迎春
2023年1月
弁護士 大 脇 美 保 : 選択的夫婦別性はどうなっているのか弁護士 喜久山 大 貴 : 再度の執行猶予判決等のご紹介弁護士 久 米 弘 子 : 昨秋のケガ−そして新春に思うこと弁護士 塩 見 卓 也 : 裁量労働制の規制強化を!弁護士 中 島 晃 : 京都にタワマンはいらない弁護士 中 村 和 雄 : 高齢者の就労について弁護士 諸 富 健 : 「実質改憲」は許されない―
「安保3文書」の改定弁護士 吉 田 容 子 : 離婚後共同親権制の導入は禍根を残す弁護士 分 部 り か : 法定後見と任意後見? 事前のご相談を 事務局一同
「実質改憲」は許されない―
「安保3文書」の改定
弁護士 諸富 健
2022年11月22日、「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」は報告書を取りまとめて岸田首相に提出しました。このニュースが発行されるころには、「安保3文書」が改定されているでしょう。有識者会議の報告書は軍事一辺倒の内容であり、「国防」どころか日本を「亡国」の道へと導きかねない危険な内容となっています。この報告書を踏まえて「安保3文書」が改定されれば、それは憲法的にも許されるものではありません。
言うまでもないことですが、憲法9条2項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」と定められています。にもかかわらず自衛隊が存在するのは、自衛のための必要最小限度の「実力」を保持することは許されるというのが政府の説明です。自衛隊は、あくまで自衛のための「実力」組織ですから、武力行使は相手から武力攻撃を受けたときに自衛のための必要最小限度に限って可能になるという専守防衛政策を採っていますし、大陸間弾道ミサイル(ICBM)や長距離戦略爆撃機、攻撃型空母など、相手国国土の壊滅的な破壊のために用いられる攻撃型兵器を保有することは許されないとされてきました。
上記報告書では「反撃能力の保有と増強が抑止力の維持・向上のために不可欠である。」と記載されており、政府もそれに応じたスタンドオフミサイル(敵の射程圏外から攻撃できる射程の長いミサイル)などの兵器の導入を検討しています。反撃能力とは敵基地攻撃能力とも言われ、まさに相手国国土を破壊するために用いられる攻撃的兵器を保有することになります。専守防衛政策に真っ向から反するこうした兵器の保有は、従来の政府の説明を180度転換するものであり、憲法9条2項に明確に違反するものです。
こうした違憲の行為を憲法の条文を変えることなく行うことを「実質改憲」と言いますが、このこと自体憲法違反となり、決して許されるものではありません。憲法に抵触する行為をするには憲法の条文そのものを変える必要がありますが、憲法は国民が定めて国家を縛る命令書(立憲主義憲法とも言います)ですので、憲法改正も国民自身が行う必要があります。憲法96条は、憲法を改正するには衆議院、参議院それぞれの総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、憲法改正の国民投票で過半数の賛成を必要とするという厳格な定めを置いています。簡単に憲法が改正されないように要件を厳格に定めた憲法を硬性憲法といい、国の根本規範である憲法について高度の安定性が図られているのです。ところが、「実質改憲」はこうした厳格な改正手続き要件を全く無視して、政府の判断一つで憲法の中身を実質的に改変することに他なりません。
内容的にも手続き的にも明確に憲法に違反する愚行が国民不在の元で着々と進められています。2023年の通常国会で「安保3文書」も踏まえた予算審議が行われますが、今こそ、憲法違反の政治は許さないという声をあげるべきときです。
離婚後共同親権制の導入は禍根を残す
弁護士 吉田 容子
親が離婚したあとの子どもの養育をめぐる制度の見直しに向けて、法制審議会家族法制部会は、本年11月、中間試案をまとめた。注目の離婚後親権制度については、現行の単独親権制度を維持する案と、一定の要件のもとに共同親権を導入する案とが併記された。
