事務所だより
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2021年1月 迎春
2021.01.01
迎春
2021年1月

弁護士 大 脇 美 保 : 「大阪都構想」と呼ばれていた「大阪市廃止・特別区設置住民投票」は反対多数で否決されました。
弁護士 喜久山 大 貴 : 琉球・沖縄人三世として
弁護士 久 米 弘 子 : 高齢者の戦争体験記に寄せて
弁護士 塩 見 卓 也 : 大阪市立大学の特任教授に就任しました
弁護士 中 島    晃 : 「総合的俯瞰的」な判断とは何か―学術会議問題に寄せて
弁護士 中 村 和 雄 : 「自助・共助・公助」
弁護士 諸 富    健 : 核兵器禁止条約が発効します!
弁護士 吉 田 容 子 : COVID-19はジェンダー不平等を拡大させている
弁護士 分 部 り か : 「グッドワイフ the good wife」そのタイトルが語るもの 
事務局一同



「自助・共助・公助」
弁護士 中村 和雄


 菅首相が、総理大臣就任に当たって多用したフレーズです。「できることはまず自分が努力し、周囲で支え合い、最後は行政が責任を持って助ける」。それだけ聞けば、もっともだと思う方が多いのではないでしょうか。でも、このフレーズがどういう趣旨で使われるようになったかが問題です。
社会保障費がどんどん削減されています。生活保護費や年金の削減も実行されました。従来、公助として人々の生活を支えてきた社会保障制度を低下させる動きの中で、自助、共助が強調されるようになっているのです。
 各論で考えることも重要です。何が、自助の対象で、何が共助の対象で、何が公助の対象とすべきかです。例えば、教育です。わが国では、高等教育は自助の対象とされています。多少は公助の対象の面もありますが、公助の側面は減少しています。例えば国立大学の授業料を例に挙げれば、私は年間3万6,000円でした。いまは50万円を超えています。
 北欧では、大学の授業料はただです。さらに、それだけではすべての子どもの学ぶ権利を実現したことにならないとして、1人あたり月額10万円ほどの奨学金が給付されます。返還は必要ありません。日本のような利息付き貸し付けとはまったく異なります。子どもを育てること、子どもに教育を与えることは国内の市民みんなのためであり、「公助」と考えられているからです。
 新型コロナの感染が再び大きく広がっています。多くの非正規のみなさんが職を奪われ、中小企業の皆さんが苦しい経営状況にあるのですが、GO・TOキャンペーンで大手の旅行会社には大儲けをさせる一方で、飲食営業関係者への営業自粛要請が強まっています。本来休業要請と補償はセットでなければならないはずなのに、国がしっかりした財政措置をとらないために補償のない自粛要請となっています。コロナという防ぎようのない災難のために営業継続が困難となっているのです。それでも、現政権は「なんとか、頑張ってください。」「コロナに感染しないように協力・自粛してください」と言うだけで、充分な公的支援策を打ち出そうとしません。これも「自助」だけを強調しているものだと評価できます。
 菅政権が掲げる「自助・共助・公助」について、誤魔化されないようにしていきましょう。

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「大阪都構想」と呼ばれていた「大阪市廃止・特別区設置住民投票」は反対多数で否決されました。
弁護士 大脇 美保


 私は、30年以上京都で弁護士をしていますが、実は大阪市民です。大阪市生野区に30年近く住んでいます。このため、今回の住民投票については、大阪市民の依頼者のみなさんには個別にお願いし、自由法曹団大阪支部の「反対」の街頭宣伝にも参加しました。ご協力いただきました依頼者のみなさん、どうもありがとうございました。
 今回の住民投票については、実は、賛成多数であっても「大阪都」ができるわけではなく、政令指定都市である「大阪市」が消滅し、4つの特別区ができるだけです。この政策をすすめていた大阪維新の会は、今回の住民投票の名称を「大阪市廃止・特別区設置住民投票」とすることに非常な難色を示していたということです。「二重行政の解消」を謳っていましたが、特別区と大阪府の二重行政は残り、24区を4区にするのですから、区役所や現在の区の社会福祉協議会もなくなり、住民サービスが低下することは明らかでした。また、防災体制への不安も無視できませんでした。今回の住民投票は、行政サービスが悪化するかもしれないという不安から反対した方もたくさんおられました。
 同じく政令指定都市である京都市についても、現在の市長は京都市域の権限をすべて市に移す「特別自治市」制度の創設を主張しているとのことで、注視が必要です。
 また、今回の住民投票では、大阪市全域では5パーセント超おられる、在日外国人の方が投票できなかったという大きな問題があります。生野区では住民の5人に1人が投票できませんでした。今後の大きな課題と言えます。

