本年3月4日に、福知山で働くベトナム人技能実習生を当事者として、未払賃金・残業代などの支払いを会社に求める労働審判申立を行いました。この申し立て前後には、技能実習生が朝8時から夜23時まで、日曜日以外は休みなく、いわゆる「過労死ライン」を大幅に超える長時間労働で働かされていたのに、「基本給6万円、残業代1時間400円」という扱いだったことが、京都新聞をはじめ多くの報道機関に報道されました。その労働審判事件が、本年5月10日に開かれた第1回期日で、急転直下の解決となりました。
「基本給6万円、残業代1時間400円」というような労働条件は、もちろん労働基準法や最低賃金法に違反するのですが、かつての入国管理法が、労働法規が適用されない「研修」という資格での外国人就労を許容していた時期には、外国人研修生の労働条件として蔓延していたものでした。現在では、「研修」制度は廃止され、全ての技能実習生には労働法規が全面的に適用されることになっています。にもかかわらず、いまだこのような劣悪な労働条件が、技能実習生の就労現場に蔓延している実態が存在します。
外国人技能実習生については、全国的に酷い事案が多数存在することが頻繁に報道されていますが、酷い事案は京都にも現にあります。国籍にかかわらず、全ての働く人が人間らしく働き生活できるような社会にしていきたいものです。ともあれ、私が担当した事件はいい形で解決できてよかったと思います。
『仏教と歴史に関する19の断想』を出版しました
弁護士 中島 晃
今年4月、弁護士になって50年を迎えるのを機に、「仏教と歴史に関する19の断想」と題する本をかもがわ出版から出しました。この本は、この10年近くの間に、東山の法然院で開かれる「専修念佛塾」に足を運ぶなかで、ご縁ができた宗教同人誌『連続無窮』に載せた文章などをまとめたものです。
50年もの間、弁護士として活動を全うすることができたのは、依頼者の皆さんをはじめ、多くの方々のお力添えとご協力のたまものであると深く感謝しています。
薬害スモンや水俣病さらには薬害ヤコブ病などの薬害公害事件をはじめ、京都のまちづくり景観に関する問題などさまざまな事件を担当し、皆さんからいろいろと教えられ、きたえられ、そしてまた助けられて、今まで仕事を続けることができたのはまことに仕合わせなことであり、有難いことだと考えています。
しかし、弁護士として、そのときどきに直面する争いごとを、国の定める法律にしたがって解決を図り、処理するとしても、それだけで現実に生起するさまざまな社会的な問題や矛盾すべて解決できるかというと、決してそうではありません。法律が現実とかけ離れて、法の不備があらわになることも生じてきます。
そうすると、ときには法律の枠組みをこえた、より普遍的な理念や法理を見つけだし、それにもとづいて社会的な問題や紛争を解決することが求められているのではないでしょうか。
しかし、国の定めた法律の枠組みをこえた普遍的な法理や理念といっても、それが一体何であり、それをどうやって見つけ出すのか、それは決してたやすいことではありません。また、国家をこえる普遍的な理念や法理を見つけだし、その実現に向けて取り組むことは、簡単なことではなく、むしろ多くの困難をともなう作業です。そうした困難な作業に、どう取り組むのかが日々問われているのだと考えます。
私は子供の頃からなじんできた、浄土宗の開祖法然の一枚起請文などの仏教思想を学ぶ中で、こうした困難な作業に取り組むことこそ仏教の説く真理に合致するものではないかと考えるようになりました。こうした思考の過程を跡づけたのが、今回出版した本に書かれた19の断想にほかなりません。
なお、全く思いがけないことに、山口県会議員をされている藤本かずのりさん(小生の存知あげない方です)が本書を読まれて、議員日誌に3回にわたって読書ノートを書いて下さっています。こういう形で、本書を読んでいただいていることは、まことに有難いことと感激しています。
もし、この本に多少なりとも関心をお持ちになり、読んでみたいと思われる方がいらしたら、一般の書店では売られていませんので、市民共同法律事務所か、かもがわ出版(075-432-2868)にお申し出いただければ幸甚です(定価:本体1,800円+税)。
今年も暑い夏を迎えそうです。どうぞご自愛の程お祈り申し上げます。
「ふるさと納税」を考える
弁護士 中村 和雄
総務省は、ふるさと納税で同省の通知を守らずに多額の寄付を集めたとして、6月から大阪府泉佐野市など4市町を制度対象外にしました。泉佐野市は2018年11月から2019年3月までの期間だけで332億円という莫大な寄付額を獲得しました。多くの寄付が集まった理由としては豪華な返礼品の存在がありますが、アマゾンギフト券など多くの返礼品は地元産業とは無関係な品物でした。
泉佐野市などの手法は明らかに他の自治体との公平性を欠くものであり、是正が必要です。しかし、そもそも「ふるさと納税」という制度は、地方自治を崩壊させるものでしかありません。地方自治が発展するためには地方自治体に十分な財源が必要です。しかし、政府は「三位一体改革」を推進するとして、地方自治体にたくさんの仕事を押しつけながら、地方自治体の財源確保については知らんぷりです。そうしたなかで、無理矢理仕組まれたのが「ふるさと納税」です。国が地方に十分な財源を確保することなく、財源のない自治体を競争させてあたかも競争に勝てば財源が確保できると宣伝したのです。しかし、地方税の全体のパイは変わらないのです。どこかの自治体で多くなれば、どこかの自治体は減るのです。ふるさと納税制度は地方自治を発展させるものではないことをご理解ください。地方自治体がきちんと財源を確保できるように、抜本的な制度改革が必要です。
改憲発議を阻止しましょう!
