暑中お見舞い申し上げます。
2025年8月
弁護士 今 西 恵 梨 : 道の駅(関西エリア)完走!弁護士 大 脇 美 保 : 「子どもがかわいそう」論について弁護士 喜久山 大 貴 : パワハラ認定、控訴審で逆転勝訴弁護士 久 米 弘 子 : 「お米がない!」弁護士 塩 見 卓 也 : 公益通報者保護法改正と公益通報者の事件の実情弁護士 中 島 晃 : 北陸新幹線延伸計画(小浜・京都ルート)ストップの声を広げよう。弁護士 中 村 和 雄 : 基本給の差別是正を認めた京都明徳学園事件判決の報告弁護士 諸 富 健 : 日弁連人権擁護大会@長崎弁護士 吉 田 容 子 : 改正民法施行に向けて知っておいて頂きたいこと弁護士 分 部 り か : 第55回憲法と人権を考える集い 事務局一同
北陸新幹線延伸計画(小浜・京都ルート)ストップの声を広げよう。
弁護士 中島 晃
京都では、古くから、名水とよばれる湧き水や井戸水が生活の一部として親しまれ、それを利用してお豆腐やお酒などの食文化、茶道や友禅などの京都ならではの伝統的文化や工芸が育まれてきた。
京都盆地の下には南北33キロ、東西に12キロ、深さ800メートルの「水がめ」があるといわれ、その水量は琵琶湖の水に匹敵する(約80%)とのことである。
この京都の地下にある水がめは、100万年前に現在の京都市が海の一部であった時期の名残だとされている。
いま、京都市街地に大深度地下トンネルを通して、北陸新幹線を延伸しようとする計画(小浜・京都ルート)が進められている。しかし、この計画が強行されれば、京都盆地の地下にある水がめが破壊され、地下水位の低下や地下水脈の途絶、井戸の水涸れ等を招き、さらには地盤沈下や陥没が引き起こされることが懸念される。
現に、リニア新幹線のトンネル工事では各地で水涸れが引き起こされていることが、マスコミなどでも報道されている。
こうしたことから言えば、北陸新幹線「小浜・京都ルート」延伸計画は、京都の文化や市民の暮らしを根底から脅かすものといわなければならない。
京都仏教会は、この計画を「千年の愚行」として、白紙撤回を求めているのをはじめ、京都府酒造組合連合会などがルートの見直しを求めている。
しかも、北陸新幹線の延伸で、国土交通省は、建設費が従来の2.1兆円から最大5.3兆円にまで増えると試算しており、費用対効果の関係でも疑問がもたれている。そのうえ、完成までに最短でも25年を要するといわれており、いつ完成するか見通せない状況にある。
ところで、今回の北陸新幹線延伸計画を推進しているのが、整備委員会委員長の西田昌司自民党参院議員である。しかし、西田議員は沖縄戦で犠牲となった女子生徒らを慰霊する「ひめゆりの塔」の説明について、歴史を書き替えるものと発言して、世論のきびしい批判を浴び、発言の撤回と謝罪に追い込まれている。その一方で、西田議員はこの発言そのものは事実を言ったもので間違いではないと開き直っている。
また、先日発表された2025年の男女平等世界ランキングによると、日本は148か国中114位にランクされ、G7諸国の中では最下位になっている。未だに選択的夫婦別姓すら実現していないことからいって当然であろう。一方西田参院議員は、選択的夫婦別姓に反対する自民党内の右派勢力を代表する存在といわれている。
巨額な建設費を投入する北陸新幹線延伸計画を推進し、京都の伝統的な文化や産業、市民の暮らしを破壊する人物が、沖縄戦などの歴史の書き換えを主張し、選択的夫婦別姓などに反対して、ジェンダー平等実現を妨げているのである。こうした日本の国のありようを変えていくためにも、北陸新幹線小浜・京都ルートの延伸計画にストップする声を大きく広げていくことが、今何よりも求められているのではないだろうか。
改正民法施行に向けて知っておいて頂きたいこと
弁護士 吉田 容子
離婚時の親権の定め方や親権行使方法等を定めた改正民法が2026年春に施行されます。そこで、「これだけは知っておいてください」ということを書きます。
まず、離婚後の親権者の指定は「双方又は一方」であって、いずれも原則ではありません。その選択のためには、@離婚後共同親権とした場合には、現在の単独親権の場合と具体的に何がどの様に違うのかを十分理解してください。とはいえ、改正規定には曖昧な箇所があり(例えば「急迫の事情」「日常行為」など重要な概念の意味内容が必ずしも明らかではありません)、弁護士から見ても非常にわかり難いものとなっています。A婚姻中の生活を振り返り、対等かつ自由に協議し、適時適切に子の利益に適う意思決定ができる相手であるかをよく考え、見極めてください。離婚の際に「共同」を選択したけれど、やはりうまくいかなかったという場合に、親権者変更の手続きはありますが、そう簡単に変更が認められる訳ではないので、ご注意ください。
