迎春
2020年1月
弁護士 大 脇 美 保 : 弁護士30年雑感弁護士 喜久山 大 貴 : 現代スポーツ界の男女二元制とその混乱について 弁護士 久 米 弘 子 : 映画が大好き弁護士 塩 見 卓 也 : 京都市児童相談所職員が公益通報目的で記録を持ち出したことで懲戒された事件で懲戒処分の取消判決弁護士 中 島 晃 : 「桜を見る会」に想う弁護士 中 村 和 雄 : まもなく京都市長選挙です!ご支援をよろしく!弁護士 諸 富 健 : 「表現の不自由」な社会にしないために弁護士 吉 田 容 子 : 「THE LAST GIRL
―イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―」弁護士 分 部 り か : ファイナンシャル・プランニング検定3級受検しました。事務局一同
映画が大好き
弁護士 久米 弘子
今年も新しい年を迎えました。お正月には、昨年亡くなった方々をしのぶと共に、これからの1年の平穏と幸せを祈りたいと思います。
もっとも、今の世の中は、そういう当たり前の願い通りには行かないのも現実ですね。長期政権の矛盾は拡がる一方です。今年はぜひともみんなの力で解決してゆきたいと願っています。
昨年末に、映画「新聞記者」とその原案となった「新聞記者」の著者である東京新聞社会部記者望月衣塑子さんの取材活動に密着した「i-新聞記者ドキュメント」を観ました。いずれも2時間近い力作です。内容の重さもあって、少々疲れましたが、大変見ごたえのある映画でした。
映画「新聞記者」の方は、自殺した幹部官僚が新聞社に送った内部告発資料(生物化学兵器研究を密かに進めるプロジェクトを内閣が許可しようとしているとの内容)をめぐって、元部下の若手官僚(松坂桃李)と女性新聞記者(韓国若手俳優シムウンギョン)が協力して、記事として公表するまでをリアルに描いています。
今の政治はずい分おかしいのに、新聞やテレビなどマスコミがどうしてもっと鋭く敏感な報道をしないのか、と日頃歯がゆく思っていました。この2本の映画を観て、マスコミと政界との癒着や、マスコミに対する「同調圧力」といわれるものが、自由な報道や批判を妨げている実情が改めてわかりました。やはり映画の力はすごいですね。
それにしてもドキュメントでの望月記者の精力的な取材活動と官邸記者会見での彼女に対する質問妨害、そして菅官房長官の回答にならない素気ない回答には驚きました。官邸記者クラブに望月記者を支援する積極的な対応が見えないのも残念です。
彼女の質問は、たとえば沖縄の埋め立て現場の写真を示して、政府の説明する土ではないではないか、などという具体的な疑問についてです。それに対して菅官房長官は何も答えないで、むしろ排除しようとしています。本当におかしいと思いました。
マスコミが権力にむかって声をあげられなくなった時、一般国民の言論の自由など、あっという間に奪われてしまいます。マスコミには、もっとがんばってほしい、そのためには国民の広い応援が必要と痛感します。(ドキュメントの小文字「i」(アイ)は「1人1人の私」という意味を込めているのだそうです。)
ところで、私は映画が好きです。高校生の頃は、社会人になっていた姉にくっついて、今でも名画と言われる恋愛映画(「哀愁」など)をいくつも観に行きました。美しい女優さんやハンサムな男優さんにあこがれ、結ばれない恋に涙したものです。戦争の悲劇を扱った作品も沢山ありました。「禁じられた遊び」のような、すばらしいテーマ音楽と共にいつまでも記憶に残っています。
最近ではテレビで名作映画が放映されることが多いので、録画して見ています。日本映画にもすぐれた作品が沢山あります。私は時代劇も大好きです。
つまり、私は、今も映画が大好き、ただ、なかなか観に行けなくて残念なのです。
ファイナンシャル・プランニング検定3級受検しました。
弁護士 分部 りか
