
これにより、未成年者が契約などの法律行為をした場合には、未成年者であることのみを理由として、契約などを取り消すことができます。
また、離婚の際に問題となる、養育費の支払いが「成年に達するまで」と定められた場合には、子が20歳になるまでということになっています。
3.実は、一般的にはあまり検討議論されていませんが、法制審議会では、2009年10月に、既に「民法の成年年齢引き下げに関する最終報告書」が採択されており、法務大臣に答申されています。
この最終報告書によると、「民法の成年年齢を18歳に引き下げるのが適当である」とされています。今回、公職選挙法が実際に変更されて選挙年齢が18歳になったことにより、民法の「成年年齢」の問題がクローズアップされてきたわけです。
4.これに対して、日本弁護士会連合会は、「民法の成年年齢の引き下げについては慎重にすべきである」という意見です。これは、以下の理由によります。
@現在、18歳の若者の多くは、高校卒業後に就職したり大学等に進学するなどにしても、親に扶養してもらっており、自立した生活を営んでいるものは多くありません。
A18歳や19歳の消費者被害は統計的にも多くあり、成年年齢が18歳に引き下げられると、18歳、19歳の被害者が、未成年者のための契約取消権によって保護されることがなくなってしまいます。また、消費者への教育の進んではきていますが、十分とはいえない状況です。
B高校3年生以下で18歳となる生徒が出現することになり、親を介しての指導が困難となるおそれがあります。
C養育費の支払い終期が「成年に達するまで」と決められている場合、事実上これが18歳に繰りあげられるおそれがあります。
5.日本には、成年年齢に関連する法令が200以上存在するといわれており、その法令それぞれにさまざまな立法趣旨があります。安易な引き下げは、相当な混乱を発生させるおそれがあります。
いずれにせよ、国民的なコンセンサスを得た上で慎重に定めることが必要です。
みなさんは、どう考えられますか?
「女性の再婚禁止は100日に短縮」
弁護士 久 米 弘 子
「無戸籍の子ども」を知っていますか。民法の規定が原因で深刻な問題になっていました。
今年6月の民法改正でようやく「女性についてのみ離婚後の再婚禁止は6ヶ月」という規定が「100日」に短縮されました。離婚時に妊娠していないことを医師が証明した場合などには、100日以内でも再婚が認められます。
この改正は、昨年12月の最高裁の違憲判決を受けたものです。改正前の「6ヶ月の再婚禁止」は、生まれた子どもが離婚した前夫の子か、再婚した夫の子かを決めるために必要とされてきました。最高裁は、その場合でも離婚後100日あれば足りるので100日を超える再婚禁止は違憲としたものです。離婚後6ヶ月の禁止は、DNA判定法の進化などによって合理性を欠くと批判され、国連の女性差別撤廃委員会からも廃止勧告が出されていました。
これまでは、夫の暴力から逃れて所在を隠してきた女性が、他の男性の子どもを妊娠してもなかなか離婚が成立せず、離婚できても6ヶ月は再婚できないために、子どもの出生届も出せない(出生届を出すと離婚前の夫の子として入籍される)というケースがありました。このため就学など諸制度の保護を受けられない無戸籍の子どもの増加が社会問題になっていたのです。
今回の改正だけではまだ不十分ですが、離婚しても、母子ともに安心して新しい幸せをつかんでほしい、いずれ「100日」の禁止も廃止できるようにしたい、と願っています。
世界遺産・仁和寺を被告とする事件で
全面勝利判決
弁護士 塩見 卓也
世界遺産・仁和寺を被告とし、2年半にわたり闘ってきた労働事件で、2016年4月12日、京都地裁にて全面勝利判決をもらいました。判決は、349日連続勤務や月200時間を超える長時間残業でうつ病を発症した事実などに基づき、残業代含む未払賃金、損害賠償、付加金を併せ、元本で約4253万円の請求を認めました。
仁和寺には、「御室会館」という付属施設があります。「御室会館」では、お昼は昼食を採ることができるレストランが営業され、また宿坊での宿泊客をとっており、その宿泊客には夕食と朝食も出されます。この事件の原告は、「御室会館」の料理長として勤務していました。料理長としての勤務は、宿坊に宿泊客がいる限り休むことができず、つねに長時間連続勤務を強いられる状況でした。それでも、原告は、料理人としての誇りから、お客さんに満足してもらえる仕事ができているなら、肉体的には辛い長時間連続勤務だったとしても、精神的には苦にならずに勤務できていました。
