事務所だより
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2022年8月 暑中お見舞い申し上げます。
2022.08.01
暑中お見舞い申し上げます
2022年8月

弁護士 大 脇 美 保 : AV出演被害防止・救済法ができました。
弁護士 喜久山 大 貴 : 無罪判決獲得事例(風営法違反)のご報告
弁護士 久 米 弘 子 : 2022年を迎えて思うこと
弁護士 塩 見 卓 也 : 定期健康診断の費用は事業者負担
弁護士 中 島   晃 : 平和に生きる権利の確立に向けて−戦争は最大の犯罪
弁護士 中 村 和 雄 : ウクライナ問題とわが国の戦争責任・憲法について
弁護士 諸 富   健 : 沖縄を忘れない
弁護士 吉 田 容 子 : 離婚及びこれに関連する制度の見直し
弁護士 分 部 り か : 医療ソーシャルワーカーの皆さんへの弁護士業務の話をしました。 
事務局一同





無罪判決獲得事例(風営法違反)のご報告
弁護士 喜久山大貴

 中島晃弁護士と私が担当した、未成年者に酒類を提供したとの事実で起訴された風営法違反被告事件で、岐阜簡易裁判所刑事部は、2022年3月22日、無罪判決を言い渡した。
本件では、店長らが2つのグループの17〜19歳の未成年者に酒類を提供したことは客観的に明らかであったが、その当時、未成年者であるとの認識(故意)があったか否かが争点となった。
 店長らと未成年者らには面識はなく、入店時に未成年の方にはアルコールを提供できませんと伝え、「大丈夫です」との回答を得た他、別のグループは注文用タッチパネルの「未成年の方や運転する方にアルコールが提供できない」旨の案内に対し、「同意する」ボタンを押して注文に進んでいた。
 店内で未成年者同士が喧嘩を始め、店長が110番通報して本件が発覚するに至った。
 店長らの供述によると、未成年者らが20歳以上であるかのように虚偽申告をしたため、未成年ではないと誤信して、故意なく未成年者に酒類を提供してしまった。しかし、検察官は未成年者らの見た目があどけない年齢相応のものであり、店長らが捜査段階で一貫して「未成年じゃないだろうかと心配した」などと供述しているから、少なくともその疑念を払拭するような年齢確認(身分証の提示を求める等)を怠っているから、未必の故意があると主張していた。
 現在でも捜査実務、刑事裁判実務は自白偏重主義といわれる。客観証拠に乏しい事案では、有罪立証のために被告人に対し、捜査段階で犯罪事実を認める内容を供述するよう迫り、虚偽供述を誘発するため、冤罪の温床となっている。
本件の特徴は、拷問や脅迫、利益誘導はなく、穏やかに取調べが実施されたものの、捜査官の都合の良いように文章を作り、被告人の知識不足や負い目を利用して、供述していない内容をあたかも供述したかのようにして自白調書を作成し署名押印させていたことを、裁判所も認めたという点である。これは、供述を「録取」した書面とはいえないもので、本来証拠として採用されるべきものではないが、裁判所は証拠採用した上で、被告人が自白調書に記載のとおり供述したとは信用できないと判断した。
 店長らの「見た目から未成年かも知れないと思った」という自白内容は抽象的であり、年齢確認の前後いずれの認識であるかも曖昧なものであった。その認識を抱いた具体的根拠等について必要な聴取や補充・裏付捜査も行われていなかった。裁判所は、新型コロナ感染拡大の影響から少しでも売上をあげたかったともっともらしい記載もあるが、当時の社会情勢に照らせば容易に思い付ける動機に過ぎないと捜査官の作文であることを皮肉った。
 捜査機関は、店側を騙して酒類を提供させた未成年者らを利用し、年齢確認は受けていない等と供述させ、店長らの自白調書を作り、「犯罪」を生み出そうとした。1年以上に及ぶ弁護活動により、このたび、無事に有罪率99.9%といわれる高い壁を乗り越えることができた。
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離婚及びこれに関連する制度の見直し
弁護士 吉田 容子

