事務所だより
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2021年8月 暑中お見舞い申し上げます。
2021.08.01
暑中お見舞い申し上げます
2021年8月

弁護士 大 脇 美 保 : ジェンダー平等へ〜性別による差別の解消のために
弁護士 喜久山 大 貴 : 一部弁護士のSNS不祥事について
弁護士 久 米 弘 子 : 特殊詐欺にご要心
弁護士 塩 見 卓 也 : ベトナム人技能実習生の在留資格更新手続懈怠で実習先会社と監理団体を提訴
弁護士 中 島    晃 : 京都にはもうホテルはいらない ―仁和寺前ホテル計画の見直しを
弁護士 中 村 和 雄 : 「非常勤講師」の働き方
弁護士 諸 富    健 : あまりに危険な土地利用規制法
弁護士 吉 田 容 子 : 国立大学法人法は学長の独断的行為を許容している
弁護士 分 部 り か : 『フェムテック』と『生理の貧困』 
事務局一同



ジェンダー平等へ
〜性別による差別の解消のために
弁護士 大脇 美保

 本年3月31日、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダーギャップ指数」によると、日本は前回よりも1つ順位を上げたものの、156か国中120位と過去2番目に低い順位となりました。
 「ジェンダー」とは、生物学的性差「セックス」に対比して、「社会的な性差」、いわば、これまで社会によって作られた性差を意味します。実にいろいろな「ジェンダー」があり、典型的には、「女性はやさしく控えめであるべき」「男性は外で働き、女性は家事育児を担当すべき」などです。ジェンダーギャップ指数の順位が低い国ほど、これまでからの性による差別の解消が進んでいないということになります。
 ジェンダーギャップ指数は、経済、政治、教育、医療の分野の総合判断で順位がきめられています。特に、政治分野においては137位と前回よりさらに順位をさげています。
 これは、ジェンダーに関する平等の視点を欠いた政策につながっており、新型コロナウイルス感染症の拡大への対策にも大きな影響を及ぼしています。
 ステイホームのため、DVや児童虐待が増大し、母子家庭は一層貧困化し、女性自殺者の急増などをもたらしました。小中学校など臨時休業の要請や自宅学習の要請により、家事育児介護などの大半をになう女性が、日々追い詰められ、就業困難などにおちいったことに対しても、なんらの対策もありません。
 新型コロナ特別給付金についても、受給権者が世帯主とされ、DVや児童虐待の被害者の受給が困難となりました。私の離婚事件の依頼者の中でも、例外規定を活用しても受給できなかった方がおられます。世帯単位の制度自体に問題点が多いという視点が必要であると考えます。
 司法の分野においても、最高裁判所の裁判官15名の中で女性は2名だけです。本年6月23日に最高裁判決のあった、夫婦同氏の強制について憲法との関係が問われた事件についても、女性裁判官らの少数反対意見はありましたが、結論は「合憲」となりました。
 弁護士業界においては未だ女性会員は20%程度です。私は、本年度、京都弁護士会会長に就任しましたが、15年ぶり3人目の女性会長です。なお、1人目の女性会長は、当事務所の久米弘子弁護士です。
 京都弁護士会では、昨年11月に男女共同参画基本計画が総会で承認され5年かけて検証していく段階にはいりました。また、LGBTQ+の方々への取り組みも求められています。
 京都弁護士会では、本年度の「第51回 憲法と人権の集い」において、LGBTQの課題を取り上げ、来年1月22日(土)にオンライン配信で企画を行います。
 みなさんとともに、ジェンダーに関する平等、多様性が確保される社会の実現について考えていきたいと思っています。

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『フェムテック』と『生理の貧困』
弁護士 分部 りか

 「フェムテック」という言葉をきいたことがありますか。female(フィーメル)とtechnology(テクノロジー)を合わせた造語です。テクノロジーの活用により性や健康に関する女性特有の問題の解決を目指す分野を指しています。具体的には月経、不妊、妊娠出産といった女性ホルモンに関する分野で、製品としては、月経管理アプリや、オンライン診療によるピルの購入、生理吸収ショーツなどです。私は月経カップを数年前に知ったときはとても驚きました。
 フェムテック関連市場は世界中で大注目です。女性が、自分の性や健康に関して声を上げることができるようになり、製品の開発に女性自身がかかわるようになったからこそでしょう。
 靴や洋服のデザインにも同じことが当てはまると思います。20、30年前は、快適で機能性が高く、かつ素敵な靴や服はなかなか見当たりませんでした。当時ストレッチパンツやヒールのない靴を探すのは大変でした。それはやはり製品開発に女性がかかわっていなかったことが原因だと私は考えています。
 このようにテクノロジーの発展により、女性の性と健康に関する問題の解決に社会が意欲をもって取り組んでいるにもかかわらず、長引くコロナ禍による不況による経済的困窮で「1袋数百円」が重荷になる「生理の貧困」が新たな課題となっています。スコットランドは、生理用品を無料にしています。イギリスは非課税です。東京では無償配布や、入手できない児童・生徒向けの学校配布をはじめている区があります。京都市でも7月1日から来年3月末まで、ウイングス京都や各区の社会福祉協議会等で無料配布を始めています。市内小中学校・大学でも7月中旬から配布されます。