私の業務の大半を後見業務が占める中、後見業務に役立てるため、ライフプランニングや資金計画、年金等について知識が必要と感じ始めていました。そこで、2018年末に一念発起して、ファイナンシャル・プランニング検定受検のための本を購入し、家族以外には内緒にして(不合格になったらはずかしいので)、勉強を始めました。検定のための勉強をするのは弁護士になってからはじめてでしたので時間のやりくりに苦労しました。なかなか思ったように勉強できず、「これではアカン」と思い、無理矢理受検申込みをしてしまいました。お盆休みに勉強しようと思って2019年9月の受検申込みをしたのですが、あてにしていたお盆休みは、急な仕事が入り、あてに出来ないまま…。受検当日まで、過去問を繰り返し解き、なんとか合格することができました。時間がないというのは新しいことをしないための言い訳だったわけで、意外に隙間時間を利用して検定受検に取り組むことができるのだと実感しました。2020年も新しい目標を見つけて新しいことに取り組んでみたいと思います。成年後見業務はご期待に応えられるよう、これからも研鑽を積んでいきたいと思います。2020年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
「THE LAST GIRL
―イスラム国に囚われ、闘い続ける女性の物語―」
弁護士 吉田 容子
これは2018年ノーベル平和賞受賞者ナディア・ムラドさんの自伝である。
彼女が生まれ育ったのは、イラク北西部の小さな村コチョ。村に住むのは少数民族ヤジディ。独自の宗教を信じ、イスラム教徒が多いイラクでは「邪教」として冷遇されていた。それでも村人は貧しいながらも平穏に暮らし、彼女は歴史教師になるか美容院を開くという夢を持っていた。
ところが2014年8月15日、この生活は終わった。ISISがコチョを含むこの地域のヤジディ教徒の村々を攻撃。ISISはイスラム教への改宗を命じたが、村人達は拒否。するとISISは、男性と年配の女性をすべて虐殺し、彼女もこの日母親と6人の兄弟を殺された。ISISはそれ以外の女性は性奴隷にするために殺さず、男子を殺さなかったのは洗脳して戦闘員にするためだ。
彼女は当時21歳。残された女性達とともにイラク中部のモスルに連行された。そこには他地域からも多くのヤジディ教徒の女性が連行されており、奴隷市場が開かれていた。彼女は、地域で権力を握るISIS幹部の裁判官に買われ、繰り返しレイプされ、殴られ、蹴られ、逃亡に失敗すると集団でレイプされ、転売された。
彼女を含む女性達は「サバヤ」にされたのだ。「サバヤ」とは売買される性奴隷の女性をさす。ISISは戦闘員の採用と教育用の文書の中で「ヤジディの女性は人間ではなく奴隷なのでレイプしても罪にならず、単なる所有物だから売買や贈与も許容される」と記載していた。これが戦闘員をひきつけ、忠誠心や良い行いへの褒美としても女性達がたらい回しにされた。「サバヤ」は武力紛争の混乱で偶発的に発生したものではなく計画的な制度であったが、それを効果的なものとしたのはその制度を魅力と感じ利用する男性達の存在だ。そして、ISISの戦闘員たちの性奴隷とされる女性達が乗っていることを知りつつ、バスやトラックを見過ごす町の人々。彼女は「世界で私のような経験をする女性は私を最後にするために(THE LAST GIRL)」活動しているが、本当に活動しなければいけないのは私達だ。
彼女は心あるイスラム教徒一家の助けを得て脱出することができたが、その後のこの一家の消息は不明だ。心配でならない。
現代スポーツ界の男女二元制とその混乱について
弁護士 喜久山大貴
多くのスポーツ競技では男女二元制が取られているが、女子競技の出場資格を巡っては、現在でも変遷と再検討が加えられている。
『で、オリンピックやめませんか?』(亜紀書房)に収録されている論考「スポーツとジェンダー・セクシュアリティ ナショナリズムと植民地主義の視点から」で、関西大学の井谷聡子准教授は「オリンピックは優れた男の身体を中心とした民族・国家間の競争です。そこに女性の身体がどう位置づけられるかはアンビバレントな問題で、女性の立場はスポーツのなかで常に揺れ動いてきました」と述べる。
このアンビバレンス(曖昧さ、相反性)を反映し、女性にのみ性別確認検査が行われている。1966年、医師が外性器を直接視認する屈辱的方法が実施された。1968年以降、口腔粘膜を採取する方法や、DNAのポリメラーゼ連鎖反応による性染色体検査(XX型は女性、XY型は男性と判定する)が実施された(2000年以降は全女性選手ではなく、「疑義事例」(多くは非西欧諸国出身者)に実施)。