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大阪市立大学の特任教授に就任しました
弁護士 塩見 卓也


 2020年の4月から、大阪市立大学の特任教授に就任しました。法科大学院で労働法T、労働法Uの講義と、労働法演習を担当しています。
 私は、じつは1年間だけ大阪市立大学法科大学院に学生として在籍していたことがあります。法科大学院制度がスタートした1年目に、1期生で入学し、その年度中に旧制度の司法試験に合格したので、1年で中退したのでした。その1年の間に、労働法学の大家である、西谷敏先生の労働法の講義を受けることができたのが、その後労働弁護士として活動することになる私の原点の一つとなっています。当時の大阪市立大学には、労働法の西谷教授のほか、民事訴訟法の松本博之教授、刑法の浅田和茂教授など、名だたる理論派の素晴らしい先生方がいて、非常に勉強になったことを今でも思い出します。大阪市立大学から特任教授の声がかかったときは、お世話になった大学からのお誘いなので、名誉に感じ、恩返ししなければと思いました。
 労働弁護士として活動を続け、弁護士15年目に入り、この間に手がけてきた労働事件の数も300件を超える数になりました。若いつもりでいながら、知らないうちに歳を取り、そろそろ自分の労働弁護士としての蓄積を、若い後進に伝えていくことも考えなければならない時期に来ていると思っています。本業の弁護士の仕事が忙しい中、並行して大学の講義をやるのは大変なのですが(大学の仕事は特に1年目が大変です)、私の講義を受けた人の中から、熱い気持ちで労働事件に取り組む優秀な労働弁護士の後進が出てくれると嬉しいな、と思っています。

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核兵器禁止条約が発効します!
弁護士 諸富  健


 2017年7月7日に国連会議で採択された核兵器禁止条約には、50か国が批准してから90日後に発効すると定められています。そして、2020年10月24日、50番目の批准書を中米のホンジュラスが国連に提出して受理されました。これにより、2021年1月22日、核兵器禁止条約が発効することになりました。核兵器を違法とする初めての条約であり、歓迎すべきことです。
 この条約では、核兵器の開発、実験、生産、製造、取得、保有、貯蔵、移転、使用と威嚇など核兵器に関するほとんどの活動が禁止されています。「威嚇」も禁止するということは、「核抑止力」も認めないということです。
また、この条約では、核兵器の使用又は実験によって影響を受けた諸個人に対して、社会的かつ経済的な包摂を提供することが定められています。日本がこの条約に参加すれば、広島・長崎の被爆者に対して現在の不十分な援護施策を改めることが条約上義務付けられることになります。
 ところが、日本政府はこの条約に反対する立場をとり続けています。その理由として、北朝鮮の核・ミサイル開発という現実の安全保障上の脅威への適切な対処、及び核兵器保有国と非保有国との橋渡しを挙げています。
しかし、アメリカの核の傘の下にいながら、北朝鮮に対して核兵器の廃絶を求めることなど、それこそ非現実的ではないでしょうか。「核抑止力」を正当化することは、あらゆる国の核保有を正当化することにほかなりません。アメリカの核抑止力だけ正当化するなどという虫の良い論理が、国際社会で通用するはずがありません。結局、核兵器廃絶を永久に先延ばしすることにしかならないのです。
 また、核兵器禁止条約に参加せずにアメリカの核の傘の下に居続けることは、核兵器保有国の立場にいることと変わりませんから、橋渡しの役割を果たすどころか、非保有国からの失望を招き、自ら分断に手を貸すことになります。条約交渉会議の日本代表の席に置かれた折り鶴のメッセージ「Wish you were here(あなたがここにいれくれたら)」を想起すべきでしょう。
 条約発効後、2年に一度締約国会合が開催され、6年に一度再検討会議が開催されます。そこでは、条約の履行状況や核廃絶のためのさらなる追加措置などが検討されます。核兵器禁止条約が力を発揮すればするほど、核保有国に対する大きなプレッシャーとなり、核廃絶を力強く進める推進力となることは間違いありません。
 2020年10月23日時点で、495の地方議会が日本政府に署名や批准を求める意見書を採択し、11月20日には広島・長崎両市長が条約への早期批准を求める要望書を政府に提出しました。唯一の戦争被爆国である日本こそ、核兵器禁止条約に参加し、核兵器のない世界の実現に向けてリーダーシップを発揮すべきです。