次に、親権の行使方法についての改正規定は、離婚後共同親権の場合だけでなく、婚姻中の共同親権の場合にも適用されます。父母の共同行使(父母が共同で決めること)が原則で、例外は「急迫の事情」があるとき、「日常行為」をするとき、「親権行使者の指定」があるとき、「監護者の指定」があるとき、「監護の分掌」があるときなどですが、これらを十分に理解するのは簡単ではありません。しかも、原則と例外を分ける「急迫の事情」や「日常行為」の意味内容が明確でないことは前述のとおりであり、トラブルの多発が予想されます。
少なくとも、離婚後の親権者の選択は、くれぐれも慎重にされるよう、強くお勧めします。
基本給の差別是正を認めた京都明徳学園事件判決の報告
弁護士 中村 和雄
京都の私立高校に1年間の有期雇用契約である常勤講師として更新を繰り返し、12年間社会科の教員として勤務していたKさんは、授業担当・校務担当・部活顧問などすべての教員業務において、無期教員である専任教員とほぼ同様でした。同高校では、常勤講師と専任教員の賃金規定は別に定められており、常勤講師の賃金額は専任教員に比べて著しく低いうえ、さらに、専任教員は毎年賃金額が増加するのに対して、常勤講師は勤続5年を超えると賃金額が増加しない規定となっています。Kさんは、差別賃金の回復を求めて京都地裁に提訴し、2025年2月13日に判決となりました。
判決は、無期の専任教員と有期の常勤講師との基本給における賃金格差について、労契法20条およびパート有期法8条の適用を認め、格差全額の損害賠償を認めました。これまで、労契法20条違反を争点にした一連の最高裁判決は、一部の手当については違反を認定したものの、賃金の中核をなす基本給、賞与、退職金については、労契法20条違反を認めていません。基本給の差額全額について、労契法20条やパート有期法8条違反を認定した判決は、この判決が全国で初めてであり、大変意味のある画期的なものです。
今後、大阪高裁さらには最高裁での闘いとなります。みなさんのご支援、ご協力をお願いする次第です。
「お米がない!」
弁護士 久米 弘子
私は毎週、土曜か日曜に、ほぼ1週間分の食料品と日用品をまとめ買いします。お米は重いので、たいてい2kg入りの袋です。ところが、今回は、お米の棚が空っぽで、買いたくても買えないという事態が続きました。こうなると、お米はやっぱり「主食」だった、と実感します。
戦後間もない子どもの頃、お米は勿論、いろんな食料品や日用品が配給制でした。お米は家族単位の「米穀手帳」を持っていかないと買うことができませんでした。「外米」の配給もありましたが、味と臭いがずい分ちがいました。日常では麦とのまぜご飯も当たり前でした(こんな記憶のある者は、もう少数になっているでしょう)。遠足で白ごはんのおにぎりに海苔が巻いてあったら、それだけでごちそうでした。
いつの頃からか、お米のごはんに代わって、麺類やパンなど、とりどりの食品が増えてきましたが、やっぱり白いお米のご飯は主食ですよね。
そのお米がどういうわけか売り場から姿を消し、なかなか元にもどりません。今もお米売り場は淋しいだけでなく、値段も倍になっています。「1家庭5kgまで」との注意書きも残ったままです。大騒ぎになったのも当然です。
米農家の窮状−米作りでは生活できない−がようやく伝えられるようになり、主食のお米の将来が危ぶまれてもいます。お米はあるのが当たり前でしたが、おいしいお米作りにがんばっている米農家への感謝と援助も忘れないようにと思っています。
「子どもがかわいそう」論について
弁護士 大脇 美保
前回の事務所ニュースで書いた「選択的夫婦別姓」問題ですが、今年の国会で、28年ぶりに法案が提出され、結局、継続審議となり、秋の臨時国会で審議が継続することになりました。
選択的夫婦別姓の問題で、夫婦の姓がちがうのはよいが、子と親の姓が違うと「子どもがかわいそう」という反対の理由がよく言われます。私自身も自分の子らと姓は違うので、「子ども自身はなんとも思っていない」と、これまで反論してきました。
この点について、最近の新聞の意見欄で、もと最高裁判所裁判官の方が、夫婦別姓の家族の「子どもがかわいそう」というのは、「夫婦別姓の家族は、マイノリティーで差別されている」ことを前提としているのであって、昭和の時代に「お母さんが働いていてかぎっ子だから子どもがかわいそう」というのと同じであり、別姓を選択できるようにして、差別をなくすことこそが重要だ、という意見を述べておられました。