弁護士 諸富 健
2017年5月3日に安倍首相が自衛隊明記や教育無償化に言及して「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と発言して以来、自民党は憲法改正へ向けて本格的に力を注いできました。2018年3月に改憲4項目の条文イメージ案を発表し、何とかして憲法審査会に提示して改憲発議へ向けた議論を進めたいと目論んできました。しかし、実際には、憲法審査会における実質審議はごくわずかにとどまり、条文イメージ案を提示することなく参院選を迎えることになりました。自民党議員による「職場放棄」「ワイルドな憲法審査」といった失言があったとはいえ、憲法審査会における改憲議論をさせなかったのは、市民と野党の共闘や3,000万署名運動の大きな力が働いた成果と言えます。
このニュースが発行されるころには、既に参院選の結果が出ていますが、結果いかんにかかわらず、改憲を食い止めるためにはこの秋以降の取り組みが極めて重要になります。憲法改正手続の国民投票法には、CM規制の問題など多くの欠陥がありますので、改憲発議そのものを阻止しなければなりません。そのためには、改憲派議員たちに改憲発議をしても無駄だと諦めさせるほどの世論形成が必要不可欠です。
「2020年を現行憲法が輝く年に」するために、これまで以上に取り組みを強化して、何としても改憲発議を阻止しましょう!
家族法とジェンダーバイアス
弁護士 吉田 容子
多様化している「家族」と家族に関する法律、その中に潜むジェンダーというテーマの講演依頼を受けた。どう整理したらよいかと迷ったが、まず一般にいわれる「家族」のイメージと現実とのギャップを示し、次に家族に関する法律の概要を戦前と戦後に分けて説明し、その中に潜む様々な問題をジェンダー視点で整理する、ということにした。
準備のためあらためて統計資料をみた。世帯類型別では単独世帯が最多であり一人親世帯を含めると43%を越え(2015)、2035年には48%を越えると予想されている。婚姻数は減少し(再婚数は増加)、離婚数は増加している。子の出生数は減少し、離婚カップルの6割に未成年子がいる。また、いわゆる専業主婦世帯は年々減少し、2018年には全世帯の3分の1(20歳〜64歳では4分の1)となり、労働力率のM字型の底も年々上昇している。「法律婚夫婦とその間の嫡出子」「性別役割家族を標準とする社会システム」は理念としておかしいだけでなく、既に実態にもあわない。
ところが、法律婚尊重主義と戸籍制度信奉があいまって、現在でも、別氏選択制は否定され、嫡出子・非嫡出子の別は残され、法律婚配偶者を優遇する相続法の改正も行われた。同性婚も否定されている。家族法におけるジェンダー解消の動きはほとんどなく、余りに時代遅れと言うべきであろう。
なお、働く女性の6割弱を非正規雇用が占める。1985年の雇用機会均等法施行後、企業は総合職・一般職の振り分けをするようになり、1990年代には企業はその一般職の自社採用さえ控えて契約社員や派遣スタッフを多用するようになった。女性の社会進出が本格化するのと同時に非正規化も急速に進展し、その流れの中で「女性活躍」の推進が叫ばれている。格差拡大と固定化に利用されないように注意が必要である。
「家計の不足は30年で2,000万円」
弁護士 分部 りか
国の金融審議会の市場ワーキンググループが公表した報告書は、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯で家計の不足が毎月5万円、30年で、2,000万円が必要と報告し、話題となった審議会報告です。
この報告書の「はじめに」でこのように記載されています。「本報告書の公表をきっかけに金融サービスの利用者である個々人及び金融サービス提供者をはじめ幅広い関係者の意識が高まり、令和の時代における具体的な行動につながっていくことを期待する。」
そもそも、現役世代に、金融サービスを利用させることが目的であって、その動機付けに、今の年金システムでは30年で2,000万円不足という計算を持ち出したわけです。30年で2,000万円が不足するという部分が注目されて、改めて私達の年金制度や、現在の賃金水準が私達国民にとって十分なものなのかとの議論のきっかけになりました。
国民年金を65歳で受け取り始めた場合、月額は平均5万5,000円(平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況)。なお厚生年金は平均14万7,000円です。これで、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」がすべての国民が享受できるのでしょうか。
同報告書の算出によれば、夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯の実支出は26万3,718円です。同報告書は、その30年間の間、毎月同額の支出とみなし、一ヵ月5万円が不足する(年金収入は、二人合せて、月21万3,718円)としました。30年で合計2,000万円の不足、すなわち夫95歳、妻90歳になるまでの不足です。
日本の高齢者の健康寿命(介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間)は、男性72歳、女性74歳(平成30年高齢者白書)です。90代になるまで在宅で生活することができるとは到底思えません。私が後見制度を利用して支援している高齢者女性の方々が施設入所生活を始めた年齢は、90歳前後。単身者世帯も増えている中で、夫婦世帯という設定にそもそも無理があると思います。
仮に夫65歳以上、妻60歳の夫婦二人世帯で夫が80代になり、在宅介護では生活できなくなった場合、入所施設を探すことになります。
認知症グループホームは月15〜25万円くらい、有料老人ホームは、月20から30万円くらい(このほか医療費、被服費等いろいろかかります。)ですから、先に計算した二人分の年金収入(月21万3,718円)ではじめて一人の入所費用が算出できるかも…という計算になります。こうなると、家に残された側は、貯金のみで生活しなければならなくなります。
いずれにしても、年金だけでは生活できないことは以前からわかりきっていたことでした。このような年金制度や、現在の賃金体系、また今後増えてゆく高齢者の問題は、まさに私達の問題です。きちんと政府の政策に目を光らせていくことが重要です。