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「総合的俯瞰的」な判断とは何か―学術会議問題によせて
弁護士 中島  晃


 今年の流行語大賞の一つに、「総合的、俯瞰的」という言葉が選ばれている。
この言葉は、菅首相が日本学術会議の推薦した6人の学者の任命を拒否するにあたって、その理由を聞かれたのに対して、具体的な拒否理由を一切明らかにせず、総合的俯瞰的な観点から判断したと述べていることにもとづくものである。
 首相がこの意味不明の言葉を繰り返しているのは、今回の任命拒否の本当の理由が、これまで政府が進めてきた特定秘密保護法や安保関連法制、共謀罪の制定、さらには大学への軍事研究の委託などの施策に関して、この6人の学者の反対の意見を表明していることにあることはいうまでもない。
 政権に不都合な発言をする学者を排除し、学術会議をイエスマンだけの学者で構成する御用機関にしてしまおうとすることは、学問の自由を侵害するにとどまらず、学問の自立性とその発展を大きくゆがめることになる。
 その意味で、今回の問題は、戦前、昭和8年におこった、ときの政府が京大法学部の滝川教授の罷免を要求した、いわゆる滝川事件における学問の自由の侵害を想起させるものがある。京大滝川事件に続いて、昭和10年には天皇機関説を唱えた美濃部達吉教授らに対する攻撃が強まり、日本は戦争へと大きく傾斜していく。そうした歴史を振り返ってみると、学問の自由とその自立性が失われた社会に明るい未来はないといわなければならない。子供たちの未来を切り開くためにも、いまこそ抗議の声をあげる必要があると考える。

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高齢者の戦争体験記に寄せて
弁護士 久米 弘子


 昨年は戦後75年でした。マスコミが戦時中の体験記を募集すると、想定外の多数が寄せられ、8月だけではなく、その後も80歳代、90歳代の高齢者の生々しい記憶がたくさん掲載されました。生死の境を逃げまどった人々は、助けを求めた人を助けられずに自分だけ生き残ったとの自責の念に今も苦しみ、永い間、家族にもその体験を語ることができませんでした。
 80歳代、90歳代の高齢者が、長い沈黙を破って「あのとき」の記憶を書き記そうとしたのは、このままでは、あの悲惨な体験を語ることのできる者が誰もいなくなる、そして同じ悲惨な時代をくり返すことになるのではないか、という危機感ではないでしょうか。戦後生れの政治家たちが、現実の戦争の悲惨さを知ることなく、無責任な言動をくり返している、軍事費は膨らむ一方だし、自衛隊を外国に派遣するようにもなった、守備のためではなく、攻撃用の兵器も備えるつもりだ、憲法9条を改悪して戦争できる国にしようとしている……不安は増す一方です。黙ってはいられません。体験記を書いた皆さんは、最後に必ず「戦争など二度とするものではない」と語っておられました。戦後75年間、ずっと抱え続けてこられた深い思いでしょう。
 私たちの誰もが、将来同じような体験記を書かなくてもよいように、また、同じような深い思いを語らなくてよいように、今、力を合わせたいと思います。

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琉球・沖縄人三世として
弁護士 喜久山大貴


 いつも奈良県出身だと自己紹介しています。しかし、実は4歳まで淡路島、10歳まで三重、13歳まで奈良、15歳まで三重、19歳まで奈良と引越しを繰り返してきました。一番長く暮らしたのは、大学から司法修習までを過ごした神戸でした。
各地を転々として、地域コミュニティとのつながりや帰属意識を持つことなく育ったので地元らしい地元がありません。
 ここ数年、父が沖縄県人会の活動に積極的になりました。私の祖父は米軍統治下の沖縄から国費留学で東京に出て、奈良で診療所を始めました。しかし、祖父は父が3歳のときに亡くなりました。那覇に住んでいた曾祖父母は、跡取りとして伯父、伯母を養子に迎えました。父は伯父、伯母と離散して暮らすことになり、幼少期は1年ごとに沖縄と奈良とを往復していたようです。私は三線の流れる沖縄料理屋で子どもを遊ばせながら、父の昔話を聞いていました。
 日本政府は、国連の勧告を無視し、琉球人を先住民族とは認めていません。戦闘機が飛び交い、裁かれない米兵犯罪が多発する等の基地負担を沖縄に強いています。植民地支配は続いているのです。
 私はすっかり大和に同化してしまいましたが、妻は基地のある沖縄の村で生まれ育ちました。子育てを通じて、次世代に残したい文化や言語、歴史、コミュニティが私にもあったことを改めて実感しています。最近、そんな思いを強く抱くようになったのも、地元らしい地元がなかったゆえだとすれば、寂しいものではないなと感じています。