 昨年3月から、法制審議会家族法制部会において、協議離婚、親権・監護権、面会交流、養育費、養子縁組、財産分与等に関する法改正の検討が急ピッチで行われており、今年8月末には中間試案が取り纏められる見込みです。
ただ、特に親権・監護権を巡っては、部会においても意見が大きく分かれ、法務省の中間試案においても両論併記となることが予想されます。私はこの問題に関する日弁連の検討チームに入っていますが、チーム内でも様々な意見があり、日弁連意見も両論併記になる見込みです。
 現行法のもとでも、子どもに関することについて協力できる関係があれば、離婚後の父母は相談し協力することができます。しかし、DV・虐待に限らず、相互に信頼関係を失っている場合には(こちらの方が多い)、その当事者に「共同決定」を強いることが本当に子どもの為になるのでしょうか。共同決定ができなければ子どもはどうしたらよいのでしょうか。共同で決定するという制度は一方に拒否権を与えることを意味しますが、それは婚姻中の支配従属関係の継続にもなりかねません。
 今後の法改正の内容如何では、当事者の方々への大きな影響(不利益を含む)が予想されます。強い関心を持って推移を見て頂くようお願いします。
 ただし、「共同親権」を巡り散見される報道等では、実は、「親権」とは何か、それを「共同」するとはどういうことかについて、論者により理解が異なっており、必ずしも正しく理解した議論をしていないことにご注意ください。
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沖縄を忘れない
弁護士 諸富  健

 これを書いているのは6月30日。63年前の同じ日、沖縄の宮森小学校に米軍ジェット機が墜落し、小学生12名を含む18名が亡くなりました。先日現地に行き、当時同校の小学生だった「NPO法人 石川・宮森630会」の会長からお話を伺いました。凄絶な体験談を聞き、またうるま市石川出張所に展示されている当時の写真を見て、未だ終わらない問題であることを痛感しました。この問題を取り上げた映画「ひまわり〜沖縄は忘れない あの日の空を〜」もあるので、機会があれば是非ご覧ください。
 その他、犯罪、爆音、環境汚染などなど、基地ある故の数え切れない様々な被害を沖縄県民は被り続けています。ロシアによるウクライナ侵攻を機に軍備増強や核共有さらには憲法9条改正が叫ばれていますが、まず優先すべきは一刻も早く日常的な被害を取り除くことではないか、国防を理由にして目の前の深刻な人権侵害を放置することは許されるのか、その思いを強くしました。
 この事務所ニュースが発行される頃には参院選の結果が判明していますが、選挙の結果次第で日本がこれからどういう方向に進んでいくのか、まさにその岐路に立っています。沖縄の実態は、平和とは一体何かということを日本国民全体に厳しく問い続けています。沖縄を忘れることなく、日本の平和のあり方について考えを深め行動していきたいと思います。
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平和に生きる権利の確立に向けて
 −戦争は最大の犯罪
弁護士 中島  晃