しかし、2011年8月に部下の調理人2名が退職してしまい、調理人が原告一人という状況になり、原告が求めても仁和寺が人員補充を行わないなどから、一層厳しい長時間連続勤務を強いられることになってしまいました。2011年は、1月に4日と12月に5日の計9日しか休日がなく、合計356日勤務を行い、1月5日から12月19日まで349日連続勤務となりました。
2012年3月、原告が自腹を切って調理人紹介所に紹介料を支払い、ようやく二番手の調理人が採用されました。しかし、この二番手の調理人は、水準に達した技量がなく、またその二番手の調理人が調理人紹介所に不義理を行ったこともあり、原告が業務上の注意を行ったり、調理人紹介所に試用期間満了時での終了を打診したりしたところ、二番手の調理人は原告からパワハラを受けていると御室会館の支配人に訴えました。支配人は、原告の言い分の聴き取りも行わず、二番手の調理人からの訴えだけで「パワハラ」があったものとして、調理場のシフトを組む権限を原告からとりあげ、さらには退職勧奨を行いました。原告は、それまでどれだけ肉体的に負担が大きくとも、職人的誇りで何とか支えていた心が折れてしまい、「抑うつ神経症」の診断を受け、勤務ができなくなってしまいました。
判決は、「極めて過酷ともいうべき長時間労働を強いていながら、極めて多額の時間外手当を労働基準法に従って支払っておらず、労働時間規制を軽視する態度は顕著であって、同法違反の態様は悪質である」と述べ、原告側の主張をほぼ全て認めました。この判決は、新聞各紙やTVニュースで採り上げられました。仁和寺は、当初の報道では「控訴も検討する」と述べていましたが、控訴期間経過を待たずに仁和寺側から和解の打診があり、原告・被告とも控訴せず判決を受け入れること、仁和寺が安全配慮を欠いたことにより原告の健康を害したことに対し謝罪し、原告はその謝罪を受け入れた上で仁和寺を退職することで合意し、解決となりました。
この判決が、原告本人の救済のみならず、長時間労働やサービス残業が蔓延しやすいわが国で、長時間労働を抑制せよとの議論に役立つものになればと思います。
よみがえる「三百代言」
弁護士 中島 晃
いまでは死語になったが、かつて「三百代言」という言葉があった。明治の前期、弁護士は代言人と呼ばれた。この言葉は、代言人の資格を持たずに、他人間の争いに関与し、訴訟や談判を行う者、また、ときとして弁護士の蔑称としても使われた。三百とは、300文のことで、わずかな金額の意である。これから転じて、詭弁を弄して他人を言いくるめることを、「三百代言」とよんだ。
何故、こんなことを言うかというと、最近辞任した舛添前東京都知事の政治資金の流用問題で、第三者委員会が、適切とはいえないものがあったが、違法ではないという調査報告を発表したからだ。
しかし、舛添氏の一連の政治資金の支出は、明らかに目的外支出であって、違法である。これを適切ではないが、違法といえないというのは、黒を白といいくるめるものであって、報告をまとめた弁護士たちは、詭弁を弄する「三百代言」といわれても仕方がないのではないだろうか。
舛添前知事の問題で、第三者委員会のメンバーとなった弁護士は、かつて特捜検事として知られた、いわゆる「ヤメ検」であり、最近では、東京電力の「炉心溶融」の隠蔽問題についても、第三者委員会の委員として関与している。
こうした人たちが関与する「第三者委員会」には大きな疑問があり、それは、正義と人権を守るという弁護士の社会的使命に背くものであって、きびしく批判されるべきであろう。
「『ニッポン』の働き方を変える」を出版しました
弁護士 中村 和雄
5月18日、安倍政権は「ニッポン一億総活躍プラン」を発表しました。アベノミクスの成果を強調し、これから目指す「一億総活躍社会は、女性も男性も、お年寄りも若者も、一度失敗を経験した方も、障害や難病のある方も、家庭で、職場で、地域で、誰もが活躍できる全員参加型の社会である。」とあります。開いた口が塞がりません。これまで子育て支援や社会保障を次々と削減してきたのは誰だったのか、労働規制を緩和してきたのは誰だったのか、企業が派遣労働を永続的に使い続けることを認める労働者派遣法の大改悪を実行し、使用者に労働者への残業強制を野放しにしたうえ残業代を支払わなくてよいとする「残業代ゼロ」法案を国会で強行しようとしているのはいったい誰なのか。一国の総理がここまで自らの行ってきた政策に頬被りをすることが許されるのでしょうか。
到底許されません。そこで、安倍政権の労働規制緩和政策に対抗して、僭越ながらわたくしめが「一億総活躍」できない「ニッポン」の働き方を「人間らしく働く」働き方に改革するための方策について、本を出版することになりました。題して、「『ニッポン』の働き方を変える」(かもがわ出版)、定価1,000円プラス税です。「同一(価値)労働同一賃金」、「最低賃金の引き上げ」、「長時間労働の規制」、「ワークライフバランス」「ホワイトカラーイグゼンプション」などのテーマについて、論じています。ご一読頂き、ご意見、ご感想をいただければ幸いです。