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一部弁護士のSNS不祥事について
弁護士 喜久山大貴

 近年、弁護士によるSNS上の問題発言が繰り返されている。
2019年、性暴力の無罪判決に抗議するフラワーデモの参加者に対して、SNS上で複数の弁護士が不穏当な表現を用いて攻撃を繰り返した。その中には、NHK筋肉体操や紅白歌合戦で有名となった弁護士がおり、デモ参加者に対し性的侮辱発言を行ったことで批判を浴び、出演していた資生堂の新CM動画が即座に公開停止に追い込まれた。
 2021年5月、「法クラ」と呼称される一部の弁護士たちが過去に「女子校のプールの水になりたい」等と女子児童に対する性加害を仄めかす投稿を悪ふざけネタとして繰り返していたことが物議を醸した。
 この件を法曹界のセクハラ問題の一環で批判した女性弁護士に対し、複数の匿名弁護士がSNS上で苛烈な嫌がらせ(ネットリンチ)を行い、女性弁護士の側がアカウント削除に追い込まれる等、いわゆる「炎上」状態となった。
 さらに、上記の「プールの水」投稿を繰り返していた弁護士の中に、社会福祉士でもあり、フリースクールで発生した性暴力事件を契機として設置された検証委員会の副委員長を務める人物がいたことで、より大きな問題へと発展した。
 人権感覚のない弁護士の存在は、業界的に長年抱えてきた課題であるが、SNSの発展により、これが白日の下に晒されて信用失墜にもつながっている。弁護士は人権擁護と社会正義の実現を使命とするのであり、その自覚と謙虚さを一層強く持つべきである。

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ベトナム人技能実習生の在留資格更新手続懈怠で実習先会社と監理団体を提訴
弁護士 塩見 卓也

 2021年4月5日、大阪の鉄筋加工業の会社を実習先として外国人技能実習を行っていたベトナム人技能実習生を原告として、実習先の会社と監理団体に対し損害賠償を請求する訴訟を大阪地裁に提訴しました。
 外国人技能実習生は、日本で3年間の技能実習を受ける場合、最初の1年が終わる前に、後の2年の技能実習を受けるため、在留資格を更新する必要があります。この事件では、原告の技能実習生自身には何の問題もなかったにもかかわらず、在留資格更新のために原告のパスポートと在留カードを預かっていた実習先と監理団体が更新手続を怠ったため、原告の在留資格が切れてしまうことになってしまいました。実習先と監理団体は、在留資格が切れてしまう3日前になってそのことを原告に伝え、一旦ベトナムに帰国することを求めました。実習先は、帰国のための飛行機は手配済みで、手続がとれたらまた日本に呼び戻すと言っていましたが、ベトナムの送り出し機関にお金を払うために100万円近い借金をしており、日本でその返済のためのお金を稼がなければならない原告にとっては、そんなことを3日前に言われても信用することはできず、実習先の寮から逃げ出さざるを得なくなりました。
 原告は、その後1年間にわたり日本で技能実習を行うことができず、収入もなくなってしまいました。その1年間に、原告は、技能実習生の組合員も多い岐阜一般労働組合や、現在の新たな実習先となっている会社経営者らの支援を得ながら、帰国することなく在留資格更新の手続をとり、現在は実習を行うことができていますが、在留資格が更新されるまでの間には、50日間にわたり名古屋入管に収監されるという出来事もありました。
 その1年間に、岐阜一般労組は、何度も監理団体や実習先に団体交渉を求め、また原告の在留資格更新手続に協力することを求めましたが、監理団体は、自らの不手際で原告の在留資格を失わせたにもかかわらず、原告を「不法滞在」「不法就労者」呼ばわりし、逆に原告の在留資格更新や技能実習の継続を妨害する行為を行いました。
 外国人技能実習制度には、非常に沢山の問題点があります。タテマエは、日本の技術等について、外国人の方に就労を通して学んでもらう制度ということになっていますが、実質的には、低賃金だったりきつい業務であったりなどから、日本人の働き手が見つからない産業で外国人に働いてもらうための制度になってしまっています。送り出し機関に高額のお金を取られ、そのために借金して来日する実習生が非常に多くいます。そして、日本に来てからは、一度決められた実習先を変えることは非常に難しく、転職の自由がない状態にされてしまいます。そのため、酷い実習先に当たってしまっても、そう簡単に声を挙げることができなくされてしまうのです。
 本件も、そのような技能実習制度の矛盾が現れた事件だといえます。頑張って勝利したいと思います。