 全国各地の都道府県毎に、その地域の弁護士によって構成された弁護士会があり、その数は全国で52に及びますが、京都弁護士をはじめ、全国各地の弁護士会の殆どが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻に抗議し、即時停戦などを決める声明や決議を発表しています。
各地の弁護士会がこうした声明や決議などを出しているのは、弁護士法が人権の擁護と社会正義の実現を弁護士の使命と定めていること、また、憲法前文が「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有する。」と定めていること、にもとづくものです。
 日本国民だけでなく、全世界の人々が平和のうちに生きる権利こそ、何人も侵すことのできない、最も重要な人権です。戦争は、多くの人々を無残に殺戮するという点で最大の人権侵害であり、決して許してはならない犯罪です。このため、国際社会は、戦争の違法化=武力行使禁止の原則を確立するために、長年にわたってさまざまな努力を積み重ねてきました。
 ヨーロッパを戦火で覆った第一次大戦の終了後、1928年に成立したパリ不戦条約は、国際紛争を解決する手段として、武力の行使を禁止しました。この不戦条約には、日本も締約国として参加し、また第二次大戦後に成立した憲法9条はこの不戦条約の戦争放棄の規定を受け継いだものです。1945年に発効した国連憲章でも武力行使と武力による威嚇が禁止されています。
 第二次大戦後、ドイツのニュルンベルグで開かれた戦犯法廷で、ナチスの戦争指導者たちは、不戦条約に違反したことが「平和に対する罪」であるとして処罰されました。これにより、武力行使禁止の原則に反することが戦争犯罪となることが確立しました。今回のロシアのウクライナへの軍事侵攻は、こうした戦争の違法化=武力行使禁止原則の確立に向けた、長年にわたる国際社会の努力を無にするものであり、国連憲章にも違反する明白な戦争犯罪です。
 にもかかわらず、何故ロシアによる今回の無法な武力行使がまかりとおったのかといえば、不戦条約は自衛のための戦争を否定していない不十分さがあり、また国際連合が常任理事国に拒否権を与えたために、大国による戦争を阻止できないという状況を生み出し、そのことがロシアによるウクライナの軍事侵攻を許す事態を招いています。しかし、だからといって、戦争によって人を殺すことが許されてよいわけはありません。戦争こそ最大の犯罪です。
 いま、ウクライナ侵攻で、ロシアのプーチン大統領が核兵器の使用をほのめかし、日本国内では核共有論が言われ、さらには9条改憲の動きが強まる中で、私たちは、ロシアのウクライナ侵攻に抗議し、即時停戦を求める世論をさらに大きく広げるとともに、いまこそあらゆる戦争に反対し、すべての国の人々の平和に生きる権利を確立のために、国内外のあらゆる人々と力を合わせて行動することが何よりも重要だと考えます。
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ウクライナ問題とわが国の戦争責任・憲法について
弁護士 中村 和雄

 ロシアのウクライナ侵攻と同じような事を日本もかつて行っていたことを忘れてはいけません。わが国が戦争責任を未だに曖昧にし、十分な反省がない事が問題です。歴史学者の山室信一さんがウクライナ紛争とかつてのわが国の状況の類似性を指摘しています。
「ロシアがドンバス地方の2つの『人民共和国』を承認し、武力で拡張していく過程は、満州事変や満州国建国から日中戦争への歩みを想起させます。さらに日本は大東亜共栄圏の建設を唱えましたが、プーチンがめざすユーラシア主義による広域支配に重なります。いま国連では、ロシアと欧米諸国の対立と分断が進んでいますが、満州事変をきっかけに日本が国際連盟を脱退して日独伊三国同盟にすすんだことを思わせます。」
 そして、山室さんは憲法9条に言及します。「侵略に対する防衛戦争でも民間人を含めた多大な犠牲が出ます。その参加をいかに避けるか。答えを示しているのが9条2項です。自衛権を持ちつつ犠牲者を出さないために、戦力を保持せず、交戦権を認めない。憲法9条は、私たちがウクライナ戦争で直面している課題に、すでに答えを出しています。それをいかに実行するか、その外交力が問われているのです。」この機に乗じていたずらに憲法改正を唱える勢力にしっかり反撃しましょう!
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AV出演被害防止・救済法ができました。
弁護士 大脇 美保

 本年6月15日、AV被害防止・救済法(正式名称は「性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図りおよび出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則に関する法律」)が成立し、同月23日に公布、施行されました。
 この法律の成立のきっかけとなったのは、民法が改正され、この4月から成人年齢が18歳に引き下げられたことです。現在では、18歳に達している人は、高校生であっても、「未成年取消権」によって契約の取り消しができなくなっています。これは、AV出演契約についても同じです。
 この法律では、契約書の交付義務、説明義務を定め、AV公表前、公表後も1年間は無条件に契約解除できることが柱になっています(なお、経過措置として、施行日である6月23日から2年間は無条件で解除できることになりました)。事実でない告知や困惑させる行為、説明義務違反等の場合は、懲役を含む罰則が定められました。
 この法律については、「性交の撮影や販売の合法化につながる」などの批判があり、衆参両院で付帯決議がつけられています。また、この法律の18条には「(AV)出演に係る被害の背景にある貧困、性犯罪および性暴力などの問題の根本的な解決に資するよう」支援措置が必要であるとされており、性暴力被害ワンストップセンター(京都の場合は「京都SARA」)が相談窓口となりますので、私も京都弁護士会の支援チームを通して、今後もかかわっていきたいと考えています。
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定期健康診断の費用は事業者負担
弁護士 塩見 卓也