たしかに、「子どもがかわいそう」という言い方は、「子どもを守らなければ」という社会的合意と結びつき、否定しづらいという効果があり、マイノリティーを抑圧するのに利用されていると言われます。
今必要なのは、多様な選択を許容する社会を実現することです。選択的夫婦別姓の実現は、その一歩であり、これからもその実現を目指して頑張っていきたいと思っています。
日弁連人権擁護大会@長崎
弁護士 諸富 健
日本弁護士連合会は、毎年1回、基本的人権の擁護と社会的正義の実現という弁護士の使命(弁護士法1条1項)に基づいて、人権課題について調査・研究・提言をするために、人権擁護大会を開催しています。戦後80年の今年は長崎で開催され、シンポジウムが12月11日(木)、人権擁護大会が12日(金)にあります。シンポジウムの一つが「再び戦争の惨禍が起こることのないように〜「危機の時代」の私たちの選択〜」で、私はその実行委員として活動しています。
このシンポジウムで取り上げるテーマの一つは、核兵器の問題です。昨年、日本被団協がノーベル平和賞を受賞して、改めて核兵器の危険性がクローズアップされました。日弁連も、今年6月の定期総会において、「被爆80年に際して「核兵器のない世界」の実現を目指す決議」を採択したところです。シンポジウム当日も、核抑止力論をどのように克服するかについて議論を深めるほか、核兵器廃絶の運動に取り組む若者から報告をしてもらう予定です。
もう一つのテーマは、2022年12月16日に閣議決定された「安保三文書」の影響です。これについては実行委員で現地調査を行っており、私は大分調査と佐世保・佐賀調査に参加しました。いずれの地域も、政府が進める南西シフトの影響を受けて、南西諸島に兵士や武器を送り込む後方支援としての役割、あるいは訓練を行うための演習場としての役割を担うべく、大きな変化が見られました。大分には敷戸弾薬庫がありますが、京都の祝園弾薬庫と同様、地域住民の方々は、見えないところで着々と工事が進んでいくという「分からない」ことの不安や弾薬庫増強により有事になったら真っ先に狙われる対象になるのではないかという不安を訴えておられました。この2か所以外に、先島諸島(石垣島、宮古島、与那国島)と台湾にも他のメンバーが現地調査しており、シンポジウム当日に調査報告をすることになっています。
こうしたテーマを踏まえて、実行委員が分担して基調報告書を作成しているところです。日弁連として「危機の時代」における選択肢を示すことができるよう議論を重ねていますので、できあがりましたら多くの方に読んでいただきたいと思います。
シンポジウムでは、日本をめぐる安全保障の今についての基調講演や憲法コント、専門家によるパネルディスカッションなど、充実したプログラムが予定されています。一般市民の方もリアル参加・リモート視聴が可能ですので、是非ご参加ください。
世界では戦火が絶えず、日本でも軍拡一辺倒の様相を呈しています。戦後80年の節目の年ですが、新たな戦前となってしまわないか、まさに歴史の岐路に立っているのではないでしょうか。「戦争の準備」ではなく「平和の準備」を進めるために一弁護士として何ができるか、これからも考え続け、様々な取り組んでいく決意を新たにしています。
第55回憲法と人権を考える集い
弁護士 分部 りか
京都弁護士会では毎年、一般の方向けに、「憲法と人権を考える集い」を開催しています。
ハラスメントは、上司・部下などの、力の非対称性が背景にあるため、食い止めることが困難で、被害当事者も声を上げることが容易ではありません。また一般的なハラスメント研修ではその効果が疑問視され、しかも受講してもらいたい層には届いていない場合も少なくありません。
そこで昨今注目を浴び始めたのが、ハラスメントに対する第三者介入です。ハラスメントに介入する第三者を、アクティブ・バイスタンダーと呼びます。ハラスメント現場に居合わせた第三者がハラスメントに介入することで被害を拡大させないという視点です。今年度、第55回を迎える憲法と人権を考える集いでは、ハラスメントに対する第三者介入を取り上げます。同集いでは、アクティブ・バイスタンダーとはなにかを学び、ハラスメントへの介入方法を、参加者同士のロールプレイを通して体験します。2025年11月22日(土)午後1時30分開始、TKPガーデンシティ京都タワーホテル八閣にて、事前申込制。正式な案内は京都弁護士会のHP等で行います。どうぞご注目ください。
パワハラ認定、控訴審で逆転勝訴
弁護士 喜久山大貴