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特殊詐欺にご要心
弁護士 久米 弘子

 今年5月、私の携帯電話に「宅配物を預っているが届先の場所がわからない」というメールが届きました。業者の名前もない不審なメールなので放っておきました。10日位のちに、同じ内容のメールが、別の番号から届きました。これにも返信せず、メールは2つとも削除しました。6月初めになって、今度は「○○便の宅配物を預っているが届先の場所がわからない」というメールが届きました。差出人は不明で、番号は又、変っています。  このメールもすぐ削除しました。そのまま、何の不都合もありません。全部、詐欺の手口です。
 今はメールでのやりとりが便利になっているため、不審なメールでもつい応答してしまい、そのまま相手のペースに巻き込まれて詐欺被害にあってしまうのでは、と改めて思いました。
 依頼者から、「法務局(や裁判所)から、携帯電話代の不払いを理由に訴訟予告のハガキが来た」との相談を受けることがあります。これらの官庁が直接不払いの催告や訴訟予告をしてくることは絶対ありません。「それは詐欺だから決して連絡してはいけない」と答えています。差出人をよく見ると、官庁そのものではなく、関連団体を称していることが多いです。心配のあまり、直接電話すると、言葉巧みに支払いを迫られ、被害にあってしまうのです。
 これら「特殊詐欺」は、新型コロナ禍を利用した新手のものも増えています。くれぐれもご注意下さい。

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京都にはもうホテルはいらない ―仁和寺前ホテル計画の見直しを
弁護士 中島  晃

 いま、京都の街中のいたるところで、ホテルが次々と建てられようとしています。我が事務所のある烏丸通周辺でも、ホテルラッシュが続き、工事車両がひっきりなしに出入りしています。
 このままでは、日本を代表する歴史都市・京都の落ち着いた町並みと景観、そのたたずまいがオーバーホテルの波に呑み込まれてしまうのではないかと危惧されます。
 例えば、京都市右京区にある世界文化遺産でもある仁和寺の門前で計画されているホテルに、京都市は上質宿泊施設誘致制度を適用して、建築制限を大巾に緩和する優遇措置を講ずる上質宿泊施設第1号に選定しました。
1960年代後半、双ヶ岡の乱開発が契機となって古都保存法が制定されましたが、仁和寺の門前は、この双ヶ岡と一体となった優れた景観です。ここに地上3階建、地下1階の延べ床面積5,800m2ものホテルが建設されることは、古都の風情を破壊する以外の何物でもありません。
 こうしたことから、歌手の加藤登紀子さんや環境経済学者の宮本憲一さんなど8人の著名人がこのホテル計画の見直しを求めるアピールを発表しました。6月26日(土)に開催されたシンポジウムでは、“京都にはもうホテルはいらない”「ノーモアホテル・京都宣言」が採択されています。
 いま、これ以上、京都にはホテルはいらないという声を大きく広げていくことが重要だと考えます。現在、このアピールへの賛同をよびかけているところです。是非とも、ご協力下さいますようお願い申し上げます。