 働いている皆さんは、毎年1回、職場の定期健康診断を受けていると思います。定期健康診断は、労働安全衛生法という法律が、事業主の責任で、全従業員を対象に行うべきことを義務づけています。事業者の責任で行うことなので、その費用も事業者負担であることは、社会常識といえます。
 しかし、その社会常識を守らず、定期健康診断費用を個々の職員に負担させていた社会福祉法人がありました。この社会福祉法人で働いていた保育士の方が原告となり、未払賃金・未払残業代の支払い、負担させられた定期健康診断費用返還などを求めた訴訟の判決が、2022年5月11日に言い渡されました。京都地裁は、社会福祉法人に、全部で1,400万円以上の支払いを命じました。判決では、原告の残業時間が、多い月で160時間以上、そうでなくても毎月のように80時間以上(いわゆる「過労死ライン」を超える残業時間になります。)あったことや、原告が休憩時間をとることもできないまま勤務していたことを認めました。さらにその中で、全体に比べると金額は小さいですが、定期健康診断費用約10万円の返還を命ずる判断もなされました。
 この判決は、裁判所が、定期健康診断費用は事業者負担であることを明らかにした、初めての判決になります。社会常識を確認したものであるとはいえ、裁判所で正しい判断の先例が新たにできたことは、非常によかったと思っています。
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医療ソーシャルワーカーの皆さんへの弁護士業務の話をしました。
弁護士 分部 りか

 6月29日、京都MSW協会で、医療ソーシャルワーカーの皆さんを対象に弁護士業務や法テラス等について講演をする機会をいただきました。弁護士は敷居が高い、とっつきにくい、という印象を払拭するため、医療ソーシャルワーカーの皆さんに、弁護士の実情や、弁護士会の法律相談メニュー、弁護士に払う費用はどうなっているのか、法テラスはどういうものなのかなどを知っていただきました。
 私は医療や福祉の専門職の皆さんから身寄りのない高齢者についてのご相談を受けることが多いです。身寄りのない高齢者の方が、直接弁護士を訪ねることが難しい状況があるのだろうと思います。在宅でお一人暮らしをしていたところ、転倒等で自宅で骨折し、入院したことで、その病院の医療ソーシャルワーカーさんが、ご本人の権利擁護のために、成年後見制度を検討されることが少なくないように思います。
 医療・福祉の専門職によって、成年後見制度の利用につながる高齢者がいる一方で、在宅一人暮らしで、高齢者を狙った詐欺にあい、大金を失ってしまう方も後を絶ちません。高齢者の方の権利擁護のために、医療や福祉の専門職の皆さんと連携していきたいと思います。
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3年ぶりに開催の国際婦人年京都集会にぜひご参加を!
弁護士 久米 弘子

 私が代表をしている国際婦人年京都連絡会は、1975(国連の国際婦人年)に発足して以来、毎年集会を開いてきました。3年前の集会が台風で中止になり、一昨年と昨年は、新型コロナ禍で開催できませんでした。国際婦人年のスローガンである「平等、発展(開発)、平和」にちなんだ講演とミニ演奏会(ピアノやバイオリン、歌など)で毎年楽しい集会を企画してきたのに、とても残念でした。
今年は、何とか集会ができそうということで、10月9日(土)1時半から、京都市の男女共同参画センター「ウィングス」(中京区東洞院通六角下る)のホールを予約して準備しています。
 講演の講師は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の元職員千田悦子さんにお願いしています。千田さんは、若い頃からNGOのボランティアや青年海外協力隊員として働いてこられました。UNHCRに在職中の23年間には、世界各地の紛争地域で難民の人道支援に従事(ウクライナでも勤務)してこられました。紛争地ではいつも千田さんが日本人であることがわかると、「日本には平和憲法があるから戦争がなくていいね」と言われたそうです。日本の平和憲法の大切さを実感してきた千田さんは、今回のロシアの侵攻を口実に、憲法を改悪しようという動きに対して「とんでもないこと」と批判されています。
 3年ぶりの集会がぜひ成功するよう、皆様のご参加をお願いします。
(この原稿を書いたあとで、コロナ感染の再拡大が報じられています。ご心配の場合は前日迄に事務所にお問い合わせ下さい。)
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