注意すべきは、「親権」の「共同」とは、常に一方が拒否権を持つということである。子に関わる事項の「決定」を「共同」するということは、「一方親だけでは決定できない」=「決定につき他方親は常に拒否権を持つ」というのが論理的帰結である。そして、離婚とは父母間の信頼関係が決定的に壊れた状態であり、子の意思や状況に応じた迅速な「共同決定」は極めて困難であるのが通常である。仮に「共同決定」の制度を導入すると、同居親が子の意思や状況を尊重しつつ子と相談して決めた事柄についても、別居親が自分は同意していないから無効だと主張すれば、子は進学先や入通院先でさえ決められない(これらを家庭裁判所で決めるという提案があるが時間的にも費用的にも過重な負担である)。この事態を避けるためには、同居親と子は別居親の意向に従わざるを得ず、常に別居親が優位に立つことになる。これはDVや虐待の継続の有力な手段ともなる。困るのは子と同居親であり、そのような制度は子の利益に反する。
一方、離婚後も父母が冷静・対等に話し合える関係にある場合には、現行法のもとで共同養育は可能であり(実際にも行われている)、法改正の必要はまったくない。
日本乳幼児精神保健学会は、本年6月の声明で、「日々子どもの世話をする同居親が交渉と同意取り付けに疲れ果て養育の質が低下しないか」と述べ、共同親権導入に慎重な意見を表明している。
豪州や英国などで「共同親権」の弊害が明らかとなっているが、その知見も生かされていない。これらの国々の失敗を日本は繰り返すのだろうか。
選択的夫婦別性はどうなっているのか
弁護士 大脇 美保
選択的夫婦別姓については、1980年代後半から1990年代前半にかけて市民運動が高まり、それをうけて民法改正が検討され、1996年2月には選択的夫婦別姓を含んだ民法改正案要綱が答申されました。しかし、その後、「家族の一体感が失われる」などの反対論がだされ、この法案は国会に提出されることなく放置されています。
その後、夫婦同氏の強制は違憲であることを主張する裁判がいくつも提起されましたが、結論は合憲判断です(反対の少数意見はあります)。
このような中で、国による世論調査も行われていますが、直近の調査(2021年12月〜翌年1月の調査)では、導入賛成28.9%、反対27.0%、通称使用に賛成42.2%となっており、2017年の調査(賛成42.5%、通称使用に賛成24.4%)と大きくかわっています。これは、近年の設問が、名字がちがう夫婦の子どもについて好ましくない影響を具体的にかかせる設問を新設し、通称使用に誘導的なアンケートになったことが原因といわれています。
現在の通称制度は、住民票の氏名欄に以下のとおり記載がされるものですが、広報もあまりされておらず、特に、別姓が広く認められている海外では「通称」というものが理解されず、混乱を引きこしています。私自身は、別姓のため、婚姻届けをだしていませんが、早く別姓が認められる社会になってほしいと思い、これからも行動していきたいと思います。
氏 名
〇 田 美 保
旧 氏
大 脇
(この記載だと、私が「〇田」という人と結婚しているというプライバシー情報もわかってしまいます)
イギリスの若者と日本の若者
弁護士 中村 和雄
私が大好きな作家であるイギリス在住のブレイディみかこさん(「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」などの著作)が朝日新聞にイギリスの状況について掲載していました。一部を要約して紹介します。
【ある団体の調査によれば、「今年4月には約730万人の英国の成人が、過去1ヶ月間に食事をしなかったり、手に入れられなかったりしたことがあったと答えている。…労働者たちは物価上昇に見合う賃金を求めて行動を始めた。6月には過去30年間で最大規模の鉄道ストライキが行われた。教員やNHS(国民保険サービス)の組合も賃上げ交渉次第ではストの可能性を示唆している。……与党がこうした動きに反対するのはわかる。だが、労働組合を母体とするはずの労働党まで今回のストライキから距離を置いている。スターマー党首は、鉄道ストライキに関与しないよう閣僚たちに呼びかけ、影の外務大臣デビッド・ラミー氏は「政権を担おうとしている真剣な政党は、おおっぴらにストを支持することはしない。」と言い物議を醸した。」「鉄道ストでも、世論調査では一般の支持と不支持の数が拮抗していた。特に、55歳以上の世代では不支持の方が圧倒的に多いが、34歳以下の若い世代では支持の方が圧倒的に多い。」「若い世代は労働者が闘うことに「ダサい」「時代遅れ」というイメージは持っていないようだ。「労働者の党」を名乗る政党が、生活苦にあえぐ労働者の闘いを支援しないとすれば、若者たちにどんな印象を与えてしまうだろう。」】