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「非常勤講師」の働き方
弁護士 中村 和雄

 大学の「非常勤講師」を皆さんはご存じでしょうか。大学で学生に授業を教えている先生たちの中にはたくさんの非常勤講師が存在しており、あちこちの大学で非常勤講師を掛け持ちしてやっと生計を維持しているのです。例えば、私が住む京都の同志社大学は、学生数が2万7,000人程ですが、非常勤講師が全体の授業コマ数の42%を担当しています。大学の教授の給与額は大企業の管理職の賃金を大きく上回るのですが、同じ教員であっても非常勤講師の賃金は極めて低く、賞与もなく、さらには研究費支給もほとんどないのです。大学における、教員間の賃金格差は著しいものがあります。
 非常勤講師の方々の悲鳴を紹介します。「私が非常勤講師を始めた1990年から時給は基本的に上がっていない。当時は高額と感じたが、まさか四半世紀経っても上がらないとは思わなかった。週10コマ以上をこなすには体力的にしんどくなってきている。たとえ非常勤でも経験年数によって昇給があっても良いのではないか。」(50代男性)「コマ数を増やせば日々複数の大学を駆けずり回るので負担が大きく、生計を立てるコマ数を担当すれば多忙で講義準備がろくにできず、コマ数を減らすと生活できません。…一番病んでいたときは、こんなブラックで不公正な制度でしか維持できない日本の大学も教育も滅べばいいのにと思いました。」(30代女性)
 こんな状態を放置していては、日本の高等教育は崩壊の一途です。改革が必要です。

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国立大学法人法は学長の独断的行為を許容している
弁護士 吉田 容子

 7月15日、奈良女子大学学長によるパワーハラスメントの責任を問う訴訟を、奈良地方裁判所に提起しました。私と諸富弁護士が担当です。
 まず、この事件の背景には「国立大学法人法」による学長権限の肥大化という問題があります。同法は、国立大学の意思決定の二大機関として「経営協議会」と「教育研究評議会」の設置を規定し、各機関の委員について、学長、学長が指名する理事及び職員、学長が指名する有識者、学部・研究科などの長などと規定しています(20条、21条)。また、学長の任命は大学の申出に基づいて文科大臣が行うこと、大学の申出は「学長選考会議」(学長が指名した経営協議会の有識者委員、学長が指名した教育研究評議会の理事又は職員、学部研究科等の長である委員、学長や理事等からなる)の選考によりすることを規定しています(12条)。要するに、学長に非常に強い権限を持たせるとともに、学長の選考も学長自らが任命した委員等からなる「学長選考会議」が行うという制度です。だから、一度、学長となれば、法定の権限を梃に権力を集中させ、独断専行的行為さえが可能となります。
 次に本件は、生活環境学部の教授である原告が学部選出の教育研究評議会委員候補に選出されたのに、学長は原告についてのみ、同委員への指名を拒否したという事件です。学部選出の候補を学長が指名拒否したのは初めてです。学部教授会が説明を求めたところ、学長は、「学長選考会議」での公明正大な選考を求めた原告のプレゼンの一部が、「圧力」であり、「威力業務妨害罪」該当の可能性があり、明らかに「脅迫文」である、とする文書を作成し、学部長に読み上げさせました。もちろん、そのような事実はなく、法的解釈もあり得ません。学長の独断専行的行為に批判的な原告を嫌い、何ら正当な理由なく指名拒否したことは明らかです。
 多数の報道がなされた旭川医大の学長解任事件も、学長一人が問題ではなく、学長の横暴を可能とする国立大学法人法が根本の問題です。
 奈良女の事件にも、是非、注目をお願いします。

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あまりに危険な土地利用規制法
弁護士 諸富  健

 通常国会最終日の6月16日未明、土地利用規制法が強行採決されました。十分な審議がされないまま危険な法律が成立したことに、怒りの念を禁じ得ません。
この法律は、「重要施設」や「国境離島等」の機能を阻害する行為を防止するために、「注視区域」や「特別注視区域」を指定して、その区域内の土地利用を規制するものです。「重要施設」は、自衛隊や米軍の防衛関係施設、海上保安庁の施設が該当し、これだけでも相当の数に上るのですが、その他生活関連施設も含まれます。これは、政府が後に定めることになっており、鉄道や電気、水道施設などにまで広げられれば、膨大な施設が対象になり得ます。「国境離島等」は沖縄本島まで含めることが可能です。
 「注視区域」に指定されると、区域内の土地や建物の利用者や関係者は調査対象となります。イラク派兵に反対した住民を調査していた自衛隊の情報保全隊の例からも、プライバシー権や思想・良心の自由が侵害されるおそれが極めて高いと言えます。安全保障を口実に、ありとあらゆる住民運動が監視の対象にされる末恐ろしい法律です。
機能阻害行為も定義があいまいであり、政府の命令等に従わなければ罰則を科せられるなど、財産権に対する制約も著しいものがあります。
 基本的人権を著しく侵害するこの法律は、来年にも具体化が進められる予定です。こんな危険な法律の実施を阻止し、廃止に追い込むよう声をあげていきましょう。

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