しかし、今日では外性器の形状や性染色体の数や型にも多様な特徴と性質を持つ人たちが存在することが知られ、性別判定の医学上の正確性に疑念が持たれている。
2011年には性別判定ではなく、テストステロン値測定が導入され、血中濃度10nmol/?以上であった場合、ホルモン治療で抑制しなければ出場資格を剥奪するという規定が作られた。
南アフリカのセメンヤ選手とインドのチャンド選手は同規定の被害者として、スポーツ仲裁裁判所に廃止を求めた。テストステロンが優位に作用する科学的根拠が示されるまで同規定を停止する旨の勝訴判決も獲得し、リオ五輪にも出場したが、国際陸連は2018年4月に一部の陸上競技に限定し、基準値を5nmol/?未満とする新規定を定め、2019年7月末、スイス連邦最高裁は同規定を廃止しない旨判決した。
また、IOCは2015年にMtFトランスジェンダーが女子競技に参加する基準を改訂し、性別適合手術を要件から外し、@性自認の宣言、Aテストステロン値を10nmol/?未満に抑制することを要件とした。さらに国際陸連は2019年10月、基準値を5nmol/?未満に変更した。
こうした人権侵害の性別確認検査で「女性」の枠組みから排除された選手の中には、身体のプライバシーを暴かれ、競技生命を失い、自殺した者もいる。
現代スポーツ界は、女が男より大きさや筋力において劣っているとの仮説に基づき、男女の二項構造にすがっている。そして、ある女性たちに公正さのためにテストステロンを抑制方向に「調整」せよと強制しながら、促進方向の「調整」をドーピングとして公正さのために禁止するという矛盾を孕んでいる。
こうした問題とオリンピズム根本原則4「スポーツを行うことは人権の一つである。すべての個人はいかなる種類の差別もなく、オリンピック精神によりスポーツを行う機会を与えられなければならない」との関係をどう見るのか、そしてどのように利用されていくのか、改めて我々も問われている。
弁護士30年雑感
弁護士 大脇 美保
今年で、弁護士30年目になります。この30年間、子どもの体調のため2年程度事務所にほとんど来られなかった期間をのぞいては、この事務所で仕事を続けてこられたことは、ひとえに依頼者のみなさんと事務所のおかげであり、本当にありがたいことだと思っています。ありがとうございます。
この10月には、東京で30周年の同期会があり参加しました。依頼者の方から、時々、「弁護士って定年があるんですか?」という質問を受けますが、定年はありません(一部の大規模事務所では、その事務所としての定年があるところもあるようです)。このため、30年目といっても、変わらず仕事をしている人がほとんどです。人によっては、途中で任期付公務員となったり、政治家になったり、大学教員になったり、会社勤めになったりしています。また、一旦弁護士になっても、途中で裁判官になるというルートも狭いながらも存在します。同期会には、もちろん裁判官と検事もきていますが、こちらは国家公務員なので、定年があり、裁判官が65歳(簡易裁判所裁判官と最高裁裁判官は70歳)、検事が63歳です。裁判官や検事が定年などで退官すると、弁護士登録する人、また、公証人になる人もいます。
とにかく同期が元気でやっているのを見て自分も元気をもらったりしました。
なお、余談ですが、東京の会場は、あの「桜を見る会」の「ホテルニューオータニ」でした。「桜を見る会」の会費は5,000円ということでしたが、私たちの同期会の会費は、久兵衛の寿司もなく普通の立食で2万円でした。もし、ホテルへの支払いの不足分を安倍事務所などが補填していたら、公職選挙法で禁じられている有権者への寄付行為にあたります。補填していないとしたら、公費(私たちの税金)を首相の支持者の飲食に使ったということになります。このように、「許せない」と思うことには意見を言いつつ、もうしばらくは弁護士としてがんばってやっていきたいと思っています。
まもなく京都市長選挙です!ご支援をよろしく!