わが国の若者もきっと同じはずです。いまの若者のほとんどは、ストライキを闘う労働組合を見たことがないのです。若者の選挙での投票率の低下が著しいが、若者にとって、自分たちのたたかいの先頭に立って闘ってくれる魅力的な労働運動や政治勢力が見つけられていないということなのでしょう。既存の労働組合が若者とりわけ非正規労働者のために積極的に奮闘しているという姿は、若者だけでなく私たちにも届いてきません。
若者たちは、自分たちの未来に希望の持てる社会の実現を提案してくれる信頼できる運動体や政治勢力を求めています。若者たちにとって魅力的な政策は、ひとりひとりの人権を大切に扱い、地球や地域の環境を守り、非正規労働者も正規労働者も働く者として尊重し、性による差別を許さない…など、私たちにとっても魅力的なものです。若者たちとたくさん議論し、若者たちと一緒に声を上げていきましょう。
法定後見と任意後見? 事前のご相談を
弁護士 分部 りか
NHKのクローズアップ現代で「親のお金をどう守る 認知症600万人の資産管理」というタイトルの番組が放映されました。成年後見制度について『「本人のためにお金を使えない」「一度利用したら止められない」など課題が頻出』(NHKHPより抜粋)とのことで、法定後見についての課題が指摘されました。このような課題に対しての対応として任意後見制度が引き合いに出されることがあります。私は、高齢者の財産管理を少なからず行ってきましたが、そのすべてが法定後見です。確かに、成年後見制度は後見人等が就任すると多くの場合、お亡くなりになるまで続きます(本人さんの認知機能が回復した、または当初診断されていた認知機能の低下が重いものでない等の理由で取り消されることはあります)。しかしながら、「本人のためにお金を使えない」という点については、必ずしも妥当しないと考えています。なぜなら、任意後見人であっても、後見人が「本人のため」か否かを判断することは変わりないので、任意か法定かで差があるとは思えません。また、自分の希望した人に後見人になってほしいという要望も、法定後見でも叶えることは可能です。もっとも、後見制度を利用するにあたって、認知機能の低下に至る前に専門家に相談していただくことは重要です。認知機能低下前でも、弁護士が定期的にかかわりをもつこともできます(ホームロイヤー契約等)。ご相談ください。
裁量労働制の規制強化を!
弁護士 塩見 卓也
会社が従業員に定時よりも長時間働かせた場合、当然、残業代を支払わなければならないことになります。しかし、労働基準法には、例外として、専門性の高い業務で働く従業員について、仕事の進め方や時間配分などの大部分が本人の裁量に任されているような場合に、「みなし時間」以上の残業代は払わなくてよいという、「裁量労働制」というものが規定されています。
裁量労働制は一見、本人の裁量の幅が大きく、いい働き方のようにも見えます。しかし、「どれだけの量の仕事をやれと命じるか」は会社側が決めることなので、適用されると長時間労働になってしまう傾向が強いのが実態です。厚生労働省が2021年6月25日に発表した「裁量労働制実態調査」の結果では、裁量労働制が適用されている労働者のうち、約1割が、いわゆる「過労死ライン」となる、1か月80時間を超える残業を行っていることや、1〜2割が裁量性もないのに違法適用されていることが明らかになっています。私も、裁量労働制の違法適用事例で残業代請求を行う事件を沢山やってきましたが、制度の濫用状況は酷いものです。
2022年10月19日、日弁連は、「裁量労働制実態調査の結果を踏まえ、規制強化も含む裁量労働制の見直しを求める意見書」を発表しました。皆さんも、自分や周りが裁量労働制の名の下に不払い残業を強いられていないか振り返っていただき、裁量労働制の規制強化を求める声を上げていただきたいと思います。