立憲主義を取り戻す
弁護士 諸富 健
2012年12月に安倍政権が誕生して以来、立憲主義という言葉がメディアに登場する機会が随分増えました。簡単に言えば、憲法によって個人の自由・権利を確保するために、国家権力を制限することを意味します。国家権力が個人の自由・権利を著しく侵害してきたのが歴史の教訓。そのために、個人の自由・権利の保障を最大の目的とする憲法を国民が定めてそれを国家権力に守らせる、こうした立憲主義の考え方は近代国家の常識とも言えます。
ところが、安倍首相は、憲法の性格について問われた際、「国家権力を縛るものだという考え方があるが、それはかつて王権が絶対権力を持っていた時代の主流的考え方だ」(2014年2月3日衆院予算委員会)と公言し、憲法の縛りを無視するかのような政策を次々と打ち出してきました。憲法96条の改正手続の緩和、秘密保護法の制定、集団的自衛権行使等を容認する閣議決定、そして極めつけが昨年成立した安保法制(戦争法)です。さらに今後、立憲主義の思想とは相容れない緊急事態条項を創設する憲法改正まで目論んでいます。
立憲主義が無視されるということは、個人の自由・権利がないがしろにされるということ。「基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする」(弁護士法1条1項)弁護士にとって、立憲主義の堅持は絶対に譲れない一線です。立憲主義を取り戻すための弁護士会挙げての取組みが様々予定されていますので、是非ご注目下さい。
「性犯罪の罰則が変わります」
弁護士 吉田 容子
2016年6月、法制審議会刑事法部会は、刑法の強姦罪等の改正要綱案(骨子)を、賛成多数で可決しました。9月の法制審議会総会を経て、来年の通常国会に改正案が提出される予定です。
ごく簡単に要綱案(骨子)の内容をご紹介します(主要項目のみ)。
@強姦罪(刑法177条)の構成要件を見直します。現行規定は「女子」に対する「姦淫」(膣性交)のみを重い処罰の対象としていますが、これを改め、行為者及び被害者の性別は問わないこととし、かつ、膣性交に限らず肛門性交や口淫も重い処罰の対象とします。法定刑下限も、現在の3年から5年に引き上げます。これは、性別にかかわらず「性的自由」をしっかり保護するための改正です。
A「18歳未満の者を現に監護する者であることによる影響力に乗じて、性交等やわいせつ行為をした場合」も、強姦罪・強制わいせつ罪と同様に処罰する規定を新設します。これは、暴行・脅迫・心神喪失・抗拒不能のいずれもが認められない場合であっても、犯罪が成立するというもので、監護者(例:父母)による児童への性虐待を取り締まる有力な手段となります。
B強制わいせつ罪及び強姦罪、わいせつ目的・結婚目的の略取・誘拐罪について、親告罪規定を廃止します(非親告罪化)。
改正要綱案(骨子)は、必ずしも性犯罪・性暴力被害者、支援者の声を十分に反映したものとは言えません(例えば、被害者が13歳以上の場合は、強度の暴行または脅迫を手段とした場合にのみ犯罪が成立するとされている点)。しかし、たとえ不十分な内容であっても、100年以上改正されなかった強姦罪等の見直しが実現されることは、大きな前進です。速やかな法改正を期待します。
年金額にみる男女の賃金格差−高齢女性の後見業務を通して−
弁護士 分部 りか
私は、高齢女性の後見業務を複数行っています。具体的には、成年後見制度を利用して、後見人等に就任して、財産管理、身上監護を行っています。みなさん年金生活なのですが、高齢男性に比べると、高齢女性の年金額は低額で、年金額では生活をまかなうことができず、預貯金があれば預貯金を崩し、そうでなければ足りない部分を生活保護でまかなうという形で対応しています。これは、女性の賃金が男性よりも低いことの反映です。定年まで勤め上げ節約をされて暮らしておられたからこそ、預金をすることができ、年金の不足を補うことが出来た方もいれば、ずっとパート等でしか働くことができず、国民年金のみの受給となり、それだけではとても暮らしていけない方がおられます。どのような形態で働いてきたかが(常勤か非常勤か)、どのくらいの期間働いてきたかが年金額に関係するだけでなく、その時代の男女の賃金格差が直接関係しているのだと感じます。
私が後見業務を行っている高齢女性の方々は、80代、90代です。彼女たちが働いていたころは、30、40年くらい前のことになるわけですが、男女間賃金格差は今もまだ存在しているのです。私たち女性が、働き続ける中で、きちんと格差を改善すべく、政治に対しても雇い主に対しても声を上げ続ける必要があると痛感しています。