弁護士 中村 和雄
正月明け早々に京都市長選挙があります(1月19日告示、2月2日投開票)。私らの親しい友人である弁護士の福山和人さんが立候補を表明しています。京都府知事選挙で大善戦した方です。今度の市長選挙では「民主市政の会」だけでなく、さまざまな分野の市民運動家らでつくる市民団体「こんな京都にしたいなあ市民の会」の皆さんが一緒になって、「つなぐ京都2020」に結集しました。
福山さんの知事選における京都市での得票は16万9441票でした。当選した西脇隆俊氏とは2万5755票差の僅差でした。今度の市長選には京都党出身の市議である村山氏も立候補します。保守票分散の可能性もあります。12年前の市長選挙は、わずか951票(0.2ポイント)差で勝利できなかったのですが、今度こそみんなの力で、市民の立場に立った市長を実現しましょう。福山さんの話をぜひお聞きください。こんな人が京都市長になってくくれば安心して住みやすい京都になることを確信することだろうと思います。これまで、3人に2人は投票に行っていません。市長が替われば暮らしが大きく変化することを多くの方に理解してもらい、「市民のための京都」につくりかえていくために、皆様のご支援をお願いいたします。
京都市児童相談所職員が公益通報目的で記録を持ち出したことで懲戒された事件で懲戒処分の取消判決
弁護士 塩見 卓也
2014年、京都市の児童養護施設で、施設長が児童虐待を行ったという事件がありました。この件について、児童の母親から京都市の児童相談所に対し相談があったにもかかわらず、児童相談所が約4か月にわたり調査を行わず放置したことに気づいた児童相談所勤務の京都市職員が、京都市の外部公益通報窓口の弁護士に通報したところ、逆に担当外の児童記録データ無断閲覧や児童記録のコピーを持ち帰ったことなどを理由に、2015年12月、3日間の勤務停止の懲戒処分を受けました。この事件は、施設長の児童虐待が刑事事件になったことや、外部公益通報窓口の弁護士が通報者である当該職員の名前を京都市に漏らしたこと、その後公益通報のために記録を持ち出したことで懲戒処分がなされたことなどが、繰り返し新聞各紙で報道されました。
2016年7月、京都市を被告にこの懲戒処分の取消を求める訴訟を提訴し、3年を経て、2019年8月8日、判決が言い渡されました。判決は、担当外の児童記録閲覧は禁止された行為でないとし、また児童記録コピーの持ち帰りは問題のある行為ではあるが、原告がもともと上司からの評価が高い真面目な職員であること、児童記録を持ち帰った行為は公益通報に付随するものなので正当な目的があること、その行為によって児童の情報が外部に漏れた事実もないことなどから、懲戒相当ではないとして、懲戒処分の取り消しを命じました。京都市は控訴ましたが、控訴審でもいい判決がとれるよう頑張りたいと思います。
「表現の不自由」な社会にしないために
弁護士 諸富 健
2019年8月1日に開幕した「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」は、従軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」や昭和天皇の写真を含む肖像群が燃える映像作品などが含まれていたことから、テロ予告や脅迫を含む抗議が殺到し、わずか二日後に中止に追い込まれました。自らが気に入らない表現内容を力で屈服させてその発表の場を失わせることは、市民が多様な思想に触れて思考を巡らせる機会を奪うことになります。民主主義の根幹を揺るがす許しがたい行為です。
これと同列の行動を示したのが河村たかし名古屋市長です。8月2日に展示中止を求める抗議文を大村秀章愛知県知事に提出し、10月8日には展示再開に抗議するために座り込みまでしました。表現内容に堂々と介入するなど、行政の長としてあるまじき態度です。
また、菅義偉内閣官房長官が8月2日に「事実関係を確認、精査したうえで適切に対応していきたい」と述べ、文化庁は9月26日に補助金の不交付を決定しました。いったん採択を決定していた補助金交付を覆すなど前代未聞です。政府が気に入らない表現内容は、公的な場で発表する機会が奪われることになり、これを先例とすることは認められません。
表現内容に対する政治介入を黙って見過ごせば、ますますモノが言えなくなります。表現の自由がいったん侵害されれば、それを回復することは極めて困難です。「表現の不自由」な社会にしないために、私たち一人一人が都度都度声を挙げていくことが重要です。
「桜を見る会」に想う
弁護士 中島 晃
現在、安倍内閣の行った「桜を見る会」のことが大きな問題となり、マスコミ等でもさまざまな形で取り上げられ、社会的な注目を集めている。
この問題で一番重要なことは、安倍首相などが自分の後援会員やとりまきを集めて、「桜を見る会」の名目で国の費用を使って飲み食いを行っていることである。
これは、政治家が後援会員に飲食を提供するという点で、公職選挙法に違反する疑いが濃厚であるが、「桜を見る会」には国家に功労があった者を招待するといいながら、安倍首相の昭恵夫人の友だちや、反社会的勢力まで参加するというものであって、その実体はきわめていかがわしいものである。にもかかわらず、この「桜を見る会」のために多額の国費が支出されていることは、まことに許しがたいものである。
こうした状況を見ると、安倍内閣が長期にわたって権力を握って、国政を私物化しており、首相在任期間が日本の憲政史上最長になったことなどから、政権が腐敗を招き、末期症状を呈してきているということができる。
一昨年12月、京都で安斎育郎立命館大学名誉教授など14人の著名人により、「9条改憲に反対し、安倍内閣の退陣を求める京都アピール」を発表し、このアピールを市民の間に広めるため、これまで3回にわたって集会を開催してきた。
いま、安倍内閣の即時退陣を実現することは喫緊の課題となっており、そのために市民の世論を一層大きく拡げることがいま何よりも求められていると考える。