医療機関の窓口業務等の事務を代行する被告会社に勤務する正社員の原告が、上司からのパワハラにより2018年2月にうつ病を発症し、1年余り休職した後、復職に関する支店長面談の席上で、月額4万3000円もの手当減額に同意させられた事案の控訴審で、手当の回復とパワハラの損害賠償との合計約600万円を支払わせる全部勝訴判決を2025年3月13日に獲得し、確定しました。
一審京都地裁は、手当減額についての真摯な同意はないとして手当の回復を認容し、パワハラについては業務指導の範囲を逸脱したものではないとしてうつ病発症の因果関係を否定しました。
原告が本訴提起前に行った労災申請及び審査請求では、一審判決と同じくパワハラとうつ病発症の因果関係が認められないとの結論が出ていました。
しかし、控訴審の大阪高裁判決では、上司からの叱責の不合理さ、他の従業員の面前で人格を否定するような発言があったことや、叱責の頻度や執拗さを正しく評価し、業務上の必要な範囲を超えて精神的苦痛を与えた旨認定し、うつ病の発症との間に因果関係を認めました。
労災と裁判所の判断が分かれる例はあまり多くないと思いますが、その一つの要因として、2020年6月1日に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正され、パワハラの認定基準が細分化され具体例が明記されたことが挙げられるかも知れません。
いずれにせよ諦めることなく粘り強く闘い抜くことの重要さを再認識できた事件でした。
道の駅(関西エリア)完走!
弁護士 今西 恵梨
前回は真面目な話をのせたと思いますので、今回は私的な話題をあげたいと思います。
以前、道の駅めぐりにハマっているということを記載しましたが、この度、道の駅(関西エリア)を制覇しました。制覇までに3年ほどかかりましたが、非常に達成感があります。
非常にインパクトのある思い出は、道の駅をめぐる道中、あまりにも国道が狭すぎて、ここで命が途絶えるのではないかと思ったことです(国道とかけて「酷道」というそうです。私が通った一番ひどい酷道は425号線という、界隈では死にGOとも言われる名高い酷道でした...)。走行中生きた心地がしませんでした。走行はお勧めしません。迷い込んだらすぐに引き返しましょう。
また、車で道の駅を巡っていたので、丁寧に運転している車、あおり運転や交通違反等の危険な運転をする車、色々見かけました。運よく交通事故にはならずに完走しましたが、あわや一時停止をしない車に突っ込まれそうになるなど、交通事故になりそうなタイミングもありました。交通事故にならないのが一番ですが、交通事故になってしまった場合、やはりできる限り早いタイミングでの相談をおすすめします。
どの道の駅が良かったか、と考えましたが、多種多様でしたので絞り込むことはできませんでした。ですが、初期の頃の道の駅で、地元の人の工夫が施されている道の駅はとても好きです。
酷道や交通事故など、マイナスなことも書きましたが、滅多に足を延ばせない地域に赴き、その土地の雰囲気を少しでも感じられて、とても充実した道の駅めぐりでした。
公益通報者保護法改正と公益通報者の事件の実情
弁護士 塩見 卓也
2025年6月、改正公益通報者保護法が可決・成立しました。改正法は2026年中施行見込みです。公益通報とは、事業者による法令違反等の事実について、事業者内部・外部に設けられた通報窓口や、事業者を監督する行政機関等に対し通報を行うことをいいます。公益通報者保護法は、公益通報を行ったことを理由に、事業者が公益通報者に対し不利益な取扱いを行うことを禁止しています。
しかし、公益通報者保護法には「穴」といえる部分が沢山あります。かつて私が労働者側代理人として闘った、京都市(児童相談所職員)事件では、公益通報目的による内部記録の持ち出し等を理由とする懲戒処分について、訴訟で懲戒処分の取消は認められたものの、通報対象事実が厳密な意味での「法令違反」とはいえない事案だったので、公益通報者保護法による保護自体は争点とすることができませんでした。また、現在私が労働者側代理人として大津地裁で訴訟を行っている大塚食品事件では、公益通報後にそれまでの仕事から完全に外されることとなった配置転換が「不利益取扱い」にあたると主張して闘っていますが、会社は、「配置転換は公益通報を行ったことを理由とするものではないので違法ではない」との主張を続けています。
改正法では、公益通報後の解雇や懲戒処分について、「公益通報を行ったことを理由とするもの」と推定する規定が設けられました。しかし、現在進行中の大塚食品事件のように、配置転換が問題となる場合、改正法でも上記推定は働きません。公益通報者が十分に法的に保護されるよう、さらなる改正が必要といえます。