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「グッドワイフthe good wife」そのタイトルが語るもの
弁護士 分部 りか


 海外ドラマの「グッドワイフ(the good wife)」は女性弁護士が主人公です。グッドワイフの主人公(アリシア)は弁護士でしたが、婚姻後弁護士登録を抹消しました。州検事の夫が女性関係の絡んだスキャンダルで身柄を拘束されることに。アリシアは二人の子どもを養うため、13年ぶりに弁護士登録し、弁護士として働き始める…というストーリーです。私がこのドラマを見ながらいつも思っていたのは、そのグットワイフというタイトルに含まれる意味が、各エピソードに深く深く横たわっていることでした。社会がいかに女性たちに「よい妻」役割を期待し、押しつけているかということを、登場人物たちの悩みを通して私達も改めて認識させられます。
 他者(夫)の気持ちを察し、その他者(夫)の気持ちに添って行動することを求められ、いつも世話や支援をする側に固定化される妻役割。ドラマでは、アリシアは、夫による不貞の事実を横に置き、夫の政治生命が継続するように、よい妻役割を担い続けることを周囲から強制される一方で、夫とは別の、自分の人生と、キャリアを築き始めていきます(ヒラリー・クリントンもそのモデルの一部と言われています)。
 よい妻役割を期待され押しつけられる女性が、どのように変化し、どのように周囲を変化させていくのかを私達は見ていくことになります。
 意味深な最終回でしたが、アリシアが築き始めた「自分の人生」はそのまま続いていくであろうと私は感じました。

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COVID-19はジェンダー不平等を拡大させている
弁護士 吉田 容子


 非常時における混乱は、平時に存在する格差や不平等を拡大させ、顕在化させる。過去の様々な災害時と同様、COVID-19による社会の混乱も、社会的、経済的なジェンダー不平等を顕在化させ、男性に比べ、女性の生活により大きな影響を及ぼしている。
 就業についてみれば、もともと日本では正規労働者と非正規労働者の待遇格差が大きく、かつ女性は男性に比べて非正規労働者の割合が高い。内閣府が設置した「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会」の資料によれば、雇用者数の減少幅は、男性32万人に対し女性74万人で、非正規労働者の減少幅が大きい。女性失業者数88万人もここ数年で最多である。
 家事育児についても、女性の負担増大が顕著である。もともと日本では、家事育児の負担が女性に大きく偏っており、政府統計によっても男性の家事育児時間は女性の約6分の1である(「イクメン」がもてはやされること自体がおかしい)。夫がテレワークになったとしても、突然、家事育児を妻と平等に負担するわけでもない。テレワーク中の女性は、仕事に加え、子どもの世話や家族の食事の用意など、これまでにも増して家事育児を負担しなければならなくなった。家族の在宅時間の増加は、家庭内での女性の負担を増大させている。
 そして、非正規の不安定な職場で働く多くの女性は、学校の一斉休校や保育園の登園自粛、親の援助も受けられない等の事情も加わって、就労継続が困難となる。
 従来から指摘されていた母子世帯の貧困も、一層、深刻である。母子世帯の母は非正規就労が多く、非正規の仕事を掛け持ちする母も少なくないが、それでも母子世帯の総所得は児童のいる世帯の総所得の約38%にとどまる。期限付き雇用の更新拒絶、勤務日数・勤務時間の減少などにより、就労収入なしの母子世帯が相当数にのぼる。
 DVや虐待も増加している。もともとDV虐待が存在した家庭において、加害者の在宅時間の増加、経済状態悪化や自粛等のストレス増大は、強いリスク要因である。加害者が在宅する状態では、被害者がDV被害相談をしたり避難するのも困難である。
 女性自殺者の急増(10月は851人・前年同月比で8割増)、性暴力の増加と深刻化、予期せぬ妊娠の増加も強く懸念されている。
 国連は、COVID-19の悪影響が、健康から経済、安全、社会保障に至るまでのあらゆる領域において、単に性別だけを理由として、女性及び女児にとって大きくなっていることを繰り返し指摘し、各国政府に対応を求めている。