昨秋のケガ−そして新春に思うこと
弁護士 久米 弘子
昨年9月初めに、思いがけず自宅で転倒して背中を強打しました。整形外科医院で「背骨横の腰椎の圧迫骨折」と診断され、胸まである大きなコルセットの装着と鎮痛剤、自宅療養2〜3ヶ月位との指示を受けました。
弁護士になってから、こんなに長期間休んだのは初めてです。自宅にいても痛みのために思うように動けず、買物も近くに住む娘に頼んで引きこもる毎日でした。
11月に入って、ようやく、少し出勤できるようになりました。ただ、立っていても座っていても、およそ3時間位までが限度でした。
「背骨」や「腰骨」とは大したものだとつくづく思いました。何といっても、人類の2足歩行を支えてきた根本ですものね。
皆様には、いろいろご迷惑をおかけしました。改めてお詫び申し上げます。
早くも新年ですね。コロナ禍は収束せず、物価は上る一方。ウクライナへのロシアの侵攻(核兵器使用の不安)が続く中、他国から羨望されている憲法9条を改悪する動きや、先制攻撃用の武器購入のために国防費を大幅増額するという!旧統一教会と政治家の癒着、被害に苦しんできた家族の救済などなど、課題は一杯ですね。
私も早く回復して、微力ながらお役に立てればと思っています。本年もどうぞよろしくお願い致します。
法曹三者模擬裁判に参加して
弁護士 喜久山大貴
裁判員裁判あり方検討会の法曹三者模擬裁判に弁護人役として参加しました。
今回の模擬裁判は、危険運転致死罪の模擬記録を題材に、公訴事実について争いのない裁判員裁判の公判審理及び評議の各あり方について研究する、という目的で実施されたものです。京都地方裁判所の101号大法廷を使って2022年10月14日に公判審理、弁護士会館で 翌15日に評議、裁判所大会議室で11月17日に振り返りという日程で開催されました。
本物の裁判官、検察官、弁護士がそれぞれの役で参加するという点が学生時代や司法修習生の頃の模擬裁判とは大きく異なります。さらに、被害者参加代理人もついているという事案です。
上記日程以外にも、模擬記録の読み込み、公判前整理手続や証人尋問、冒頭陳述、弁論の準備など、実際の事件とほぼ同じように手続きを進めていくため、模擬とはいえ負担感も相当大きかったです。
しかし、一般の方にも裁判員役として参加いただいた評議の様子を傍聴できたのは有益な学びになりました。全体として模擬裁判の性質上、かなりの制約の中でしたが、主張の伝わり方や証拠の見え方が弁護人の考えていることからずれていくのを目の当たりにでき、自身の法廷技術の面でも改善点がたくさん見つかりました。
家庭の事情などで弁護団活動からしばらく離れてしまっていましたが、やはり他の弁護士とチームで議論するというのも改めて楽しい作業だなと思いました。
京都にタワマンはいらない
弁護士 中島 晃
京都は、どこにいても空を広く見渡すことのできる都市である。こうした都市のたたずまいこそ、歴史的文化的な都市としての京都のまちを基本的に形づくっているものであり、京都に住む人々は勿論のこと、京都を訪れる人々にも安らぎと心の豊かさをもたらしてくれる。
しかしいま、こうした京都のまちの形を根本から取り崩そうとする動きが強まっている。
京都市は、最近、市内の駅周辺などで、建物の高さ制限などを大巾に緩和する都市計画の見直しを発表した。今回の見直しで見過ごすことのできないことは、外環状線沿道や向日町駅周辺、淀駅周辺などで高さ制限を撤廃し、京都市内でもタワーマンションなどの超高層ビルの建築を可能にしようとしていることである。
しかし、全国各地で空家が急増している中で、大量の住宅を供給するタワマンが何故いま京都に必要なのか、根本的な疑問がある。しかも、タワマンが都市住民の間に分断と差別をもたらし、災害時のリスクを考慮に入れると、居住空間として決して良好なものとはいえないことなどが、多くの専門家から警告されている。
にもかかわらず、タワマンを京都に呼び込むことは、東京や大阪などの後追いであって、京都のまちの魅力を失わせるばかりか、周辺にさまざまな環境上のデメリットをもたらし、住民の暮らしを破壊するものにほかならない。
こうしたことから、いま、京都にタワマンはいらないという声を広げることが何よりも重要だと考える。